昭和49年版 通信白書

本文へジャンプ メニューへジャンプ
トップページへ戻る
操作方法


目次の階層をすべて開く 目次の階層をすべて閉じる

3 通信応用技術

(1) 海洋波浪の観測
 この研究は短波の電波伝搬に関連し,その応用研究として行われているものである。
 現在波浪の観測は主として船舶による直接観測のほか,観測用ブイロボットを利用する等種々の方法が考えられているが,海上の安全や経済性からみて必ずしも満足すべきものではない。これに対して電波による海洋波浪の観測は従来の方法とは全く異なる新しい測定手段であって,陸上から電波を発射し波浪からの反射電波から海面情報をとらえようとするもので,その大きな特色はすべての施設が陸上に設置され,安全上経済上一段と有利になる点である。
 短波ないし中短波帯の電波による海面散乱現象と波浪との間には強い相関性があることが近年実験的に確かめられている。電波研究所では海上保安庁の協力を得て,電波による観測と船舶による波浪の直接観測とを日本近海において実施し,これに関する観測データを取得するとともにその解析を行っている。現段階ではデータ不足であるが,沖合100〜150km程度までについてはかなり有望であることが確認されており,更に短波の遠距離伝搬特性を利用し,数1,000km先の波浪観測の可能性についても検討が加えられている。今後観測機器を整備し,観測の強化を図り,定量的データを蓄積する等実用化のための研究も推進されることになろう。
(2) ヘリウム音声の研究
 海中居住や潜水など高圧環境下では,人体に及ぼす生理的な障害を除くため通常ヘリウム空気が用いられる。しかしヘリウム空気中では音速が速くなり,したがってこのような環境下で発声した音声はひずみを生じ,気圧を上げていくに従い会話の内容はほとんど了解できなくなる。このような障害を除去し,海中で作業する人々の音声通信を確保することは,今後海洋開発を進めていくに当たり作業の安全性の上から極めて重要なことである。このため,ヘリウム空気中の音声について研究を行い,音声信号を一定の間隔に区分し,その一部を捨てて残りを元の間隔に伸長するという比較的簡単な原理による「切出し伸長型」のヘリウム音声復元装置を開発した。
 この装置は48年度のシートピア計画で行われた60m海中居住実験で試用し,良好な結果が得られているが,この方式では海中約100m程度までが改善される限度と予想される。したがって,深い海中まで改善効果を上げるためには,原理的に理想的改善方式と考えられる分析合成方式を検討する必要がある。
 本方式はヘリウム音声を声道の共振周波数とか音源波形とかの幾つかの要素に分解し,それぞれに望ましい修正を施した後,音声を合成して復元する方式であり,今後ともその開発を目指して,実験,研究が進められよう。
(3) 大気汚染の測定
 大気汚染状況を的確には握し,汚染の予知と適切な防止対策を確立することは環境保全上緊急を要する課題である。
 電波研究所では従来行われてきたレーザの研究に関連し,その応用技術としてレーザを利用した大気複合汚染測定用レーザ・レーダの開発研究を行っている。
 レーザ・レーダによる測定は,化学的手法のように汚染物質をサンプルすることなく,一地点で汚染物質の立体的な濃度分布を瞬時的に求められることから,将来有望な大気汚染の測定手段であると考えられている。この研究はレーザ光と汚染ガスの吸収,蛍光などの相互作用から特定の汚染ガスの濃度分布を求めるもので,吸収方式,蛍光方式及び赤外レーザの三つの方式に分けて研究が進められた。その結果吸収方式ではSO2,NO2,赤外レーザではO3の汚染ガスの濃度検出に良好な結果が得られた。
 今後は更に上記各方式の検出感度の向上を図るとともに,実用化に必要な処理システムの研究も進められよう。

 

 

 

2 電磁波有効利用技術 に戻る 4 データ通信システム に進む