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第2部 基本データと政策動向
第8節 ICT国際戦略の推進

2 国際的な枠組における取組

(1)多国間の枠組における国際政策の推進

ア アジア太平洋経済協力(APEC)

アジア太平洋経済協力(APEC:Asia−Pacific Economic Cooperation)は、アジア・太平洋地域の持続可能な発展を目的とし、域内の主要国・地域が参加する国際会議である。電気通信分野に関する議論は、電気通信・情報作業部会(TEL:Telecommunications and Information Working Group)及び電気通信・情報産業大臣会合(TELMIN:Ministerial Meeting on Telecommunications and Information Industry)を中心に行われている。

総務省は、TEL会合における自由化分科会の議長を担当しており、議長として貢献しつつ我が国の情報通信政策の紹介を行う等、APEC参加国・地域間で共有すべき目標である「ユニバーサル・ブロードバンド・アクセス」等の推進に向けてAPECの情報通信関連活動を積極的に展開している。なお、TEL54は、2016年(平成28年)10月から11月にかけて、京都府(関西文化学術研究都市:けいはんな学研都市)で開催される予定である。

イ アジア・太平洋電気通信共同体(APT)

アジア・太平洋電気通信共同体(APT:Asia−Pacific Telecommunity)は、1979年(昭和54年)に設立されたアジア・太平洋地域における情報通信分野の国際機関であり、同地域における電気通信や情報基盤の均衡した発展を目的として、研修やセミナーを通じた人材育成、標準化や無線通信等の地域的政策調整等を行っている。

総務省は、これまで我が国からの特別拠出金の活用等を通じて、我が国が強みを有するICT分野に関する研修員の受け入れ、ICT技術者/研究者交流といった支援を行っている。現在、我が国の近藤 勝則氏(総務省)が事務局次長を務めており、今後もAPT活動の重要性にかんがみ、我が国としての貢献を継続していく。

ウ 東南アジア諸国連合(ASEAN)

東南アジア諸国連合(ASEAN:Association of South−East Asian Nations)は、東南アジア10カ国からなる地域協力機構であり、経済成長、社会・文化的発展の促進、政治・経済的安定の確保、域内諸問題に関する協力を主な目的としている。

我が国は、ASEANの対話国の一つとして、日ASEAN情報通信大臣会合やASEAN情報(放送)担当大臣会合等の対話の機会を活かし、日ASEAN協力の強化に向けた提案や意見交換を行っており、双方の合意が得られたワークショップ等の提案については、我が国拠出金により設立された日ASEAN情報通信技術(ICT)基金等を活用し実施されている。2015年(平成27年)5月には、ASEANにおける新たなICT戦略策定を支援するため、日ASEANの政策担当者や専門家を交えた「ASEAN ICTマスタープラン2015後の政策課題に関するシンポジウム」をタイにおいて開催し、日ASEANの協力関係強化を図った。

また、日ASEAN間の協力強化については、特にサイバーセキュリティ分野の関心が高く、2015年(平成27年)12月にインドネシア(ジャカルタ)で開催された「第8回日・ASEAN情報セキュリティ政策会議」5において、域内のサイバーセキュリティ水準向上のための共同意識啓発活動や政府間での情報連絡演習等の継続が確認された。

エ 国際電気通信連合(ITU)

国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union (本部:スイス(ジュネーブ)。193か国が加盟))は、1865年パリで創設の万国電信連合と1906年ベルリンで創設の国際無線電信連合が、1932年マドリッドにおいて統合の後に発足した組織である。

国際連合(UN)の専門機関の一つで、電気通信の改善と合理的利用のため国際協力を増進し、電気通信業務の能率増進、利用増大と普及のため、技術的手段の発達と能率的運用を促進することを目的としている。

ITUは、

① 無線通信部門(ITU−R:ITU Radiocommunication Sector)

② 電気通信標準化部門(ITU−T:ITU Telecommunication Standardization Sector)

③ 電気通信開発部門(ITU−D:ITU Telecommunication Development Sector)

の3部門から成り、周波数の分配、電気通信技術の標準化及び途上国における電気通信分野の開発支援等の活動を行っている。我が国は、無線通信規則委員会(RRB:Radio Regulations Board)委員の伊藤 泰彦氏(KDDI顧問)を初め、各部門における研究委員会(SG:Study Group)の議長・副議長及び研究課題の責任者を多数輩出し、勧告を提案するなど、積極的に貢献を行っている。

(ア)ITU−Rにおける取組

ITU−Rでは、あらゆる無線通信業務による無線周波数の合理的・効率的・経済的かつ公正な利用を確保するため、周波数の使用に関する研究を行い、無線通信に関する標準を策定するなどの活動を行っている。

2015年(平成27年)10月に開催された無線通信総会(RA-15:Radiocommunication Assemblies 2015)では、我が国から総務省、電気通信事業者等が出席し一丸となって対応したほか、総会全体の議長を橋本 明氏(NTTドコモ)が務める等、我が国の存在感を示す中での会合となった。審議の結果、4件の新規勧告及び3件の改定勧告の承認、6件の新規決議及び22件の改定決議等の承認、次研究会期における研究課題の承認等が行われた。次研究会期におけるSGの役職については、SG6(放送業務)の議長に西田 幸博氏(NHK)、SG4(衛星業務)の副議長に河合 宣行氏(KDDI)、SG5(地上業務)の副議長に新 博行氏(NTTドコモ)がそれぞれ任命された。次会期においても引き続き無線通信分野の国際標準化活動に積極的に貢献していく。

2015年(平成27年)11月に開催された世界無線通信会議(WRC-15:World Radiocommunication Conference 2015)においては、携帯電話用の周波数帯の追加特定や自動運転の実用化を加速する自動車用レーダーへの周波数の追加分配等に関する審議が行われた。また、WRC-15においては、次回2019年(平成31年)に開催が予定されているWRC-19の議題についても審議が行われ、我が国が2020年頃の実用化を目指している、第5世代移動通信システム(5G)で使用する周波数帯等が議題として承認された。我が国としては、5Gをはじめとする我が国のワイヤレスサービスの国際競争力の強化に資するよう、引き続き、WRC-19に向けたITUの関係会合の議論に積極的に貢献していく予定である。

(イ)ITU−Tにおける取組

ITU−Tでは、通信ネットワークの技術、運用方法に関する国際標準や、その策定に必要な技術的な検討が行われている。

このITU−Tの最高意思決定会合である世界電気通信標準化総会(WTSA:World Telecommunication Standardization Assembly)は4年に1度開催される。本年はその開催年であり、10月25日から11月3日まで、チュニジア(ヤスミン・ハマメット)にて開催される。WTSAでは次期のSG構成、役職者の指名、研究課題、新規・改定決議等について審議される。

また、レビュー委員会6からの提言に基づき、2015年6月のTSAG7でIoTとスマートシティ・コミュニティに関する研究を行う新たなSGとしてSG20が設置されたが、WTSA以外での研究会期中の新SGはITU−Tの歴史で初のことであった。

また、将来の重要な通信基盤である第5世代移動通信システム(5G/IMT−2020)の実現に向けて、周波数や無線技術だけでなく、これを支える有線技術や有線・無線の連携技術を含むトータルなネットワーク技術が必要となるため、2015年(平成27年)5月のSG13(移動及びNGNを含む将来網)会合でフォーカスグループ「FG IMT−2020」が設置され、ITU−Tによる5Gの検討が始まった。2015年(平成27年)は同グループが全4回開催され、5Gの実現に向けた「ネットワークのソフトウェア化」や「モバイルフロントホール/バックホール」等の主要な技術課題に関する標準化領域の明確化等を行い、成果文書を同年12月のSG13に報告した。2016年(平成28年)以降は、SG13及び同グループにおいて主要な技術課題の標準化(ITU勧告化)を見据えた審議等が行われ、ITU−R等の標準化団体や各国・各地域で活動している5Gの推進団体とも連携を図りながら、5Gの実現に向けたネットワーク技術の検討が進められる予定である。

(ウ)ITU−Dにおける取組

ITU−Dでは、途上国における電気通信分野の開発支援を行っている。年2回の会合期間(9月のSG会合、4〜5月のラポーター会合)中に集中的に各研究課題について議論を行い、ベストプラクティスの共有とガイドラインの策定を通じ、途上国のデジタル・ディバイドの解消を目指している。ITU−Dにおける最高意思決定会議として4年に1度開催される世界電気通信開発会議(WTDC−14:World Telecommunication Development Conference 2014)が、2014年(平成26年)3月〜4月に、アラブ首長国連邦(ドバイ)で開催され、今後の活動指針となる宣言及び行動計画等の採択が行われた。SG等の議長・副議長については、我が国から新たに副議長1名が任命された。

また、東日本大震災の教訓を踏まえて総務省が研究開発した「移動式ICTユニット(MDRU:Movable and Deployable ICT Resource Unit)」が、災害対策用の通信システムとして国際的に高く評価されて2013年(平成25年)11月にITUが主催するブロードバンド活用事例コンテストで優勝したこと、同時期にフィリピンが大規模な台風で被災し通信インフラが壊滅的な被害を受けたことが契機となり、ITU、総務省及びフィリピン政府が協力して、フィリピンにおいてICTユニットを用いた実証実験を行う共同プロジェクトが2014年(平成26年)12月から2016年(平成28年)3月まで実施された。共同プロジェクトでは、フィリピンの台風被災地(セブ島・サンレミジオ市)の市庁舎等にICTユニットを設置してWi−Fiネットワークを構築し、通話やデータ通信に係る技術的な機能検証、住民参加での有効性確認、現地自治体への技術トレーニングや防災体制整備等が実施された。共同プロジェクトの実施結果を受けて、サンレミジオ市によるICTユニットの実運用及び追加導入が決まった。

オ 国際連合
(ア)国連総会第一委員会

軍縮と国際安全保障を扱っている国連総会第一委員会においては、2014年(平成26年)7月から「国際安全保障の文脈における情報及び電気通信分野の進歩」に関する政府専門家会合(GGE:Group of Governmental Experts)第4会期で、国家のICT利用に関する規範やサイバー空間におけるルールづくり等について議論がなされ、2015年(平成27年)7月にGGE第4会期の報告書が取りまとめられた。

その後、同年12月の第70回国連総会において採択された「国際安全保障の文脈における情報及び電気通信分野の進展」決議によりGGEが第5会期として再設置され、2016年(平成28年)8月にニューヨークにおいて同会期の第1回会合が開催される見込みである。

(イ)国連総会第二委員会・経済社会理事会(ECOSOC)

経済と金融を扱っている国連総会第二委員会においては、開発とICTについての議論が行われている。2003年(平成15年)にジュネーブで、2005年(平成17年)にチュニスで開催された世界情報社会サミット(WSIS:World Summit on the Information Society)のフォローアップが、経済社会理事会(ECOSOC:Economic and Social Council)に設置されている「開発のための科学技術委員会」(CSTD:Commission on Science and Technology for Development)を中心に行われ、ECOSOCを経て国連総会第二委員会においても議論された。WSISに関する主要な課題の一つであるインターネット・ガバナンスについては、インターネット政策に関する協力強化の一環として、CSTDに設置された「協力強化に関するワーキンググループ(WGEC:Working Group on Enhanced Cooperation)」において議論がなされた。

2015年(平成27年)5月に開催されたCSTD第18回年次会合では、CSTDとしての「WSIS成果の実施状況に係る10年レビュー報告書」をECOSOC決議案に盛り込む形で国連総会へ提出することをコンセンサス採択した。そして、同年12月、第70回国連総会における二日間のハイレベル会合を経て、「WSIS成果の実施に関する全体総括レビューに係るハイレベル会合における成果文書」決議が同総会において採択された。

なお、同決議には、2016年(平成28年)7月までにCSTDへWGECを再設置することが盛り込まれており、同年5月開催のCSTD第19回年次会合において当該再設置に係る議論がなされる見込みである。

(ウ)インターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF)

インターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF:Internet Governance Forum) は、インターネットに関する様々な公共政策課題について対話を行うための国際的なフォーラムであり、2006年(平成18年)以降毎年開催されている。同フォーラムは、2005年(平成17年)のWSISチュニス会合の成果文書に基づき国連が事務局を設置し、政府、産業界、学識者、市民社会等のマルチステークホルダーによって運営されている。

2015年(平成27年)11月には、ブラジル(ジョアン・ペソア)において第10回会合が開催され、「インターネット・ガバナンスの進化:持続可能な開発の強化」をメインテーマとして、150を超えるセッションや世界各国の閣僚等が参加する高級閣僚級会合等が開催され、インターネット経済、持続可能な開発、サイバーセキュリティ、ネットワークの中立性、インターネット上の人権等について議論が行われた。

カ 世界貿易機関(WTO)ドーハ・ラウンド交渉

2001年(平成13年)11月から開始された世界貿易機関(WTO:World Trade Organization)ドーハ・ラウンド交渉では、サービス貿易分野において最も重要な分野の一つとされている電気通信分野について、電気通信市場の一層の自由化に向けた積極的な交渉が展開されている。我が国は、WTO加盟国の中で最も電気通信分野の自由化が進展している国の一つであることから、諸外国における外資規制等の措置について、撤廃・緩和の要求を行っている。同ラウンド交渉は、各国の意見対立により中断、再開を繰り返している。サービス分野においては、2011年(平成23年)末の第8回WTO閣僚会議以降、「新たなアプローチ」の一環として我が国を含む有志国によるサービス貿易自由化に関する議論が継続的に行われ、21世紀にふさわしい新サービス貿易協定(TiSA:Trade in Services Agreement)の策定に向けて、2013年(平成25年)6月から本格的な交渉段階に入っている。2016年(平成28年)1月には非公式閣僚会合が行われ、交渉に参加している23カ国・地域のうち、19カ国・地域が参加し、2016年(平成28年)中の妥結を目指した交渉の加速化を進めることで一致した。

キ 経済協力開発機構(OECD)

経済協力開発機構(OECD:Organisation for Economic Co−operation and Development)では、デジタル経済政策委員会(CDEP:Committee on Digital Economy Policy)における加盟国間の意見交換を通じ、情報通信に関する政策課題及び経済・社会への影響について調査検討を行っている。OECDの特徴は、他の国際機関に比べ、最新の政策課題について、経済的な観点から、より客観的・学術的な議論を行う点にある。CDEPは、通信規制政策、情報セキュリティ、プライバシー等の分野において特に先導的な役割を果たしている。

2016年(平成28年)6月にはメキシコ(カンクン)にて、イノベーション、成長、社会繁栄を主なテーマとしたデジタル経済に関する閣僚級会合が開催される予定である。

ク その他

インターネットの利用に必要不可欠なIPアドレスやドメイン名といったインターネット資源については、重複割当ての防止等全世界的な管理・調整を適切に行うことが重要である。現在、インターネット資源の国際的な管理・調整は、1998年(平成10年)に民間団体として発足したICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers) が米国政府との契約に基づいて行っており、ICANNは、年に3回の会合を開催し、IPアドレスの割当てやドメイン名の調整のほか、ルートサーバー・システムの運用・展開の調整や、これらの技術的業務に関連するポリシー策定の調整を行っている。総務省は、ICANNの政府諮問委員会(各国政府の代表者等から構成)の正式なメンバーとして、その活動に積極的に貢献している。2016年(平成28年)6月には、我が国の前村 昌紀氏(一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC))がICANNの新しい理事として選出された(任期は同年11月から3年間)。

2014年(平成26年)3月には、米国政府が、ドメイン名システムに関して同国が担ってきた役割を民間部門に移管する意向を表明したため、その後、ICANNにおいて、米国政府との契約を解消し、ICANNが完全に独立するために必要な新たな体制やICANNの説明責任を確保するための仕組みについて検討が行われてきた。2016年(平成28年)3月にモロッコ(マラケシュ)で開催された会合では、その検討結果が取りまとめられ、米国政府に提出されたところ、同年6月、米国政府の審査が完了し、今後は米国議会において審議が行われる見通しである。



5 第8回日・ASEAN情報セキュリティ政策会議:http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu03_02000101.html別ウィンドウで開きます

6 レビュー委員会: ITU−Tの構造や標準化の検討手法、他の標準化団体との連携・協力機能等を再検証し、WTSA−16へ提案を行う組織として、2012年のWTSAにおいて設置。

7 Telecommunication Standardization Advisory Group:ITU−Tにおける標準化活動の優先事項、計画、運営、財政及び戦略を検討する会合。

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