総務省トップ > 政策 > 白書 > 28年版 > 人工知能(AI)導入で想定される雇用への影響
第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI〜ネットワークとデータが創造する新たな価値〜
第3節 人工知能(AI)の進化が雇用等に与える影響

(3)人工知能(AI)導入で想定される雇用への影響

米国の職業701種について、将来人工知能(AI)や機械が各職業を代替することができる技術的な可能性を分析した研究では、就労者の47%が代替できる可能性の高い職業に従事していると指摘されている7。この研究を日本に当てはめた場合、米国と同様の傾向となり、将来人工知能(AI)や機械が代替することができる技術的な可能性が高い職業が49%であるとされた8、9

人工知能(AI)の普及によって想定される雇用への影響について、社会的なコンセンサスが得られていると考えられるものは、人工知能(AI)が生み出す業務効率・生産性向上と新規業務・事業創出の2つの効果と、雇用の基礎を構成するタスク量の変化である。

人工知能(AI)の業務効率・生産性向上効果により、人工知能(AI)が導入される職種のタスク量は減少する。一方、人工知能(AI)の新規業務・事業創出効果としては「人工知能(AI)を導入・普及させるために必要な仕事」や「人工知能(AI)を活用した新しい仕事」が創出され、これら新しく創出される職種のタスク量が増加することが見込まれる。新しく創出されるタスク量が減少するタスク量を上回り、全体のタスク量が増大するような社会が理想的であり、そのような意味合いから今後、人工知能(AI)による新規業務・事業創出が果たすべき意義・役割は大きい。

他方、タスク量の変化がもたらす雇用への影響については、①雇用の一部代替、②雇用の補完、③産業競争力への直結による雇用の維持・拡大、④女性・高齢者等の就労環境の改善の4つが想定される(図表4-3-3-5)。

図表4-3-3-5 人工知能(AI)導入で想定される雇用への影響
(出典)総務省「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(平成28年)

①の雇用の一部代替については、仕事のすべて、つまりは雇用が代替されるのではなく、一部のタスクのみが人工知能(AI)に代替される可能性である。このような一部代替のタスクは、本節第1項(1)かつての技術革新で前述したような、定型業務、非定型業務といった「業務内容による」とする考え方もあるが、「コストパフォーマンスによる」とする労働経済学の考え方も当てはまると考えられる。人工知能(AI)の活用に伴って、人が担うとコストパフォーマンスの低いタスクが人工知能(AI)に代替されると、人はより知的で創造的なタスクに移行することが可能になると考えられる。

②の雇用の補完については、少子高齢化の進展に伴い、不足するとされる労働供給力の補完に、人工知能(AI)が役立つ可能性がある。補完される労働力については、人工知能(AI)そのものや、人工知能(AI)と一緒に働く人、人工知能(AI)の活用によりタスク量が減少した人が考えられる。

③の産業競争力への直結による雇用の維持・拡大については、日本企業の収益性、生産性は現在改善途上にあるが、依然としてグローバルには見劣りする状況にあり10、このような状況から脱するためには、グローバルでの競争環境の変化に機敏に対応し、新たな価値創造を行っていくことが重要かつ不可欠である。こうした競争環境の変化として昨今注目されるのが、人工知能(AI)がもたらす変革である。人工知能(AI)の利活用にいち早く取り組んだ企業が、産業競争力を向上させることにより、雇用が維持・拡大されると考えられる。

④の女性・高齢者等の就労環境の改善については、日本企業の雇用環境は改善されつつあるが、例えば出産や育児を理由として働いていない女性が依然として多い状況11などがあり、このような状況から脱するためには、仕事の生産性維持・向上と労働時間の短縮の双方を両立できる働き方を実現していくことが重要かつ不可欠である。こうした両立は、人工知能(AI)を効率的に使った生産性の高い仕事に転換することにより実現可能であり、テレワークなどの柔軟な働き方も促進されることから、女性等の活躍の場が拡がるものと考えられる。

ア 人工知能(AI)の普及が我が国の雇用にもたらす影響

人工知能(AI)の導入・普及が我が国の雇用にどのような影響をもたらすと考えるか有識者に尋ねたところ、27人中23人が、「少子高齢化の進展に伴う労働力供給の減少を補完できる」と回答した。また、「業務効率・生産性が高まり、労働時間の短縮に繋がる」や「新しい市場が創出され、雇用機会が増大する」といったプラス面の影響がもたらされると回答した有識者が多くみられた(図表4-3-3-6)。

図表4-3-3-6 人工知能(AI)の導入・普及が我が国の雇用にもたらす影響
(出典)総務省「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(平成28年)より作成
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その一方で、人工知能(AI)に関して、「万能ではなく、人工知能(AI)が解決できることは限定的である」や、「人工知能(AI)の利活用に適した業務とそうでない業務がある」といった、人工知能(AI)が雇用にもたらす影響を冷静に見極める意見もあがった。

イ 職場への人工知能(AI)導入による業務影響

続いて、日米の就労者に対して、職場への人工知能(AI)の導入がもたらす影響について、業務、業務範囲、業務効率・生産性、仕事に対する意欲の4つの観点から尋ねた。

現在働いている職場に人工知能(AI)が導入された場合の業務への影響については、「非常に大きな影響がある」、「ある程度影響がある」と回答した人の割合は、日本よりも米国の方で高くなっている。日米の差は、「非常に大きな影響がある」で18.2ポイント、「ある程度影響がある」で6.3ポイントあり、米国では人工知能(AI)が自分の業務に導入されることを、より具体的にイメージしているとみられる(図表4-3-3-7)。

図表4-3-3-7 職場への人工知能(AI)導入による業務への影響
(出典)総務省「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(平成28年)より作成
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次に、職場に人工知能(AI)が導入された場合の業務範囲への影響について、日米の就労者に尋ねた。米国では、「大きく増える」、「ある程度増える」、「少し増える」と回答した人(以下、増えると回答した人)が、「大きく減る」、「ある程度減る」、「少し減る」と回答した人(以下、減ると回答した人)を上回っており、人工知能(AI)導入を業務拡大と捉える向きがある。一方、日本では、米国とは逆の傾向が見受けられ、減ると回答した人が増えると回答した人を5.9ポイント上回っており、米国に比べて人工知能(AI)導入を業務縮小と捉える向きがある(図表4-3-3-8)。

図表4-3-3-8 職場へのAI(人工知能)導入による業務範囲への影響
(出典)総務省「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(平成28年)より作成
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職場に人工知能(AI)が導入された場合の業務効率・生産性への影響については、日米双方の就労者で業務効率・生産性が改善すると回答する割合が高くなった。一方で、「大きく改善する」、「ある程度改善する」と回答した人工知能(AI)への期待が高い人の割合は、日本よりも米国の方が高い。日本は、「これまでと変わらない」と回答した人が35.4%と一番大きな割合を占めており、ここでも、日本の就労者は、人工知能(AI)が職場に導入されることによる自身への影響をイメージしきれない傾向がうかがえる(図表4-3-3-9)。

図表4-3-3-9 職場への人工知能(AI)導入による業務効率・生産性への影響
(出典)総務省「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(平成28年)より作成
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続いて、職場に人工知能(AI)が導入された場合の仕事に対する意欲への影響について、日米の就労者に尋ねると、日本の就労者は、「これまでと変わらない」と回答する人が過半数を占めている。一方、米国の就労者は、「これまでと変わらない」と回答する人も多いものの、それ以上の割合で仕事に対する意欲が湧くと回答した人(「意欲が大きく沸く」「意欲がある程度沸く」「意欲が少し沸く」を足し合わせた割合)が存在する(図表4-3-3-10)。

図表4-3-3-10 職場への人工知能(AI)導入による仕事に対する意欲への影響
(出典)総務省「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(平成28年)より作成
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職場に人工知能(AI)が導入された場合の業務範囲への影響と仕事に対する意欲についての関係を見ると、日米ともに、「業務の範囲が大きく増える」と回答した人が「仕事に対する意欲が大きく湧く」、「業務の範囲が大きく減る」と回答した人が「仕事に対する意欲を大きく失う」と最も多く回答しており、人工知能(AI)が導入された場合の仕事に対する意欲は、自分の業務範囲への影響度合いが大きく関わっていることがわかる(図表4-3-3-11)。

図表4-3-3-11 職場への人工知能(AI)導入による業務範囲への影響と仕事に対する意欲の関係
(出典)総務省「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(平成28年)より作成
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有識者インタビュー④

慶應義塾大学商学部
山本勲 教授

−人工知能(AI)の進化が加速していますが、どのように社会に浸透し、雇用に与える影響はどうなると見ていますか。

人工知能(AI)そのものの中身や普及の進捗の度合次第のところがありますが、人工知能(AI)が業務効率や生産性の向上に寄与するものであるなら、雇用がなくなるかどうかは、人間の賃金と人工知能(AI)の導入・運用費用を比べて、両者の生産性が同じ場合に、どちらの方がコストが安いかが判断基準になると思います。最近、話題に上がっている人工知能(AI)と雇用の関係性についての議論で、ルーティングジョブやマニュアルワークに従事している就労者の雇用が奪われる危険性が高いという指摘があるが、これは必ずしも正しくありません。ルーティングジョブやマニュアルワークに従事していようがいまいが関係なく、同じ生産性を発揮できる人工知能(AI)のコストが安くなれば、人間の仕事を奪う危険性が高くなります。一方で、仮に、人工知能(AI)に雇用が奪われることになったとしても、同じ量の雇用が新規に生まれれば、雇用全体としては、守られるということになります。新規の雇用については、短・中期的な視点でみた場合には、これまでの経験から、コーディネイターやインストラクターなど、新しい技術を導入・普及させるために必要な仕事が生まれることが予想されます。ただし、このような仕事もやがてなくなると予想されるため、人工知能(AI)やロボットの製造部門での仕事とともに、他の部門でも人工知能(AI)を活用した新しい仕事を生み出すことができるかどうかが、雇用を守るうえで重要になります。


−これまでのICTと雇用の関係との違いはどのあたりになりますか。

1980年代以降の米国で、パソコン導入などのICTの普及が企業内で進んだときに、パソコンの使える人と、そうでない人が出て、技術失業に追い込まれたり、所得格差が拡がった時期がありました。そのとき、ICTでは行えないルーティングジョブやマニュアルワークへの需要も同時に増えたため、そのような仕事がサービス業や製造業などで、雇用の受け皿となり、難を逃れたと言われています。でも雇用の二極化は進みました。今回の人工知能(AI)導入の場合、ルーティングジョブやマニュアルワークの多くの部分が人工知能(AI)でも行えるようになると言われているため、別の受け皿が必要になります。日本においては、少子高齢化の進展に伴う労働力供給の減少により生じるサービス業等の人手不足が、雇用の受け皿になり得ると思います。また、女性や高齢者の就労環境も大きく改善されると思います。企業では、長時間労働が前提となっていますが、これがネックとなり、やむなく非正規雇用に就く女性や高齢者が多いはずです。今後、女性や高齢者が人工知能(AI)を効率的に使って生産性の高い仕事をすることができれば、正規雇用に就くことや、在宅でフレキシブルに働くことができるようになるでしょう。日本にとっては、人工知能(AI)の利活用が日本が抱えるさまざまな課題の解決に繋がる糸口にもなる可能性があります。


−日本企業や日本の就労者は、今後、人工知能(AI)にどう向き合うべきでしょうか。

人工知能(AI)導入については、人間という次元ではなく、国という次元で取り組むことが重要です。人工知能(AI)の使える国は今後より成長し、そうでない国は成長から取り残されるといった国家間の格差に繋がる可能性があります。日本では、強みのある製造業などの企業において、いち早く人工知能(AI)を取り入れることが重要であり、併せて人工知能(AI)を使いこなせる人材を育成することによって、人工知能(AI)の利活用を成長に結びつけ、競争力強化や雇用の拡大を目指していくべきです。しかしながら、そうするには幾つかのハードルがあります。デジタル化は人工知能(AI)を導入するうえでの下地であるとの指摘がありますが、日米を比較した場合、デジタル化の普及浸透に大きな差があります。日本の企業では、人工知能(AI)導入の前に、デジタル化という人工知能(AI)の下地づくりを加速させることが大事になります。そうしないと、米国の企業における人工知能(AI)の利活用が進んで日米の差が大きく開き、その結果として米国に雇用を奪われる状況が懸念されます。人工知能(AI)と雇用の関係は、国を超えた関係であり、中長期的な視点でみた場合に、人工知能(AI)を取り入れて利活用していくことが、結果として雇用を守ることになります。

有識者インタビュー⑤

労働政策研究・研修機構
松本真作 特任研究員

−人工知能は雇用にどのような影響を与えるでしょうか。

仮に人工知能(AI)で様々な職業が代替されるとしても、多くの調査で、人は「自分の可能性を仕事で発揮したい」と思っていることが示されていますので、やはり働き続ける人が多いと考えられます。ただ、現在の労働力をどのように新たな仕事や職業に回していくか、という課題は生じます。もっとも、この点に関しては、欧米と違い日本の労働者は幅広い仕事をこなしていますので、これまでの技術革新でも日本ではそうでしたが、他国で議論されているほど人と仕事のミスマッチは深刻ではなく、新たに生まれる仕事で、これまでのスキルを生かし、また、新たなスキルを習得し、自分の個性と能力を発揮していくと考えられます。AIが各方面で話題になりますので、急激に変化するという印象がありますが、仕事での実際の変化は意外とゆっくりと思います。けれども変化の波は着実に来ます。社会も、企業も、個人もこの波に乗れるよう、しなくてはなりません。


−人工知能が実用化される将来、どのようなスキルをどう身につけたらよいでしょうか。

人口知能(AI)で代替できない創造性やリーダーシップが必要になると言われていますが、AIも爆発的に進歩していますので、どのようなスキルが必要になるか明確ではないと思います。はっきりしていることは、付加価値のあるスキルの重要性は増し、またそのスキルを習得するハードルが高まっていくことです。スキルを身につけることが難しくなっていき、従来の教育訓練では十分ではなく、より高度な教育訓練、不断の能力開発、キャリアコンサルティングでのプロのアドバイスなどの重要性が高まっていきます。これまでの延長線上の教育訓練では済みませんので、今まで以上に、個人の自発的な取り組みを促す施策が重要になっていくでしょう。一方で、仕事をする上で必要な最も基本的な要素は、意欲(前向きな姿勢)と人間関係(円滑にコミュニケーションできること)であり、このことは人工知能(AI)が広く実用化されても変わることはない、基礎であり土台であるといえます。



7 Frey and Osborne(2013), “THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS. TO COMPUTERISATION?” Oxford Martin School Working Paper

8 野村総合研究所ニュースリリース(2015年12月02日) http://www.nri.com/Home/jp/news/2015/151202_1.aspx別ウィンドウで開きます

9 人工知能(AI)や機械が代替することができる技術的な可能性が高い職業とは、従事する一人の業務全てを、高い確率(66%以上)でコンピューターが代わりに遂行できる(技術的に人工知能(AI)やロボット等で代替出来る)職業を指す。あくまで、コンピューターによる技術的な代替可能性であり、実際に代替されるかどうかは、労働需給を含めた社会環境要因の影響も大きいと想定されるが、それらの社会環境要因は考慮していない。また、従事する一人の業務の一部分のみをコンピューターが代わりに遂行する確率や可能性については検討されていない。(野村総合研究所ニュースリリース、前掲)

10 総務省「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(平成28年)で行った有識者インタビューより。

11 総務省「労働力調査」(平成27年)によると、非労働力人口のうち就業希望者の女性(301万人)が求職活動を行っていない理由で最も多いのが「出産・育児のため」であり、95万人となっている。

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