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第2部 基本データと政策動向
第6節 ICT利活用の推進

(2)医療・介護・健康分野におけるICT利活用の推進

ア PHRの推進

総務省は、国民が健康を少しでも長く維持するとともに、良質な健康・医療・介護サービスを享受できる社会を実現する観点から、本人による健康・医療・介護情報の管理・活用の在り方や、モバイル・8Kといった最新のICT技術を活用したサービスの在り方等について検討するため、平成27年6月から、厚生労働省とともに「クラウド時代の医療ICTの在り方に関する懇談会」2を開催し、同年11月に報告書をとりまとめた。

本懇談会では、本人の健康・医療・介護に関する情報であるPHR(Personal Health Record)を、クラウド等を使って本人自らが生涯にわたり、時系列的に管理・活用することで、自己の健康状態に合致した良質なサービスの提供が受けられるものと位置づけ、①「母子健康手帳」等のアナログの手帳で管理してきた分野の例として、「母子健康手帳及び学校の健診情報の一元化」(図表6-6-1-2)、②病院・診療所・個人をつなぐ局面の例として、「病院連携、医療・介護連携」、等をPHRのユースケースの例として取り上げた。

図表6-6-1-2 PHRを活用した母子健康手帳及び学校の健診情報の一元化

今後、懇談会の報告書も踏まえて、個人の健康・医療・介護情報をポータブルかつ効率的に管理できる情報連携技術のモデル構築のための研究事業を実施していく。

イ 医療・介護情報連携ネットワークの全国展開の推進

医療機関等の保有する患者・住民の医療・健康情報を、安全かつ円滑に記録・蓄積・閲覧することを可能とする医療情報連携ネットワークは、患者・医療機関等の負担を軽減するとともに、地域医療の安定的供給、医療の質の向上、さらには医療費の適正化にも寄与するものである。

現在、電子カルテの導入が一部進んでいるが、普及率は医療機関全体の3割程度であるとともに、医療情報連携ネットワークについては運用コストの負担が大きく継続的な運用が課題となっているほか、カスタマイズにより異なるベンダー同士の情報連携が困難となっている。このため、中小の診療所も含めた医療情報連携を推進するためには、クラウド等を活用した低廉なモデルの普及・展開が必要である。

また、「健康を長く維持して自立的に暮らす」ことができるためには、「病院完結型」の医療から、「地域完結型」の医療・介護、地域包括ケアへと転換する国の医療政策とも整合を図りつつ、質の高い医療・介護サービスの提供が不可欠である。そのためには、在宅医療・介護分野における多職種の連携が必須であるが、現状、在宅医療・介護分野ではシステムの規格がベンダーによりまちまちであり、関係者間の情報共有が困難であるケースもみられることから、在宅医療・介護における共有情報やシステムの標準化を促す必要がある。

このような状況を踏まえ、総務省は、高品質で低廉な医療・介護サービスを実現するため、在宅医療・介護分野を含む医療機関等におけるクラウド等を活用した情報連携に関する実証を実施し、この成果をとりまとめて公表している。(図表6-6-1-3)。

図表6-6-1-3 医療・介護情報連携ネットワーク基盤の全国展開

また、東日本大震災では、津波により、病院に保管されていた紙カルテが消失し、患者の病歴や過去の診療情報が失われたため、医療情報連携ネットワークの重要性が注目されることとなった。これを受けて総務省では、厚生労働省及び文部科学省との連携の下、「東北メディカル・メガバンク計画」の実現に向け、被災地域の医療圏において、医療情報連携ネットワークの構築を財政的に支援する措置を平成23年度より講じている。

その結果、平成27年度、集中復興期間までには、岩手県、宮城県及び福島県において7つの整備事業が完了し、宮城県及び福島県では両県内全域、岩手県においては沿岸域を中心とした地域において医療介護分野で使用される情報を保管、共有できるための環境を実現している。

ウ ICT健康モデルの確立

超高齢化社会を迎えた我が国においては、「健康を長く維持して自立的に暮らす」ことができるよう、高齢化の進展と疾病構造の変化、医療・介護等ニーズの増大等に対応し、社会保障制度の持続可能性を確保しつつ、国民が必要な時に、必要なサービスや給付を適切に得られる社会を実現する必要がある。

そのためには、まずは生活習慣病等の発症・重症化の「予防」による健康寿命の延伸を図ることが重要である。これまでの健康づくりの取組は、比較的健康意識の高い人を中心とした小規模なものが多く、具体的な効果に繋がりにくかったことから、国民のライフスタイルに適応した健康維持・増進の仕組みづくりを行うことにより、約7割を占めると言われている「無関心層」へのアプローチが必要である。

このような状況を踏まえ、総務省は、平成26年度から、生活習慣病等予防のための、健診データ等のビッグデータ解析による大規模な実証を行っている。

エ 8K技術の医療分野への応用

8K技術は、超高精細映像を高い臨場感と実物感とともに伝えることができるため、医療分野において活用することにより、様々な領域で革新的な医療サービスが実現する可能性を有している。前述の「クラウド時代の医療ICTの在り方に関する懇談会」においても、8K技術を活用した有望なユースケースの例が挙げられた(図表6-6-1-4)。

図表6-6-1-4 8K技術の活用可能性

これらの実現のためには、カメラや表示装置(モニター)の小型・軽量化及び色の再現性の向上、8K映像の圧縮技術や伝送方式の低遅延化・高品質化等、8K技術が有する課題への対応策を検証し、医療分野において普及していくために必要な技術を確立することが必要である。

こうした8K技術の医療応用の可能性について具体化を進めるとともに、医療分野のインテリジェント化によるイノベーションの実現に向けた高精細映像データの利活用の可能性とその課題について検討するため、「8K技術の応用による医療のインテリジェント化に関する検討会」を立ち上げて検討を開始している。



2 クラウド時代の医療ICTの在り方に関する懇談会:http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/cloud-ict-medical/別ウィンドウで開きます

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