昭和49年版 通信白書

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第2節 研究開発課題とその状況

1 宇宙通信システム

(1) 通信衛星及び放送衛星の開発
 最近の世界における宇宙開発のなかで,特に目覚ましい進展をみせているのは通信・放送衛星の開発である。
 通信衛星については,既に打ち上げられているものとして,国際通信用のインテルサット衛星及びモルニア衛星があり,また国内通信用としてはカナダのアニク衛星及び米国のウェスター衛星がある。現在,開発中の通信衛星としては,1975年秋までに打上げ予定の約10個の米国の国内通信衛星をはじめとして,1974年打上げ予定の独仏共同開発のシンフォニー衛星,1975年打上げ予定のイタリアのシリオ衛星等があり,またESRO(欧州宇宙研究機構)においても,1980年代にECS(欧州通信衛星)による実用システムを完成させる前段階として1977年ごろに軌道試験衛星(OTS)を打ち上げることを計画している。
 放送衛星については,1974年5月に打上げに成功した米国の応用技術衛星6号(ATS-6)が現在では唯一のものである。これは,多目的実験衛星であるが,その実験項目中には,衛星放送実験が含まれている。今後予定されている放送衛星としては,1975年にカナダの通信技術衛星(CTS)が実験用衛星として打ち上げられる予定であり,1976年にブラジルが,また,1979年ごろには西独も放送衛星の打上げを計画している。
 一方,国内に目を転じると,通信,放送ともに,衛星システムの導入が必要とされる状態になっている。すなわち通信の面では,今後の国内通信需要を満たし,かつ,大規模災害の発生時等に備えるため,従来の地上システムに衛星通信システムを加えて通信回線の多様化を図る必要性があると考えられる。また,放送の面でも,難視聴の解消等のためには,衛星放送システムの導入が必要であると考えられる。
 こうした状況から郵政省では,48年度から実験用中容量静止通信衛星及び実験用中型放送衛星の開発に着手する必要があるとして,初年度は8億7,000万円によって両衛星の開発研究(概念設計,予備設計)を開始した。これら二つの衛星開発研究の成果を踏まえ,宇宙開発委員会は,48年10月29日,これらを51年度に打ち上げることを目標に開発を行うことを正式に決定し,また,49年3月13日の宇宙開発計画(48年度決定)においては,この内容に付け加えてその打上げは米国に依頼することを定めた。
 一方,打上げの目標年次が確定したことに伴い,スケジュールの上から48年度中に開発研究を完了するほか,基本設計に取り掛かる必要があったため,そのための経費として一般会計予備費から約9億4,000万円の使用が認められることとなった。更に49年度予算においては,これらの衛星開発関係経費として約279億8,000万円(49年度歳出39億4,000万円,国庫債務負担行為240億4,000万円(49年度に現金化される30億3,000万円は歳出に含めた。))が認められた。
 実験用中容量静止通信衛星及び実験用中型放送衛星の開発は,開発研究が終了したので郵政省から宇宙開発事業団に引き継がれることとなり,宇宙開発事業団は基本設計の契約等両衛星の開発に必要な所要の業務を開始した。一方,必要な地上施設については,郵政省及び関係機関が整備を進めることとなった。
 なお,実験用中容量静止通信衛星及び実験用中型放送衛星の諸元は次のとおりである。
ア.実験用中容量静止通信衛星
  [1] 衛星軌道及び位置  東経135°の静止軌道
  [2] 通信対象区域
     準ミリ波帯 北海道,四国及び九州を含む本土周辺
     マイクロ波帯 小笠原,沖縄などの離島を含む日本全土
  [3] 伝送内容  電話及びカラーテレビジョン等
  [4] 変調方式  PCM-PSK
  [5] 伝送容量  100Mb/キャリア
  [6] 使用周波数
     準ミリ波帯
       上り回線  27.5〜31GHz帯域内に6波
       下り回線  17.7〜21.2GHz帯域内に6波
     マイクロ波帯
       上り回線  5.925〜6.425GHz帯域内に2波
       下り回線  3.7〜4.2GHz帯域内に2波
  [7] 衛星寿命  3年
  [8] 実験の目的
     衛星システムを用いた準ミリ波等の周波数における通信実験を行うこと,衛星通信システムの運用技術の確立を図ること,その他
イ.実験用中型放送衛星
  [1] 衛星軌道及び位置  東経110°の静止軌道
  [2] 受信対象区域  小笠原,沖縄などの離島を含む日本全土
  [3] 伝送内容  カラーテレビジョン 2ch
  [4] 変調方式  映像 FM
          音声 FM-FM
  [5] 使用周波数
     上り回線  14.0〜14.5GHz帯域内に2波
     下り回線  11.7〜12.2GHz帯域内に2波
  [6] 衛星の出力  100W×2
  [7] 衛星寿命  3年
  [8] 実験の目的
     衛星システムを用いた画像及び音声の伝送試験を行うこと,衛星放送システムの運用技術の確立を図ること,その他
(2)電離層観測衛星の開発
 電離層の状態や,電離層の上部の環境及び空電に伴う電波雑音についての世界分布を知ることは,無線通信回線の効率的な利用を図る上に極めて重要なことである。従来の地上観測のみでは,海域,辺地等の電離層の観測や電波雑音の観測が不可能であったが,人工衛星を利用することにより,これらの観測が可能となった。
 電離層観測衛星(ISS)は,我が国が技術試験衛星1型に引き続き打ち上げる実用衛星として開発され,50年度末に高度約1,000km,傾斜角約70°の円軌道に打ち上げられる予定であり,現在,宇宙開発事業団において計画通り製作が進められている。電波研究所はこの製作に関し宇宙開発事業団に協力するとともに,打上げ後における衛星の利用に必要な管制施設の整備を進めている。この施設に関しては,受信に必要な基幹設備がほぼ完成し,この施設を使用して現在,ISS打上げに備えた訓練を兼ね,カナダの電離層研究衛星(ISIS)を対象に,電離層上部のデータ,超長波の伝搬及び宇宙雑音に関するデータ,その他の科学データの収集を行っている。更にISS打上げまでには,状態制御,テレメータ解読及びコマンドの自動化等の施設の整備に加え,収集されたデータを解析するために必要な中央処理装置の整備並びにプログラムの開発等が必要であり,計画にそってこれら整備開発が進められている。
(3)衛星通信の研究
ア.通信方式
 衛星通信における周波数有効利用を図るため,各種の新しい通信方式の研究が行われており,その一つとして時分割多元接続(PCM-TDMA)方式がある。この方式は,従来の周波数分割多元接続(FM-FDMA)方式に比べて,
 [1] 回線数の変更が容易であること
 [2] 衛星中継器を各地上局が時分割で使用するため,各地上局の電波の間で混変調が生じないこと
 [3] ディジタル音声そう入方式(DSI)の採用により,FMに比べて容易に回線量を約2倍に増加できること
などの利点がある。
 PCM-TDMA方式については,郵政省電波研究所及び電電公社電気通信研究所の協同でSMAXを開発し,ATS-1及びATS-3衛星を用いる通信実験に成功している。電電公社電気通信研究所では更に高速のPCM-TDMA方式等,国内衛星通信方式の研究を行っている。
 一方,インテルサットでは,TDMA方式を重視し,51年初頭を目途として,本方式の国際間接続試験を行う計画を進めている。
 国際電電でもTTT方式と称する時分割多元接続方式を開発し,上記の国際間試験に参加する場合に備えて検討を進めている。
 近い将来の国際間衛星通信の課題として,国際電電研究所では,ディジタル衛星通信の大幅な採用に適した時分割一空間分割多元接続(TDMA-SDMA)方式,直交偏波を利用した衛星通信方式,新サービスの提供を目的とした移動衛星通信方式などについて,基礎的検討を開始している。
 また,近年,離島通信,移動通信あるいは災害通信等の多様化に伴い,郵政省電波研究所鹿島地球局では,これら小規模局の通信に特に有効と考えられる通信方式として,同時に多数の小規模地球局が1個の衛星を仲介として随時通信ができ,また,附属装置を接続することにより,通信と同時にこ衛星までの距離と距離変化率の測定ができるSSRA(Spread Spectrum Random Access)方式の実用化を図るため,実験装置の試作とともに衛星折返し実験を行い,その有効性を確認した。
 この通信方式は将来我が国で静止衛星を打ち上げる場合には,軌道測定及び姿勢の検知等にも応用できるので極めて重要な役割を果たし得るものである。一方,この装置を使用すれば国際間における時刻同期にも有効であり,本方式の早期実用化のための実験研究が進められている。
イ.ミリ波通信
 衛星通信に使用されている電波は,現在マイクロ波の4GHz及び6GHzがその主力をなしているが,今後増大する通信需要を満たすためには,なお高い周波数の準ミリ波あるいはミリ波帯の衛星通信系への導入をも考慮しなければならない。しかし,この場合に問題となるのは大気による電波の吸収及び降雨による電波の減衰である。特に降雨による減衰に関しては,長期にわたり地域別に,また統計的に調査を行う必要がある。
 このため現在,郵政省電波研究所,電電公社電気通信研究所及びNHK総合技術研究所などで,それぞれ組織的な調査が続けられており,電波研究所では,ミリ波帯太陽電波観測及び大気ふく射温度の観測を行い,衛星と地球間の減衰量及びダイバーシティ効果(合成受信)等について実験を行っている。また51年度打上げが予定されている技術試験衛星(ETS-<2>)及び52年度打上げ予定の実験用静止通信衛星(ECS)には,それぞれ電波研究所が開発したミリ波の発振器あるいは中継器がとう載されることとなっており,これらの実験研究は,将来のミリ波帯衛星通信実用化のための基礎的研究として積極的に推進されている。

 

 

 

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