第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI〜ネットワークとデータが創造する新たな価値〜
第4節 経済社会に対するICTの多面的な貢献

(4)まとめ

以上ではICTの非貨幣価値を「消費者余剰」、「時間の節約」、「情報資産(レビュー(口コミ)等)」という分類でみてきた。アンケートの結果をみると、どの年代でも一定の非貨幣的価値を感じており、ICTは全世代に幅広く多くの価値をもたらしているといえるだろう。非貨幣的価値の中でも、「情報資産(レビュー(口コミ)等)」は新しい経済活動の発展に寄与するという点で非常に重要である。今後、IoTやAIを超えるようなICTの進展とそれに付随する情報量の増加に伴い、さらにICTの非貨幣的な価値は高まっていくことが期待される。

なお、ICT化の進展に伴い、正の効果のみならず負の効果も生じることも考えられるが、本稿では紙幅の制約等から負の効果については言及していない。ICT化の更なる進展から生じる負の効果やこれらへの対応については今後の課題であり、さらなる調査研究を期待したい。

〜SNSなどのICTを活用してクリエイティブに活動する人々〜

YouTuber ジェットダイスケさん

進化するICTをいち早く習得し、クリエイターとして時代をけん引

日本で最も初期の動画レビュアーとして知られ、大阪芸術大学在学中の1990年代半ばよりビデオアート系の映像作家として活動を開始したジェットダイスケさん。自主制作映画を発表する場としてインターネットでの動画配信に携わり始めてから既に15年以上のキャリアをもち、日本でもっとも動画共有サイトの立ち上げに携わってきた。2006年からは、YouTuberとして主にデジタルガジェットなどのレビュー動画をほぼ毎日配信し、その独自の視点と分かりやすい解説、見る人を飽きさせないセンスで人気を博す。また、YouTuberのマネジメントやサポート、メディア事業などを行うUUUM(ウーム)株式会社の顧問として運営にも携わり、ライターやデザイナー、作曲家など、活躍の場は多岐に渡っている。そんなジェットダイスケさんに動画配信、YouTuberについてお話をうかがった。


デジカメとパソコンだけでマスコミより先に情報を配信

所持するICT端末については、「持っている数が多すぎて把握しきれていない」と話すジェットダイスケさんだが、それぞれの端末の仕様に合わせて、使い分けをしている。iPhoneやiPadは電子楽器として、防水機能に優れたAndroid端末は、入浴時のSVOD(定額制動画配信サービス)視聴の際に使用するのだという。より便利で自由なものへと進化していくICT端末を、仕事や生活のなかで体感してきたジェットダイスケさん。

「印象的だったのは、2007年の新幹線N700系デビュー試乗会の取材です。ノートパソコンとデジカメを持参し、マスコミが放映する夕方のニュースより先に動画を配信したんです。当時は、通信技術が飛躍的に伸びてきた頃で、取材者用にアクセスポイントのカードが配布され、その回線を5〜6人で共有して必死で動画をアップロードしました。そこからわずか2年足らずで、ビデオ撮影もできるiPhoneが発売されましたよね。進化の速度に驚きました」


スマートフォンひとつでクリエイティブな活動が可能に

ジェットダイスケさんがとりわけ注目するのは、2007年にApple社から発売されたiPhoneの進化だ。「おすすめのカメラを教えてほしいといった講演の依頼も多いが、iPhoneしか考えられない」と話す。フルハイビジョンの4倍の解像度を誇る動画の撮影、照明の設置や一眼レフ用のレンズを装着できるなど、片手に収まる小さなICT端末ひとつで、さまざまなことが可能になった。性能の良いデジタルカメラを購入せずともビデオ撮影ができ、編集もできる。動画をスマートフォンで撮影してアップするYouTuberも多く、簡単に、お金をかけなくても自分の作品を発表できる時代が、若いクリエイターを輩出する要素にもなっている。


自身の動画を「専門誌」としてブランディング化

ジェットダイスケさんは配信する動画について、「専門誌」的なポジションでありたいという。YouTubeチャンネルの登録者数は約19万5千人1、動画の再生回数は実に1億7000万1を超える。最新の動画はもちろん、数年前の動画も未だに閲覧回数を上げている秘訣については、自身のチャンネルのブランディング化とSEO(検索結果でより多く露出されるために行う施策)だと話す。また、沈黙や考えている時間などを摘み、空白の部分を徹底的になくす「ジェットカット」という独自の手法も、視聴する者を飽きさせない魅力のひとつとなっている。

しかし、インターネットが普及し、テレビの代わりにYouTubeを視聴するという人が増えたことによって、「一般的な意見」「大多数の意見」に応えることへの難しさも感じているそうだ。

「僕の動画に残っている視聴者からのコメントと、YouTubeでのアンケート結果が合致しないことがあるんです。ノイジー・マイノリティという言葉がありますが、コメントを残す人の意見の方が、少数派という場合もあるんですよね」

人種や文化の違い、千差万別さまざまな意見を知った上で、ネット上でたびたび話題となる「炎上」を、なるべく回避するよう努めているという。

動画の投稿を面倒に感じることもあるが、その最初の障壁を越えるほど伝えたいことがあるのが、ジェットダイスケさんが日々、動画を配信し続けるモチベーションにつながっている。


時代とともに更新されていくICTへの期待

ジェットダイスケさんは、FacebookやTwitterといったSNSを「情報を共有する場」として利用する。インターネット上でコミュニケーションを終了させるのではなく、「実際に会う」というコミュニケーションへの橋渡しをしてくれるものとしてSNSを捉えている。たとえば、Facebook上でアクションを起こすと、それに反応を示した人からレスポンスがあったり、同じ趣味をもつ者同士として知り合った海外の人と現地で交流ができたりなど、その先にあるコミュニケーションへのつながりを大切にしていきたいのだという。

手軽に動画配信ができて簡単に視聴してもらえるツールとして、ジェットダイスケさんがYouTubeの利用を始めた2006年から10年。今では、YouTubeでの動画配信を専業とする人、副業として動画配信で収入を得る人、趣味としてのみ動画配信する人など、実に多くのYouTuberが存在している。しかし、ジェットダイスケさんが抱くYouTuberの今後については、あくまで冷静だ。

「ビジネスとして成功したYouTuberは、ほんの一握り。YouTubeを軸にしてそれを糧にしつつ、外へ広げていける何かを見つけることも大切です」

YouTubeがひとつの時代を築くほどの産業になったように、次世代がまた別の何かで築く新しい産業にも期待しているのだと語る。


ICTに対する正しい知識の周知が今後の課題

ICTの普及から発展までを20年以上見てきたジェットダイスケさん。ICTが一般化・日常化するに従い「便利で楽しいもの」というメリットだけではなく、ICTがもつデメリットについても考えさせられるようになったという。

情報のテクノロジーという面では今後も発展し続けるであろうICT。しかし、それによって生み出されるコミュニティやコミュニケーションに人が追い付いてない部分もある。たとえば、ICTのメリットである情報のデータベース化は、いつでも誰でも情報を検索することができる便利なものである一方、実社会では忘れられているような情報さえも蓄積されているため、それがデメリットを引き起こすという場面がしばしばある。

「ひとりが伝えるほんの小さな情報も、SNSなどで拡散することで社会を動かすほどの情報にもなり得る。ある意味、誰でも革命を起こせる時代とも言えます」

「ICTは便利であるべきもの」。ICTという世界を、法律や教育、社会全体でどう扱い、どう関わっていくのかが今後の課題だとジェットダイスケさんは考えている。



1 2016年6月2日現在。

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