総務省トップ > 政策 > 白書 > 28年版 > フランス
第2部 基本データと政策動向
第11節 海外の政策動向

(3)フランス

フランスでは、2012年5月のオランド大統領就任を機に、ICT関連政策の中心がインフラ整備からデジタル・サービス振興にシフトした。仏政府は2000年代後半に通信事業者と地方自治体の協力によるFTTx網拡大に関する法規則の整備を実施したものの、ADSLでの安価なバンドルサービスが同時期に普及したこともあり、最大通信速度30Mbps以上の「超高速ブロードバンド」の伸びは着実ではあれ緩やかである30。一方でLTE網の拡大やスマートフォンの普及もあり、モバイルを中心にコンテンツ利用やサービスへの需要は増大している。

仏政府はこの傾向に鑑み、「技術中立」な見地で、国際市場への進出を含むデジタル産業の振興と市民が関連サービスを安全に享受し得る、また各種サービスを通じて社会活動に参加し得る環境を整備することを国家政策の要としている。

ア デジタル共和国戦略・デジタル共和国法案

デジタル共和国戦略は、経済成長、雇用の伸長及び国際社会での地域強化の鍵は官民双方のデジタル・サービスの発展にあるという認識の下、2015年6月に仏政府により公表されたもので、「デジタル・サービスの提供モデルとしての国家」等、4つの主要方針の下で、14の政策の行動計画を提示している。仏政府は2000年代から数年ごとにデジタル社会化に対する一連の行動計画31を提示してきた。2012年の政権交代後は、支援の中心がインフラ構築からデジタル・サービス産業振興と各種サービスの市民への普及に移ってきたが、今回の戦略では、特にデジタル・ベンチャー支援とオープンデータ、オープン・イノベーションが重視されている。

同戦略に基づき、仏政府は、「デジタル共和国法案」を起草し、2016年2月現在議会での審議が続いている。

イ FRENCH TECH

FRENCH TECHは、オランド大統領が2013年初めから推進している一連のデジタル産業振興・国際競争力強化政策の一環であり、経済・産業・デジタル省の主導によるベンチャー支援プログラムである。仏政府は、それまでも、先端産業育成プログラム「未来への投資」(2010〜)等へのデジタル・ベンチャーの参加を促してきたが、FRENCH TECHではデジタル産業のエコシステム進展の中心はベンチャー企業にあるという観点から、支援の対象を特に新興企業に絞り、仏国内外における仏スタートアップ企業の国際レベルでの活性化に向けたネットワークの形成と国内外でのデジタル化関連を中心とする仏製品のブランド力向上を主目的としている。運営主体は、起業家、投資家、技術者、開発者、大企業、業界団体、メディア、公共団体、研究機関等、スタートアップ及び国際展開に関わる多様な関係者によって構成され、経済・産業・デジタル省の複数の部局と政府金融機関が制度面及び財政面でそれを支えている。国外の拠点となるハブを順次設置しており、2015年10月には、日本にも「フレンチテック東京」を設置した。

ウ 国家デジタルセキュリティ戦略

国家デジタルセキュリティ戦略は、2015年10月、首相府により公表されたサイバースペース上のセキュリティに関する戦略であり、監督・執行機関は、首相府防衛・国家安全総局(SGDSN)及び同局下の国家情報システムセキュリティ庁(ANSSI)である。仏政府のこれまでの政策では、主に省庁・企業のセキュリティ確保が主眼であったが、国家デジタルセキュリティ戦略では、市民の生活の安全確保を重視している点が特徴的である。

同戦略は、「デジタルセキュリティは政府、サービス事業者及び市民の共同の責務」、「国民の個人情報への侵害は国家の安全上の重大用件」、「仏企業のデジタルセキュリティ製品・サービスは産業界での国際競争力強化の重要要件」という観点から、主要な目的を①国防、②デジタルの信頼性向上、③セキュリティ教育、④デジタル関連企業支援、⑤欧州域内におけるサイバー空間の安定性、の5項目にまとめている。

エ 通信市場新規制戦略

通信市場新規制戦略は、前述のデジタル共和国戦略に応じ、電子通信・郵便規制機関(ARCEP)により公表された2016〜2017年の規制実施計画であり、デジタル・サービス産業育成を主眼とする同戦略の主要目標に合わせて、規制の中心を競争市場調整からデジタル化への投資振興へシフトする方針を明確化している。2015年に各種諮問機関及び事業者に対して行われた意見募集では、①通信インフラへの有効投資及び生産的な競争の促進、②国内全土を光ファイバ及びモバイル網でカバー、③通信網の信頼性保証、④新しいモバイル・サービスに対応するネットワークの構築、⑤法人向け市場での有効競争の促進、⑥モノのインターネットやスマートシティサービス、及びそれらに対応する次世代網に関する規制計画の策定、⑦デジタル社会におけるインターネットの開放性と中立性の保証、が優先事項とされている。

2016年1月には、意見募集の結果に基づき、21項目についてのロードマップが公開された。



30 サービス開始後約10年を経た2015年末、「超高速ブロードバンド」に接続可能な建造物は1,000万を超えたが、加入者数は約430万で、固定ブロードバンド加入者全体の1割強である。

31 前サルコジ政権下の「デジタル・フランス2008」「デジタル・フランス2012-2020」、オランド大統領が2013年2月に発表した「デジタル化に関する政府活動ロードマップ」等。

テキスト形式のファイルはこちら

ページトップへ戻る