企業向けアンケート調査結果及び各種統計に基づき、供給面から我が国経済成長へのICTによる貢献について定量的に評価する。具体的には、ICTに係る企業による投資が積極的に行われることで、2020年頃までの潜在経済成長率がどの程度加速するか、マクロ生産関数を使って推計した。経済が足元の潜在成長率並みで将来にわたって推移すると想定した「ベースシナリオ」と、IoT・ビッグデータ・AI等のICTの進展を見据え、企業におけるICT投資や生産性向上に係る取り組みが活性化する「ICT成長シナリオ」を比較することで検証する。
まず、図表1-3-2-1の説明のとおり、実質成長率の計算式は以下のとおりである。
実質成長率=①労働力寄与度+②資本寄与度+③TFP(全要素生産性)寄与度
労働力寄与度=就業者数の伸び×労働分配率
資本寄与度=実質資本ストックの伸び×(1−労働分配率)
実質資本ストック(t+1)=[実質資本ストック(t)+実質設備投資(t+1)]×(1−除却率(t))
推計の結果、ベースシナリオと比較するとICT成長シナリオは、2020年度時点で、実質設備投資は+0.7%、就業者数は+0.5%の増分効果があり、TFP(全要素生産性)は1.1%(ベースケース)から1.8%へと高まる結果となった。これらの結果により実質GDPの押し上げ効果は、2020年度時点で33.1兆円(+5.9%)となった(図表1-3-2-4)。両シナリオとも、成長率を要因別に分解すると、TFP(全要素生産性)の寄与度が大きい一方で、資本及び労働の寄与度についてはマイナス要因となっていることが分かる。資本については、ICTに限らず新規設備投資の伸びにおいてマイナス傾向が続いている等、我が国全体の設備投資額の伸び悩みが影響している。他方、労働においては、就業者数の減少に起因している(図表1-3-2-5、図表1-3-2-6)。
成長要因についてICT成長シナリオとベースシナリオの差をみてみると、ICTはTFPの寄与度をさらに高めるとともに、労働寄与度や資本寄与度においても、ベースシナリオに対してマイナス要因を一定程度抑制する効果が期待できることが分かる(図表1-3-2-7)。
部門別に実質GDPの成長についてみてみると、ICT成長シナリオでは、業種全般にわたってICTの進展が経済成長に寄与し、特に情報通信業、農林水産・鉱業、商業・流通業において高い成長が見込まれる(図表1-3-2-8、図表1-3-2-9、図表1-3-2-10)。
1 『中長期の経済財政に関する試算』(平成28年1月21日 経済財政諮問会議提出)
2 2016年6月1日、安倍総理大臣は記者会見を行い、消費税の8%から10%への引き上げを2019年10月まで30か月延期することを表明した。