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第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI〜ネットワークとデータが創造する新たな価値〜
第3節 公共分野における先端的ICT利活用事例

(1)MySOS、Join、Team

ア MySOS、Join、Teamの概要

MySOS、Join、Teamはそれぞれ、健康管理・医療・介護分野で活用されるモバイルアプリとして提供されており、3つのサービスを連携させ、医療従事者(医師、歯科医師、看護師等)、患者、介護事業者の情報共有プラットフォームの構築を目指している(図表3-3-1-1)。

図表3-3-1-1 Join、MySOS、Team連携のイメージ
(出典)東京慈恵会医科大学提供資料

総務省統計局の予測によると、2025年には、国民の18.1%(5人に1人)が75歳以上、30.1%(3人に1人)が65歳以上となるほど高齢化が進展すると予測されており、東京慈恵会医科大学の高尾洋之教授は、特に地方における医師不足や、医療機関と介護施設の連携による患者の治療の必要性を指摘している。同大学の附属病院では、2015年に3500台以上のスマートフォンを導入し、MySOS、Join、Team等のアプリを活用して、こうした課題に対処することが試みられている。背景には、2014年に電波環境協議会から「医療機関における携帯電話等の使用に関する指針」が公表され、医療機関内におけるスマートフォン利用が可能となった点が挙げられる。

以下に「MySOS」、「Join」、「Team」の特徴を紹介する。

図表3-3-1-2 MySOS・Join・Teamの比較表
(出典)総務省「IoT時代における新たなICTへの各国ユーザーの意識の分析等に関する調査研究」(平成28年)

MySOSは患者が自身のスマートフォンにインストールして利用するアプリであり、健康・持病の情報、服薬歴、健診結果、採血データ等を端末に保存することができる(図表3-3-1-3)。緊急時にはMySOSをインストールしている人や、緊急連絡先に登録してある人にSOS発信ができる。

図表3-3-1-3 MySOSの利用イメージ
(出典)東京慈恵会医科大学提供資料

Joinは医療従事者向けのコミュニケーションアプリであり、テキストメッセージ、CTスキャン・MRI画像、病室や手術室の映像等を送受信することができ、メッセージアプリ(LINE等)と同じような使い方が可能である(図表3-3-1-4)。医師同士で、治療のアドバイスを与え合う等の活用ができ、若手医師が自身の判断に迷う場合や、専門医が不在の場合でも、専門医に相談できる環境を整えることができる。送信されたデータはクラウド上で一元的に管理されており、端末にデータが残らないように工夫されている。

図表3-3-1-4 Joinの利用イメージ
(出典)東京慈恵会医科大学提供資料

Teamは訪問介護・看護事業者が利用する業務効率化アプリ「Kaigo/Kango」と連携し、多職種間での情報共有を可能とした地域包括ケアシステムを支援するクラウドシステムである(図表3-3-1-5)。訪問ヘルパー・看護師が利用者の日々の記録や服薬状況などの情報を訪問診療医師やかかりつけ医などに共有することで、医師からのコメントや指示を受けることが可能となる。

図表3-3-1-5 Teamの利用イメージ
(出典)東京慈恵会医科大学提供資料
イ スマートフォン・クラウド利用ならではの特徴とメリット

スマートフォンを媒体とした情報共有を行うことで、従来まで利用していたPHSでは扱いにくかった大容量の画像や映像等を含んだ医療情報を参照できるようになった。前述したが、特に夜間・休日に、外出先や自宅にいる専門医から、治療のアドバイスを受ける等の活用ができ、当直の医師や若手医師が判断に迷う場合、専門医が不在の場合でも、気軽に専門医に相談できる環境を整えることが可能となっている。実際に、東京慈恵会医科大学では、導入から半年間で4,000通程度のメッセージがやりとりされており、医師同士が積極的にコミュニケーションをとっている様子が伺える。

救急医療への応用、いわゆる救急患者のたらいまわしを減らす効果も期待できる。MySOSを救急隊に導入し、Joinを利用する医師と連携する仕組みが検討されており、東京慈恵会医科大学と徳島大学が連携して実証実験を実施している。救急隊からの患者の詳しい容体の情報を早期に医師と共有することで、患者が病院に到着する前に、病院側がどのような処置を行うべきか想定し、手術の準備等を進めておくことができ、手術までの時間を短縮することができるとしている。また、遠隔地から医療情報を参照できる特性を活かして、地域のクリニックと専門医の所属する大学病院とが連携し、小規模な病院であっても高度な医療が提供できるとしている。

図表3-3-1-6 病院間の情報連携のイメージ(脳卒中の例)
(出典)東京慈恵会医科大学提供資料

さらに、スマートフォンの持ち運びができるという特徴により、患者への病状の説明がしやすくなるというメリットもある。スマートフォンの画面を通すことで、患者はベッドに寝たままの状態で、CTスキャンやMRIの画像を見られるようになり、患者の負担軽減に繋がっている(図表3-3-1-7)。

図表3-3-1-7 Joinを用いて患者に病状を説明する医師のイメージ
(出典)東京慈恵会医科大学提供資料
ウ MySOS・Join・Teamの定量的効果

一般病院、中核病院、大学病院間で情報が共有できると、転院の際などに重複して行っていたCTスキャン、MRI、採血等の検査回数を減らすことができ、診断の迅速化や医療費削減等の効果が得られる。実際に、東京慈恵会医科大学の附属病院では、Joinの導入により、脳梗塞患者一人あたりの総医療費が、年間で6万円削減されたとしている(図表3-3-1-8)。

図表3-3-1-8 Join導入による医療費削減効果
(出典)東京慈恵会医科大学提供資料
エ 初の単体プログラム医療機器認証

2014年11月に施行された医薬品医療機器等法(旧薬事法)により、疾病の診断等に用いる単体プログラムも医療機器として規制対象になった。Joinは2015年7月に医療機器プログラムとして認証を受け、2015年1月27日には厚生労働省に設置された中央社会保険医療協議会において、新機能・新技術の保険適用区分として保険適用が認められた。保険適用は2016年4月1日より開始となっている。認証前は医療機関から個人情報やセキュリティ面からの懸念等、Joinの導入を不安視する声があったが、医療機器として認証を得られてからは導入を前向きに検討する病院が増えているとのことである。

オ 人工知能の活用

東京慈恵会医科大学では、蓄積した医療データを、人工知能を用いて分析することを目指している。例えば、Joinで送受信されるテキストメッセージの内容から病名を予測し、CTスキャンやMRIを受診してもらう等の診察方法を人工知能が提案するような仕組みを検討している。ささいな変化を確実にとらえ、早期に治療を行ったり有効な対策をとるためには、発症後のみならず普段からヘルスデータを含む各種データを収集・蓄積しておくことも必要であり、解析の高度化とデータの充実の両面から成果を上げる取組が期待される。

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