総務省トップ > 政策 > 白書 > 28年版 > ICTによる企業の生産性向上の意義
第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI〜ネットワークとデータが創造する新たな価値〜
第2節 経済成長へのICTの貢献〜その具体的経路と事例分析等〜

(1)ICTによる企業の生産性向上の意義

ア 我が国産業の情報化投資の経緯

90年代の米国経済においては、ICT投資を中心とした設備投資の拡大が長期的成長の要因として指摘され、産業革命に匹敵する変化として「ICT革命」とも呼ばれている。すなわち、ICT投資が需要として景気に対して直接的影響を与えるのみならず、供給の構造に作用し、資本ストックと全要素生産性1の上昇に寄与して経済全体の労働生産性上昇につながったこと、ICT生産産業のみならずICT利用産業においてもICTの活用によって労働生産性が上昇したことが重要であると指摘されている2

他方、我が国では、経済のバブル崩壊後、設備投資が加速せず、次なる成長の機会を十分創出することなく、「失われた10年」と称されるように90年代の低迷を迎えた。先行研究によれば、90年代以降、ICTへの投資が停滞したため、日本ではICT革命に乗り遅れ、90年代の米国のような新たな成長が起こらなかったと言及されている。しかしながら、部門別でみると、Fukao et al.(2015)によれば、日本のICT“製造”部門の生産性の伸びは、米国を始め他の先進国と比べて遜色がないほど高く、90年代以降日本経済の成長を牽引してきた最も重要な産業の一つであったが、ICTを“利用”する産業(流通業やサービス業3など)においてICT投資が加速せず生産性が伸びなかったと指摘している(図表1-2-2-1)。

図表1-2-2-1 主要先進国流通業における情報通信技術投資の対粗付加価値比率
(出典)深尾「生産性・産業構造と日本の成長」RIETI Policy Discussion Paper Series 15-P-023(平成27年)

ICT投資の低迷に加えて、我が国ではICT投資の位置付けの特徴も成長の制約要因として指摘されている。すなわち、日本の企業は、これまでICT投資を主として業務効率化及びコスト削減の実現手段と位置づけており、「ICTによる製品/サービス開発強化」、「ICTを活用したビジネスモデル変革」、「新たな技術/製品/サービス利用」などへの期待度が米国と比べて著しく低いと指摘されている。このようなICT投資に対する取組姿勢の違いから、ICT技術や製品・サービスで先行する米国に比べて、日本ではICT投資が付加価値向上につながらなかった可能性がある(図表1-2-2-2)。

図表1-2-2-2 IT予算を増額する企業における増額予算の用途
(出典)一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)、IDC Japan(株)「ITを活用した経営に対する日米企業の相違分析」調査結果(2013年10月)
イ IoT時代におけるICTを通じた生産性向上

我が国では、「世界最先端IT国家創造宣言」において、「基本理念」として「『成長戦略』の柱としてITを成長エンジンとして活用」すること、「目指すべき社会・姿」に「革新的な新産業・新サービスの創出と全産業の成長を促進する社会の実現」が掲げられており、ICT産業に限らず、あらゆる分野や産業においてICTの投資や利活用の促進が期待される。日本における非製造業の産業分野が経済全体に占めるシェアは、製造業と比較して相対的に大きいことから、これらの産業分野において生産性を上昇することができれば、経済全体の生産性向上に寄与することが期待される。とりわけ、様々な分野での利活用が期待されるIoT・ビッグデータ・AIの時代において、我が国としては過去の教訓を活かしていくことが重要となる。すなわち、「ICTに係る投資」と「ICTの利活用」は一体的に捉えて、ICT投資をより一層活かしながら、生産性を高めていくことが我が国経済成長において不可欠である。こうした「攻めのICT投資」への転換により、新たな商品・サービスの提供やビジネスモデルそのものの変革など、それまでのビジネスを大きく上回る付加価値を生み出すことによって、労働生産性を上昇させる可能性が増大すると考えられる。また、社会保障、税、災害対策のための本格利用が開始された「社会保障・税番号制度(マイナンバー制度)」も、今後のICT投資と社会実装による経済貢献が期待される重要な取り組みといえる。



1 労働や資本といった生産要素以外で付加価値増加に寄与する部分であり、具体的には技術の進歩、無形資本の蓄積、労働者のスキル向上、経営効率や組織運営効率の改善などを表す。詳細な分析は第3節参照。

2 ICTの経済成長への貢献、またその日米比較については、本文中にて言及しているFukao et al.(2015)のほか、次の文献が詳しい。篠崎(2014年)『インフォメーション・エコノミー』(日本評論社)、深尾(2012年)『「失われた20年」と日本経済 構造的原因と再生への原動力の解明』(日本経済新聞出版社)、宮川他(2015年)『無形資産投資と日本の経済成長』(RIETIディスカッションペーパー)

3 サービス業は、公共サービス、対事業所サービス、対個人サービスの3つに大別されるが、アンケート調査では民間企業・団体に着目したことから、公共サービスや公務は対象外としている。

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