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第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI〜ネットワークとデータが創造する新たな価値〜
第2章まとめ

第2章まとめ

以上、ICT産業の動向について、IoTの進展を踏まえた上で整理し、ICT産業の環境変化やトレンド、成長性を概観するとともに、我が国を含む6か国の国際企業アンケート等から国際的なIoTの進展状況を展望した。IoTの進展や中国等の新興国や途上国の進展によりICT産業はその産業構造、市場の中心を変化させつつ、堅調に拡大を続けている。

そんな中、今後のICT産業に大きなインパクトを与えると考えられているIoTについての国際比較では、我が国は現在におけるIoT進展指標や今後のIoT導入意向について6か国の中で相対的に低い結果となった。その要因を読み解くと、特にプロダクトにおいて多くの産業で「利用場面が不明」という回答が得られており、IoT化の具体的なイメージが浸透していないことが示唆された。加えて、我が国は他の5か国に比べて「人材育成」をIoT進展に係る課題と挙げた企業が相対的に多くなっており、これらの課題解決に向けた政策等の必要性が高まっていることも浮き彫りとなった。

第1章において、ICTによる我が国経済成長への貢献について検証を行い、GDPの押し上げ効果等、ICTの成長は我が国の経済成長への寄与が見込まれることが示唆された。しかし、本章にてその実現に向けた我が国の課題も浮き彫りとなった。こうした海外との意識の差やそこから抽出される課題にも着目し、解決に向けた取組を進めていくことが望ましいと考えられる。

G7香川・高松情報通信大臣会合

2016年(平成28年)5月26日、27日に開催された伊勢志摩サミットの関係大臣会合の1つとして、4月29日及び30日の2日間、香川県高松市において、「G7香川・高松情報通信大臣会合」が開催された。

G7としては21年ぶりの情報通信大臣会合であり、四国で初めて開催されたG7会合となった本会合には、我が国、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、英国、米国及び欧州委員会(EU)のほか、オブザーバーとして国際電気通信連合(ITU)及び経済協力開発機構(OECD)が参加した(図表)。

図表 G7情報通信大臣会合の模様

高市総務大臣が議長を務め、IoTやAIなどの新たなICTの普及する社会における経済成長の推進やセキュリティの確保等につき議論を行い、その成果として、あらゆる人やモノがグローバルにつながる「デジタル連結世界」の実現に向けた基本理念や行動指針をまとめた「憲章」1と「共同宣言」2及び「協調行動集」(共同宣言の附属書)3の3つの成果文書を採択した。

具体的には、①2020年までに新たに15億人をインターネットに接続する、②自由でオープンなインターネットを支える情報の自由な流通を確保する、③安心・安全なサイバー空間の実現に向けて、国際連携によりサイバーセキュリティを確保しつつ、テロや犯罪への悪用に対抗、④高齢化、防災、教育、医療などの地球規模課題の解決に活用し、国連「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の推進に貢献する、などICT分野の基本的な方針について合意し、自由や民主主義等の基本的価値を共有するG7として、世界に対する統一のメッセージを発出した。また、我が国から、AIネットワーク化が社会・経済に与える影響、AIの研究開発に関する原則の策定4等に関し、今後国際的に議論を進めていくべきことを提案したところ、各国から賛同を得た。

さらに、本会合の機会に、高市総務大臣はEU、英国及び米国とバイ会談を行い、EU及び英国との間でIoT社会に向けた連携の強化について、米国との間でデジタルディバイド解消に向けた協力を進めることについて合意した。

このほか、昨年12月に高松市で開催された「G7学生ICTサミット5」、また、大臣会合と並行して開催された産学官の有識者による「G7 ICTマルチステークホルダー会議6」より、その結果の報告があったほか、大臣会合の会場では、我が国の最先端のICT展示会が開催され、地元市民を中心に3500人が来場し、G7各国等の代表もこれを視察した。

G7情報通信大臣会合は、来年、次のG7議長国であるイタリアにおいて、継続して開催する予定となっている。

IoT/ビッグデータ時代に向けた新たな情報通信政策


●IoT/ビッグデータ時代に向けた新たな情報通信政策の在り方

情報通信の進展による諸手続の電子化、サービスの効率化といったICTの時代から、あらゆるモノがネットワークにつながり、そこで生まれる多様かつ膨大なデータの利活用により、全く新しい価値・サービスが創造されるIoT/ビッグデータ時代へと、環境が大きく変化しつつある。すなわち、データの利活用の成否が、国際競争力の強化や社会的課題の解決のみならず、生産性の向上や成長分野への投資を通じた雇用の創出にとって、決定的に重要となってきている。

このため、収集されたIoT/ビッグデータの効果的な利活用に係る社会的課題を解決していく必要があり、データのオープン化、データ・オーナーシップの在り方を含むプライバシー・セキュリティへの対応及び多様な市場関係者が平等に参加できる環境の整備が課題となる。

また、利活用を一層促進する観点から、高度なワイヤレス基盤、戦略的な技術の重点化及び認証のルール化といった新たな情報通信基盤を整備していくとともに、これらの標準化や利活用のルールづくりといった国際戦略を構築していく必要がある。

以上を踏まえ、総務省は、平成27年9月、IoT/ビッグデータ時代を見据えた我が国の情報通信政策の在り方について総合的な検討を行うため、「IoT/ビッグデータ時代に向けた新たな情報通信政策の在り方」について情報通信審議会に諮問し、同審議会の情報通信政策部会及びIoT政策委員会(主査:村井純 慶應義塾大学教授)7において調査・審議が行われ、同年12月に中間答申が取りまとめられた(図表1)。

図表1 中間答申における検討の方向性

平成28年4月、IoT政策委員会よりその後の調査・検討状況について中間とりまとめがなされ、特に、データ利活用促進、人材育成・資格制度の在り方、ネットワーク投資の促進、国際標準化を中心に、方向性・内容の明確化がなされている。


●IoT推進コンソーシアム

IoT/ビッグデータ/AI等の発展による世界的な産業構造の変革にあたって、IoT時代に対応した新たな生産プロセスの開発やサプライチェーン全体の最適化を目指し、官民を挙げた取組が各国で本格化する中、我が国においても、産学官の連携によるIoT推進体制として、平成27年10月に「IoT推進コンソーシアム」が設立された(図表2)。

図表2 IoT推進コンソーシアム

本コンソーシアムでは、産学官が参画・連携し、具体的には①IoTに関する技術開発・実証及び標準化等の推進、②IoTに関する各種プロジェクトの創出及び当該プロジェクトの実施に必要となる規制改革に関する提言のとりまとめ等に、取り組むこととしている。

また、同コンソーシアムのもとに設置された「スマートIoT推進フォーラム(技術開発WG)」(図表3)において、我が国の強みや今後の社会経済への影響を踏まえ、自律型モビリティシステムなどプロジェクトの出口分野を重点化しつつ、IoT関連技術の開発・実証及び標準化の推進に向けた取組が進められている。

図表3 スマートIoT推進フォーラム

〜SNSなどのICTを活用してクリエイティブに活動する人々〜

株式会社クリエイティブファンタジープロダクションズ
代表取締役社長 武藤篤司さん

15歳の「社長」

2015年5月に、株式会社クリエイティブファンタジープロダクションズを設立した武藤篤司さん。当時中学3年生だった武藤さんの起業は、ICT業界はもちろん、さまざまなメディアから注目を集めた。

クリエイティブファンタジープロダクションズは「FantasyをCreativeする」をコンセプトに映像やグラフィック、ウェブサイトなどの受注制作を手掛けている。メイン事業である「TMWV Production」では、高校生のアマチュアバンドをターゲットにミュージックビデオの制作を行っており、基本的に受注から制作、納品までの全てを武藤さんが一人で行っている。制作費は一律2万円で、依頼バンドの公式YouTubeチャンネルへのアップロードという形で納品される。同社ウェブサイトにも掲載されている「HOKKAIDO-SAN GARIC TOAST」のミュージックビデオは、YouTube内でも高く評価された。このような低価格でハイクオリティなサービスの提供は、高校生の生の声やニーズを把握する、同世代の武藤さんだからこそ実現できた事業といえる。


学級新聞制作がクリエイターへの道のきっかけに

武藤さんが生まれた2000年頃は、インターネットが急速に家庭へ普及した時代である。パソコンに初めて触れた年齢も記憶にないほどICTは幼い頃から身近な存在で、ICTがない生活は考えられないという。そんな武藤さんのクリエイティブな才能が開花するきっかけとなったのが、両親の使用するパソコンに偶然入っていたアドビシステムズ社のIllustratorとの出合いである。

小学2年生の時に、Illustratorを使って学級新聞を制作した。初めはWordで制作していたが、もっと自由にレイアウトを組みたいという思いからIllustratorを独習した。もちろん、手書き以外で学級新聞を作るクラスメイトは、武藤さん以外にはいなかったという。

小学4年生の時には、自分専用のパソコンを購入し、リアルタイムで公開できる動画共有サイト「Ustream」に友人と共に初めて作品を発表した。機材の購入や準備などに4日ほどかけて、「朝礼で校長先生の話が長いのはなぜか」という小学生らしい疑問をテーマとした討論番組を完成させた。武藤さんが想像していた以上に反響があり、その後も、ティーンならではの課題や疑問をテーマとした討論番組を何本も制作した。

中学1年生では、武藤さんが注目するガジェットをレビューするYouTube番組「NewGadget Series」の出演および制作を手掛けた。そこから約3年、YouTuber「Mutoatu(ムトアツ)」の名でクリエイターとしての実績を重ね、高校1年生になった現在も、YouTubeへの動画投稿は週に1本のペースで続けている。


やる気次第で興味・関心をビジネスにできる時代

武藤さんが起業に至るきっかけの一つに中学生・高校生のためのプログラミング・ITスクールである「Life is Tech!」への参加がある。作りたいものや学びたいことが明確にあった武藤さんは、アプリの開発やプログラミングなど、本業である中学での勉強と両立させながら最新の技術を習得。春休みや夏休みには同校主催のキャンプにも参加し、興味や目標を共有できる、学校以外の新しい仲間もたくさんできた。

「既に個人としてさまざまなクリエイターの仕事のお手伝いをしていましたが、会社の事業としてクリアなかたちで受注した方が仕事の幅も広がるんじゃないかなと思いました。そこでLife is Tech ! の代表に相談して、起業支援プログラムを受けることにしたんです」

興味のあることはインターネットですぐに調べることができて、気軽に情報発信もしやすい昨今。子どもも大人も関係なく、平等にチャンスが与えられている今の時代と環境に感謝していると武藤さんは話す。

人間関係の発展がICTの最大の魅力

LINE、Twitter、Instagram、Facebook、Vine、YouTubeなど、中高生にとってもSNSの利用が当たり前の時代。友人とのやり取りや情報交換など、いまどきのコミュニケーションには欠かせないツールとなっている。しかし、武藤さんのSNS活用法は、一般の中高生とは大きく異なる。

「友人たちとのやり取りはTwitterを利用することが多いのですが、仕事での取引先とのやり取りはFacebookを利用することが多いです。昨年、会社を立ち上げてからは、より一層SNSにおけるブランディングに力を入れるようになりました。会社でリリースをした場合は、Facebookで『公開』の状態で投稿しています。そうすると、自分の友人だけではなく、友人の友人などからも『いいね!』を押してもらえます。ひとつアクションを加えるだけで一気に情報伝播できるんです」

学生でありながら社会人でもある武藤さんにとって、SNSはビジネスツールとしての一面も大きく、自分が発信したものをより広く周知してもらえる工夫をしているのだという。

武藤さんが所持しているICT端末も実に豊富で、ノートパソコン3台にデスクトップパソコン1台、スマートフォン、時計型のウェアラブル、タブレット3台。これらのICT端末をTPOにあわせて使い分けている。

「ICTのない生活は考えられない」という武藤さん。ICTの最大の魅力は、フォロワーが何万人もいるような人と知り合いになれたり、リアルに会えるきっかけが作れたり、年齢にとらわれず人間関係を広げられることだと話す。


15年後にはICTで世界を変える側に立っていたい

高校1年にして既にICTの最前線で活躍している武藤さんだが「大人にはかないません。大人から学ぶことはまだまだたくさんあります」と話す。10代という若さゆえの柔軟性だけではなく、武藤さん自身の謙虚な姿勢もまた、ICTにおける新技術や新サービスのキャッチアップにつながっているのだろう。

「ICTにも流行がありますし、新しい技術が日々、開発されています。いま流行しているものが来年には時代遅れになっていることも少なくありません。何がスタンダードになるか分からない時代ですから、発信する側でありながらも、常に情報収集することが大切だと思っています」。

どんどん発展していくICTを、学校や社会がどのように活用していくかということも、今後の課題なのではないかと武藤さんは考える。「最新のICTが整備されていない学校が多い」や、「学校でのICTに関する学びが社会に直結していない」など、学生と社会人という二足のわらじを履く武藤さんだからこそ感じることのできる、リアルな意見も出てきた。

「僕の全てともいえるICTで、30歳になる頃には世界を変える側に立っていたいですね」

武藤さんには、心理学を学んで人間の思考や、ローカルな部分を人工知能に生かすビジネスにチャレンジするという壮大な目標がある。10歳でクリエイターとしてデビューし15歳で会社の社長となった武藤さんだが、自身にとってのICTへの挑戦は、まだ始まったばかりなのかもしれない。

武藤さんのように、ビジネスにつながるアイデアを発表する中高生が増えている昨今。これからの時代を担っていく武藤さんや10代の若者たちの可能性にさらなる期待がふくらむ。



1 デジタル連結世界憲章(仮訳):http://www.soumu.go.jp/main_content/000416965.pdfPDF

2 G7 情報通信大臣共同宣言(仮訳):http://www.soumu.go.jp/main_content/000418726.pdfPDF

3 G7協調行動集:http://www.soumu.go.jp/main_content/000416967.pdfPDF

4 提案に当たっては、我が国から、原則の策定に向けた議論のたたき台を配布している。配布したたたき台については、次のURLを参照。
http://www.soumu.go.jp/joho_kokusai/g7ict/main_content/ai.pdfPDF
併せて、第4章第4節の政策フォーカス「AIネットワーク化検討会議」を参照。

5 G7学生ICTサミットの概要:http://www.soumu.go.jp/joho_kokusai/g7ict/sict.html別ウィンドウで開きます

6 G7 ICTマルチステークホルダー会議の概要:http://www.soumu.go.jp/joho_kokusai/g7ict/msc.html別ウィンドウで開きます

7 IoT政策委員会: http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/iot/index.html別ウィンドウで開きます

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