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第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI〜ネットワークとデータが創造する新たな価値〜
第2節 人工知能(AI)の現状と未来

1 人工知能(AI)研究の進展

(1)人工知能(AI)とは

「アルファ碁(AlphaGo)」1が、囲碁におけるトップ棋士の一人である李九段(韓国)との5番勝負に4勝1敗で勝利したことは、世界に大きな衝撃を与えた(2016年3月)2図表4-2-1-1)。既に、チェスでは米IBMが開発した「ディープ・ブルー(Deep Blue)」が1997年に当時の世界チャンピオンであるカスパロフ氏(ロシア)に勝利していたし、将棋でもコンピュータ・ソフトの「ボンクラーズ」が2012年に米長永世棋聖(日本)を破っており、また2015年には情報処理学会から人工知能(AI)がトップ棋士に追いついているとの見解が出されていた3。しかし、チェスや将棋に比べて盤面がより広くて対局のパターン数が桁違いに多い囲碁においては、人工知能(AI)が人の能力を上回るまでには時間がかかると思われていたことから4、アルファ碁の勝利は人工知能(AI)が格段に進歩しつつあることを世に示すこととなったのである。

図表4-2-1-1 アルファ碁の対戦風景
(出典)Google DeepMind
ア 日常生活に浸透する人工知能(AI)

人工知能(AI)は、技術水準が向上しつつあるのみならず、既に様々な商品・サービスに組み込まれて利活用がはじまっている。身近なところでは、インターネットの検索エンジンやスマートフォンの音声応答アプリケーションである米Appleの「Siri」、Googleの音声検索や音声入力機能、各社の掃除ロボットなどが例として挙げられる。また、ソフトバンクロボティクスの人型ロボット「Pepper(ペッパー)」のように、人工知能(AI)を搭載した人型ロボットも実用化されている(図表4-2-1-2)。

図表4-2-1-2 Siri(Apple)による自動音声対話
(出典)Apple, Inc.
イ 人工知能(AI)のイメージ

このように、人工知能(AI)は私たちの日常の身近な商品・サービスに組み込まれはじめており、多くの人が人工知能(AI)を一度は使用したことがあるという時代が到来している。そんな中、一般的に人工知能(AI)とはどのようなものと認識されているのだろうか。ここでは、日米の就労者に対して、人工知能(AI)のイメージを尋ねた。

日米の就労者の抱く人工知能(AI)のイメージは、日米双方で、「コンピューターが人間のように見たり、聞いたり、話したりする技術」という人間の知覚や発話の代替に近いものが多い。加えて、米国では、人工知能(AI)は「人間の脳の認知・判断などの機能を、人間の脳の仕組みとは異なる仕組みで実現する技術」という人間の脳の代替に近いイメージも浸透している。このように、人工知能(AI)に対するイメージは、日米で必ずしも一致するものではなく、また一様ではないのが現状である(図表4-2-1-3)。

図表4-2-1-3 人工知能(AI)のイメージ(日米)
(出典)総務省「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(平成28年)より作成
「図表4-2-1-3 人工知能(AI)のイメージ(日米)」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら
ウ 人工知能とは何か

このように普及しつつある人工知能(AI)という言葉が、初めて世に知られたのは1956年の国際学会と比較的新しい5。人工知能(AI)は、大まかには「知的な機械、特に、知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術」6と説明されているものの、その定義は研究者によって異なっている状況にある(図表4-2-1-4)。その背景として、まず「そもそも『知性』や『知能』自体の定義がない」ことから、人工的な知能を定義することもまた困難である事情が指摘される7

図表4-2-1-4 国内の主な研究者による人工知能(AI)の定義
(出典)松尾豊「人工知能は人間を超えるか」(KADOKAWA)p.45より作成

例えば、人工知能(AI)を「人間のように考えるコンピューター」と捉えるのであれば、そのような人工知能(AI)は未だ実現していない8。また、現在の人工知能(AI)研究と呼ばれるほぼ全ての研究は人工知能(AI)そのものの実現を研究対象としていないことから、人工知能(AI)とは各種研究が達成された先にある、最終的な将来像を表現した言葉となる。ここで例示した、「人間のように考える」とは、人間と同様の知能ないし知的な結果を得ることを意味しており、知能を獲得する原理が人間と同等であるか、それともコンピューター特有の原理をとるかは問わないとされる。また、人工知能(AI)とは「考える」という目に見えない活動を対象とする研究分野であって、人工知能(AI)がロボットなどの特定の形態に搭載されている必要はない9

このような事情をふまえ、本書では人工知能(AI)について特定の定義を置かず、人工知能(AI)を「知的な機械、特に、知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術」と一般的に説明するにとどめる。

有識者インタビュー①

東京大学大学院新領域創成科学研究科
複雑理工学専攻
杉山将 教授

−学問領域として人工知能(AI)を捉えることが難しい背景を教えてください。

人工知能に関する研究領域には、「機械学習」や「ディープラーニング」といった基礎分野と、「画像認識」や「音声認識」、「自然言語処理」といった応用分野があり、それぞれ独立したフィールドを構成しています。

人工知能学者と呼ばれている研究者についても、確率や統計などの理論に基づき汎用的な手法を構築する立場、「言語」や「画像」といった具体的なデータを対象に実用的なアルゴリズムを開発する立場、精緻化した推論のルールを構築する立場のように、様々な立場が存在します。

そのため、関係する研究領域や研究者を統合する形で人工知能という分野を定義することは難しい状況にあります。



1 米Googleの子会社ディープマインド(DeepMind)が開発した囲碁コンピュータープログラム。

2 Google Official Blog(https://googleblog.blogspot.jp/2016_03_01_archive.html別ウィンドウで開きます

3 情報処理学会「コンピュータ将棋プロジェクトの終了宣言(2015年10月11日)」(http://www.ipsj.or.jp/50anv/shogi/20151011.html別ウィンドウで開きます

4 松尾豊「人工知能は人間を超えるか」(KADOKAWA)2015年、p.80

5 ダートマス会議において、計算機科学者のジョン・マッカーシーが命名した。

6 人工知能学会ホームページ「人工知能のFAQ」(http://www.ai-gakkai.or.jp/whatsai/AIfaq.html別ウィンドウで開きます

7 松原仁 人工知能学会会長「第3次人工知能ブームが拓く未来」 (https://www.jbgroup.jp/link/special/222-1.html別ウィンドウで開きます

8 松尾、前掲、pp.48-49

9 松尾、前掲、p.38

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