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第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI〜ネットワークとデータが創造する新たな価値〜
第2節 人工知能(AI)の現状と未来

(2)人工知能(AI)の利活用

前述の通り、現時点での人工知能(AI)は「どのような分野でどのように使用するか、あるいは使用しないかは、あくまでも人間が設定するものである」という段階であり、どのような分野にどのように活用していくかを幅広く検討、研究されているところである。我が国を含む各国の大企業等が人工知能(AI)の研究組織を設立する等、人工知能(AI)に係る取組は急激に広がりを見せている。

では実際に人工知能(AI)は、どのような分野に活用が進むことが望ましく、またどうしたらより活用が進んでいくのだろうか。ここでは、有識者へのアンケートやインタビューにより明らかにする。

ア 我が国の課題解決における人工知能(AI)活用の寄与

まず、人工知能(AI)の活用が進むことについての是非を、我が国の課題解決における人工知能(AI)の寄与の観点からみてみる。

人工知能(AI)の活用が、現在我が国が抱えている様々な課題や、将来、我が国が抱える可能性がある様々な課題の解決に役立つと思うかについて有識者に対してアンケート調査27を行った。有識者27人中「かなり役に立つと思う」と回答した人が14人、「ある程度役に立つと思う」と回答した人が12人となり、多数の有識者が人工知能(AI)の活用がさまざまな課題の解決に寄与すると考えている(図表4-2-2-4)。

図表4-2-2-4 現在および将来の我が国の課題解決における人工知能(AI)活用の寄与度
(出典)総務省「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(平成28年)
「図表4-2-2-4 現在および将来の我が国の課題解決における人工知能(AI)活用の寄与度」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

具体的にどのような課題の解決に寄与すると思うかを尋ねたところ、次のような意見が得られた。

  • 労働力不足や過酷労働、およびそれに起因する問題(例えば、介護、モニタリング、セキュリティ維持、教育)
  • 農業・漁業の自動化による人手不足問題の緩和
  • 犯罪の発生予知、事故の未然防止、個々人の必要に応じたきめ細かいサービスの提供、裁判の判例調査、医療データの活用等での課題解決に寄与することが期待される
  • 職人の知識/ノウハウの体系化による維持と伝承

このように、人工知能(AI)はさまざまな課題の解決に寄与すると考えられ、今後更なる活用が進むことが望ましい。

イ 人工知能(AI)の利活用が望ましい分野

では、実際にどのような分野への利活用が望ましいと考えられているのだろうか。人工知能(AI)の利活用が望ましい分野に関して有識者にアンケートを行ったところ、健診の高度化や公共交通の自動運転、救急搬送ルートの選定、交通混雑・渋滞の緩和など、社会的課題の解決が期待される分野において、人工知能(AI)の利活用ニーズが相対的に高いという結果が得られた。一方で、金融やマーケティング、コミュニケーションといった産業や個人の生活に関わる分野では、人工知能(AI)の利活用ニーズが相対的に低いという結果も得られた(図表4-2-2-5)。

図表4-2-2-5 人工知能(AI)の利活用が望ましい分野
(出典)総務省「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(平成28年)
「図表4-2-2-5 人工知能(AI)の利活用が望ましい分野」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

有識者インタビュー③

株式会社FRONTEO 取締役 最高技術責任者
行動情報科学研究所
武田秀樹 所長

株式会社FRONTEOは、人工知能による言語解析エンジン「KIBIT」で、国際訴訟の現場で弁護士が行う証拠調査の分野からビジネスを開始した(図表4-2-2-6)。その後BI(Business Intelligence)や知的財産の分野にビジネスを拡大し、今では医療やマーケティングの分野にも適用分野を広げている(図表4-2-2-7)。そんな株式会社FRONTEOの取締役最高技術責任者である武田秀樹所長に、人工知能の普及における課題と今後の発展についてお伺いした。

図表4-2-2-6 FRONTEOの人工知能「KIBIT(キビット)」
(出典)株式会社FRONTEO提供
図表4-2-2-7 FRONTEOの病院の転倒転落予測のアプリ(イメージ)
(出典)株式会社FRONTEO提供

−人工知能の提供において、一番苦労されたのはどのようなところでしょうか。

ユーザ企業は、人工知能は何でもできるものだと誤解されていることが多いです。その過大な期待感をマネジメントすることはとても重要なポイントとなります。一方で、第三次の人工知能ブームが到来し、直近においては、ユーザ企業の調達する側の意識や理解が大分変わってきていると実感しています。以前は80%の確率で当たると言うと、20%は外れで、それが限界なのかと失望されましたが、そのような状況も人工知能に対する理解が進んだことによって、80%の確率で得られるベネフィットに関心が向けられるようになり、改善されつつあります。


−人工知能普及の鍵は。

人工知能エンジンをシステムの部品として提供するかぎり、ビジネスは拡がりません。ビジネス側が、何がやりたいかというデータ解析の目的を見いだす「入口」の部分と、解析結果からビジネスの大きな方向性を意思決定する「出口」の部分をうまく設計できていないからです。入口の部分において、部品だとシステム構築が必要になり、導入のハードルが上がります。このため、人工知能エンジンを使ってデータ解析を気軽に試すことができ、人工知能の価値をビジネスの意思決定者に届けることのできるアプリケーション開発が今後特に重要になると見ています。


−今後、人工知能はどのような発展を遂げていくでしょうか。

人工知能の上手な使い方を開拓できれば、人工知能は大きく発展できると思います。何を教師データにするか考えた場合、日本には知見を持った有能な専門家やエキスパート、職人がたくさん仕事をしています。こうした人々の知的資産、技術資産などの暗黙知を機械学習に覚えさせることができれば、日本はこれらの知見を資産として抱えることができます。この資産をみんなで活用できるような環境が整えば、人工知能だけでなく日本全体が発展することができます。

人工知能の更なる普及に向けては、今の第三次の人工知能ブームはまさに総力戦で頑張らないといけない時期であって、さまざまな技術をどう上手く使って、人工知能を使いやすいもの、使いこなせるものに仕上げることができるかが、その鍵を握っています。



27 人工知能を専門とする研究者や人工知能以外のICTを専門とする研究者、ICT産業の従事者からなる「ICT分野の専門家」と経済学・社会学を専門とする研究者や雇用を専門とする研究機関の従事者からなる「非ICT分野の専門家」を対象とした有識者アンケートを実施した。有識者アンケートの実施条件については巻末の付注6-2を参照。

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