昭和49年版 通信白書

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7 基礎技術及び研究

(1) 交換技術
ア.電子交換機の開発状況
 電電公社では46年度から東京の一部で我が国において初めての電子交換機の商用試験を開始した。サービス開始後の状況は,所期の目的どおりハードウェア,ソフトウェアともに極めて安定な運転を続けている。48年度は,広域時分制機能等の確認を行うとともに,今後のハードウエア及びソフトウエアの増設に対処するため,システムの拡張方法に関する調査,試験を実施し,加入者線交換機に関する実用化を終了した。
 中継線交換機についても,48年5月から東京,大阪の一部で商用試験を行い,各種機能及びその安定性の確認を得,実用化を終了した。
 電子交換機の優れた利点を大局のみならず中小容量局にまで拡張し,新サービスの普及及び省力化を図ることを目的として,約1万6千端子の容量をもつ中小局用電子交換機(DEX-A11)について検討を進め,48年度から一部の加入者を収容して現場試験を開始した。サービス開始後の状況は極めて安定しており,これを基本に中小局用のD20形交換機の実用化の準備を進めている。
 都市部等における端子増設の経済化等を目的としたDEX-Rl方式(D10形自動交換機の制御系で複数局のD10形通話路系を制御する方式)については,DEX-A11と並行して現場試験を行った。この間,加入者を収容した状態で独立局移行の技術的確認を行い,所期の成果が得られたので,これを基本にD10形自動交換機Rl方式につき実用化の準備を進めている。
 また,中小規模用事務所集団電話交換機としてのD10形自動交換機R3方式についても検討を進めている。
 一方,急増するデータ通信需要に対して公衆網が開放されたが,既存公衆網ではデータ通信の要求する品質,機能の面から必ずしも最適とはいい難い。このため時分割電子交換機及びディジタル伝送方式の研究,開発の成果を基盤として,電電公社の武蔵野電気通信研究所で,本格的なディジタルデータ交換網の研究が46年から開始された。現在,時分割ディジタルデータ交換方式を採用した室内実験機により研究が続けられている。この実験機は,回線交換及びパケット交換(情報をいったん蓄積して,ある一定の長さに区切り,これを転送の単位として送り出す交換方式)の両機能を備えた交換機で,交換可能な端末速度は50b/s〜48kb/sという広い範囲を扱うことができる等の特徴を有しており,今後のデータ交換の発展に大いに寄与するものと期待されている。なお,世界的にみてもデータ交換の研究実用化は盛んで,時分割回線交換方式とパケット交換方式が主体となっている。
 国際電話に関しては,実験用電子交換機KDX-0の試験結果を基に新設計された商用国際交換機(電子交換台を含む。)XE-1が51年度に商用化される予定である。国際加入電信(テレックス)についても,CT-10形時分割電子交換機が同じく51年度には商用に入る予定である。
 次の時代の交換機としてはディジタル電子交換方式の採用が予想される。国際通信網においてはサービスの総合化も進められる可能性がある。国際電電研究所では,このような方向に対応して,異方式PCM間の符号変換,音声信号のディジタル認識など伝送・交換の境界領域の問題の研究を進める一方,回線交換とパケット交換の共存,網同期などの方式的研究にも着手している。
イ.共通線信号方式
 個々の通話路に制御信号を伝送する従来の信号方式に対して,1本の信号専用線を設けて多数の通話路(1,000回線以上)に対する信号をデータ伝送の形で送受信する共通線信号方式は,電子交換機間の信号方式として最適であり,将来の信号方式の本流になるものと思われる。国際電電の国際交換機XE-1にはCCITTで仕様化された共通線信号方式(No.6方式)が組み込まれており,国内のD-10方式も国内用共通線信号方式のプ口グラムを内蔵している。内外の交換機の電子化が進むにつれ,電話接続のスピード・アップが期待される。
 一方,本格的なディジタル統合網時代の到来に備えて,更に高速(64kb/s)のビットレートをもつ共通線信号方式の研究開発がCCITTの場で始められており,我が国でも電電公社武蔵野電気通信研究所,国際電電研究所を中心に研究が行われている。新共通線信号方式は電話のみでなくデータ通信等のサービスにも適用されるため,多くの機能が要求され,また柔軟な拡張性をもったものでなければならない。
 我が国の国内用共通線信号方式は,No.6信号方式に準拠し,更に国内用として若干修正を加え,電子交換機の開発の中においてその検討が進められてきた。47年にD10形交換機商用試験の一環として,世界に先駆けて東京と大阪の一部における局間信号方式として適用し,48年商用試験を終了,十分実用に供し得ることが確認された。
 共通線信号方式は通話路と信号路が分離しているため通話路網のほかに信号路網の形成が必要であり,数局,数10局と網が拡大するにつれて信号回線の高能率使用,信頼性の向上,各種遅延時間の一層の短縮,交換機情報の転送内容の充実等の共通線信号の機能が十分発揮できることとなる。このように網としての形態を備えるためには,既に試験済みの対応網構成のほかに準対応網構成での運用実績,更に準対応予備構成の機能確認が必要であり,これらを統合した形のより高度な機能をもった網形成の検討が進められている。
ウ.ソフトウェアの標準化
 D10形自動交換機は,ようやく本格的な導入の段階を迎えるに至り,大局用電子交換ソフトウェアも加入者線交換用,中継線交換用の2系列が商用に供せられている。そして既に広域時分制や増設機能等の機能追加を幾たびか行い,良好な運用実績が得られている。
 これらのソフトウェアは,その実用化の過程のなかでシステムごとの開発を進めたため,複数のシステムを個別に管理している状況である。このため,機能の追加,拡充等を行うたびに,各システムをそれぞれ修正しなければならないことになる。今後,電子交換機の提供するサービスの多様化に伴い機能の追加はひん発し,作成すべきプログラムの規模も増大する一方であり,このままでは今後のプログラムの管理作業は膨大なものとなる。このため,従来個々に実用化してきたシステムについて,プログラムを基本機能単位に区分して,これらを整理,統合し,標準化を図るとともに一元管理を行うことを目的として標準ソフトウェアシステムを完成した。
 電子交換ソフトウェア技術の標準化に関する検討については,CCITTの第11研究委員会でもこれを取り上げ,「プログラム論理仕様の標準化」を検討中であり,積極的な寄与を行うとともに,更にプログラムの標準化を進めることが必要であろう。
(2) 伝送技術
ア.同軸ケーブル方式
 現在電話回線に用いられている同軸ケーブルは,標準同軸ケーブル(内外径2.6/9.5mm)と細心同軸ケーブル(1.2/4.4mm)に大別され,ケーブル特性はいずれもCCITT規格を満足している。
 現在,我が国において使用されている代表的な方式は,12MHz方式(伝送帯域308kHz〜12,435kHz,電話2,700ch)である。更に大容量の伝送方式として,60MHz方式(伝送帯域4,287kHz〜61,160kHz,電話10,800ch,又はIMHzテレビ電話36ch,若しくは4MHzテレビ電話9ch)が実用化され,現在,電話伝送とテレビ電話伝送との共用を考慮した方式設計,建設保守上の問題について,東京・名古屋・大阪間で商用試験が行われている。
 ディジタル伝送方式としては,標準同軸ケーブルを用いたPCM-100M方式(電話1,440ch,又は1MHzテレビ電話60ch,若しくは4MHzテレビ電話15ch)の商用試験が,またPCM-400M方式(電話5,760ch,又は1MHzテレビ電話240ch,若しくは4MHzテレビ電話60ch)の現場試験が実施されている。
イ.海底同軸方式
 大洋横断深海長距離用ケーブル方式としては,米国では845ch方式が既に実用になり,現在は約4,OOOchO方式の開発が進められている。また,英国では最近1,840ch方式が実用化されている。国際電電では,電電公社との協力体制の下に1,600chのCS-12M方式(3kHz/ch)の開発を進めており,50年には実用に供することのできる技術が確立される見込みである。
 一方,中国及び東南アジア諸国等との通信需要に適した中容量,中距離方式として480chのCS-5M(4kHz/ch)の開発が必要となり,この開発に着手した。この方式はCS-12M方式の技術を基本としているので,CS-12M方式とほぼ同時期には,実用に供することのできる技術が確立される見通しである。なお,中国及び東南アジア海域では浅海部が多いので,浅海方式特有の技術の開発が必要となる。すなわち,電気的には海底温度の時間的変動に基づくケーブル特性の変動を補償する機能を持った中継器の開発が必要であり,またケーブル保護の面ではケーブルをかなりの距離にわたって埋設する技術の開発が要求される。そこで,これらの技術の開発も併せて推進している。
ウ.準ミリ波通信方式
 準ミリ波帯では,1無線システム当たり400Mb/sの速度で電話5,760ch,又はIMHzテレビ電話240ch,若しくは4MHzテレビ電話60chの容量をもつ,無線中継方式による20GHz帯準ミリ波PCM方式の実用化が進められている。
エ.ミリ波通信方式
 電電公社において開発中の方式は,40GHz〜80GHz帯を用い,導波管1条当たり電話約30万ch,又は1MHzテレビ電話約12,480ch,若しくは4MHzテレビ電話約3,120chの伝送容量を目標としたもので,現在,試験用に敷設した各種導波管線路により,現場試験が行われている。
オ.光通信方式
 光通信方式は超大容量通信方式として脚光を浴びており,現在,発振源である各種レーザ,LED(発光ダイオード),伝送媒体としてのオプティ力ルファイバー等の研究が行われている。光通信方式には従来のマイクロ波等のように空間を伝搬させる空間伝搬方式,レンズを用いる光ビーム伝送方式,オプティ力ルファイバーを用いるファイバーケーブル伝送方式があり,それぞれの特長を生かした方式検討が行われている。各種伝送方式の中で空間伝搬方式は,雨や霧等の影響を受けやすく長距離伝送には適していないが,システム構成,伝送路の作成・変更が比較的容易等の利点を生かして,1システム当たり96chの伝送容量をもつ可搬方式について実用化が進められている。
 また,オプティ力ルファイバーについては,1km当たり数dB程度の伝送損失のものが得られており,その実用化が大いに期待されている。
カ.線路技術
(ア) 導波管線路
 既存通信サービスの拡充並びに画像通信などの新サービスの実施のために,経済的な超広帯域市外伝送路の実現が必要である。この要求に応ずるため,電電公社ではミリ波導波管伝送方式の研究が行われている。
 現在開発中の方式は主として51mmφ導波管を用い,双方向電話換算約30万chの容量をもつW-40G方式である。導波管としては誘電体内装導波管,らせん導波管,伸縮導波管,コーナ導波管,細径可とう導波管等がある。
 42年には4.2km2条の直埋方式実験線路を建設し,導波管敷設工法,伝送特性の検討がなされ,長距離伝送の可能性が確認された。
 46年以降上記直埋方式実験線路を延長して約23kmに管路方式による導波管線路の建設がなされ,現在伝送特性,障害監視システム等の調査が進められている。また,とう道内に適用するWT-40G方式についても約2km敷設し検討が進められている。
(イ) 広帯域対形ケーブル
 テレビ電話,ITV等,数MHz帯のサービスを経済的に提供するための加入者系伝送路として,広帯域対形ケーブルの開発が進められている。46年度から実用化のための試験が行われているが,その結果,4MHz白黒テレビ信号の伝送は,対選択なしに任意の対でベースバンド伝送することが可能であるとの結論が得られた。またカラーテレビ信号の伝送については加入者系は全対に収容可能であるが,中継系は1対とびに収容することにより対処できる見通しが得られた。このような結果から必要に応じ実用に供し得る段階となっている。
 ケーブルとしては心線径0.65mm,PEF絶縁,対形しゃへいユニット構成で,4MHzでの減衰量20dB/km,特性インピーダンス140Ωの電気的特性を有している。
 また既設75mmφ管路へ収容可能とするため最大対数を320対としている。
(3) 端末技術
ア.新電話サービス
 近年の生活水準の向上,福祉社会指向に伴い電話サービスに対する要望は量的拡大とともに質的にも高度化,多様化し,より便利で快適なものへと移りつつある。
 このような要請に応じるため,新しい電話サービスの開発を積極的に推進することとし,効用が高く,需要が多く期待できるもの,公共性があり社会福祉に役立つもの,地域社会の発展に役立つものなどについて技術的検討を行い実用化を進めている。
 まず,生活の多様化,高度化により,小型軽量で使いやすく,魅力的なデザインの電話機が強く要望されるようになり,従来のプッシュホンに比べ約1/3に小型軽量化され,ざん新で操作性のよいミニプッシュホン(700P型電話機)の開発を進めた。この電話機は通話回路を全部IC化するとともに,世界に先駆け超小型電磁形送受話器を採用することにより可能となった。この電話機には,人間工学的考慮から,再発呼用のフックスイッチをハンドセットに組み込むとともに,重量も,200gと望ましい重さに設定する等の配慮を施した。機能としてもトーンリンガ,スピーカ受話などの新しい機能を備えるとともに,卓上・壁掛兼用の形状とした。
 また,プッシュホンの普及に対応し,主として事業所等に使用される206型,410型,620型の各種ボタン電話装置,並びに,ホームテレホンのプッシュ化を進めてきたが,今後,プッシュホンの一層の大衆化を図る方策として,環境試験等を主体にして公衆電話機のプッシュ化についても検討を開始した。
 電話宅内における福祉対策としては,既に盲人用ダイヤル盤,盲人用局線中継台を提供し好評を博しているが,引き続き難聴者用電話機並びに老人福祉対策用電話装置の実用化を進めており,49年中に提供を開始することを目途に準備を進めている。
 難聴者用電話機は,聴覚障害等級区分4〜6級の人にも容易に通話できるように配慮したもので,受話増幅機能を電話機のハンドセット内に内蔵させることにより実現した。この電話機には通常の人との共用も考慮し,音量調節ダイヤル及び操作ボタンがハンドセット上部に設けてある。
 老人福祉対策用電話装置は,独り暮らしの老人が日常はもちろん緊急時にも容易にかつ,間違いなく電話を利用できるよう配慮した電話装置であり,従来の電話機能のほか,ワンタッチ式自動ダイヤル,受話音量増幅機能並びにカセットテープによる緊急メッセージ自動送出機能などより構成されている。
 一方,構内交換電話については,押しボタンダイヤル等の新機能を有し,サービスを向上するとともに,小型軽量化,高性能化を図った新型小容量構内交換機の開発を進めている。これは部品に電子交換機用に開発され,従来のクロスバ用のものと比べ,大幅に小型軽量化された新型クロスバスイッチ及び継電器を使用することにより可能となった。
イ.移動通信サービス
 社会活動の高度化・多様化に伴い,自動車,列車,船舶等の移動体との通信が強く要望されているが,移動通信サービスはこれら移動体に乗っている人あるいは歩行中の人が,いつでもどこからでも通信できる手段として社会活動の利便向上に役立つとともに,災害時における通信の途絶を防止する手段としても極めて有効なものである。
 現在移動通信サービスに関する研究開発は,船舶電話,自動車電話などについて進められている。これら移動通信サービスの基礎技術は無線技術であることはもちろんであるが,このほか伝送,交換,宅内など多くの分野の通信技術との結合によりはじめて実現されるものであり,また携帯に便利な小型軽量の移動機の開発は,回路部品技術,半導体技術の発達によるところが大きい。
 船舶電話サービスについては,現在は手動接続方式であるが,周波数の有効利用,サービス内容の改善等を目的とした自動接続方式について48年度実験局を開設し信号方式などの検討が行われるなど,開発が進められている。
 また,自動車電話サービスについては,米国など多数の国でサービスが行われているが我が国ではまだ商用に供されていない。現在電電公社横須賀電気通信研究所では,800MHz帯の加入者容量10万(東京圏)の自動車電話方式について実験局を開設し,電波伝搬特性の調査及びゾーン構成法,通話制御技術,追跡交換技術の確立のための検討が進められている。
 今後の移動通信サービスは,使用周波数帯の拡大,周波数の有効利用及び小型軽量化等に考慮を払いながら,加入者の多様なニーズに応じてますます拡大されていくであろう。
ウ.レターホン
 国際電電では,0.3kHz〜3.4kHzの電話回線1chを用いて,電話と手書き記録信号を同時に送受することのできるレターホンを開発したが,これは電話回線の有効利用の一手段として期待されている。音声は全周波数帯域のうちの高域半分すなわち1.8kHz以上の成分を切り捨てて低域半分の成分のみを送出し,受信側で低域半分の成分から倍音,和音又は差音をとり,これらで高域を埋めることによって全帯域に相当する音声成分を再現する方法を用いているが,その通話品質は通常の電話に比べてそん色がない。一方,記録信号については,附属の紙面上に送信ペンで文字あるいは図形を手書きすると,ペンの動きが高城半分の周波数の電気信号に変換されて送出され,受信側では電気信号が受信ペンの動きに変換されて附属の紙面上に文字あるいは図形が再現される。
(4) 電力供給方式
 通信サービスの多様化,通信機器の進展に伴い通信用電力に要求される条件も逐年厳しくなってきている。更に電力用部品及び回路技術の目覚ましい発展と相まって,新しい通信用電力供給方式及び機器について積極的に.研究開発を進めている。
ア.情報処理装置用電力供給方式
 情報処理装置では交直流電力を大量に必要とするが,各種の条件を考慮して静止型交流電源装置による定周波定電圧交流電力の無停電一括供給方式を採用している。
 静止型交流電源装置は,サイリスタを逆変換素子として用いた出力150kVA〜250kVAのモジュールインバータ3〜6台により構成され,これらの冗長並行運転によりシステム容量300kVA〜1,250kVAを得ているもので,47年度に商用試験を実施して特性,機能等の確認を行い,48年度より本格的に導入している。この装置は過去10年に及ぶ研究が結実したもので,出力容量,特性機能の面において世界的にもトップクラスに位置付けられる。しかしながら,この種の技術は日進月歩であり,今後とも一層の小型化,高効率化,経済化並びに保全性の向上が望まれるので,49年度には新型機の実用化を計画している。
イ.予備電源方式
 通信用電力供給システムの安定化を図るため各鍾の予備電源装置を設置しているが,最近のデータ通信サービス等の進展に伴い所要電力が大容量化し,従来のディーゼル機関発電機では対処し得なくなってきたのでガスタービン発電装置の実用化を進めている。
 まず,据置型については10,000kVAガスタービン発電装置の商用試験を48年度に開始し,引き続き実用化のための検討を行っている。
 非常災害時用の移動型は,1,000kVAガスタービン式移動発電装置について47年度より商用試験を実施してきたが,良好な結果を得たので49年度には本格導入を行う。
ウ.通信用自立電源方式
 太陽電池を用いた電源装置については48年度から検討をはじめ,49年度には孤立防止無線方式のザテライト局を対象とした装置について実用化のための試験を開始し,また,風力発電,波力発電等についても49年度より調査検討を進める計画である。
(5) 部品・材料
ア.半導体及び材料
 トランジスタとダイオードは,半導体部品の中でも特に通信用機器とのかかわりが深く,その高速性,広帯域性及び信頼性についての研究は重要な課題である。このため電電公社の電気通信研究所では性能を支配する材料及び加工法と寿命を支配する要因解析の研究が進められ,これまでに各種伝送方式用として実用化が行われてきた。最近では,海底同軸中継方式用超高信頼度半導体部品,大容量伝送方式用超高周波トランジスタ,低雑音・低歪高出力トランジスタ,ミリ波用ガリウム,ひ素ショットキーダイオード,シリコンインパクトダイオード等の研究が進んでいる。また,国際電電研究所では,周波数特性の優れたFETトランジスタを開発することを目的として,半絶縁性のガリウムひ素(GaAs)基板内にセレン(Se)イオンを注入することによって,電子移動度が比較的高いN型伝導層を制御性よく形成する方法について研究を進めている。
イ.集積回路(IC)
 ICは,一つの半導体結晶片あるいはセラミック基板上に,多くのトランジスタ,抵抗,コンデンサ等を集積したもので,機器の軽量化,小型経済化,動作の高速化,高信頼度化が可能であり,電子工業の諸分野に広く使用されている。
 電気通信の分野でも,その経済性・高信頼性に着目され電電公社の電気通信研究所では電子交換機用として研究が開始され,制御飽和論理素子(CSL)がD10形電子交換機に採用された。その後,情報処理装置に使用するための集積度の大きいモノリシック型の高密度集積回路(LSI)について高速化,経済化を目標に研究が進められている。また,各種伝送機器,入出力端末機器等のIC化についても研究が行われており,海底同軸中継器,携帯無線電話,押しボタンダイヤル電話用多周波発信器等各種装置,機器の高性能化,高信頼度化をねらいとした混成集積回路の研究実用化が進められた。また,国際電電研究所でも磁性薄膜について,IC技術の導入と効率的な磁束キーパの利用とによって5,000b/cm2の記憶密度を持つ高密度集積型磁性薄膜記憶素子(FSM)を開発し,その実用化を目指して研究を進めている。これに関連して,FSMの微細な端子と外部回路との接続のように,極めて多数のリード線を一括して同時にハンダ付けする接続技術の研究が行われた結果,赤外線を照射する方式の熱線溶着装置が開発され,これによって自動的に信頼性の高いハンダ付けが可能となった。
ウ.記憶部品
 電子交換方式,情報処理方式などの経済化は,現在の技術の大きな課題となっている。
 これらに使用する記憶装置の高性能化,低価格化を実現するためには,IC記憶素子,バブルメモリ素子,半導体シリアル素子,ディスクパック,磁気ヘッド,アクセス機構等の記憶部品の研究が重要である。
 将来のファイルメモリの一つとして,バブルメモリについては磁気バブルの駆動法,検出法,パターン製作技術,結晶の評価法などの研究が行われている。また,更に高速,高密度,低価格化をねらいとした電荷結合素子(CCD)などの検討も進められている。
 また,磁気ディスク,ドラムの大容量化,高性能化を図るため,磁気ヘッド部品材料の改良,磁気ヘッド浮上機構,磁気ディスク用セラミック基板の研究も進められている。
エ.回路部品,材料
 画像通信,データ通信等の新サービスに対応して,伝送周波数帯域の広帯域化,高能率化技術はますます重要視されてきている。
 これらを実現するために必要な回路部品について,高信頼化,小型化,経済化を目的として研究が進んでいる。
 長期無保守を必要とする海底同軸中継方式に必要な超高信頼度回路部品,セラミック基板についての研究が進められるとともに,チャンネルフィルタの小型化,経済化をねらいとしたLCフィルタ,メカニカルフィルタ,半導体可変抵抗器,FDM方式の位相等化に使用する広帯域遅延線等の研究が行われた。
 非相反素子については,ミリ波導波管方式用サーキュレータを実用化するため,広帯域化,低損失化をねらいにした研究が進んでいる。
オ.金属・磁性部品及び材料
 電気通信用各種機器に使用される金属合金は,機能別に大別すると,構造体,磁性体,導電体,接点に分類できる。
 構造体としては,摩耗,腐食,疲労によるき裂,破壊変形などが問題であり,これらの現象の解明が必要になる。
 磁性体としては,記録媒体用微粒子の薄層化,高保磁力化及び媒体層の磁気ディスク基板に対する密着性,耐摩耗性の向上が研究課題である。
 導電体としては,代替材料の実用化が,また,接点としては信頼性の向上が重要課題である。具体的なものとしては,海底同軸中継器きょう体について,耐水圧特性,耐食性,経済性に優れた材料,ファイルメモリ用ディスク装置の高性能化をねらいとした記録媒体用磁性材料,通信ケーブル用としてのアルミ複合材料などの研究が進められるとともに,接点の信頼性向上,障害対策をねらいとして,貴金属合金材料の表面生成物の解析,発生条件などの研究が行われている。
カ.表示・記録部品,電子管及び材料
 電子管は,一般通信用としては半導体部品の進歩によって次々と置き換えられてきたが,現在なお,超高周波大電力用部品,及び画像表示用としてのブラウン管は重要な位置を占めている。
 電子管については,ミリ波通信方式用,準ミリ波通信方式用,及び衛星通信方式用の進行波管や画像通信用撮像管,蓄積管,プラズマ表示管等の研究が進められている。
 また,ブラウン管に代わるものとして,平面表示が可能な液晶,プラズマ表示,ハードコピーが可能な電子記録材料,静電記録材料の高感度化,高品質化等の研究も進められている。
キ.資源の利活用並びに代替化技術
 近年,新技術の開発やその応用に当たっては,従来のコスト,性能という伝統的な要因とともに,資源の保護と環境の保全を重視する必要性が生じてきている。このような情勢に対処するため電電公社では,クリーン・リサイクル委員会を設置し,これら問題の積極的な検討を進めている。
 この結果,まず代替技術としては,枯渇化傾向にある銅資源の代替としてアルミ導体通信ケーブルの実用化が行われている。電電公社では,46年から実用化を進めており,現在更に多対のケーブルについて商用試験が行われているが,従来電気通信ケーブルの導体はすべて銅が使用されており,その量は年間約15万トンで国内消費量の約15%を占めている(47年度実績)現状にかんがみ有効な施策といえよう。
 クロスバ交換機等で使用されているワイヤスプリング継電器接点のパラジウム節減の検討は,40年に開始され,既に銀40%,パラジウム60%の合金を用いた接点が実用化されている。なお,パラジウムの国内年間消費量は,約20トンでありそのうち60%近くがワイヤスプリング接点に用いられている。
(6) 電離層観測
 電離層の変化は,VHF帯以下の電波の伝搬途上における反射及び減衰等その伝わり方に密接な関係があるので,世界各国は一定の基準のもとに,電離層の状態を,地上から垂直に打ち上げた電波の電離層からの反射により,常時観測しているが,この観測結果は電離層の周波数に対する反射特性並びに突抜けの究明及び周波数特性を明らかにするもので,電波の伝わり方を評価する上において最も基本的な情報となるものである。
 現在世界中に約180箇所の観測所があるが,43年から45年の太陽活動極大期に国際共同観測を実施した太陽活動期国際観測年(IASY)に引き続き,47年からは国際太陽地球観測計画(MONSEE)が実施され,電離層,地磁気,宇宙線,オーロラその他の諸現象に関する国際共同観測が継続されている。
 これらに使用する電離層観測装置の確度及び信頼度の向上についても鋭意研究が進められ,最近小型,高性能の新装置が完成し,実用化された。
 また,観測されたデータの読取整理基準についても,最近国際電離層規格委員会(INAG)から新しいルールハンドブックが勧告されたが,これには,散乱エコーの解釈等最近の科学技術の進歩に伴う改訂がなされており,我が国においても全面的にこの新規準を取り入れることとしている。
(7) 原子周波数標準
 原子周波数標準は物質の原子の固有振動数が一定不変であることを利用するもので,この値から得られる時間間隔が秒の国際単位として使用されている。我が国の周波数標準は水素メーザを一次標準として周波数変化率が10-13という高い確度に到達した。また一次標準で校正されたセシウムビームやルビジウムガスセルなど,常時使用可能の実用原子標準により現在我が国では標準周波数や標準時を維持している。
 最近我が国でも,カラーテレビの多元同期,ロケットの追跡ステーションの時刻同期等その他諸科学分野において,確度の高い原子周波数標準器を必要とする技術が多くなりつつある。このような情勢の下で電波研究所の原子周波数標準の高確度化はもちろんのこと,時間及び周波数の精密計測あるいは校正法,標準の更に高精度な供給法などの開発がますます重要となってきている。
 我が国の時間及び周波数の原器として,開発され運用されてきた2台の水素メーザのその後のデータが更に解析され,その結果に基づき改良された新設計の装置が近く設置される予定であり,その高確度化が期待される。これらを基として刻まれる原子時も更に正確さと安定性を増し,国際原子時確立への寄与もますます大となろう。また,実用原子標準器の国産化を図るためルビジウム発振器の研究開発も強力に進められている。

 

 

 

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