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第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI〜ネットワークとデータが創造する新たな価値〜
第4節 必要とされるスキルの変化と求められる教育・人材育成のあり方

(2)学習環境や支援制度に対するニーズ

人工知能(AI)活用に必要となる各種スキルを習得するための学習環境や支援制度については、日米双方で「大学等高等教育機関における教育・研究の充実」や「企業における自己啓発に関する支援制度」に対するニーズが高い(図表4-4-2-2)。

図表4-4-2-2 人工知能(AI)活用スキルを取得するための学習環境や支援制度に対するニーズ
(出典)総務省「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(平成28年)より作成
「図表4-4-2-2 人工知能(AI)活用スキルを取得するための学習環境や支援制度に対するニーズ」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

一方で、個人に対する自己啓発支援だけで、人工知能(AI)の利用環境整備、導入を全て充足することにはおのずと限界があると考えられる。前出のリクルートホールディングスでは、これまで組織横断的な対応→組織化対応→システム化対応という3段階の進化を経て、社員誰もが人工知能(AI)を使える環境を手に入れることができている。

最初の組織横断的な対応は、人工知能(AI)専門家を採用し、その専門家が組織横断的に各現場からの仕事を受け、次に組織化対応として人工知能(AI)専門家の人数を増やしつつ各現場に配置をしてコワークできるようにして、最後にシステム化対応として、社員誰もが人工知能(AI)を使える環境を手にすることができるようになり、ビッグデータ業務に強い企業に変革しつつある。

人工知能(AI)の活用に必要となる資質能力の習得については、現場で使うために学習することもさることながら、現場での経験を通じて学ぶことができる利用環境を整備することにより、企業における人工知能(AI)活用のハードルを引き下げることがより重要になると考えられる(図表4-4-2-3)。

図表4-4-2-3 企業における人工知能(AI)の利用環境整備の例
(出典)総務省「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(平成28年)

有識者インタビュー⑧

株式会社ベネッセホールディングス
ベネッセ教育総合研究所
谷山和成 所長

−人工知能(AI)の活用が一般化する時代では、どのような能力が求められると見ていますか。

人工知能(AI)の活用が一般化する時代を見据えて、人工知能(AI)を使うためのスキルを学ぶことは重要です。しかし、それにも増して重要なことは、人工知能(AI)の使用が目的化することなく、人工知能(AI)という手段を使って何かを実現したいという意欲や主体性、生活や仕事の中に人工知能(AI)を取り込んで良い使い方を見出す創造性を身に付けることです。歴史的にみて、人は新しい技術が登場するたび、社会に生じる可能性がある問題を列挙して、悲観的な予測を繰り返し行ってきました。でも同時に人は、正しい技術の使い方を見出して問題を解決し、より良い社会に変えてきています。このような見識や創造性を持った人、その知識と能力をどう育てるかが重要です。


−貴社では、これからの子どもの教育において、今後どのような取組を行っていく予定がありますか。

子どもたちの学習記録のデータから、子ども一人ひとりの状況を理解し、それに対応しやすくなりました。いまでは、提供する教材を子どもに応じて変えることも可能です。ビッグデータ解析はとても有意義で、活用を進めています。しかし、子どもの学習記録を確率的手法を用いて分析し、つねに最適な教材だけを提供していくことが子どものためになるかという点に関しては、教育的な視点から慎重であるべきとも思います。確率的にはほめるほうが子どもが伸びるかもしれませんが、子どものタイプによって、また、その時の子どもの状況によってはしかるべき時があるかもしれません。つねに大人が正解に導いてやるのではなく、試行錯誤して課題を乗り越えていくことが、主体性や創造性を伸ばしていくうえで大切です。当社は、ビッグデータ解析の結果を教材制作担当者が見て、時として正答率が低い問題をあえて混ぜてつまずきを克服する場面を作るようなこともしています。確率では語れないこともあり、データを重視しながらも社員一人ひとりが教育的に判断することが大事だと考えています。つねに大人の側が教材を提供するのではなく、子ども自身が目標を決めて、学習内容を選択していくことも、自律的に学習する力を身につける上で重要です。当社は、教材や教育的なステップを含めトータルでどうサポートしていくことができるかに今後も取り組んでいきたいと考えています。人工知能(AI)は最適な教材を提供していくうえで、将来必要となる技術であると考えられますが、それを子どもの個の能力を伸ばすためにどう使うかは、私たち大人の責任として、多様なアプローチを考えなくてはならないと考えます。

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