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第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI〜ネットワークとデータが創造する新たな価値〜
第3節 公共分野における先端的ICT利活用事例

(2)平成28年(2016年)熊本地震

2016年(平成28年)4月14日、熊本県を中心にマグニチュード6.5の地震が発生し、同県益城町で震度7を観測、さらに2日後の16日には、再び熊本県を中心にマグニチュード7.3の地震が発生し、同県益城町等で震度7を観測した。

ここでは、まず被災自治体における通信・放送の確保状況を取り上げ、次に災害時のICT利活用について5年前の東日本大震災時との比較も交えて概観する。

ア 被災自治体における通信の確保

スマートフォンを含む携帯電話は、多くの人にとり身近なコミュニケーション手段となっている。災害発生時においても、災害情報の収集、安否確認、救急救命や支援要請が必要な場合の情報発信、物流が寸断される中での物資や食料調達に関する情報収集に不可欠であり、被災地において携帯電話による通信を確保することはまさにライフラインの確保といっても過言ではない。

熊本地震における携帯電話の停波基地局数の推移は下記のとおりである(図表3-3-5-2)。

図表3-3-5-2 熊本地震における停波基地局数の推移
(出典)総務省平成28年熊本地震関連情報17を基に作成

各事業者とも、震災発生当日から、要員を全国から招集して復旧作業にあたった結果、NTTドコモは4月20日までに18、KDDIは4月26日までに19、ソフトバンクグループの携帯電話サービスも4月25日までに、復旧作業ができない立ち入り禁止箇所を除いてサービスを復旧させている。なお、その時点においても停波していた基地局については隣接局のエリアカバーや移動基地局車等の運用によって対応している。

今回の熊本地震における通信確保の特徴として、通信事業者が避難所を中心に無料公衆無線LAN(Wi-Fi)アクセスポイントを設置したこと、携帯電話事業者が災害用統一SSID「00000JAPAN」の運用を初めて実施し九州全域で約55,000のアクセスポイントを確保したことが挙げられる20。避難所におけるアクセスポイントについては4月28日までにはほぼすべての避難所に設置が完了している。その他、熊本県阿蘇郡高森町に、電源と通信が復旧する4月20日までの間、ICTユニット215台を搬送し、役場・避難所にICTユニットを用いた無線LANサービス及び音声通話サービスを提供した点も特筆される。

イ 熊本地震と東日本大震災のICT利用の比較

熊本地震における安否確認サービス、インターネット上における情報の集約例、新技術の活用事例を取り上げる。

安否確認に関しては、東日本大震災の際、通話に輻輳が発生した一方で、通信が途絶していない限りパケット通信によるテキスト等の送受信は比較的スムースに行えたことから、メール、ソーシャルメディアや携帯電話事業者が提供する災害伝言板を活用することへの注目が高まった。一方で、様々な安否情報が世の中に点在していたため、確認に時間を要したほか、各々の取組みの迅速性や確実性にもばらつきが見られたことが指摘されている。東日本大震災後、携帯電話事業者各社による災害用伝言板の連携強化や機能充実も図られているが、更に連携を拡大し各企業・団体が収集した安否情報もまとめて確認できるサイトとして「J-anpi安否情報まとめて検索」がある(図表3-3-5-3)。同サービスは日本電信電話株式会社及び日本放送協会、NTTレゾナント株式会社が主体となり2012年9月から提供されている。その後、各地の自治体と協力協定22を結んでいるほか、2014年3月からはGoogleが提供するパーソンファインダーとの連携も開始している。

図表3-3-5-3 J-anpi
(出典)NTTレゾナント提供資料

安否情報以外にも、インターネット上における災害関係情報の集約例として、学生ら若者有志がSNSに分散していた避難所、炊き出し場所、物資集積地点等の情報を集約し地図上にマッピングするもの、個々の自動車がどこを走行しているかの情報を集約することで道路の通行可否を表示するもの、ソーシャルメディア上の情報を集約したり解析したりするものがあった(図表3-3-5-4図表3-3-5-5)。

図表3-3-5-4 リソースマップ(左:避難所、右:炊き出し場所・支援物資集積地点)
(出典)Youth Action for Kumamoto提供資料
図表3-3-5-5 道路交通情報センター災害時情報提供サービス
(出典)道路交通情報センター提供資料

安否確認サービス、インターネット上における情報の集約例については、東日本大震災時にも同様の事例は見られたが、熊本地震に際してはより迅速に提供されるなどの変化が見られた。このうち「Youth Action for Kumamoto」のリソースマップは避難所、炊き出し場所等の15種類が作成され、同団体によるとこれまでに合計230万回以上表示された。

東日本大震災の発生時、安否確認や情報収集の手段としてソーシャルメディアの役割が注目された一方、ソーシャルメディア上の必ずしも正確ではない情報にどのように対応するかが課題となった。

DISAANAは、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が東日本大震災を契機に開発を開始したツイートを解析するシステムである(図表3-3-5-6)。エリアを指定してそのエリアのトラブル・問題を検索したり必要な物資のマッチングを行う機能(例えば「熊本県のどこが孤立していますか」と質問文を入力するとリスト形式又は地図形式で結果を表示)、デマの問題に対応するために相反する内容の検索結果を並べて示したり矛盾している可能性が高いツイートには注マークを付ける機能も持つ。2014年11月から東日本大震災時のツイートのデータを用い解析を行うサービスを、2015年4月からリアルタイムのツイートまで反映した解析を行うサービスを提供している。本サービスは試験段階にあるものの、ソーシャルメディアの利用の進展やデータ解析の技術の進化によって課題を解決する仕組みとして、データの蓄積や解析結果の精緻化など今後の発展が期待される。

図表3-3-5-6 DISAANAの画面例
(出典)国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)提供資料

その他、近年急速に実用化が進んだ新技術やサービスを活用した事例として、国土地理院によるドローンによる被災状況の把握(図表3-3-5-7)や、民間の団体によるクラウドファンディング23を用いた被災地支援の例がある。クラウドファンディングの1つ、CAMPFIREでは震災発生翌日の2016年4月15日から29日まで募集を行い、2,972人から10,006,091円を集めた。

図表3-3-5-7 ドローンによる被災状況の把握
(出典)国土地理院

ICTを活用した街づくり


●ICT街づくり推進事業

我が国は、東日本大震災の経験を踏まえた防災・減災や少子高齢化対策、雇用の創出等、各地域において様々な課題を抱えており、分野横断的な横串機能を有するICTを活用し、こうした課題を解決するとともに、自立的・持続的な地域活性化を推進していくことが期待されている。

このため、総務省では「ICT街づくり推進会議」(座長:住友商事(株)岡 素之 相談役)24における検討を踏まえ、平成24年度より、「ICT街づくり推進事業」として、地域の自主的な提案に基づくモデル事業(委託事業)を全国27ヶ所において実施し、農業(鳥獣被害対策)、林業、防災等をはじめとする分野において成功事例を構築した(図表1)。

図表1 ICT街づくり推進事業(平成24〜26年度)

●ICTまち・ひと・しごと創生推進事業

平成27年度からは、「ICT街づくり推進事業」で得られた成功事例の普及展開を推進することを目的として、「ICTまち・ひと・しごと創生推進事業」を実施している。具体的には、成功事例の横展開(図表2)に取り組む地方公共団体や民間事業者等の初期投資・継続的な体制整備等にかかる経費(機器購入、システム構築及び体制整備に向けた協議会開催等に係る費用)の一部の補助を実施している。

図表2 ICT街づくりの成功モデルの横展開

平成28年度においても事業を継続しており、今後も「選択」と「集中」の考え方の下、①具体的な成果が上がっている分野や、②今後の普及が見込める分野を中心として引き続き普及展開を推進していく。



17 http://www.soumu.go.jp/h28_kumamoto_jishin/hisai.html別ウィンドウで開きます

18 https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2016/04/28_00.html別ウィンドウで開きます

19 http://news.kddi.com/important/news/important_20160426443.html別ウィンドウで開きます

20 主に携帯電話事業者が九州全域で、通常、有料で提供している公衆無線LANサービスを無料開放したもの。

21 ICTユニットとはWi-Fi、小型サーバー、バッテリーなどを搭載した小型で移動可能な通信設備であり、災害時に迅速に通信ネットワークを応急復旧させることが可能

22 具体的には、自治体の持つ安否情報のJ-anpiへの登録や、自治体ホームページ上でのJ-anpi安否情報の検索など。

23 クラウドファンディングについては第3章第1節も参照されたい。

24 ICT街づくり推進会議:http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ict_machidukuri/index.html別ウィンドウで開きます

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