総務省トップ > 政策 > 白書 > 28年版 > サービスロボットの事例、最近の動き
第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI〜ネットワークとデータが創造する新たな価値〜
第1節 IoT時代の新たなサービス

(2)サービスロボットの事例、最近の動き

サービスロボットの例をまとめたものが下記の表である(図表3-1-5-2)。

図表3-1-5-2 サービスロボットの例
(出典)総務省「IoT時代における新たなICTへの各国ユーザーの意識の分析等に関する調査研究」(平成28年)

国内外で家庭用等のコミュニケーションロボットが次々に開発、市場投入されている。また、業務においても、従来は生産ラインの「もの言わぬロボット」であったのに対して、接客等のコミュニケーションがメインの業務を担うものも出始めている。

一方、超高齢社会の到来に対応した介護や高齢者生活支援のロボットも実用的なものが現れている。その中には高品質な音声や高解像度の映像によって相手とその場で対面しているような臨場感を提供する技術(テレプレゼンス技術)を用いることで移動が困難な障害者等の社会参加を可能にするユニークなものもみられる。さらに、ロボットの実像が明らかになる中で、ユーザーに近いサービス企業自身が従来からある自社の機器と組み合わせて「ロボット化」して活用することを想定したものや、ロボットを動作させるソフトウェアをサービス企業自身が開発して自社サービス用にカスタマイズして使用する事例など、ロボットをよりユーザーのニーズに即したものにする取り組みも出現している。


<病院におけるパートナーロボットの活用>

パナソニックでは、労働力不足が社会的な課題となることを想定して、2004年頃に工場内のロボット技術を応用し、病院での搬送用ロボットを開発した。当時は普及しなかったが、その後開発は続け、2013年には病院内で薬品や検体の搬送を自動で行う自律搬送ロボット「HOSPIR」を発売した。HOSPIには薬剤トレーを6段収納できる大きさの収納庫を備え付けており、そこに入るものであれば、薬剤以外の搬送も行うことができる。収納庫の施錠、解錠は職員の持つIDカードで行う。カードがないと収納庫が開かない仕組みである(図表3-1-5-3)。

図表3-1-5-3 HOSPIの収納庫
(出典)みずほ情報総研撮影

HOSPIは高さ1345mmと大人の人間よりはやや小さくなっている。大き過ぎると威圧感があり、小さ過ぎると搬送量が減ってしまうため、バランスを取り現在のサイズとした。重心は低い位置にあり、横から力が加わっても転倒しにくいように設計している。ロボットの転倒に関する社内基準を制定しており、これを満たしている。

HOSPIには病院建物内の地図情報が入っている。HOSPIからレーザーを照射し、自分の位置や周囲の障害物を把握することで、自律走行を行う。足元、両肩、前に合計4つのセンサーが装備してあり、周囲の障害物をリアルタイムで認識している。人や車いすとも自動的にすれ違うことができる。HOSPI移動のためのラインの敷設やランドマーク等の設備は不要である。

秒速1m程度(人が歩くスピードとほぼ同じ)で移動する。移動中のHOSPIを見た患者からは、「想像していたよりも速い」という声が多い。HOSPIの周囲に人や障害物があるときには、移動速度が遅くになるように制御している。

行き先はあらかじめ設定された目的地からタッチパネルで選択する。目的地に到着すると、室内の通知灯が点灯し、周囲の職員にHOSPIの到着を通知する。HOSPIの位置情報や収納庫の開閉は常にモニタリングされている。ディスクレコーダーにHOSPIのカメラからの映像を保存しており、必要となった場合に参照できる。

稼働時間は7時間であり、充電器のある場所だけでなく、出先で待機することもできる。充電装置に自ら移動し、自動充電を行うこともできる。初期のHOSPIには自動充電機能はなかったが、顧客からの要望を受けて機能を追加した。指定した場所に自動で戻るように設定することもできる。


<導入状況と導入時の工夫点>

松下記念病院では、5台のHOSPIを導入している。機能は全て同じであるが、ピンク、グレー、イエロー、オレンジ、ブルーで色分けがなされている。獨協医科大学病院、埼玉医科大学国際医療センターにも導入されており、運ぶものによって、薬剤用、検体用等、HOSPIの色によって用途を使い分けることもある。HOSPIはスタッフの必要なタイミングで自由に使えるようにしている。人手が少なくなる夜間や土日の運用が多く、松下記念病院では5台のHOSPIによって1ヶ月で1,000回以上の搬送を行っている。10年前の導入から事故は起こっておらず、病院からの信頼を得ている。

松下記念病院では導入の前に、薬剤搬送の実態や薬剤の取り揃え等について業務分析を行った。この結果、搬送に時間がかかっていることが明らかとなり、HOSPIの導入に繋がった。病院内の業務分析は工場内の業務分析と同様の手法で行った。HOSPI導入の際には、病院内の設備(ベット、ストレッチアーム、車いす等)を確認し、リスクアセスメントを行っている。

HOSPI導入の際に新たにICカードを配布することもあるが、既に病院で利用しているICカードにRFタグを貼り付けることでも利用できる。病院からの要望があれば、ICカードを用いた他のサービスを提供する可能性もある。


<導入の効果>

HOSPIは病院内の従来の搬送機器(エアシュータや軌道台車等)と比較すると、導入台数を柔軟に変更することができる利点がある。一旦システム導入すれば、後から台数を追加することが可能であるため、試験的に導入することができる。また、従来の搬送機器を導入する際には、建屋内の工事が必要であったが、HOSPIはこのような工事が不要なため、導入の初期費用が安くなる。さらに、従来の搬送機器では運用、管理のための人が常駐する必要があったが、HOSPIは不具合がなければ専門の人員がいなくても運用でき、ランニングコストが安くなる。

HOSPIは人の代わりに薬剤や検体を運ぶことで、職員の搬送の手間が減らせるため、薬剤のオーダーから受け渡しまでの搬送時間が短縮化でき、夜勤の負担の軽減や、職員が本来業務に注力できるようになる等の効果がある。導入以前は夜間、休日等に看護師が薬剤を運んでいたため、ナースコールにすばやく対応することが難しくなる可能性があった。(図表3-1-5-4

図表3-1-5-4 HOSPIの導入効果の例(薬剤受け渡し時間の短縮化)
(出典)パナソニック提供資料

また、HOSPIを導入することによって、病棟の薬剤の在庫を減らす、無駄な薬剤の搬送を減らす、人が運ぶよりも試料の泡立ちが少ない等の効果が得られている。薬剤を間違えてしまうリスクを低減することもでき、仮に、間違いが起こった場合でも、搬送ログを参照することで、原因を把握できる。海外では、悪意のある職員の内部犯行をログによって牽制する効果もある。


<今後の普及に向けて>

松下記念病院へHOSPIを導入する際には、看護師からは「薬が適切に運ばれるか不安である」という声があったが、確実に搬送できることが分かってからは信頼を得られている。患者もロボットの存在に違和感はなく、可愛がってもらっている。HOSPIのディスプレイは優しい顔の表情を表しており、クリスマスの衣装を着せられる、旧正月の飾り付けをされる等、職員の手によってデコレーションされたこともあった。愛称を付けられているケースもある。(図表3-1-5-5

図表3-1-5-5 HOSPIのディスプレイ部
(出典)みずほ情報総研撮影

シンガポールのチャンギ病院にも4台のHOSPIが導入されている。シンガポールのHOSPIは英語でアナウンスを行う。導入した病院に取材が来ることはあり、世界中で話題になった。HOSPIを導入した病院が、世界中から先進的な治療をしているというイメージを持たれる可能性がある。

院内搬送ロボットは世界各国で開発が行われており、海外企業との競争の中で事業を行っている。シンガポールのチャンギ病院で導入が決まった際には、機能性、安全性、可用性等が訴求できた。HOSPIは365日24時間安定して稼働する点が強みである。HOSPIの信頼性は日本ブランドとしての強みでもある。

海外でも高齢化が進む中で、人件費が高い国を中心に今後普及の可能性がある。また、日本国内でも地方病院の統合化が進み経営規模が拡大すれば、HOSPIの活躍する機会が増える可能性がある。

テキスト形式のファイルはこちら

ページトップへ戻る