総務省トップ > 政策 > 白書 > 28年版 > ICTを活用したインバウンド需要の喚起
第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI〜ネットワークとデータが創造する新たな価値〜
第2節 経済成長へのICTの貢献〜その具体的経路と事例分析等〜

(2)ICTを活用したインバウンド需要の喚起

ア ICTを活用したインバウンド需要拡大の動向

人口が減少に転じており成長市場が限られる我が国では、訪日外国人による消費(インバウンド需要)は、中期的な経済成長シナリオにおいて重要な意味を持つ。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を契機とした需要喚起策としても注目されている。

近年、訪日外国人数は、訪日観光ビザの要件緩和や為替の円安方向への推移傾向等を背景に急速に拡大している(図表1-2-5-18)。当初の政府目標は、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される2020年に、2000万人の訪日外国人旅行者、2000万人が訪れる年に4兆円の訪日外国人旅行消費額とされてきたが、2015年の段階で1974万人が日本を訪れ、約3兆4771億円の消費額に上った。こうした中で、「明日の日本を支える観光ビジョン」(2016年3月30日明日の日本を支える観光ビジョン構想会議決定)において、「観光先進国」を目指す新たな目標として、訪日外国人旅行者数及び訪日外国人消費額を2020年に、それぞれ4000万人、8兆円消費とすることが示されている。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を見据えた観光客誘致政策の強化などを通じて、訪日観光需要を一段と拡大させていくことが期待されている。

図表1-2-5-18 インバウンド需要の推移
(出典)観光庁 訪日外国人の消費動向19及びJNTO訪日外客数の動向
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このように、サービス産業全体の売り上げ(2015年には298兆円18)と比較すると少ないが、人口が減少に転じた日本にとってインバウンドは数少ない成長市場である。また、製造業や卸売業など他産業への波及効果も見込める。

こうしたインバウンド振興と需要拡大に向けて、ICTの活用が求められている。例えば、政府がこれらの目標を実現するための具体的な方策として「明日の日本を支える観光ビジョン」で『観光先進国』への『3つの視点』と『10の改革』」を示している。その中で、3つ目の『視点』として「すべての旅行者が、ストレスなく快適に観光を満喫できる環境に」を挙げており、交通だけでなく、インターネット通信環境といったストレスなく観光できる環境にすること等が挙げられる。実際に、外国人旅行者が旅行前の情報収集として役立ったものとして個人のブログ、旅行ポータルサイトや宿泊施設等のホームページ等が挙げられている(図表1-2-5-19)。情報発信に積極的な企業や団体ではウェブサイト等での情報発信において、多言語化やターゲットに合わせた豊富なコンテンツを準備することになる。また、こうした情報源に旅行客にアクセスしてもらい、さらに地域の関連情報を積極的に提供していく観点からも、安全かつ利便性の高い無料の公衆無線LANサービスは重要な役割を果たし、実際に外国人旅行者の強いニーズがある。

図表1-2-5-19 訪日外国人旅行者が出発前に得た旅行情報源で役に立ったもの
(出典)観光庁「訪日外国人消費動向調査」
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情報発信は、こうした訪日中の環境に限らず、訪日前の潜在的な訪日旅行者への訴求も効果的な需要喚起策となる。今では、インターネットや放送など、あらゆるメディアを通じて、日本各地からあらゆる主体が情報を発信することが可能である。実際に訪日旅行者の多くが、訪日前に様々なメディアを通じて情報に触れている。日本各地の魅力を広く世界に情報発信することにより、インバウンドの増加、ひいては地域経済の活性化に大きな効果が生まれるものと期待される。

我が国の高度なICTを活用した先進的な取り組みも期待されている。決済環境の整備はその一つである。電子マネー・クレジットカード決済端末や決済アプリ等の整備などは、前述したとおり消費促進に大きく貢献するものであり、インバウンド対策においても重要なICTインフラとして活躍するであろう。また、これらの消費状況の「ビックデータ」を利用した観光動向の調査分析や観光まちづくりへの利活用なども期待されている。さらに、「言葉の壁」をなくすための観光情報や地図情報等を備えた多言語対応観光アプリや、多言語通訳・翻訳アプリの提供も重要な施策として挙げられる。例えば、「総務省委託研究開発・多言語音声翻訳技術推進コンソーシアム」では、2020年までに、多言語音声翻訳技術を用いたサービスを病院、ショッピングセンター、観光地、公共交通機関等の生活拠点に導入し、日本語を理解できない外国人が日本国内で「言葉の壁」を感じることなく、生活で必要なサービスを利用できる社会の実現を目指している。これにより、訪日外国人旅行者の満足度や安心感の向上、全体の人数やリピーター数の増加、更には観光等による地域経済への波及につながることが期待できる(図表1-2-5-20)。

図表1-2-5-20 多言語対応に係る取組事例(多言語音声翻訳技術推進コンソーシアム)
(出典)国立研究開発法人情報通信研究機構プレスリリース20
イ 企業等による取組事例

前述したICTを活用したインバウンド対策については、既に多くの企業が積極的に取り組んでいるところである。ここでは、具体的な企業による取組事例について紹介する。今後のインバウンド需要拡大に向けては、特にICT企業による貢献が期待されるところ、まずはICT関連企業によるインバウンド対応についてみてみる。

(ア)ICT関連企業による取り組み

東芝では、自社の独自技術も活かしながら、インバウンド事業拡大を強化している。同社は、東芝テックとの連携を通じて、訪日外国人旅行者に関わる事業者向けに、ICTを活用した集客・接客ツール「トータルインバウンドサービス」を2015年11月より開始している。同サービスでは、東芝のICTと東芝テックのPOSシステムや免税処理・各種決済サービスを活用しているのが特徴である。すなわち、訪日外国人の観光行動や購買データとシステムを組み合わせて、訪日前の集客から訪日旅行中の観光、購買時の免税販売手続や決済サービスにも対応している。これにより、事業者側の業務軽減(コスト削減)や接客力の向上、また旅行者に対する利便性と有益な情報提供を実現することが可能になる。

さらには、同社は電通と連携して、東芝が運営する現地SNSや広告などで情報提供を行い、旅行前の興味を喚起し、集客に繋げる「訪日プロモーションサービス」や、英語と中国語に対応し、来店者と店員の会話をスマホ画面などに表示する「商業施設向け同時通訳サービス」なども展開している。また、BLEビーコンを活用した「位置情報サービス」では、イベントや店舗、観光などの情報を配信している。この他、免税対応POSシステムや「手続委託型輸出物品販売場制度」に対応した一括管理型の「免税処理サービス」、スマホを活用した「電子決済サービス」も提供する予定としている。

さらにロボット技術も取り入れ、東芝、三菱地所リテールマネジメント、東京都港湾局は、東芝独自の音声合成技術により3か国語を話すアンドロイド「地平(ちひら)ジュンこ」を共同で発表している。観光案内所で日本語・英語・中国語にてイベント情報や店舗案内などを担当する予定としている。

(イ)ICT利活用企業による取り組み

ICT関連企業以外のICT利活用企業においては、ICTを活用したサービス・アプリケーションの提供や、効率的に異業種間連携を推進するようなICTの活用などが注目される(図表1-2-5-21)。

図表1-2-5-21 ICT利活用企業によるICTを活用したインバウンド対策事例
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
ウ 企業等による取組状況

インバウンド需要の顕在化が進行するなか、B2CやB2Bに限らず多くの企業がその取り込みに向けて積極的に取り組んでいる。ここでは、国内企業向けモニタアンケート調査結果をもとに、企業のインバウンド対策やICTの利活用状況について概観する。

まず、取り組みの実績についてみてみると、全体の1割弱が「既に行っている」と回答している。取組意向を有する企業を含めると約3割に上り、今後さらなる取り組みの活性化が予想される(図表1-2-5-22)。また、企業規模別でみると、規模が大きいほど高くなる傾向がみられるが、インバウンドによって消費されるサービスは大企業のものに限らない。インバウンドの増加は中小サービス産業にとっても商機となりうると考えられる。

図表1-2-5-22 インバウンド対策の取組状況(従業員規模別)
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
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取組状況について業種別にみてみると、ややばらつきがあることが分かる(図表1-2-5-23)。既に取り組んでいる業種としては、商業・流通業が高く先行していることがみてとれ、次いで情報通信業となっている。今後の取組意向を有する企業を含めてみると、情報通信業が最も高い結果となっている。このように業種の観点から、今後のインバウンド需要拡大に向けてはICT企業の取り組み及び経済貢献が期待されるといえる。

図表1-2-5-23 インバウンド対策の取組状況(業種別)
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
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これらの取り組みにおけるICTの活用状況及び意向をみると(図表1-2-5-24)、各業種に共通して「インターネットや放送メディアを活用した情報発信やプロモーション」が高く、情報発信を目的としたICT活用は多くの企業が取り組む基本的手段であることがわかる。次いで、「訪日外国人に係るデータを活用した商品・サービス展開」であり、前節で概観した『データの利活用』は、インバウンド対策においても有効な手段と適用分野であるといえる。その他、「多言語ツールやアプリケーション活用」については、訪日旅行者との直接的な接点が想定される商業・流通業やサービス業における関心が高い。

図表1-2-5-24 ICTを活用したインバウンド対策(業種別)
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
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このように、インバウンド需要の取り組みに資する手段としてICTに対する企業の関心は高く、ICTが今後のインバウンド需要の拡大に大きく貢献していくことが予想される。

地デジを核としたICTインフラシステムの海外展開

総務省では、我が国政府全体のインフラシステムの海外展開の取組にあわせて、ICT分野の国際展開を重要施策と位置づけ、官民一体でトップセールス等の取組を積極的に実施している。

政府のインフラシステム輸出戦略において、総務省は、政府間対話等を通じた案件形成段階からの関与により、地デジ日本方式や防災ICT等の先進的なICTシステム、日本の優れた郵便システム等を相手国の社会インフラシステムに積極的に組み込むとしている。

地デジ日本方式の海外展開では、採用国が合計18か国(2016年5月現在)にまで拡大したことに伴い、日本企業による海外でのデジタル放送送信機の受注が増加するなど、一定の成果が現れつつある。

2016年は地デジ日本方式が海外で採用されて10周年を迎えるという機を捉え、地デジで培った協力関係を拡大し、光ファイバ等日本の強みであるICT技術・サービスの国際展開に向けた啓発・協力等の活動を民間企業等と連携して重点的に実施している。

加えて、我が国のICT技術・サービスの強みを国際市場において十分に発揮するには、インターネット上の情報の自由な流通の確保が大前提となるため、総務省では、欧米先進国と連携し、引き続きこれを確保するべく取り組んでいく(図表)。

図表 地デジを核としてICT分野全体へ


18 総務省「サービス産業動向調査結果」より引用

19 観光庁「訪日外国人の消費動向 平成27年 年次報告書」http://www.mlit.go.jp/common/001126531.pdfPDF

20 「総務省委託研究開発・多言語音声翻訳技術推進コンソーシアム」の設立について〜2020年に向けた外国人へのおもてなし実現を目指して〜(2015年10月26日)https://www.nict.go.jp/press/2015/10/26-1.html別ウィンドウで開きます

21 http://www.sevenbank.co.jp/corp/news/2016/pdf/2016011301.pdfPDF

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