世界の固定ブロードバンドサービス(xDSL・CATV・FTTx)契約数は、2015年時点で約8.3億契約であり、10億規模に向けて引き続き堅調に拡大することが予想される。地域別でみると、主として中国等のアジア太平洋地域が市場をけん引し、2019年時点で同地域が全体の約半分を占めると予想される(図表2-2-4-1)。
世界の移動体通信サービス契約数は、2015年時点で約73億契約である。今後は成長率が鈍化し、緩やかに成長していくことが予想される。地域別でみると、固定ブロードバンドサービスと同様にアジア太平洋地域がけん引していくことが予想される(図表2-2-4-2)。
グローバルでは、現在もLTE方式のネットワーク・サービスの数は増え続けており、GSAによれば2015年時点で480事業者・サービスに達している。480事業者のうち、116の事業者がさらに高度化を図ったLTE-Advanced方式によるネットワーク・サービスを提供しており、その他多くの事業者が商用化に向け準備を進めている(図表2-2-4-3)。さらに、2020年前後に導入が期待されている次世代の移動通信システム(5G:第5世代移動通信システム)のネットワーク及びサービス革新に向けて、研究開発や標準化など世界中で取組が進んでいる(図表2-2-4-4)。
グローバルの移動体通信事業者の回線数を順位づけると、中国のChina Mobileが8億強と群を抜いており、モバイル事業売上高でみても世界1位である。なお、同国のChina Unicom及びChina Telecomもともに10位以内に入っており、世界最大の契約数規模を有する中国の市場を実質3社で占有している。中国では、TD-LTE規格11によるサービス提供に注力しており、2013年12月にChina Mobileが開始したのを皮切りに、現在3社すべてがTD-LTEの商用サービスを展開している。米AppleのiPhone 6がTD-LTE規格に対応して話題となったが、中国の通信事業者によるTD-LTE規格の採用と推進が寄与したと言われている。このように、中国市場の動向は世界のICT産業のエコシステムに多大なインパクトをもたらしている。
中国の事業者以外では、欧州を拠点とするグローバルキャリアVodafone Group及びTelefonica Groupが上位に入っている。日本の事業者としてはソフトバンクグループ、NTTドコモグループ、au(KDDI)が上位に入っている。3社ともモバイル事業売上高でみると比較的高く、特にソフトバンクグループは2013年のスプリントの買収効果で売上高が大幅に増加した(図表2-2-4-5)。
我が国では、いわゆる「格安SIM」に代表されるように、MVNO(Mobile Virtual Network Operator)12サービスに関する認知や普及が近年進展している。世界のMVNO市場はどのような状況だろうか。GSMA Intelligenceによれば、グローバルのMVNO数は、2015年6月時点で、30か国において事業者が存在する(5年間で10か国増、事業者数は約70%増)。一方で、過去15年間で、210事業者が統合または撤退しており、世界各国で移動体通信市場の競争が激化していることから、強固なビジネスモデル無くしては高いリスクが存在することについて示唆している13。
MVNOの事業者数を地域別構成比でみると、最も多いのがヨーロッパであり59%となっている。次いで、アジア太平洋が13%、北米が11%となっている(図表2-2-4-6)。
主要国のMVNO市場の発展状況をみると、欧州地域、特にドイツとデンマークの普及率が高い。2014年12月から2015年9月までの成長率でみるとMVNO促進策を推進している韓国が高い。日本は韓国に次ぐ成長率であり、今後、他国の普及率と同水準まで伸びる余地があると考えられる(図表2-2-4-7)。
IoTが注目を浴びる以前より、通信事業者のネットワーク回線に接続されるM2M(Machine to Machine)は多くの分野において活用されてきた。米シスコによれば、通信事業者のネットワーク等に接続される世界のM2M接続数は2015年時点で6億回線、2020年時点でその約5倍の31億回線に上ると予測されている。また、従来M2Mは主として2Gや3Gネットワークへの接続であったが、今後は4GネットワークやLPWA(Low Power Wide Area)ネットワーク15の普及に伴い、当該ネットワークへ接続されるM2Mが急速に普及し、2020年時点ではM2M接続全体のうち4Gが34%、LPWAが28%を占めると予測されている(図表2-2-4-8)。
世界全体では増加が予想される中、現在のM2Mの普及状況は諸外国で異なる。通信ネットワークを利用するM2M回線数及び普及率を国別でみると、OECDの統計によれば、M2M回線数は米国が約4,400万回線と最も高く、次いで日本が約1,200万回線となっている。他方、M2Mの普及率(人口100人あたりM2M回線数)でみると、スウェーデンが66.7回線と他国と比べても群を抜いて高い。また、ノルウェーやフィンランド、デンマークなど北欧諸国が上位を占めていることが分かる。OECDの統計によれば、これらの国は、モバイルブロードバンド契約数の人口普及率も同様に高く、M2Mに限らず移動体通信インフラの利活用がとりわけ進展していると考えられる(図表2-2-4-9)。
スマートフォン等の個人用端末の普及が飽和しつつある中、IoTの実現に向け、各国の通信事業者は自社のモバイル通信サービスを活用したM2Mサービスの提供を戦略的に進めている。M2MやIoTにおけるビジネスモデルが確立できていない一方で、接続数の増大に伴いコストが増加しているという課題に直面している。
このため通信事業者においては、①M2Mサービスの統一プラットフォーム化、及び②セールスコストの削減が大きな課題となっている。①の統一プラットフォーム化は、顧客ごとにM2Mのサービスを個別に構築するのではなく、M2Mの機能を共通プラットフォーム化し、サービスの導入・運用コストを下げるというモデルである。プラットフォーム事業者としてはJasper Technologies16が最大手であり、多くの通信事業者にプラットフォームを提供している。我が国ではNEC、富士通、NTTデータ等が同様のプラットフォームを提供している。②のセールスコストの削減においては、1契約で多くの端末規模を獲得できるB2Bモデル、特に大規模ユーザーとなるグローバル企業の獲得が重要となる。グローバル企業の獲得においては、Vodafoneなど全世界にネットワーク網を有する超大手通信事業者に対抗するため、各国通信事業者はワンストップで国内外にサービスを提供できる環境を整備する必要があり、通信事業者間のアライアンスを強化している。特に、同じプラットフォームを採用している通信事業者間において連携が進んでいる(図表2-2-4-10)。
11 3.9世代移動通信システムのLTE(Long Term Evolution)規格の一種で、上り方向と下り方向の多重化に時分割多重(TDD:Time Division Duplex)方式を採用したもの。主に中国政府や中国の携帯電話事業者が推進していたが、携帯電話方式の標準化機関3GPPによって標準の一部として採択されている。日本では、ソフトバンク「Softbank 4G」やBWA(Broadband Wireless Access)の新たな方式として採用されている。
12 電波の割当てを受けて移動通信サービスを提供する通信事業者(MNO:Mobile Network Operator)から移動通信ネットワークを調達して、エンドユーザーに対して移動通信サービスを提供する仮想移動体通信事業者。
13 http://www.fiercewireless.com/europe/story/report-number-mvnos-exceeds-1000-globally/2015-09-02
15 低消費電力と幅広い地理的範囲が要求される M2M/IoTに特化した通信規格の総称。
16 2016年2月4日に米シスコがJasper Technologies買収の意向を発表している。
(http://www.cisco.com/web/JP/news/pr/2016/006.html)