総務省トップ > 政策 > 白書 > 28年版 > パーソナルデータの分散管理
第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI〜ネットワークとデータが創造する新たな価値〜
第3節 公共分野における先端的ICT利活用事例

(2)パーソナルデータの分散管理

ア パーソナルデータの分散管理(PLR:Personal life repository)の概要

医療機関や介護事業者が連携して患者(被介護者)を支援する地域医療連携等を実現するには、事業者の間で患者のデータを共有する必要があるが、データ共有を実現するためには解決しなければならない問題がいくつかある。東京大学の橋田浩一教授は、パーソナルデータの受け渡しに関する本人同意の取得にかかるコストが大きいという問題、多数の事業者にわたって集約された個人のデータを集中管理すると情報漏えいの被害とその対策にかかるコストが過大であるという問題、また競合する事業者の間でのデータの授受が困難だという問題を指摘している。

このような問題を解決すべく、同氏はパーソナルデータを本人がスマートフォン等から管理するPLR(Personal Life Repository:個人生活録)を提唱している。PLRは、個人のパーソナルデータを端末とクラウド(Google Drive、Dropbox等)に暗号化して保管し、必要に応じて個人が自らの意思で特定の相手と情報を共有することができる(図表3-3-1-10)、情報の管理を個人に分散する仕組みである。例えば、日常の生活行動や服薬の状況をPLRアプリで記録しておき、医療機関を受診する際に医師と情報を共有して、適切・安全な診断・治療に活用することができる。

図表3-3-1-9 集中管理と分散管理の比較イメージ
(出典)東京大学橋田教授提供資料
図表3-3-1-10 PLRアプリによる医療機関と介護施設の連携イメージ
(出典)東京大学橋田教授提供資料

従来、データの利活用の拡大に伴い情報漏えいの危険性が増すことはやむを得ないと考えられている面もあったが、こうした分散管理は、データ利活用の拡大、安全性、低コストの諸条件を満たす仕組みとして注目される。

イ スマートフォン・クラウド利用ならではの特徴・メリット

スマートフォンアプリによる情報管理の特長として、第一に、導入・運用経費が小さいことが挙げられる。データを保存するクラウドは無料で利用できる既存のクラウドサービスをそのまま利用するため、PLRアプリの運用経費はアプリのメンテナンスコストだけである。メンテナンスコストは利用者の人数に依らないので、利用者が多いほど一人あたりのコストが小さい。

第二に、情報漏えいリスクを低減できる。パーソナルデータを集中管理すると、例えば数百万人分の情報が一度に流出してしまう可能性があり、悪意のある人物の標的になりやすい。一方で、個人に分散してデータを管理すれば、一度に盗むことができるデータが1人分のため、盗むためのコストがメリットを上回り、不正アクセスの動機が生じにくい。

その他の特長として、橋田教授は、患者自らの手で個人情報を共有するこのような仕組みが広く普及すれば、事業者の間で個人情報を直接やりとりする必要がなくなり、事業者の管理コストも削減できるとしている。また、個人が自らの意思で特定の相手と情報を共有する仕組みであるため、我が国の個人情報保護法やEUのデータ保護規則を含むいかなる法令も満たす。

ウ PLRアプリの応用

PLRとの連携が期待されるサービスとして「千年カルテ」がある。これは地域医療連携を促進するために、日本医療ネットワーク協会が全国規模でカルテ等の医療情報を一元的に管理する取組であり、全国で複数の地域で導入が進んでいる。PLRは千年カルテと連携して普及を目指しており、千年カルテに加入した医療機関等の顧客である地域住民に対して導入を促進したいとしている。千年カルテは医療機関から医療情報を収集する仕組みであるが、PLRアプリの持つ日常生活のデータと連携することにより、生活習慣病等にも適切に対処できるようになるとしている。

図表3-3-1-11 PLRアプリと千年カルテの連携イメージ
(出典)東京大学橋田教授提供資料

橋田教授はPLRアプリを地域医療連携以外に応用することも検討している。例えば、エネルギー分野での活用も考えられる。個人の電力使用のデータをPLRアプリで個人が管理すれば、その情報を現在契約している電力小売事業者以外にも提供することで、自身のニーズに応じた料金プランの提案を受けられるなどのメリットが考えられる。

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