総務省トップ > 政策 > 白書 > 28年版 > 人工知能(AI)の普及に求められる人材と必要な能力
第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI〜ネットワークとデータが創造する新たな価値〜
第4節 必要とされるスキルの変化と求められる教育・人材育成のあり方

(1)人工知能(AI)の普及に求められる人材と必要な能力

人工知能(AI)の活用が一般化する時代に求められる能力として、特に重要だと考えるものは何かを有識者に対して尋ねたところ、「業務遂行能力」や「基礎的素養」よりも、「チャレンジ精神や主体性、行動力、洞察力などの人間的資質」や「企画発想力や創造性」を挙げる人が多かった(図表4-4-1-1)。

図表4-4-1-1 人工知能(AI)の活用が一般化する時代における重要な能力
(出典)総務省「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(平成28年)
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日米の就労者に対しても同様に、人工知能(AI)の活用が一般化する時代に求められる能力として、特に重要だと考えるものは何かを尋ねた。米国の就労者は「情報収集能力や課題解決能力、論理的思考などの業務遂行能力」が求められると回答した人が51.9%と圧倒的に多い。一方、日本の就労者は「コミュニーション能力やコーチングなどの対人関係能力」が求められると回答した人が35.9%と一番多くなった。

慶應義塾大学商学部山本勲教授へのインタビューで「海外では、タスクとスキルの関係を整理し、そのタスクにマッチしたスキルを持った人がそのタスクを担っています」「日本の就労者が仕事の中でいろいろなタスクを行っているのは事実です」というコメントを頂いた。日本と米国では業務遂行上求められることが異なっており、自身が持つスキルとマッチしているタスクを完遂することが第一目標である米国に対して、日本ではスキルの有無に関わらず多様なタスクを遂行することが求められている。その差が米国では「業務遂行能力」を重視しているが、日本では「対人関係能力」を重視しているという違いとして現れている可能性がある(図表4-4-1-2)。

図表4-4-1-2 人工知能(AI)の活用が一般化する時代における重要な能力
(出典)総務省「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(平成28年)より作成
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本章第3節の労働政策研究・研修機構の松本真作特任研究員のインタビューにて「仕事をする上で必要な最も基本的な要素は、意欲(前向きな姿勢)と人間関係(円滑にコミュニケーションできること)であり、このことは人工知能(AI)が広く実用化されても変わることはない、基礎であり土台であるといえます」とのコメントを頂いた。同様に、今回実施した有識者アンケートの際にも「AIだけを特別視する理由はない」や「人工知能が一般化する時代にあっても、人間としての基本的な能力は常に高いことが望ましいことは変わらないと思われる」とのコメントが挙がっており、人工知能(AI)だから特別な資質能力が必要とされるよりは、これまで同様に意欲やコミュニケーションといった基本的な資質が重要になると思われる。

一方で、今回インタビューを行った有識者のうち、人工知能(AI)の専門家である、東京大学大学院新領域創成科学研究所の杉山将教授、東京大学大学院工学系研究科の松尾豊准教授から、これからの人工知能(AI)の普及に向けて、以下のようなコメントを頂いた。

東京大学大学院新領域創成科学研究所 杉山将教授

−人工知能研究の環境は厳しい。日本では研究を志す学生が少なく、人が育っていない。

東京大学大学院工学系研究科 松尾豊准教授

−ディープラーニングは、今後様々な分野で実用化されていくと予想される。このため、実用化に従事する優秀な人材が特に求められている。

また、有識者の方からも「AIを設計したり作り出せる人材が必要となる。AIはどこからか自然に湧いてくるものではない」や「AIの開発・設計に携わる人の責務は重要である」とのコメントが挙がっているとおり、人工知能(AI)の研究・開発や実用化に携わる人材が求められている。人工知能(AI)は第三次ブームをむかえて、これから本格的な実用化が進んでいくとみられる。そのための開発や実用化に向けた取組を進めていく人材が求められている。

有識者インタビュー⑥

東京大学大学院 工学系研究科 技術経営戦略学専攻
松尾豊 准教授

−人工知能(AI)が実用化されていくことで、働き方にどのような影響があると考えられますか。

人工知能に第三次ブームをもたらしたディープラーニングは、今後様々な分野で実用化されていくと予想されます。このため、実用化に従事する優秀な人材が特に求められています。また、ディープラーニングは認識の技術ですので、認知に関わるような職務については人工知能によって代替される可能性が特に高いと予想されます。しかし、人が担っている職能は多岐にわたっており、特に日本の労働者は多能です。このため、ある人が行っている全ての職能をAIが代替して、人が仕事を失うような可能性は低く、実際にはAIを活用した働き方になると考えられます。AIによって一部の職能が代替された分、人には新しい職能を求められたり、今までの職能を高めることが求められたりするかもしれません。そこで必要となる創造性やコミュニケーション能力などの具体的な内容は職種によって異なりますし、また個別の企業における戦略によっても異なってくるでしょう。

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