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第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI〜ネットワークとデータが創造する新たな価値〜
第2節 市場規模等の定量的な検証

(2)クラウドサービス市場

クラウドサービスとは、インターネット上に設けたリソース(サーバー、アプリケーション、データセンター、ケーブル等)を提供するサービスであり、前述したデータセンターはクラウドを構成する要素の一部と捉えることができる。米シスコ社6によれば、クラウドサービス市場の拡大により、2019年までに世界のデータセンターに係るトラヒックのうち83%がクラウド上を流通し、またデータセンターにおける処理量の約80%がクラウド上で処理されると予想されている。

クラウドサービスの需要が急増している背景として、AWS(アマゾン ウェブ サービス)をはじめとするメガクラウドサービスの普及などが挙げられる。こうしたサービスの普及により、従来はユーザーが所有するICTプロダクトをデータセンターが預かる「ハウジング」がデータセンタービジネスの中心だったのに対して、ICTプロダクトは「所有するもの」から「利用するもの」へと、企業の意識が変わってきている。また、クラウドサービスに係るセキュリティや機能向上が進んだことなどから、企業の情報系システムやインターネット関連システム、開発環境などにおいて、クラウドサービスの利用が進展している。

IHS Technologyによれば、世界のクラウドサービス市場規模は2015年時点で931億ドルに達しており、データセンター市場の約6倍の規模となっている。また、2019年に向けては、従来市場を構成していたIaaS(Infrastructure as a Service)やSaaS(Software as a Service)に加え、CaaS(Cloud as a Service)、PaaS(Platform as a Service)が急成長することが予想される7図表2-2-3-3)。コンテナ型仮想化サービス8や、ビッグデータ解析サービスが市場をけん引すると予想されている。

図表2-2-3-3 世界のクラウドサービス市場の売上高推移
(出典)IHS Technology

こうした今後のICT産業の成長を支えるクラウドサービス市場においては、米国を中心とするグローバルICT企業の存在感が強い。2015年時点では、上位5位までに位置する米国企業で市場の約35%を独占しており、市場全体でみても約半分が米国企業である(図表2-2-3-4図表2-2-3-5)。このように、今後のデータトラヒックの拡大及びそれに伴うICTビジネスのけん引にあたっては、引き続き米国企業が主導することが予想される。

図表2-2-3-4 世界のクラウドサービス市場における上位20社の市場シェア(2015年)
(出典)IHS Technology
図表2-2-3-5 世界のクラウドサービス市場における主要事業者の国籍別シェア(2015年)
(出典)IHS Technology

前節で概観したようにネットワークに接続するデバイスの数は爆発的に拡大しており、これらのデバイスが生成するデータは指数関数的に増加している。こうした膨大なデバイスやデータを従来のようにクラウドで運用していくためには多大なコストと手間がかかる。また、高いリアルタイム性が求められるアプリケーションや、ビッグデータを扱うサービスは、クラウドコンピューティングで処理しきれず、遅延が発生してしまう課題がある。

こうした課題の解消に向け、近年の技術的トレンドの一つとして「エッジコンピューティング」が挙げられる。エッジコンピューティングとは、従来のクラウドコンピューティングを、ネットワークのエッジにまで拡張し、物理的にエンドユーザーの近くに分散配置するという概念である。ネットワークの「エッジ」とは、通信ネットワークの末端にあたる、外部のネットワークとの境界や、端末などが接続された領域を指す。すなわち、データとその処理をクラウドに集約するのではなく、データが生成される場所に近い部分にアプリケーションを配置することで、より多くのデータを活用し、価値を引き出すことを目的としている(図表2-2-3-6)。

図表2-2-3-6 エッジコンピューティングのコンセプト
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)

類似する概念として、米シスコが独自に提唱するフォグコンピューティング(クラウド(雲)に対して、ネットワークのエッジ側に配置される領域をフォグ(霧)と称している)が挙げられる。クラウドと端末等の間にフォグのレイヤーを設けて、フォグで必要な処理を行い、さらにフォグとクラウドが連携することによって処理の効率化を実現できるのが、フォグコンピューティングのメリットである。ネットワークに大量のデバイスが接続し、爆発的にデータトラヒックが生成される今後のIoTの時代においては重要な技術基盤になる。フォグコンピューティングは、処理をエッジ側で実行できる機能等を搭載したルーター等のネットワーク機器が流通することで実現していく。実際に、こうしたネットワーク機器の市場化は進展しつつあり、その代表的製品であるマイクロサーバー9市場(出荷台数)は、2015年から2016年にかけて大きく成長し、以降は緩やかに拡大していくことが予想されている(図表2-2-3-7)。

図表2-2-3-7 マイクロサーバー市場(出荷台数)の推移及び予測
(出典)IHS Technology

エッジやフォグコンピューティングは、ディープラーニングなどの人工知能(AI)技術と組み合わせることで、様々なサービス・アプリケーションの実装が考えられる。先進的な事例として、ファナック、シスコシステムズ、Preferred Networks、ロックウェルオートメーションの4社が発表した、製造業の現場で稼働する機械を自動制御するための日本発のIoT共同開発プラットフォーム「FIELD system」(FIELD:FANUC Intelligent Edge Link and Drive)が挙げられる10。ファナックは、主に工作機械用・産業用ロボットを手掛ける日本の電気機器メーカーであり、またPreferred NetworksはIoTにフォーカスしたリアルタイム機械学習技術のビジネス活用を専業とする日本のベンチャー企業である。FIELD systemはフォグ層に位置するアプリケーション開発用のプラットフォームであり、製造現場やディープラーニングに必要なアプリケーションがセットで提供される。CNC(コンピュータ数値制御装置)、ロボット、工作機械、各社のセンサーなどからデータを受け取り、フォグでデータを処理する分散協調型の機械学習により、機械同士のリアルタイム連携を実現し、産業用ロボットの生産性向上を図るという。従って、クラウドとのデータの送受信は最小限に抑えることができ、セキュリティの確保やクラウド側での負荷軽減が可能になる。ファナックは、このように全てをクラウドに委ねないアーキテクチャを「エッジ・ヘビー」と表現している(図表2-2-3-8)。

図表2-2-3-8 FIELD systemの概要
(出典)ファナック資料


6 Cisco VNI: Forecast and Methodology, 2014-2019.

7 インターネット経由でソフトウェアパッケージが提供される「SaaS (Software as a Service)」、インターネット経由でハードウェアやICTインフラが提供される「IaaS (Infrastructure as a Service)」、そして、SaaSを開発する環境や運用する環境がインターネット経由で提供される「PaaS (Platform as a Service)」、またクラウドの上でほかのクラウドのサービスを提供するハイブリッド型の「CaaS(Cloud-as-a-Service)」が挙げられる。

8 「コンテナ」技術とは、複数のOSバージョンを必要とするICTシステムを1つのOS環境に集約できる技術であり、クラウドサービスの普及において重要な技術の一つと言われている。代表的サービスとしてDockerが挙げられる。

9 一つのボードにCPUほかチップセット、電源、冷却ファンほか周辺部品がユニット化された小型のIoT/エッジコンピューティング向けサーバー。

10 http://www.fanuc.co.jp/ja/whatsnew/notice/osirase20160418.html別ウィンドウで開きます

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