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第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI〜ネットワークとデータが創造する新たな価値〜
第2節 経済成長へのICTの貢献〜その具体的経路と事例分析等〜

(1)ICTに係る輸出や海外投資

ア 経済貢献の概要

企業の「海外展開」とは、一般に輸出(貿易)や投資、業務提携などの取引形態を指す(図表1-2-5-1)。特に、海外展開における「直接投資」とは、資金を投入して外国に営業拠点を設ける等で、当該国で事業活動をすること、すなわち企業の多国籍化を意味する。直接投資12は、貿易障壁の回避や、生産コスト削減(賃金等生産コストの低い国で生産する)、販売拠点の設立(商品の作り手と買い手の距離を近づける)といったメリットがあり、国際的にみても近年は貿易額(輸出/輸入)よりも直接投資額の方が増加している。

図表1-2-5-1 海外展開の分類
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)

一般に、企業は事業や取引形態の性質、自社の生産性などにかんがみ、最適な海外展開の方法を選択したり、製品・サービスによって方法を使い分けている13。例えば、輸出(貿易)は製造業を中心に、投資はその他商業・サービス業などが多い。我が国企業は、国内需要の減少が不可避な情勢を踏まえて、製造業など従来海外展開を進めてきた業種以外にも、内需型といわれる流通やサービス、建設業等まで、業種や事業規模を問わず海外に活路を見出そうとしている。

ICT企業についてみると、いずれのレイヤーも直接投資の割合が最も高いが、端末レイヤーは輸出も57.1%と比較的高い(図表1-2-5-2)。とりわけ、ICT分野においては、規模の経済性の特性や寡占化しやすい傾向が内在していることから、急速なグローバル化が進行しており、グローバルな展開の有無は事業規模の拡大のみならず、企業の競争力にも大きな影響を与える。そのため、多くのグローバルICT企業が直接投資をはじめ様々な手段を使って海外展開を進めている。

図表1-2-5-2 ICTレイヤー別にみる主な海外展開方法
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
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これらの企業による海外展開はどのような指標で経済成長に貢献するのか。国・地域間で行われる経済取引は国際収支統計により把握できるが、同統計の枠組みを踏まえると、貿易(製品の輸出入等)や投資(海外出資会社からの配当等)などの国際経済活動の区分けで整理することができる(図表1-2-5-3)。従って、国際収支の観点からは、直接的に我が国GDPに計上されるのは、輸出額(ICTであれば端末やインフラ機器等の輸出額)やサービスに係る特許等使用料、また対外直接投資については海外出資会社からの配当金等、投資収益の一部が国内経済に還流することになる。

図表1-2-5-3 ICT産業による国際収支への貢献の概要
(出典)財務省国際収支統計用語解説14及び「国際収支統計(IMF国際収支マニュアル第6版ベース)」の解説15
図表1-2-5-4 我が国国際収支の推移
(出典)財務省「国際収支統計」
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海外直接投資の動きをみると、リーマンショックの影響のあった2009年、2010年を除くと、2003年以降年々拡大している(図表1-2-5-5)。高成長が続く新興国などの海外需要を現地での生産・販売拡大によって取り込む動きが活発化したことや為替が円高方向に推移したことにより海外生産のコストメリットが増大した点等が背景である。こうした海外への直接投資の活発化とともに、企業全体の利益に占める海外現地法人による利益の比率(海外経常利益比率)も年々上昇している。現地法人の利益率が国内企業を上回っていることも、直接投資の魅力を高める要因にもなっている。一方で、海外で稼いだ利益は、全てが国内に還流する訳ではなく、海外現地法人にそのまま留保され、現地での設備投資や雇用に再投資される場合もある。実際にどの程度国内へ還流させているかを、直接投資収益16(受取)からみると、国内へ還流する配当金受取額が増加傾向にある一方で、現地法人にそのまま保留される再投資収益も同時に増加している(図表1-2-5-7)。直接投資収益の拡大を経済成長の新たな源泉と位置づけると同時に、積極的な対外投資により海外での利益獲得に努めることが必要となる。

図表1-2-5-5 対外直接投資(全業種及び通信業)
(出典)財務省「国際収支統計」
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図表1-2-5-6 需給D.I.の推移
(出典)日銀短観より作成
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図表1-2-5-7 直接投資収益(受取)の推移
(出典)財務省「国際収支統計」
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こうした海外需要を取り込む活動が進展する一方で、投資収益が内部留保や現地での再投資に充てられていることや、いわゆる国内生産や雇用に係る産業空洞化議論にみられるように、供給側も踏まえると、実際にこうした海外展開によって国内経済にプラスに働いているのか。例えば、木村・清田(2003年)や深尾・天野(2004)は、日本企業の個票データの分析から、外資系企業はそうでない企業に比べTFPが高いことを明らかにしている。RIETI(2009年)によれば、日本の大手企業のグローバリゼーションを通じて、国内経済へのインパクトを分析したところ、海外展開は当該企業の事業を強化するとともに、国内生産の向上にもつながり、これは先進国/開発途上国への展開において共通している点を指摘している。また、これらの海外展開を通じた生産活動の活性化は、雇用や生産額の拡大といった効果として表れる。RIETI(2012年)の分析結果によれば、製造業・卸売業・サービス業すべてにおいて海外進出が雇用を高め、具体的には製造業においては雇用成長率を約12%押し上げ、卸売業、サービス業においては、9%程度の押し上げ効果があることを示している。

イ 海外展開の動向及び事例

ここでは、主な海外展開手法として、ICTに係る輸出、直接投資、業務提携について取り上げ、ICT企業をはじめとする具体的な取組事例についてみてみる。

(ア)輸出

ICTに係る輸出の対象として、一般的にはICT機器等製品の輸出が挙げられる。貿易統計をもとに一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)がとりまとめた輸出実績推移をみると、2012年以降4年間にわたって、ICT機器の輸出は堅調に拡大している。とりわけ押し上げ要因となっているのが部品であり、次いでデータ通信機器となっている(図表1-2-5-8)。地域別でみると、同様に2012年以降、アジア向け輸出が大幅に拡大している状況が分かる(図表1-2-5-9)。このことから、我が国ICT関連部品が、アジア市場におけるICT機器(携帯電話等)の流通拡大によって伸びていることが推察される。

図表1-2-5-8 ICT機器の輸出の推移(品目別)
(出典)CIAJ
図表1-2-5-9 ICT機器の輸出の推移(地域別)
(出典)CIAJ

次に、インフラレベルでの輸出の動向についてみてみる。我が国では、2013年3月にインフラ輸出、経済協力等を統合的に議論する閣僚会議(経協インフラ戦略会議)を立ち上げ、世界の膨大なインフラ需要を積極的に取り込むため、日本の「強みのある技術・ノウハウ」を最大限に活かして、2020年に「インフラシステム輸出戦略」で掲げた約30兆円(2010年約10兆円17)のインフラシステム受注目標を達成することとしている。

このように、インフラ輸出は受注規模が大きく、また様々な分野や企業の連携や協力によって実現するものであることから、ICT分野に限らず我が国産業への経済波及効果も大きい。特に、近年はICTに係るインフラのみならず、ICTを活用したインフラシステムの輸出事例も多い(図表1-2-5-10)。

図表1-2-5-10 インフラ輸出事例一覧
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
(イ)直接投資

対外直接投資の主要な方法として企業買収(M&A)が挙げられる。M&Aは、買主サイドから見ると、規模や市場シェアの拡大、また事業の多角化・強化、新規事業や市場・他地域への参入、川上または川下への進出、隣接業種への展開など、様々な狙いや目的において用いられる。ICT産業においては、市場の変化が激しく、またICT利活用産業など他産業との関わりが深いことから、M&Aが重視される傾向にある。

我が国のICT企業のM&A事例をみてみる。NTTグループにおいては、ICTサービス・ソリューション系分野の企業買収を積極的に行いながら、世界各国への展開を進めており、直近では米Dellの事業部門の買収を通じて同国への展開が注目される。KDDIグループにおいては、住友商事とともにミャンマーの国営通信会社MPT(Myanmar Posts and Telecommunications)との共同事業により同国の携帯電話事業に参入している。2015年7月には基地局を2016年春までに5千局に広げるとともに、スマホ関連機器の販売店を来春までに現在の10倍の50店舗に広げることを発表している。ソフトバンクグループにおいては、2013年7月に米国における移動体第3位のSprint Nextelを買収し、「2強」であるAT&T及びVerizon Communicationとの競争を本格的に展開している。ICTサービス市場も含め、大手ICT関連企業が高い成長率を持つ海外市場へ進出(現地法人設立及びM&A)している状況である(図表1-2-5-11)。

図表1-2-5-11 ICT企業による我が国企業の近年のM&A事例
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
(ウ)業務提携

業務提携についてみてみる。業務提携は、生産又は販売に関する業務委託契約を締結し、委託先が自社製品の生産あるいは販売を実施するものである。これにより、事業を展開する際、撤退を検討する際のリスクが小さいことが挙げられる。初めての海外展開に際して海外事業のノウハウが不十分な場合や、直接投資に十分な資金を調達できない場合、事業を中長期的に継続させることの確証がない場合などにおいて選択されることが多い。ICT分野においては、標準化された技術やシステムにより国境や企業の壁を超え、企業間の連携も進展している(図表1-2-5-12)。

図表1-2-5-12 ICT企業による海外企業との業務提携事例
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
ウ 企業等による取組状況

近年では、多様な業種の企業による多様な形態での海外展開が進展している。ここでは、国内企業向けモニタアンケート調査結果をもとに、企業の海外展開状況(ICT企業とその他企業の比較の観点等)、また海外展開におけるICTとの関わり方等について概観する。

まず、企業の海外展開の状況は、米国へ進出している割合が回答全体の24.8%、中国へが28.2%、今後の進出予定を含めると約3割と、米国及び中国への展開の比率が高くなっている。業種別でみると、製造業の対米国、対中国が最も高く約50%、次いで情報通信業となっており、ICT企業は比較的海外展開が進展している業種であることが分かる(図表1-2-5-13)。

図表1-2-5-13 企業の海外展開状況
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
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次に海外展開の形態についてみてみると、最も多いのが「業務提携」であり、今後5年の見通しの点からも今後さらに増加することが見込まれる。次いで多いのが、製造業を中心とした「輸出(直接・間接)」であるが、海外展開形態としては今後は縮小する傾向が予想される。直接投資については、「同業種への直接投資」の方が「異業種への直接投資」よりも多い。ただし、割合は小さいものの、今後は後者が増加することが予想される。特に、情報通信業においては、他業種と比べて直接投資を採用する割合が高く、その中でも「異業種への直接投資」が全業種で最も高く、海外展開においてICT利活用分野への進出状況がうかがえる(図表1-2-5-14図表1-2-5-15)。

図表1-2-5-14 企業の海外展開の形態
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
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図表1-2-5-15 今後5年における企業の海外展開の形態(業種別)
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
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次に海外展開におけるICTとの関わり方についてみてみる。最も多いのが「ICTを利用した現地向けサービス・商品の開発(データの利活用等)」であり、今後5年の見通しの点からも今後さらに特に増加することが見込まれる。特に、情報通信業とサービス業においてその傾向が高い。次いで多いのが、「ICTに直接的に係るサービス・商品の販売や提供」となっている。他方で、今後高い増加が見込まれるのが、「流通・販売網等におけるにおける通信ネットワークや業務システムの活用」や「ICTを利用したサービス・商品の販売提供(インターネットを経由した販売等)」である。これらについては、情報通信業において高い傾向であるが、今後は他業種・分野の海外展開を促進するツールとしてICTが活用されることが期待される。また、「ICT企業との連携・協業」においてもエネルギー・インフラ業がやや高い傾向が見られるように、企業間連携によって海外展開がさらに加速するものと予想される(図表1-2-5-16図表1-2-5-17)。

図表1-2-5-16 海外展開におけるICTとの関わり(現在・今後)
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
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図表1-2-5-17 海外展開におけるICTとの関わり(業種別)
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
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12 対外直接投資の基準は外為法より以下のとおり定められている
外国企業の株式の取得で株式所有比率が10%以上となるもの。
出資比率10%以上の外国子会社の株式の取得又は金銭の貸付け(貸付期間が1年を超える場合)
役員の派遣、長期にわたる原材料の供給その他永続的な関係がある外国企業の株式の取得又は金銭の貸付け(貸付期間が1年を超える場合)
外国における支店、工場等の設置・拡張に係る資金の支払い

13 理論的には、企業規模によらず、一定の生産性が見いだされれば、企業は国内供給から、輸出、さらに直接投資を選択することが指摘されている。すなわち、企業の多国籍化を促す立地の観点からは、外国に商品やサービスを供給する際に輸送が難しい輸送費用が高くなるほど、また内部化の観点から企業の生産性を見た場合、経営能力や生産技術が高い企業ほど、直接投資を選択することになる。

14 https://www.mof.go.jp/international_policy/reference/balance_of_payments/term.htm別ウィンドウで開きます

15 https://www.boj.or.jp/statistics/outline/exp/exbpsm6.htm/別ウィンドウで開きます

16 我が国では、所得収支の受取はほぼ100%近くが投資収益となっており、投資収益のうち、直接投資収益が約4割、約6割が証券投資収益である。直接投資収益のうち、海外に保留される分は、一旦国内に全額受け取った後、再投資されたという形をとる

17 内閣府「機械受注統計」等の統計値や業界団体へのヒアリング等を元に集計したものであり、「事業投資による収入額等」も含めた金額

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