昭和49年版 通信白書

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2 情報化の影響

 これまでみてきたように,我が国においては欧米諸国とともに情報化が着実に進展している。情報化の進展により,社会に様々の現象があるいは新たに生じ,あるいは急速に拡大している。工業化が人間社会に環境問題をもたらしたように,情報化に伴う諸現象もプラスの影響のみを及ぼすとは限らないであろう。これら諸現象について,その現状,将来の動向を見極めるとともに,その与える影響について慎重に評価検討を加えておく必要がある。
 郵政省では,48年度に総合情報流通調査会において,ゼネラル・アセスメントの手法を用いて情報化を現象面から多元的には握し,多元的価値観から体系的に評価検討を行った。以下同調査会の検討結果に基づき我が国の情報化の動向とその影響について概観してみよう。
(1) 情報化の動向
 情報化社会の代表的現象36項目について,現在と5年後の進展度をみたものが第1-2-8図である。これによると第一に,現在既に顕著に現われていると評価された現象には,「マスコミ情報の増大」,「宣伝情報の増大」及び「娯楽情報の増大」等,マスコミ関連の現象がある。第二に,現在はそれほどではないが5年後あたりにかなり進展していると思われるものに,「情報に対する権利意識の増大」,「情報の商品化」,「知識産業の発展」,「情緒産業の成長」など,情報化社会が更に進展していくための社会環境整備的役割を担った現象がある。第三に,現在は余り顕在化していないが,将来主要な現象になってくると思われるものに,「各種社会生活情報システムの増加」,「マン・マシン通信の増大」,「社会制御情報システムの増加」,「情報記録の集中管理化」など,電気通信技術と電子計算機技術が高度に結び付いたシステムのもたらす現象がある。
 以上のような情報化の諸現象の動向から,情報化の大きな流れが汲みとれる。すなわち,現在はマスコミュニケーションによる送り手制御情報関連の情報化が進んでいるが,次に情報化社会が更に進展していくための条件整備的,過渡的段階を経て,新しい電気通信システムを中心とした受け手制御を主とする個別情報関連の情報化が展開する。このように情報化は,マス情報から個別情報の段階へと移行するものとみることができる。
(2) 情報化の影響
 それでは情報化は社会にどのような影響を与えると評価されているであろうか。第1-2-9図は情報化の現象ごとにプラスとマイナスの影響をみたものである。これによると情報化は全体としてはプラスに評価されている。しかしマイナスもかなりあり,情報化の進展に伴う諸弊害への対策をおろそかにできないことを示している。
 情報の増大自体はプラスに評価されているが,提供情報の内容及びその在り方にマイナス評価がなされているといえる。例えば「マスコミ情報の増大」,「ミニコミ情報の増大」,「新しい情報の増大」など,抽象的な情報の増大現象にはプラス点が高いが,「宣伝情報の増大」,「娯楽情報の増大」といった情報の内容や,「断片的情報の増大」,「未消費情報の増大」,「類似情報の増大」といった情報提供の在り方にマイナス点が高い。
 個人生活や社会生活に影響があると思われる現象にマイナス評価が比較的大きい。「情報のトラブルの増加」がマイナスであるのは当然としても,「情報摂取量・時間・費用の増大」は情報化が生活への侵害になることへの不安を,「情報記録の集中管理化」は個人に対する管理強化への不安を,また「情報の陳腐化速度の増大」は常に更新される情報についていくことの不安を表しているものといえよう。
 情報化とも言うべき社会構造の変化に対してはプラス評価が比較的大きい。例えば「知識産業の発展」,「情緒産業の成長」などがそうである。また「情報の人流・物流との代替」が積極的に評価されているのは注目される。
 情報伝達,処理手段の発達に対してもプラス評価が比較的大きい。「情報伝達の高度化・多様化」,「マン・マシン通信の増大」,「各種社会情報システムの増加」,「社会制御情報システムの増加」などがそうである。
 情報化社会は価値観の多様化する社会であると思われるが,「価値観の多様化」現象にマイナス評価が高いのは注目される。
 次に,どのような価値観にとって情報化がプラスであり,またマイナスに作用するかをみよう。第1-2-10図は価値観ごとに情報化から受けるプラスとマイナスの影響をみたものである。
 これによると,情報化は個人的価値観に複雑な影響を与えるといえる。すなわち情報化は「生活の利便・充実」にはプラスの影響が強いが,「安全・安定」にはマイナスの影響が強い。また「文化生活(活動)」,「自己開発(知・教・能)」「創造(芸術・学問・発明・創造)」といった精神的活動に対しては,プラスにも強く作用するがマイナスにも強く作用するという両刃の剣的な影響を与えるといえる。また情報化は「プライバシー保護」という価値観に対してはマイナス影響が強いといえよう。
 社会的価値観をみると,情報化は「経済発展」に寄与するとともに「国民福祉」にプラスの影響を与えるといえる。また「行政の合理化」,「行政の民主化」にもプラスの影響が強い。しかし「伝統(地域文化)」,「社会との調和」,「省資源」という価値観に対してはマイナスの影響も強いといえよう。
 以上,情報化現象の価値観に与える影響及び価値観が現象から受ける影響について概観してきたが,実際に,ある情報化現象の進展やある価値観の増大などの対策を行おうとする場合には,その現象がどのような価値観と関連をもち,どの程度のプラス又はマイナスの影響を与えるか,あるいは,その価値観の増大にはどのような情報化現象をどの程度振興又は抑制するのが有効か等,現象と価値観とを相互に関連させながら,具体的に,かつ総合的に検討する必要がある。総合情報流通調査会の検討は,この要請に応ずる試みの一つである。情報化の健全な進展を図るためには,更にこのような研究を進めるとともに,その成果を十分活用して,対策について事前に慎重な検討を行っておく必要があろう。

 

第1-2-8図 情報化現象の動向

第1-2-9図 情報化現象の影響

第1-2-10図 情報化が価値観に与える影響

 

 

 

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