以上のように、様々なFinTechのサービスが提供され始めているが、消費者からはどの程度認知され、またどの程度の利用率・利用意向があるのだろうか。今回、日本、米国、英国、ドイツ、韓国、中国、オーストラリア、インドの8か国の各1,000人のモニターを対象に、FinTechの認知度や利用意向等についてアンケート調査を実施した2。
以下、「決済・送金サービス」「個人向け資産管理サービス」「個人向け融資サービス」の類型別に、認知度、利用率、利用意向の各国比較、必要に応じ年代等の属性別の比較を通じ、普及に向けた見通しと課題を探る。
はじめに、主に個人を対象としたFinTechのうち、決済・送金サービスの国別・年代別の認知度3、利用率4、及び利用意向を取り上げる(図表3-1-1-9)。なお、グラフ中の全体加重平均の値は、各年代のアンケート結果の値を、当該国の各年代の人口(データのソースは国連世界人口推計2015年版5)で加重平均したものである。
各国全体(加重平均)の認知度を比較すると、最も低い我が国で73.0%、その他の国では80%台後半以上となっており、スマートフォン等を使った送金サービスは各国で認知されていることがわかる。
利用率は国別、年代別で差がつく結果となっており、全体(加重平均)で見ると、中国(83.5%)、インド(78.9%)、韓国(69.6%)、オーストラリア(47.5%)、米国(47.0%)、英国(40.5%)、ドイツ(38.5%)、日本(30.0%)の順となっており、我が国が最も低い結果となった。年代別では20代及び30代の利用率が比較的高いのは各国とも同様だが、特に米国の20代及び30代の利用率が他の年代と比較して高いことが顕著である。本節冒頭で述べたとおり、FinTechは2008年の金融危機後に立ち上がった新たなサービスであり、若者から利用が進んでいった可能性が考えられる。韓国、中国、インドは中高年層も比較的決済・送金サービスの利用率が高い。
利用意向を国別に比較すると、韓国(85.2%)、中国(91.6%)、インド(89.2%)は比較的高く、日本(46.7%)は最も低い結果となった。しかし、我が国においては、利用意向と利用率との差が各国と比較しても大きく、今後サービスが普及する余地は大きいと考えられる。
続いて、インターネットを通じて自動で家計簿を作成するサービスといった、個人向け資産管理サービスの認知度、利用率及び利用意向を取り上げる(図表3-1-1-10)。
各国全体(加重平均)の認知度を比較すると、日本、米国、英国、ドイツ、オーストラリアにおいては、認知度が6割〜7割程度であった。一方で、韓国、中国、インドにおいては、認知度が9割程度となっており、比較的高い結果となった。
利用率を比較すると、米国、中国、インドの20代、30代で50%程度と特に高くなる傾向があり、先進的なサービスが出始めている点や、投資意欲が旺盛であることを反映していると推察される。日本とドイツにおける利用率は1割程度であり、未だ利用者は限定的である。
利用意向を国別に比較すると、中国(74.9%)、韓国(71.3%)、インド(70.8%)で7割程度の高い結果が得られた一方で、日本(31.4%)やドイツ(29.2%)では3割程度に留まっており、国により利用意向が大きく異なる様子が伺える。
次に、インターネットを通じて融資審査を受けることができるサービスの認知度、利用率及び利用意向を取り上げる(図表3-1-1-11)。
各国全体の認知度を比較すると、高い順に、インド(90.9%)、中国(86.6%)、韓国(84.1%)、米国(82.1%)、オーストラリア(79.2%)、英国(78.5%)、ドイツ(70.4%)、日本(53.3%)となった。日本の認知状況は8か国中最も低くなったが、最も低い日本でも約5割が認知している状況である。
利用率を比較すると、インド(51.7%)と米国(33.2%)で高い結果が得られており、特に30代において6割程度と一定数の利用者がおり、普及が進んでいる様子が伺える。なお、我が国の利用率は全体で6.1%であり、年代別に見ると、最も高い若年層においても利用率は1割程度にとどまった。
利用意向を国別に比較すると、インド(69.2%)、中国(61.5%)、韓国(55.6%)で半数を上回った。なお、我が国は24.9%であり、他国と比べて利用意向が低い結果となった。
最後に、その他のFinTechのサービスとして、日本、米国、英国、ドイツ、韓国、中国の6か国を対象に、クラウドファンディングと仮想通貨の認知度、利用率及び利用意向を取り上げる(図表3-1-1-12、図表3-1-1-13)。
クラウドファンディングの各国の認知度を比較する。サービス名程度は聞いたことのあるとの回答までを含めると、認知度が高い順に、中国(92.7%)、韓国(76.4%)、英国(73.8%)、米国(73.7%)、ドイツ(67.6%)、日本(49.8%)の順となった。日本の認知状況が他の5か国と比べ低くなったが、最も低かった日本でも約5割が認知している状況であった。「サービス名や内容をある程度知っており関心がある」に注目すると、中国(49.7%)、米国(31.5%)で高い結果が得られた。
クラウドファンディングの利用率及び利用意向を各国で比較する。「利用したことがある」に注目すると、米国(23.9%)、中国(25.0%)、において比較的高い結果が得られたが、比較的普及が進んでいる国においても、3割程度の利用率であることが分かった。
「これまでに利用したことはないが利用したい」に注目すると、韓国(45.4%)、中国(45.3%)において半数程度が回答しており、今後の期待値が高い様子が伺える。また、多くの国において、20代、30代の若年層が高い利用意向を示しているが、韓国においては幅広い年代において、比較的高い利用意向を示している点が特徴的である。
次に仮想通貨の各国の認知度を比較する(図表3-1-1-14)。サービス名程度は聞いたことのあるとの回答までを含めると、認知度が高い順に、中国(91.0%)、米国(78.9%)、英国(76.8%)、韓国(77.4%)、ドイツ(69.6%)、日本(55.0%)の順となり、特に中国において高い結果が得られた。日本の認知状況は他の5か国と比べ低くなったが、最も低かった日本でも約5割が認知している状況であった。
「サービス名や内容をある程度知っており関心がある」に注目すると、認知状況が高かった中国(29.2%)、米国(20.5%)で高い結果が得られた。
仮想通貨の利用率及び利用意向を各国で比較する(図表3-1-1-15)。「利用したことがある」に注目すると、米国(19.5%)、中国(17.9%)となっており、これらの国において仮想通貨サービスが登場し、普及しつつある様子が伺える。
「これまでに利用したことはないが利用したい」に注目すると、韓国(38.3%)、中国(37.8%)において高い結果が得られており、今後の期待値が高い様子が伺える。また、多くの国において、20代、30代の若年層が高い利用意向を示しているが、韓国においては幅広い年代において、比較的高い利用意向を示している点が特徴的である。
我が国においては、利用率、利用意向共に各国と比較して最も低い結果となった。日本では2014年に仮想通貨取引所の破たんがマスメディアで報道されたことにより、利用経験者や利用したいとの回答が低くなったと考えられる。
2 調査仕様の詳細は、巻末の付注4を参照されたい。
本調査結果の解釈にあたっては、アンケート会社の登録モニターを対象としたウェブアンケートである点に留意が必要である。国や性年代によっては、インターネット普及が途上である、モニターの登録者数が少ないなどの要因によって、対象者の特性や回答に偏りが生じている可能性がある。
3 認知度は、アンケートの対象者に各サービス類型について「サービス名や内容をある程度知っており関心がある」「知っているが、関心がない」「内容はよく知らないが、サービス名程度は聞いたことはある」「全く知らない」の4つのいずれに該当するかを尋ね、前3者に回答した者の割合を認知度としている。
4 各サービス類型を利用しているかどうかは、そのサービス何らかの形で認知していると回答した者に限定して(すなわち、「全く知らない」と回答した者を除いて)尋ねた。なお、上記図表に掲載している割合は、比較を容易にするためアンケート対象者を分母としたもの(「全く知らない」と回答した者も分母に含めたもの)としている。
5 http://esa.un.org/unpd/wpp/Download/Standard/Population/