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第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI〜ネットワークとデータが創造する新たな価値〜
第2節 経済成長へのICTの貢献〜その具体的経路と事例分析等〜

(2)ICTを通じた消費促進

ア 経済貢献の概要

我が国GDPの約6割を占める個人消費は、景気や経済成長の動向を大きく左右する要素である。内閣府9によれば、包括的な指標である消費総合指数でみると、雇用・所得環境が改善を続ける中で、近年は総じてみれば底堅い動きとなっている10。2015年の「家計調査」においても、2人以上の世帯の消費支出は1月当たりの平均で28万7373円となり、物価変動の影響を除いた実質で前年比−2.3%となっている。こうした個人消費の傾向が見られる中、ICTは消費促進においてどのように寄与するのか。ここでは近年の動向を概観しながら、その貢献経路についてみてみる。

図表1-2-4-12 近年の消費水準指数の推移
(出典)総務省「家計消費状況調査結果」
イ ネットショッピングや電子マネーの普及

ICTを通じた消費促進の代表的なサービスとしては、「ネットショッピング」が挙げられる。ネットショッピングは、インターネットの普及と共に市場が立ち上がり、ADSLやFTTHなどのブロードバンド環境の整備、決済手段の多様化などにより利便性が高まったことで、市場が急速に拡大してきたところである。消費者にとっては、インターネット上で多様な商品を探せることや決済などを行えること、また時間や場所を問わず商品を購入できる利便性、さらには商品の価格や性能に係る口コミなどの情報収集による商品購入の意思決定が行いやすいことなどのメリットが挙げられる。他方、ネット上に出店する企業にとっては、人件費やテナント料などのコストが大幅に削減できることやそれにより実店舗に比べ低価格な商品提供が可能になることから、それによって利用者の拡大と利用頻度の増加が進んできている。

実際に「家計消費状況調査」の結果をみてみると、インターネットを通じて商品購入を行った世帯割合と、当該世帯あたりの支出金額はともに増加傾向がみられる(図表1-2-4-13)。消費者向けアンケート調査からも、ネットショッピングを利用するメリットとして「実店舗に出向かなくても買物ができる」「24時間いつでも買物ができる」などが挙げられている(図表1-2-4-14)。また、ネットショッピングの利用端末としては、従来はPCでの利用が中心であったが、モバイル回線の高速化や定額制の普及、画面の閲覧性が高くPC向けのWebページの利用ができるスマートデバイスの普及により、モバイル端末からの利用、いわゆるモバイルコマースの利用が加速している。ネットショッピングを利用した消費品目をみてみると、商品購入に留まらず、様々なサービスの決済手段として利用されている(図表1-2-4-15)。

図表1-2-4-13 インターネットを通じた支出状況
(出典)総務省「家計消費状況調査結果」
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図表1-2-4-14 ネットショッピングを利用するメリット
(出典)総務省「IoT時代における新たなICTへの各国ユーザーの意識の分析等に関する調査研究」(平成28年)
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図表1-2-4-15 インターネット支出品目の世帯あたり1か月間の支出金額
(出典)総務省「家計消費状況調査結果」
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加えて、電子マネー等の電子決済化も消費促進の役割を果たしているといえる。クレジットカードなどを必要としないプリペイド型の決済手段である「サーバー型」や、スピーディな決済や現金を利用せずに決済可能で利便性が高い「ICチップ型」に大別され、2013年度時点で全体で約3.5兆円の決済金額の規模を有している。対応店舗の増加により、とりわけICチップ型電子マネーの利用シーンの増加による利便性の向上が進んでいることなどからも、利用率や決済金額共に拡大傾向での推移が続いている(図表1-2-4-16)。

図表1-2-4-16 電子マネーの利用状況
(出典)総務省「家計消費状況調査結果」
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ウ 企業の取組状況

一般に、ネットショッピングは、自社ECサイトを構築してサービスを提供する形態と、オンラインショッピングモール事業者(楽天、ヤフー、ディー・エヌ・エー等)のプラットフォームを活用してサービスを提供する形態がある。自社でECサイトを構築してサービスを提供している事業者でも、オンラインショッピングモール事業者のプラットフォームを併用しているケースもみられる。大手事業者では自社及び自社グループ内で決済プラットフォームや物流システムを構築しているケースもみられる。

ネットショッピングを利用する消費者の増加に伴い、小売店舗などの事業者がネットショッピングサービスを開始するケースが増加しているほか、ショッピングモールサービスにおいて個人での出店も増加傾向にあり、当該サービスにおける提供商品の充実によりサービス訴求力の向上も進んでいる。

実際の企業側の対応について、企業向けアンケートよりみてみる。Eコマースの機能を持つウェブサイトの開設状況についてきいてみたところ、全体の6.1%が「開設している」と回答している。従業員規模別でみると、規模が大きいほど開設率が高い状況であり、中小企業におけるICTを利用した消費促進が期待される(図表1-2-4-17)。業種別でみると、商業・流通業が10.7%と最も高く、次いで情報通信業が7.8%となっている(図表1-2-4-18)。

図表1-2-4-17 Eコマース(電子商取引)を持つウェブサイトの開設状況
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
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図表1-2-4-18 Eコマース(電子商取引)を持つウェブサイトの開設状況(業種別)
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
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エ ICTで進化する消費促進に向けた取組事例

ネットショッピングはインターネット上に限った消費行動であるが、近年ではインターネット空間と店舗等のリアル空間の相互関係に着目したO2O(「Online to Offline」「Offline to Online」)が浸透している(図表1-2-4-19)。ネット上で人を集めリアルに送客する「Online to Offline」が中心であり、NFC(近距離無線通信技術)や位置情報、CRM(顧客管理システム)、SNSなどあらゆるサービスと連動させたO2Oサービスが、大手小売りや飲食業、サービス業を中心に既に進展している。これらのサービスでは、クーポンの配信などで顧客の来店を誘い、クーポン対象以外の商品も合わせて購入してもらうことを目的に行われるケースが多い。また、「Offline to Online」の取り組みとしては、自社会員向けアプリの案内や自社ECサイトとのポイントの一元化だけでなく、実物を見てネットで購入する「ショールーミング」対策として、商品にQRコードなどを設置し、読み取るとその商品の販売ページへリンクされるサービスであるなどがある。これにより、その場で購入に至らなかったユーザーが帰宅時などで再度購入を決断する時の機会損失を防ぎ、ユーザーとしても検索の手間が省けるなどのメリットが生じる。

図表1-2-4-19 O2Oの類型及び事例
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)

IoTやビッグデータの潮流と相まって、顧客情報やPOSデータ分析による販売促進活用の注目度も高い。売れ筋以外の埋蔵された情報(リピート率が高い製品情報、各種データと相関が高い製品情報等)の把握により、販売促進を実現することができる。これらのビックデータと位置情報を活用することで、消費傾向や行動範囲などに合わせた行動予想をもとに販促情報を発信できるため、それぞれの消費者に適したO2Oサービスの開発・提供も進展しつつある。スマホ向けアプリケーションを活用しつつ、O2Oや導線分析を容易かつ低コストで実現するビーコンを活用して店舗への集客等の取り組み等が挙げられる。また、従来こうした取り組みに係る効果検証は難しいとされていたが、2015年末にGoogleがWEB広告閲覧者の位置情報を活用して広告クリックが実店舗への来店につながっているかどうかを把握し広告効果検証を可能にするサービスである「来店コンバージョン」を発表している。こうしたツールの活用により、消費を促すとともに、需給マッチングの促進も期待される。

オ 経済貢献の効果

Eコマース等をはじめ、ICTを利用した消費促進サービスやツールを通じて、消費はどの程度促進するのか。実際に、消費者向けアンケートにより、ネットショッピングの利用前後の消費者の普段の生活における買い物等の支出の全体額の変化についてみてみると、「増えた」と回答した人が全体の43%と半分弱を占めている。支出額の増減幅との加重平均値でみると、12.0%の増加に相当する(図表1-2-4-20)。参考までに、『平成22年情報通信白書』において計測した「ブロードバンドサービスよる家計消費増加率」は全体で9.5%(ブロードバンド利用者で10.7%)であり、単純比較すると当時の水準よりも高まっていることが分かる。

図表1-2-4-20 ネットショッピング利用前後の普段の生活における買い物等の家計支出の増加
(出典)総務省「IoT時代における新たなICTへの各国ユーザーの意識の分析等に関する調査研究」(平成28年)
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平成22年情報通信白書と同様の手法に基づき、ネットショッピングの対象となりうる家計消費品目の平均支出金額と前述した家計消費増加率を乗じることで年間の経済効果を算出すると、直接効果で約7.4兆円と推計される。情報通信産業連関表に基づく分析によれば、所得効果も含む2次波及効果まで勘案すると、生産誘発額は約14.2兆円、付加価値額で約8.7兆円である。このように、ICTを通じた消費促進は、需要喚起の観点から大きな経済効果をもたらすことが分かる。加えて、eコマースをはじめインターネットを通じた消費に限らず、電子決済化の進展や事例で紹介したO2Oの浸透や高度化など、ネットとリアルを一体的に捉えたICTの利活用により消費に係る増分効果や、消費に係るビッグデータ等を活かした企業の生産性向上に伴う経済波及効果が今後さらに拡大することが期待される。

<ICTを通じた消費促進による経済効果分析事例>

2016年3月にクレジットカード会社大手Visa Inc.が発表した、世界70ヶ国の経済成長における電子決済の影響分析結果11において、その効果について触れている。

同調査では、2011年から2015年までの期間、対象の70ヶ国においてクレジットカード、デビットカード、プリペイドカードなどの電子決済商品の利用が拡大した結果、GDPが2,960億ドル(約33兆4,480億円)増加し、商品やサービスの家計消費が年平均で0.18パーセント上昇したことを示している。具体的には、2011年から2015年の実質消費は平均2.3%増で、そのうちの0.01%はカード普及率の上昇が起因、カード利用が消費量の伸びの約0.4パーセントを占めていると分析している。また、調査対象の5年間における電子決済の利用増により、年平均で260万もの新規雇用が創出されたと推計しており、電子決済化が、消費、増産、経済成長、雇用創出の大きな要因の1つであると結論づけている。また、電子決済化を通じて、政府における潜在的税収増加、現金処理費用の減少、加盟店に対する支払い保証、消費者における金融サービスへの参加促進といった効果が見られたという。

日本に関してみてみると、電子決済利用の拡大は、2011〜2015年期の日本経済に対して、107.4億ドル(約1兆2,136億円)増という効果をもたらし、年平均27,840件相当の雇用も新たに生み出しているという。



9 日本経済2015-2016−日本経済の潜在力の発揮に向けて(平成27年12月28日)

10 背景として以下の要因を指摘している。
実質総雇用者所得が増加しているものの、物価上昇に比して賃金の改善が緩慢であること
消費者マインドの持ち直しに足踏み
2015年6月の天候不順の影響である
今後、消費は、雇用・所得環境の改善が続く中、消費者マインドも次第に改善し、持ち直していくことが期待されると言及している。

11 https://usa.visa.com/dam/VCOM/download/visa-everywhere/global-impact/impact-of-electronic-payments-on-economic-growth.pdfPDF

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