総務省トップ > 政策 > 白書 > 28年版 > 消費者へのICTの非貨幣価値の分類例(消費者余剰、時間の節約、情報資産)
第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI〜ネットワークとデータが創造する新たな価値〜
第4節 経済社会に対するICTの多面的な貢献

(4)消費者へのICTの非貨幣価値の分類例(消費者余剰、時間の節約、情報資産)

消費者側から見るといくつかの側面での新しいICTの非貨幣価値がある。ここでは代表的な例として消費者余剰の増大、時間の節約、情報資産の蓄積等を取り上げる3。各指標に対するICTによる効果とICTサービスの例を以下の図表1-4-1-3に示した。それぞれの指標の内容と事例は以下のとおりである(図表1-4-1-3)。

図表1-4-1-3 社会経済の消費者側におけるICTの貢献、効果およびサービス
(出典)GDPに現れないICTの社会的厚生への貢献に関する調査研究
ア 消費者余剰

消費者余剰とは、消費者が支払っても良いと考えている価格(支払意思額)と、実際に払っている価格との差のことである。実際に支払っている価格が同じだとすると、支払意思額が大きいほど消費者余剰も大きいことになる(図表1-4-1-4)。

図表1-4-1-4 消費者余剰の概念
(出典)GDPに現れないICTの社会的厚生への貢献に関する調査研究
「図表1-4-1-4 消費者余剰の概念」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

ICTの特徴であるデジタル化は、複製コストをほぼゼロにし、財・サービスの価格を下落(または無料化)させることで、消費者余剰を増加させる効果がある(図表1-4-1-54

図表1-4-1-5 供給価格低下による消費者余剰の変化
(出典)GDPに現れないICTの社会的厚生への貢献に関する調査研究

音楽を例に消費者余剰の概念をみてみよう。音楽をCDで聴くのが主流だった時代には、消費者はシングルで千円、アルバムで3千円程度の料金を支払っていた。これに対して、今は音楽をダウンロードして聴くのが主流となったが、例えばiTunesで音楽をダウンロードする場合の料金は1曲100〜200円、アルバムで2千円程度である。かつてアルバムCDを購入していた人で、今でも同程度の音楽が聴けるならば3千円支払っても良いと思っている人が、2千円でアルバムをダウンロードして聴いている場合、3千円−2千円=千円が消費者余剰ということになる。

では、なぜダウンロードがCDに比べて安くなるかといえば、その背景にはICTの特徴であるデジタル化とウェブ化(クラウド化)が存在する。CDを複製するためには媒体を購入するコストがかかり、さらにCDを流通させるためには運送料も必要になる。一方で、デジタル化されたデータをコピーするためのコストはほぼゼロであり、さらにウェブ(クラウド)上のデータをダウンロードするならば運送料も不要になる。このためダウンロードはCDよりも安くなり、その結果消費者余剰が増大する。

同様のことは映画等の動画についてもいえる。以前はDVDやブルーレイの媒体で購入していたが、今ではダウンロードでコンテンツを購入したり、ストリーミング配信で視聴できるようになった。そして、ハードウェア(端末やネットワーク機器)の指数関数的性能の向上によって、デスクトップパソコンのみならずスマートフォンでも映画をみることができるようになったことで、自宅以外でも映画を楽しめるようになった。これは指数関数的性能の向上による消費者余剰増大の例である。

イ 時間の節約

消費者が生活するにあたっては何をするにも時間がかかるが、ICTを活用することで従来よりも所要時間を短縮することで余暇時間を拡大する効果が得られる。ネットスーパーを例にすると、従来は外出の支度をしてから近所のスーパーへ出向いて買い物をして帰宅するという手間と時間がかかっていたが、ネットスーパーを使えば自宅でパソコン等を操作するだけの手間と時間で済ますことができる。これはウェブ化による効果である。

同様に、何か調べ物をする場合、今ではGoogle等の検索サービスを使ってウェブ上に存在する無数の情報にアクセスすることができるが、かつては図書館に行ったり本屋に行ったり等多くの手間と時間が必要であった。このような例は、食べログ等を使った飲食店情報の検索時間短縮や、タクシーの配車アプリを活用した待ち時間の短縮等、身近に多数存在している。これら全体を考えると、ICTがもたらした時間節約効果は非常に大きいといえるだろう。

また、音楽を聴く際に、デジタル化の効果によってiTunesでダウンロード購入できるようになったことは、CDショップにCDを買いに行く時間の短縮につながる。ウェブ化(クラウド化)の前提としてデジタル化があり、デジタル化も時間短縮効果に貢献しているといえる。

さらに、スマートフォンのように小型で携帯可能な高機能端末が生み出されたことにより、電車やバスでの移動時間中に動画を楽しむというようなことが可能になった。従来は動画をみるための時間として活用できなかった移動中の時間が動画視聴に使えるようになったということも、指数関数的性能の向上によって生み出された余暇時間の拡大と解釈することができよう。

ウ 情報資産

富を生み出すために使用される財(自動車工場の機械設備等)を資本財と呼ぶが、無形資本とは、機械のような形を持たないものの、資本財として生産活動に貢献するものである。具体的な例としては、知的財産、組織資本、人的資本、ユーザー生成コンテンツ等が挙げられる。知的財産、組織資本、人的資本は主に企業側で効果を発揮するものであり、ここでは無形資本のうちユーザー生成コンテンツに着目し、以下、ユーザー生成コンテンツを消費者側の「情報資産」と位置付け議論を進めていく。

ユーザー生成コンテンツとは消費者が生成するブログ・SNSの記事、Twitterのつぶやき、YouTubeに投稿する自作動画や自作音楽、食べログの飲食店レビュー等のことである。これらを個々の消費者が作成し、発信し、共有できるようになったのも、デジタル化、指数関数的性能の向上、ウェブ化(クラウド化)といったICT化の進展の結果である。音楽や動画はデジタル化の効果によって生成や複製が容易になったため、コンテンツの生成量や利用量が拡大したといえるだろう。また、それらが広く全世界で共有できるようになったのはウェブ化(クラウド化)の効果であるし、より高品質なコンテンツが時間と場所に縛られずに利用できるようになったのは端末や機器の指数関数的性能の向上による効果である。

これらの多くはウェブ上で自由に利用できるものであり、企業が自社商品に関するTwitterのつぶやきの情報を集めて改善に生かすというような形で資本財として活用できる。一方で、消費者側でも、ユーザー生成コンテンツを飲食店探しに活用したり、単純にコンテンツそのものを楽しんだりすることに活用することができる。

また、ブログ・SNSの記事や飲食店レビューに関しては、読み手が利用するという価値の他に、書き手の側も便益を得る効果が考えられる。便益としては、ポイントや割引等の直接的なものの他にも、レビューサイト内の自分のランクや信頼・評判が上がるということから得られる満足感や、自分の体験を他の人にも伝えることや他の人からの反応やコメントをみるということから得られる満足感が考えらえる。ユーザー生成コンテンツは利用側だけでなく提供側でも便益を生む点は重要である。

エ 多面性

以上では消費者余剰、時間の節約、無形資本(情報資産)について述べたが、重要なのはiTunesの音楽ダウンロード、Googleの検索サービス、食べログの飲食店レビュー等が複数回登場したことである。これは、一つのICTサービスが消費者余剰を生み出すとともに時間の節約にも貢献し情報資産の生成にも寄与するというように、多面的に経済社会へ貢献するということである。

情報資産の中のユーザー生成コンテンツが利用側・提供側の双方で便益を生むことや、企業側での貢献も合わせて考えると、ICTによる経済社会への貢献は多種多様かつ多面的であるといえるだろう。この背景には、これまで繰り返し述べてきたように「デジタル化」、「指数関数的性能の向上」、「ウェブ化(クラウド化)」といったICTの特徴がある。



3 これらはエリック・ブリニュルフソン『ザ・セカンド・マシン・エイジ』の第8章で述べられているものであり、以下の記述はこの内容と事例を整理したものである。

4 財・サービスの価格の低下による消費者余剰の増加には、既に財・サービスを利用していた者の余剰の増加と、価格の低下によって新たに財・サービスを利用し始めた者に新たに発生する余剰の2つがある。

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