昭和49年版 通信白書

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2 開発途上国援助

(1) 概   況
 我が国の国際協力活動は非常に多岐にわたっているが,大別すると政府資金により行う政府ベース国際協力と民間資金により行う民間ベース国際協力とがある。政府ベースによる国際協力は,2国間の合意に基づいて援助が実施される2国間国際協力と国際機関等を通じて援助が実施される多国間国際協力とがあり,更に2国間国際協力は,海外経済協力基金,日本輸出入銀行を通じて行う円借款,贈与等の資金協力と研修員の受入れ,専門家の派遣等を通じて行う技術協力とに分けられる。
 技術協力は,開発途上国の経済・社会開発のために人と人との接触を通じて協力活動を行おうとするものである。
 通信は極めて技術的色彩が強く,システム化されないと機能を発揮しないこと,また,機材,資金等を贈与するだけで相手国側にそれを受け入れ,使いこなすだけの技術力が備わっていないと十分運用できないこともあって,通信分野での国際協力では,人材を養成しながら技術レベルの向上を図っていく技術協力活動に重点が置かれてきた。
 技術協力活動は現在,研修員の受入れ,専門家の派遣,開発調査及び海外技術協力センターの設置,運営を通じて行われている。2国間国際協力の実績をみると48年度末までに受け入れた研修員の数は1,945人で政府全体の1万5,508人に対し12.5%,専門家の派遣人員は530人で政府全体の3,789人に対し14.0%を占めている(第1-4-10表参照)。また,海外技術協力センタ-としては48年度末までにモンクット王工科大学(旧タイ電気通信訓練センター),パキスタン電気通信研究センター,メキシコ電気通信訓練センター及びイラン電気通信研究センターが設置運営されており,これらセンターを運営するために延べ303人の専門家が派遣されている。電気通信網の建設,テレビジョン放送網の建設等のための開発調査団の派遣も,48年度末までに34件,延べ229人に及んでいる。
 技術協力活動は従来アジア地域を中心に行われてきた。第1-4-11表のとおり,研修員の受入れでは,40年度以降,受け入れた総数1,512人のうち,アジア地域が753人(49.8%),中近東アフリカ地域が410人(27.1%),中南米地域が349人(23.1%)となっている。これを経年別にみると44年度までは,アジア地域からの研修員が過半数を占めているが,45年度にはアジア以外の地域が過半数を占めるに至った。また,専門家の派遣においては,40年度以降派遣した総数414人のうち,アジア地域が275人(66.4%),中近東アフリカ地域が65人(15.7%),中南米地域が74人(17.9%)となっており,大部分がアジア地域に集中している。経年別にみても48年度までアジア地域が過半数を占め続けている。しかしながら,最近ではアジア以外の各国からの要請が高まっており,研修員の受入れ,専門家の派遣においてもアジア以外の地域の占める比率が高くなってきている。
 各国との関係でみると第1-4-12図のように,アジア地域では,韓国,タイ,インドネシアパキスタン,カンボディアとの関係が密接であり,中南米地域ではメキシコ,中近東アフリカ地域ではイランとの関係が深い。協力関係を分野別にみると,研修員の受入れでは,40年度以降受け入れた研修員の総数1,512人のうち電気通信関係で1,017人(67.3%),電波・放送関係で360人(23.8%),郵便関係で135人(8.9%)となっている。電気通信関係では各分野について研修員の受入れが平均化しているが,マイクロウェーブ技術及び経営管理の関係の研修が比較的高いシェアを占めている。電波・放送関係では,その大部分がテレビ・ラジオ技術に関するものである。また,専門家の派遣では,40年度以降に派遣した総数414人のうち電気通信関係で195人(47.0%),電波・放送関係で174人(42.1%),郵便関係で45人(10.9%)となっている。電気通信関係では,電話網・搬送ケーブル,マイクロウェーブ,テレックス関係の分野が多く,電波・放送関係ではテレビ・ラジオ関係の専門家が大部分である(第1-4-13図参照)。
(2) 具体例にみる援助の状況
 以下,我が国の通信分野における各国別技術協力状況の一端をタイ及びインドネシアについて概観することとする。
ア.タイ
 タイに電気通信が導入されたのは1875年であり,既に100年の歴史を有している。また,放送の歴史も古く,ラジオ放送は1931年に,テレビジョン放送は1955年に開始されており,我が国とほとんど変わらない歴史を有している。しかし,タイの通信事情は,電話の普及率は1973年1月1日現在100人当たり0.61台,また,ラジオの普及率は1969年12月末現在で8%,テレビの普及台数も1971年1月末現在で23万台と,極めて低い水準にとどまっている。
 タイ政府は,電気通信設備を整備するため,1954年にタイ電話公社(TOT)を設立,数次にわたる長期計画を実施するとともに,1971年に開始された第3次国家経済社会開発計画においては,首都圏電話網を大幅に増強すべく計画中であり,また,テレビジョン放送についても1966年から全国テレビジョン放送網計画が推進されている。
 通信分野における我が国とタイとの技術協力関係は,同国の技術者が極めて不足している状況にかんがみ,技術者を養成することによって,技術水準の向上を図り,通信の発展を図る意図の下に,36年に研修員の受入れと専門家の派遣を開始して以来,48年度末までに総計189人の研修員の受入れと延べ35人の専門家の派遣を行ってきた。
 タイへの技術協力活動の中で特筆されるのは,我が国が海外技術協力の一環として,初めて海外センター設立構想の具体化に着手したとき,タイがその対象国として第一に取り上げられたことである。この構想は1959年3名の調査団による事前調査を行ったのち,翌1960年8月24日両国間に「電気通信訓練センターの設立に関する日本国政府とタイ王国政府との間の協定」が交わされ,この協定に基づいて具体化されたものである。
 当初におけるセンター設立の目的は,初級及び中級技術者の再訓練と新規養成を主眼とし,1年間の普通科と3か月間の専修科が設けられたが,1年を経ずして一般の高専と同等の3年制の短期大学に昇格し,1964年にはその名称をノンブリ電気通信大学と改めた。その後,同大学は西独の援助の下に設立されたタイ西独高専及びUNESCOの援助の下に設立されたトンブリ高専を併せ,3年制の上に2年の上級コースを加え,更に工科系教員の養成コースを設立して,名称をモンクット王工科大学と改めた。その結果,当初のセンターは,モンクット王工科大学の電気通信学科として存続することとなった。同大学に対する我が国の協力は,48年度末までに延べ51人の要員を派遣したほか総計1億9,846万円にのぼる機材を供与した。更に,同大学の移転拡充計画に対して,47年度において校舎,体育館等の建設について1億6,320万円の贈与が行われた。また,同大学の教員を目指して,現在18名が日本の大学院で勉強を続けているが,日本からも8名の専門家を派遣して,通信工学,電子工学,自動制御工学などの教べんをとりながら,指導者の育成に力を注いでいる。同大学がタイの技術者の養成,訓練に果たしてきた足跡は非常に大きなものがあり,関係者のみならず各国から高い評価を受けている。
 同国のテレビジョン放送は,1955年に開始されたが,1965年5月の閣議で今後数年間にテレビジョン放送の標準方式を525本から625本に改め,新方式による全国テレビジョン放送網を建設することが決定された。そして,この計画を達成するため,我が国に対し経済的,技術的協力が求められた。我が国はこの要請にこたえて翌1966年,タイのテレビジョン放送網の拡充計画の具体案を策定するために調査団を派遣した。同調査団は3か月にわたる調査活動の結果,テレビジョン放送体制の強化拡充方策についての報告書をまとめた。その内容は全国30数局のテレビ送信所と数局のスタジオ局を建設して国民の77%がサービスを受けられるよう企画したものであり,1972年の国家評議委員会で承認された。この計画は予算等の事情もあって,第1期と第2期に分けて実施されることになったが,資金力の不足等もあって,進ちょく状況は余りはかばかしくない。我が国は,このプロジェクトの成果を更にあげるため,現在,日本輸出入銀行を通じての円借款を行うことを決定しており,今後も専門家の派遣を行う予定である。
 また,電話については現在,国民100人当たり1.05台程度の普及率を目指して首都圏における電話機数の大幅な増強を図っている。我が国はこの計画に積極的に協力することとし,47年度及び48年度には調査団を派遣し,基本計画の作成及び実施計画に関してタイ国政府との間で協議を行った。また,この計画の実施に際しては日本輸出入銀行を通じての円借款を行うこととしている。
イ.インドネシア
 インドネシアの国土は,ジャワ,スマトラ,スラウェシ,カリマンタン,西イリアンをはじめとする1万3千の島しょが,東西5,300km,南北1,800kmの広大な範囲に散在していることもあって,インドネシア政府にとっては,それら相互間を結ぶ通信機能の充実が重要な課題の一つになっている。
 政府は独立以来,建設5か年計画(1956〜1960),総合8か年計画(1961〜1968)及び経済開発5か年計画(1969〜1973)の中で電気通信設備の充実に努めてきたが,1973年6月末現在,電話の普及率は100人当たり0.2台であり,また,島しょ間を結ぶ通信網もまだ十分整備されていない。
 通信における我が国とインドネシアとの協力関係は,1961年同国へ電気通信使節団を派遣して以来,極めて密接な関係にある。我が国は同国が島国で国土が分散していること,また,海運が同国の経済を支える重要な施設となっていることにかんがみ,主要島しょ間を結ぶ幹線網としてのマイクロウェーブ網の建設,放送網の整備及び船舶の航行を援助するための沿岸無線網の整備に対して重点的に協力活動を行ってきた。我が国は,これらプロジェクトを推進するため,数次にわたる調査団を派遣するとともに,48年度末までに総計102人の研修員の受入れ及び延べ51人の専門家の派遣を行っている。
 マイクロウェーブ網の整備については,1965年に最初の回線網が日本からの円借款によって,ジャカルタ・バンドン間に完成,1973年3月にはジャワ・パリ間マイクロウェーブ網に発展した。更に,現在日本からの円借款により東部マイクロウェーブ網計画が進行中であり,また,世銀借款によるスマトラ縦断マイクロウェーブ網も建設中である。最終的にこれらの回線網を統合して全国をマイクロウェーブと同軸ケーブルとで結ぶ「ヌサンタラ電気通信網」を完成させる予定である。これが完成すれば,市外通話は飛躍的に向上し,テレビの全国同時放送も可能になると期待されている。
 沿岸無線網の整備については,1968年に海岸局網整備のプロジェクトがスタートした。このプロジェクトは首都ジャカルタに設置する中央局を中心として全国を9ブロックに分け,そこに基幹局及びサブステーションを設置して,これらの間を結び船舶に対し電信・電話サービスを提供しようとするものである。我が国はこれに対し,1970年に調査団を派遣して以来,技術協力と総額12億円に及ぶ資金協力を行ってきた。
 ラジオ放送については,情報省は従来の短波放送に代え中波放送を全国的に実施することとし,ジャカルタ,スラバヤ,メダン等に39局を建設する中波放送基本プランを立て,1971年に我が国に協力を求めてきた。我が国はこの要請にこたえ同年調査団を派遣し,調査結果に基づき勧告を行うとともに,放送アドバイザーチームを送り中波放送局の建設プラン,番組計画,経営,技術一般について協力を行ってきた。更に,1972年7月,日本・インドネシア間でこの中波放送局建設プランのうち,ジャカルタ,スラバヤ,メダンの各局に対し円借款を行うことが合意された。
 テレビジョン放送は,1962年8月ジャカルタにおいて開催された第4回のアジア競技大会の際,日本の賠償によって建設された施設を使用して始められた。その後,ジャワ島を縦断する中継回線が完成し,テレビ局も増加した。テレビ受信機の普及は1970年ごろから急速に伸び,全体では20万程度であるが毎年約20%の伸びを示している。国営テレビ局は諸設備の取替改善を行うとともに,未サービス地域に中継局を建設し,また,主要都市にスタジオを新設するなどのための4か年計画を策定した。我が国はこの計画に対し円借款を行うこととしている。
 電話については,1973年6月末現在の普及状況は,わずか24万台(100人当たり0.2台)である。インドネシア電信電話公社は1974年から始まる第2次開発計画において100人当たり6.5台を目標に増設を行うこととしている。これに対しても我が国は協力を予定しており,47年度にジャカルタ首都圏電話網拡充計画の事前調査を行うとともに,48年度にはジャカルタ市内の電話需要予測,長期計画及び年度別実施計画に関する調査を実施し,なお継続中である。
(3) これからの開発途上国援助
 1970年秋の第25回国連総会で全会一致採択された70年代の世界開発戦略としての「第2次国連開発の10年」は,その目標の一つとして,先進国による援助量の拡大をあげている。具体的には,先進国の援助量がおそくとも1975年までに国民総生産の1%に達すること,そして政府開発援助も同時期までに国民総生産の0.7%に達することを求めている。
 我が国の場合,援助量全体は48年現在,国民総生産に対し1.42%と目標の1%を既に達成したが,政府開発援助では0.25%(金額で10億1,100万ドル)と非常に低く,前述の目標に達するには,更に一層の努力を必要としている。
 通信は一国の社会的基盤であり,その整備状況が社会,経済に与える影響は極めて大きい。近年,開発途上国は通信の重要性を認識して,通信網を充実させるためのプロジェクトを積極的に推進しはじめている。我が国は東南アジアを中心として,中近東アフリカ,中南米の開発途上国に対し,技術協力及び資金協力を行っており,国際間の相互理解,友好関係の樹立に大きな成果をあげてきた。今後ますます増大する通信分野での我が国への国際協力の要請に応じていくためには次のような配慮が必要とされる。
 第一は,海外からの研修員の受入施設の整備である。政府ベースによる通信関係の技術研修は,現在,郵政省のほか電電公社,国際電電,NHK,民間放送,通信機器メーカー等の自社職員のための訓練施設などを利用して行っている。このような状況では,今後増大する研修需要に対処していくことは困難であり,我が国がこのような要請に応じて効果的な国際協力活動を行っていくためには,通信分野における専門の研修施設を設ける必要がある。
 第二は,研修員に対する事後指導の実施である。技術協力の結果が永続的に一層効果を発揮するようにするため,巡回指導班の派遣,帰国研修員の日本での再訓練などきめ細かい事後指導を行う必要がある。
 第三は,技術協力専門家の養成,確保である。通信分野における技術協力専門家の需要は,研修員の指導,現地調査,現地指導などの面で,今後ますます増大することが見込まれるので,通信技術はもちろん教育技法,語学,現地事情に通じた専門家を数多く養成,確保する必要がある。
 第四は,個々の援助プロジェクトの策定に当たっては,対象国に対する総合的,長期的視野に立った検討を加えることである。単に相手国からの要請に基づいて援助活動を行うのではなく,対象国の実情に即した通信システムの在り方,優先順位等を検討した上で,技術協力と資金協力の間に有機的関連を持たせた協力活動を行っていく必要がある。

 

第1-4-10表 研修員の受入れ及び専門家の派遣の分野別・年度別推移

第1-4-11表 研修員の受入れ及び専門家の派遣の地域別・年度別推移

 

第1-4-12図 地域別・国別技術協力状況

 

第1-4-13図 分野別技術協力状況

 

 

 

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