昭和49年版 通信白書

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4 データ通信システム

 知識,情報を中心とする情報化社会への移行に伴い,遠隔地から電子計算機にアクセスし,また,より大型の計算機を共同利用して複雑高度な処理を経済的に行いたいという要望が高まってきている。
 このような動向に対応して,データ通信システムはより高度化し,複雑性が増大する傾向にある。これを支える技術及びシステム開発に関しては,データを処理するための情報処理技術,データを伝送し制御するための伝送技術,遠隔地においてデータを入出力するための端末技術の研究実用化が進められると同時に,データ通信システムとして効果的なネットワークの研究開発が推進されている。
(1) 情報処理技術
ア.データ通信用情報処理装置
 最近の大型計算機は,論理回路及び記憶装置にICを採用して,ますます高速化,大型化,高信頼化を目指している。特に,システムの高信頼性を維持発展させる技術として最近RAS(Reliability,Availability,Serviceability)の概念が導入され,ハードウェアに高度の障害検出・防止機構を持たせるとともに,ソフトウェアとして高度なエラー情報処理プログラムを準備し,オンライン状態での保守診断を可能とするようになりつつある。
イ.データ通信のためのハードウェア及びソフトウェア
(ア) ハードウェア
 処理速度については,論理素子の高速化や新しい制御技術による処理時間の短縮によりこの10年間に平均命令実行時間は30〜40倍も向上し数100ナノ秒(1ナノ秒=10-9秒)となっている。
 記憶装置は,一般に論理装置内にローカルメモリとして小容量・高速記憶装置を,主記憶装置として大容量・低速記憶装置を置く階層構成をとって,システムの経済性と性能の確保を図っている。
 周辺装置には,補助記憶装置と入出力装置があるが,本体系装置との機能バランスの面から,補助記憶装置は高速・大容量化が,入出力装置では高速動作が要求される。入出力装置はまた,電子計算機と利用者との接触点であるので漢字入出力装置など利用面からの要求に対応する機器の開発が進んでいる。
(イ) ソフトウェア
 ソフトウェアのコストは,情報処理システム全体のコストの中で既に7割に達しているともいわれており,システムの大型化に伴い作成能率の向上及びソフトウェア資産の有効利用が大きな問題となっている。
 プログラミングを容易にする手法として大型の情報処理システムでは,主記憶装置の容量をプログラマが意識しないでプログラミングができる仮想記憶方式が用いられている。また,特にひんぱんに利用されるルーチンをハードウェアとして組み込んだファームウェア技術が利用されている。また,システムソフトウェアの作成を容易とするため,処理能率の高い高級言語の実用化が進んでいる。
 ソフトウェア資産を有効に利用するために言語の異なったプログラムでも処理が実行できるエミュレータなどの多言語処理の技術の開発が進められ,一部では実用に供されるようになった。
ウ.通信制御技術
 通信制御とは,情報処理装置とデータ伝送回線を経由してこれに接続される端末あるいは他の情報処理装置との間のデータの授受に必要な制御全般をいう。
 通信制御装置の基本機能としては,回線との電気的インターフェイス,回線の接続制御,文字の分解・組立,データの蓄積,誤り制御,伝送制御,符号変換,メッセージ処理がある。
 通信制御装置は,その扱うデータの大きさによって,ビットバッファ方式,キャラクタバッファ方式,ブロックバッファ方式及びメッセージバッファ方式に分けられる。
 従来,情報処理装置の処理能力,通信制御装置のコスト・パーフォーマンスからみて,キャラクタバッファ方式が最もよく用いられてきたが,近年TSSの大規模化,端末に対する融通性の問題等からメッセージバッファ方式が採用されはじめている。
(2) データ伝送技術
 遠隔地のデータ端末装置と電子計算機間,あるいは電子計算機相互間でデータの送受信をいかに能率的に行うかは,データ通信システム構成上重要である。
 データ伝送方式は,ディジタルデータ信号を原形に近い形で伝えるベースバンド伝送方式,信号をモデム(変復調装置)によりアナログの交流信号に変換して伝える帯域伝送方式及びPCM(パルス符号変調)伝送路を利用する方式に大別される。現在,電電公社でサービスを提供しているデータ伝送の種類は第2-7-1表のとおりである。
 データ伝送速度は,データ入出力装置によって最適速度がまちまちであり,50b/s〜数10Mb/sという極めて広範囲な速度が要求されている。高速化の技術として8レベルAM-VSB方式,自動等化器を採用した,音声帯域専用回線用9,600b/sモデムについて実用化が終了し,交換回線用4,800b/sモデムの実用化検討も進められている。また,広帯域回線を利用する高速度データ伝送方式については,48kb/s(48kHz帯域を使用)が既に実用化され,240kb/s(240kHz帯域を使用)の実用化試験も終了した。
 また,国際間ディジタル通信の需要の著しい増大にこたえるため,国際電電では,帯域を有効に利用して高密度伝送を行う方式の研究を進め,電話信号帯域で50ボー電信を108回線伝送し得る位相変調多重搬送電信方式(レクチプレックス)を開発し,43年,対米通信に実用化した。
 更に国際回線の一層の有効利用を図るため,電話信号帯域で50ボー電信208回線の伝送容量を持つ新方式(ディジプレックス)が開発され,49年2月,東京・ローダイ(米国,ミルウォーキー近郊)間で,海底ケーブル及び衛星回線を用いて試験が行われた。
(3)データ端末技術
 データ端末機器は用途の多様化及び機能の複雑高度化の傾向をたどりつつ,反面,経済性の追求のため低廉簡素な機器の開発も活発に行われており,ノンインパクトプリンタ,パネルディスプレイ,磁気記録読取装置及び光学文字読取装置などの採用が積極的に行われている。日本固有の漢字な扱うデータ端末機器についても社会のニーズと呼応して研究開発が進められている。
 ノンインパクトプリンタは高速,低騒音,高信頼性を特長として着実な伸びを示しており,主として感熱印字方式及びインクジェット方式を採用したプリンタが従来のインパクトプリンタの適用領域に徐々に進出しつつある。
 パネルディスプレイは,プラズマディスプレイパネルを用いた装置が中心であり,従来のCRT(ブラウン管)が立体構造であるのに比べ平板構造が可能である点が歓迎されていることに加えて,将来量産化によるコスト低減の可能性が強いこともあり今後への期待も大きい。発光ダイオードは数字などで表示することを対象とした分野に適しており,既にPOS(ポイント・オブ・セールス)端末,テラーズマシン(銀行用窓口会計機)及びデータコレクタ端末などに採用されている。
 磁気記録読取媒体としてカセット磁気テープ及び磁気カードがそれぞれデータエントリー端末及びカード預金用端末などで実用化されている。最近薄いプラスチック製の円盤に磁気材料を塗布したもので,比較的低コストで利用できるフロツピーディスクが端末機器に導入されようとしている。
 半導体受光素子を用いた紙テープリーダ及びカードリーダなどが既に使われており,OCR(光学文字読取装置),OMR(光学マーク読取装置)などの入力手段がマンマシン・インターフェイスに優れているので,その開発が進められている。レーザ光を利用するホログラムも漢字コードメモリなど各種パターンメモリへの適用が研究されている。
 漢字データ端末では漢字入力装置,漢字ディスプレイ及び漢字プリンタなどの研究開発が急速に進められている。従来の英数字,カナ文字などの少数に限定された対象から一挙に数千字を扱うこととなるため入力手段及び漢字パターン発生方式などの問題が今後の研究開発の中心テーマとなろう。
 端末機器に共通する論理回路の技術についてはIC(集積回路)化の過程を経てLSI(高密度集積回路)化へ進んでいる。特に最近ワンチップコンピュー夕と呼ばれるLSI化された処理装置が出現し,広範な機能が小型構造内に収容されることが期待されている。
 ディジタル信号の多様化に対応するため,50b/s〜2,400b/sの通信速度に応動し,かつ5〜8単位符号に適合し得る多機能形プリンタの開発も進められている。
 アルファベット以外の文字を母国語とする諸国が母国語で国際通信を行いたいという要望にこたえるため,テレタイプと同一の電信符号を用いて任意の文字・記号及び図形を一筆書きに印出する端末機の開発も進められている。
(4)データ通信網
 公衆電気通信法の改正により,電話網によって4kHzの周波数帯域を用いた各種のサービスに応ずるみちが開かれたが,より広い周波数帯域を利用するサービスは,現在のところ専用線を利用するほかにはない。
 しかし,計算機相互間のデータ伝送,高速ファクシミリなどの需要の増加に伴って,回線の短時間利用,従量料金制の要望がより強まるものと予想される。技術的には,高速データ伝送を主とし,高速ファクシミリをも対象とした48kHz帯域回線の国際標準モデムが既に完成しているので,D10形電子交換機と組み合わせれば,既存技術のみによって国際標準規格のサービスが可能であり,現在電電公社により,その実用化について検討が進められている。
 一方,新データ網に関しては,ユーザ設備の標準化,サービス品質,DTE(データ端末装置)-DCE(データ通信装置)インターフェイス,網同期,信号方式等の問題に対して,国際電信電話諮問委員会(CCITT)を中心に近年研究が盛んになってきている。
 我が国においては,現在電電公社の手で1.544Mb/sのディジタル伝送路とDDX-2からなる時分割交換機によるディジタルデータ網の現場試験計画が進められており,国際電電においても異方式PCM間の相互乗入れ,6単位及び8単位符号伝送の共存方式,64kb/s新ディジタル共通線信号方式などについて,データ網の国際的進展に寄与することのできるよう,研究が進められている。
 将来,ハードウェア,ソフトウェア,データ等の資源の共用を主目的とするいわゆるコンピュータネットワークが,これらの新しい通信網を基盤として形成されよう。

第2-7-1表 電電公社提供のデータ伝送回線(専用線)

 

 

 

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