昭和49年版 通信白書

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3 国際電気通信連合(ITU)

(1) 概要
 国際電気通信連合(加盟国148)は,国際連合の専門機関の一つで電気通信の分野において広い国際的責任を有する政府間国際機関である。
 48年度においては,ITUは,年次会期の管理理事会のほか,全権委員会議を8年ぶりに,電信電話主管庁会議を15年ぶりにそれぞれ開催するなど大きな会議を相次いで開催した。また,国際電信電話諮問委員会(CCITT)は新研究会期(1973年-1975年)の初年度に入り,国際無線通信諮問委員会(CCIR)は,1974年7月の第13回総会を前にして研究委員会の最終会合を開き所要の準備を行った。
 我が国は,上記の会議,会合のすべてに参加した。
(2) 全権委員会議
ア.会議の概要
 全権委員会議は,ITUの最高機関で従来5〜8年の間隔で開催されてきた。今回の会議には132か国(655人)が参加し,9月から10月にかけて6週間スペインのマラガ・トレモリノスにおいて開催された。この会議で採択された文書は,ITUの基本的文書である国際電気通信条約及びその関連の議定書である。
 同条約は,1975年1月1日に批准書又は加入書を同日前に寄託した国の間において効力を生じることになっている。我が国も同条約に署名し,目下批准のために必要な準備を進めている。
 なお,我が国はこの会議の9人の副議長の1人に選出された。
イ.管理理事国の選挙
 全権委員会議は,管理理事国を選出することを任務の一つとしている。今回の会議では理事国数を29から36に増やして選挙が行われ,我が国は,E地域(アジア・オセアニア)で最高点で当選した。これにより1959年以来3回連続最高当選したことになるが,このことは我が国に対する連合加盟国の期待が大なるものであることを示すものである。
ウ.宇宙通信に関する規定
 従来国際電気通信条約においては,宇宙通信について,特に規定は定められておらず,無線通信に関する規定を一般的に適用することとされていたが,今回の条約改正において,宇宙通信に関する若干の規定を新たに設けたことが注目される。
 すなわち,無線周波数スペクトラム及び対地静止衛星軌道(地球の赤道上,地球から約3万5,800kmに円軌道を有し,かつ地球の自転軸を軸として地球の回転と同一方向及び同一周期で回転する衛星を「対地静止衛星」といい,衛星が対地静止衛星であるために位置すべき軌道を「対地静止衛星軌道」という。)の合理的使用を図るための原則的な規定として,加盟国は,宇宙通信のための周波数を使用するときは,無線周波数及び対地静止衛星軌道が有限な天然資源であり,これらを効率的かつ経済的に使用することに留意すべきこと,並びに国際周波数登録委員会の任務として,周波数割当ての場合と同様に,各国によって対地静止衛星に割り当てられる対地静止衛星軌道上の位置の秩序ある記録を行うこと,対地静止衛星軌道の公平,有効かつ経済的な利用のため加盟国に対して意見を提出すること等が新たに規定された。これらの新規定は,宇宙活動においては,無線周波数スペクトラムの使用が衛星そのものの確実な運行のためのみならず,衛星のもつ通信,放送,気象観測,資源探査等の業務達成のために不可欠であり,宇宙活動の成否の大きな要素をなすものであること,最近各種の衛星業務は対地静止衛星を使用することが多く,その結果として,これら衛星相互間の混信を排除するため,対地静止衛星軌道上の衛星の数を規制する必要が生じ,対地静止衛星軌道の有効利用を図ることが国際的に重要な課題となっていること等の事実にかんがみ盛り込まれたものである。
 宇宙通信の利用分野が当初の固定地間通信のための固定衛星業務及び気象観測のための気象衛星業務から,放送衛星業務,船舶・航空機のための移動衛星業務,地球資源探査のための地球探査衛星業務等各種の無線通信に拡大されようとしているとき,これらの新規定は誠に時宜を得たものであり,今後これを基礎として,宇宙通信の分野における国際協力が推進されることが期待される。
エ.無線通信に関する主管庁会議の開催
 今回の会議においては,1973年の管理理事会においてスペインが提案し,全権委員会議に対する勧告事項になっていた「12GHz帯の放送衛星業務の計画のための世界無線通信主管庁会議」を1977年4月以前に開催することが決議によって採択され,第29会期管理理事会において必要な準備をすべきこととなった。この決定により,ITUが放送衛星業務のための協定及び附属周波数計画の設定へと歩を進めることとなった。また,同じく本年の管理理事会の全権委員会議への勧告事項となっていた「無線通信に関する一般問題を扱う世界無線通信主管庁会議」について,これを1979年に開催することを決議によって採択し,第29会期管理理事会において必要な準備をすることとなった。これは,1959年以来各種の特定分野の問題を扱う主管庁会議によって改正されてきた無線通信規則及び追加無線通信規則を,全体的に検討し調整しようというものであり,宇宙通信等新たな通信技術の出現に伴う技術革新の時代にふさわしい国際的規律の設定が期待される。
オ.技術協力問題
 多年の懸案事項であった技術協力のための地域事務所の設置は,遂に採択されるところとはならなかったが,別に技術協力強化策の一つとして,このための特別基金を,加盟国の任意拠出金に基づいて設けることが決議の形で採択された。我が国は,ITUの技術協力活動については,条約に従い,UNDP中心主義で在るべきであるとの態度を一貫して維持してきたが,南北問題がますますその重要性を高めてきていることにかんがみ,この基金を積極的に活用していくことについて検討する必要がある。
(3) 電信電話世界主管庁会議
 電信電話世界主管庁会議は,国際電気通信条約を補充する業務規則を改正することを任務としている。今回の会議は,「電信規則」及び「電話規則」の改正を任務とするもので,82か国270名が参加して,4月スイスのジュネーブにおいて開催され,我が国は5人の副議長の1人に選出された。この会議においては,CCITTが作成した規則案を基に,両規則の大幅な簡素化を行い,細部の規定は,CCITT勧告に移行された。これによって国際電信電話業務は基本的な点については規則に従いつつ,より弾力的に運営することができるようになった。
 新規則は,1974年9月1日に効力を生ずることとなっている。
(4) 国際電信電話諮問委員会(CCITT)
 国際電信電話諮問委員会は,電信及び電話に関する技術,運用及び料金の問題について研究し,及び意見を表明することを任務とする。
 CCITTの活動は,新研究会期(1973〜1976年)に入り,前回の総会で定めた研究課題について各研究委員会で検討を始めた。技術関係で特に活発な活動が行われているのは,新データ通信網に必要な技術,電子交換技術,ディジタル伝送技術などの新技術の分野においてである。
 新データ網に関しては,これに適用すべき信号方式,多重化構成方式,パケットモードオペレーション,端末と網とのインターフェイス等標準化のために山積している課題について検討が進められている。
 また,既存のアナログ型の通信網とは異なったディジタル網は,データ,画像,音声といった多様なサービスを統合することにより,有効かつ効率的な伝送網を構成できる可能性があり,各国から多数の寄与文書が出ているが,我が国からのディジタル統合網の研究方法についての提案は高く評価されている。
 このほかの研究問題での主な寄与文書には,電子交換機の機能仕様の表現方法として状態遷移図による方法に関するものがある。
 運用・料金関係については,前回の総会において紛糾の末,ようやく各国の妥協の産物としてまとまった勧告D関係(国際電気通信回線の賃貸)の改正の必要性の有無について検討を始めた。根本的な点での改正を行わないことについては各国とも意見の一致をみているが,なお,今後の賃貸業務の発展の動向にかんがみ,改正の必要性があるか否かを検討しようというものである。データ通信の重要性が一層高まることからみて,この問題については十分注意を払う必要がある。
(5) 国際無線通信諮問委員会(CCIR)
 国際無線通信諮問委員会はITUの常設機関の一つであり,無線通信に関する技術及び運用の問題について研究し,意見を表明すること,及び主管庁会議に対し,無線通信規則等の改正の提案を行うことを主な任務としている。
 CCIRは通常3年ごとに開催される総会と,総会が設けた13の研究委員会(SG)により構成されるが,このほか研究問題の専門化,多様化に伴い,効率的な活動を行うため,これらSGの下に,現在合計24の中間作業班(IWP)が設けられている。
 1974年2月には,ジュネーブでこれらSGの最終会合が開催され,世界36か国,約800名の代表が出席し,1万4千ページにのぼる文書が作成された。我が国からは39名の代表が出席したが,これはフランス,米国,英国,イタリア,西独に次ぐ大代表団であった。
 この会議に対し,我が国からは57件に及ぶ文書を提出し,これらの大部分がそのまま,又は一部修正の上採択され,総会に提出されることとなった。
 この会議の審議結果は,1974年7月に開催されるCCIR第13回総会に提案されるが,これらは同年4月に開催される海上移動通信に関する世界無線通信主管庁会議,同年10月と翌1975年秋の2回にわたって開催される長・中波放送用周波数割当計画に関する第1地域及び第3地域合同主管庁会議等における技術的裏付けを与えるものであり,極めて重要な意義をもつものであった。
 この会議で審議された問題のうち,各国が最も強い関心を寄せたものは,中波放送の問題である。これは,前述の主管庁会議における中波放送用周波数割当計画の基礎となるものであり,各国のラジオ放送の将来に重大な影響を及ぼすものとみられたためである。特に,この割当計画を大きく左右する要素として,放送局の置局可能数に大きな影響をもつ中波の電界強度の計算方法及び混信保護比(我慢できる混信の限度)の問題をはじめ,中波放送周波数のチャンネル間隔,サービスエリヤを決める上に必要な最低電界強度,更に中波放送局の周波数割当計画の有効さを示す尺度となるカバレージ(地域や人口分布を考慮して,放送局の電波がいかに必要なところを十分にカバーできるか)等の問題を中心に審議が進められた。審議は重要な問題点について,CCIRの勧告案という形にはならなかったが,報告案という形で各国の主張する問題点が整理され,我が国の主張する点は,すべて報告案に取り入れられたので,我が国としては今後の足掛かりができたと言えよう。  このほか,限られた静止衛星軌道をいかに有効に利用するかの問題,静止衛星軌道における衛星間隔を決める上で最も重要な衛星の位置保持精度の問題,海上移動通信の自動化,能率化を促進させるとみられる選択呼出方式の決定に関する問題,多量の情報を経済的に良好な品質で伝送できるディジタル伝送方式に関する問題,その他テレビの音声多重方式,高精細度TV方式及び静止画放送に関する問題等,広範な分野の問題について検討された。

 

 

 

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