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第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI〜ネットワークとデータが創造する新たな価値〜
第2節 経済成長へのICTの貢献〜その具体的経路と事例分析等〜

(1)ICTに係る商品・サービスやビジネス

ア 経済貢献の概要

ICTは、新たな市場創造の源泉であり、革新的な商品・サービスが次々と開発・提供されている。ICT分野の商品やサービスには、ある商品やサービスが一度市場に広く行き渡ると、その商品やサービスをプラットフォームとして派生的に新たな商品やサービスが創造され、その繰り返しにより新市場が多層的に形成されていくという(プロダクト・イノベーションの連続)特徴がある(図表1-2-4-1)。

図表1-2-4-1 ICTサービスの発展
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)

こうした流れは、スマートフォンやソーシャルメディアやクラウドが普及してきたことで加速したといえる。いわゆる「アーリーアダプター」の関心を集める新しいサービスやアプリケーションの中には、瞬く間に一般消費者にとっては当たり前のものとなるものもある。すなわち、高度な技術や機能を要するサービスであってもその使い勝手が「スマートフォンユーザーに最適化」されることでインターネットに詳しくない人々へ浸透し、ソーシャルメディアによるネットワーク効果も相まって、より大きなマーケットに強く支持されるようになる現象である。こうした取り組みは、「スマートフォン革命」や「アプ・エコノミー」などと言及されるように、ICTが消費者により浸透し、活用され、需要を喚起する原動力となってきたと考えられる。

一方で、ICTに係る商品・サービスはサイクルが早いことから、市場の栄枯盛衰も激しい。我が国経済成長における需要力強化の観点からは、今後はICT市場のみならず、異業種・分野との連携も含め、継続して需要喚起をつないでいくことが求められる。

イ ICTに係る商品・サービスやビジネスの事例

今後は、スマートフォン向けアプリやサービスの枠に収まらずに、あるいは各サービスレベルにおけるトレンドに留まらず、前節でみたようにIoT・ビッグデータ・AIといったバックグラウンド(基礎技術)とも言える大きな仕組みが、今後ICT産業に大きな変革をもたらすことが期待される。具体的には、従来構想や研究、また実験段階を経てきた最新の先端技術が、サービスとして市場に投下される気運が高まりつつあるためである。ここでは、今後特に社会的なインパクトが大きいと考えられる、すなわち需要側から経済成長への貢献が大きいと考えられる、自動車分野、住宅分野、エンターテイメント分野における新たなICTがもたらすサービスやビジネスの事例に着目してみる。


<テレマティクス保険>

テレマティクス保険とは、テレマティクス8を利用して、走行距離や運転特性といった運転者ごとの運転情報を取得・分析し、その情報を基に保険料を算定する自動車保険である。具体的には、自動車などの移動体に通信システムを組み合わせて、リアルタイムに情報サービスを提供することで、自動車に設置した端末機から走行距離や運転速度・急ブレーキ等の運転情報を各保険会社が取得し、当該保険会社が運転者ごとの事故リスクの分析結果から保険料率を算定するモデルである。主に、走行距離連動型のPAYD(Pay As You Drive)と運転行動連動型のPHYD(Pay How You Drive)に分かれ、リスクに応じた詳細な保険料設定により、安全運転の促進の効果及び事故の減少効果がある。欧米市場では、テレマティクス保険が「認知度の向上」、「保険料の減額効果」、「保険料算定における公平感の高まり」を受け、保険加入者数が増加することが予測されている(図表1-2-4-2)。我が国でも、自動車会社及び保険会社においてサービス化が進んでいる(図表1-2-4-3)。

図表1-2-4-2 テレマティクス保険の概要
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
図表1-2-4-3 テレマティクス保険に関する国内事例
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)

<コネクテッドカー>

コネクテッドカーとは、インターネット接続等、ICT端末としての機能を有する自動車のことであり、「路車・車車間無線通信」によって、自動運転等の高度運転支援の実現や車両の状態や周囲の道路状況などの様々なデータの集積・分析を通じた新たなサービスや価値の創出が期待されるものである(図表1-2-4-4)。路車間協調システムでは、車が道路や信号機に設けられたセンサーとの通信により物陰の車や歩行者を検知し、向かって来る車に電波で知らせることにより衝突を回避することが可能となり、運転席からは見えない他の車や人の動きなどを、これまで以上に正確に察知することが可能となる。また車車間協調システムでは、車同士が電波で互いの位置や速度情報を交換し、追従走行、衝突の回避等を自動的に行うことに加え、車が通信ハブとして機能することも可能である。欧米地域でも、コネクテッドカーの早期実用化に向けて、産学官の共同体制を確立し、研究開発や公道等を用いた実証実験などが積極的に実施されている。我が国でも、コネクテッドカー実現に向けて、省庁の枠を超えて先端研究を支援する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」で開発が進んでおり、自動車企業を中心に技術開発及び実証実験などの取組が行われている(図表1-2-4-5)。

図表1-2-4-4 コネクテッドカーの概要
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
図表1-2-4-5 コネクテッドカーに関する事例
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)

<スマートホーム>

スマートホームとは、住宅とICTが融合して、エネルギーの需給量を調整し、省エネルギー・節電を実現したり、センサー等による宅内の見守りや防犯、宅内の家電等の遠隔制御などを可能とした快適な暮らしを実現できる住まいである(図表1-2-4-6)。家電等に通信機能を設置することで、スマートフォン等の端末との連携を可能として、端末を通した遠隔操作や住宅全体のエネルギーマネジメントを可能とする。HEMS(Home Energy Management System)と呼ばれる住宅全体のエネルギーマネジメントは、省エネルギーやピーク電力量の抑制などの効果が期待できる。また、センサー等によって宅内の環境をモニタリングすることにより、離れて暮らす家族の様子などの見守りが可能で、高齢者の孤独死を防止するなどの効果も期待できる。欧米においても、省エネ効果等を期待して、民間事業者を中心にスマートホームに関連した様々なサービスが提供されている。国によっては、政府の補助金提供等を通して、積極的に展開されている。我が国でも、通信事業者や住宅メーカーにおいて取り組みが進んでいる(図表1-2-4-7)。

図表1-2-4-6 スマートホームの概要
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
図表1-2-4-7 スマートホームに関する事例
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
ウ 企業の取組状況

ここでは、国内企業向けモニタアンケート調査結果をもとに、企業によるICTを活用した新たな商品・サービスの提供・販売状況や今後の意向について概観する。

現在及び今後5年におけるICTに係る商品・サービスの提供・販売状況及び今後の意向を有する分野をみてみると、現在では小売・流通分野が最も高く、また意向も高いことから、同分野におけるICT利活用の今後のさらなる拡大が期待される。また、交通や医療・健康などの分野においても、企業のICT利活用に対する今後の意向が高い傾向がみられる(図表1-2-4-8)。業種別でみると、情報通信業は、全般にわたって高く、様々な分野でICT企業が展開意向を有していることがみてとれる。また、その他業種の企業においても、自身の業種に限らず、様々な分野においてICTを活用している状況がうかがえる(図表1-2-4-9)。

図表1-2-4-8 ICTに係る商品・サービスの提供・販売状況及び今後の意向
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
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図表1-2-4-9 ICTに係る商品・サービスの提供・販売状況及び今後の意向(業種別)
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
「図表1-2-4-9 ICTに係る商品・サービスの提供・販売状況及び今後の意向(業種別)」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら
エ 経済貢献の効果

ICTの新たな進展により、今後どの程度の需要創出効果が見込まれるであろうか。ここでは、前項で取り上げた事例に限らず、ICT全般にわたって2020年頃までの実現を想定した新しいサービスやアプリケーション(具体的な事例は第3章第1節を参照)を対象に、消費者向けアンケート調査結果をもとに、とりわけ有料での利用意向及び当該の支払意思額について測定及び推計を行った(図表1-2-4-10)。同結果に基づき、需要創出効果を推計すると、各市場の年間の直接効果合計は最大で約1.8兆円となった(図表1-2-4-11)。情報通信産業連関表に基づく分析によれば、所得効果も含む2次波及効果まで勘案すると、生産誘発額は約4.1兆円、付加価値額で約2.0兆円となった。本推計では、ICTに係る新しいサービスやアプリケーションを特定して算出していることから、広範囲なICT分野における市場拡大や創出効果の一部に過ぎず、実際の需要創出効果はさらに大きいと予想される。

図表1-2-4-10 新しいICTサービスの利用意向と支払意思額
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
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図表1-2-4-11 経済効果の推計結果
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)


8 テレマティクスとは、自動車などの移動体に通信システムを組み合わせることで、リアルタイムに情報サービスを提供する「自動車のICT化」とも評される分野である。具体的には、インターネットへ接続する車載の通信モジュール等を介して、リアルタイムの交通情報やナビゲーション、盗難時の自動通報、故障時の工場への連絡、近辺の店舗案内、音声認識など様々なサービス等が挙げられる。

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