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第2部 基本データと政策動向
第8節 ICT国際戦略の推進

第8節 ICT国際戦略の推進

1 国際政策における重点推進課題

(1)ICT海外展開の推進

総務省では、我が国のICT産業の国際競争力強化を目的に、ICT企業の海外展開への支援として、海外での各種普及・啓発活動の実施、諸外国の情報通信事情の収集・発信等の活動を行っている。

ア 総務省ICT海外展開戦略

日本再興戦略等の政府全体の方針を踏まえ、ICT分野における我が国事業者の海外展開活動を推進するため、総務省は、地上デジタルテレビ(以下「地デジ」という。)放送の海外展開や、ASEAN、中南米諸国等に対するICTシステム(防災等)の展開を推進している。

地デジ日本方式を契機とした海外展開については、地デジ方式未決定国に対して、日本方式採用に向けた働きかけを行うとともに、日本方式採用国に対しては、放送関連機器市場への日本企業の進出支援や、人的繋がり等を活用した他分野ビジネスの展開支援等を行っている。

また、平成27年11月には、海外において電気通信事業、放送事業または郵便事業等を行う者に対して、長期リスクマネーの供給や専門家の派遣等の支援を行う官民ファンド「株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)」1が設立された。通信・放送・郵便は規制分野であり、海外で事業を行うに当たっては政治リスク(突然の制度・政策変更等)やそれに伴う需要リスクが大きく、民間金融からの資金が集まりにくいなどの課題がある。JICTは、長期リスクマネーの供給を通じてこうしたリスクを一部負担することで、民間資金を誘発し、我が国の事業者の海外展開を支援することを目的としている。今後は、JICTを積極的に活用することで、通信・放送・郵便インフラとICTサービスや放送コンテンツとのパッケージ展開を促進し、アジアを中心とした膨大なインフラ需要を取り込んでいくこととしている。

イ 地上デジタルテレビ放送日本方式の国際展開

地デジ放送分野においては、官民連携で日本方式(ISDB−T)の普及に取り組んでおり、2006年(平成18年) に日本方式を採用したブラジルと協力しながら、日本方式採用を各国に働きかけてきた。日本方式には、①国民の命を守る緊急警報放送、②携帯端末でのテレビ受信(ワンセグ)、③データ放送による多様なサービスといった、他方式にはない強みがある。地デジ放送日本方式の海外展開は、この強みを相手国に示してきたことで、採用国が合計18か国(平成28年5月現在)にまで拡大するに至っている(図表6-8-1-1)。

図表6-8-1-1 世界各国の地上デジタルテレビ放送の動向

スリランカでは、2014年(平成26年)9月に地デジ放送システムの整備目的では初となる円借款の供与が表明されている。また、フィリピンでは、2015年(平成27年)にデータ放送を活用した渋滞情報配信システムに関する導入調査を実施し、同国における地デジ普及促進を図った。さらに、2016年(平成28年)1月には、ペルーで、地デジを活用した緊急警報放送(EWBS)の機能を備えた広域防災システムが実用化された。

日本方式の「採用国」に対しては、引き続き日本企業の進出機会の拡大につながるよう、地デジ導入のために必要となる「制度づくり」をきめ細かく支援するとともに、2016年(平成28年)は、ブラジルが日本方式を海外で初めて採用してから10周年を迎える機を捉え、地デジを核としてICT分野全体の関係強化につなげていく予定である。

ウ 防災ICTの国際展開

我が国は、ICTを活用した災害情報の収集・分析・配信による効率的・効果的な災害対策を可能とする防災ICTシステムについて、世界で最も進んだ技術・ノウハウを有する国のひとつである。国土交通省・気象庁などの防災に関係する各府省と連携しながら、総務省では、このような防災ICTシステムの国際展開を推進しており、各国政府へのトップセールスを契機に、相手国と協力方針・プロジェクトを協議する政策対話、防災ICTソリューションの現地での適用可能性を確認するフィージビリティスタディ・実証実験、各国の防災ICT関係者に研修を行う人材育成セミナー等を実施し、アジア、中南米諸国等で成果を上げている。

エ 各国ICTプロジェクトの展開
(ア)アジア地域

全世界の人口の約6割が集中するアジア地域は、堅調で安定した経済成長が続いており、経済成長に伴う中間層も拡大している。更に、域内の貿易自由化や市場統合などを通じ成長加速を目指した「ASEAN経済共同体(AEC)」が2015年(平成27年)末に設立されたことも受けて、我が国企業にとって成長市場としての大きな魅力に変わりはない。経済成長と生活の質の向上は、膨大なインフラ需要を生み出しており、ICTインフラもその例外ではない。また、都市交通や環境、防災などの分野において、多くの社会課題が生じており、ICTを活用した解決に期待が寄せられている。総務省は、政府全体のインフラ輸出戦略に貢献し、また、アジアの経済発展や社会課題解決にも繋がる、我が国ICTの特徴・強みを活かした「質の高いインフラ投資」の推進に取り組んでいる。

A インドネシア

インドネシアについては、2015年(平成27年)9月にインドネシア通信情報大臣が来日し、総務大臣との間で、ICT分野における日本・インドネシア両国の協力を一層強化する目的で、情報通信分野における協力に係る覚書等を締結した。本覚書等に基づき、ルーラル地域の無電化村等におけるデジタル・ディバイドや未放送地域の解消に向けた通信・放送インフラの整備技術の協力、防災情報収集・伝達システムの導入、行政効率化・透明性向上に向けた電子政府化等をはじめとした我が国ICTの国際展開に係る取組を実施している。

B ミャンマー

ミャンマーでは、2014年(平成26年)に外資系通信事業者2社が新規参入するとともに、MPT(国営電気通信事業体)とKDDI・住友商事が共同事業を開始した。この結果、急速に通信市場が拡大しており、通信・情報技術省(現:運輸・通信省)は、2015年末までの2年間で携帯電話の人口普及率が9.5%から77.7%に増加したとしている。日本政府は、急速に拡大する通信需要に応えるため、3都市(ヤンゴン、ネーピードー、マンダレー)間を結ぶ基幹通信インフラ、ヤンゴン市内の通信インフラ等の整備を行う円借款「通信網改善事業」(105億円)について、2015年(平成27年)3月にミャンマー政府との間で交換公文に署名した。現在、日本企業グループにより、当該事業の詳細設計が進められている。

これらの日ミャンマー協力が進む中、2015年(平成27年)5月にミャンマー通信・情報技術大臣が来日し、総務大臣との会談を実施して、情報通信分野における日ミャンマー間の更なる協力関係の強化を確認した。今後は、2016年3月に誕生した新政権の政策も踏まえながら、我が国ICTの国際展開に向けた取組を進めていく。

C インド

インドでは、2014年(平成26年)から「日印合同作業部会」を開催している。本作業部会での検討結果を踏まえ、2015年度(平成27年度)は、太陽電池などを活用し、停電時の通信確保やCO2排出削減を目指したグリーン携帯電話基地局の実証事業を行うなどの取組を行った。

(イ)中南米地域

中南米地域は、ブラジル、メキシコといった巨大な人口と大きな潜在成長力を誇る国々や、ペルー、コロンビアといった近年安定した成長を見せる国々を擁しており、成長性のある市場である。2014年(平成26年)7月から8月にかけて、総理大臣が、経済界関係者とともに中南米5カ国(メキシコ、トリニダード・トバゴ、コロンビア、チリ、ブラジル)を訪問した。コロンビア、チリ、ブラジルとの共同声明では、地デジやICT分野における協力推進の意向が表明されている。

現在、中南米諸国においてデジタル網整備が活性化しており、総務省では、日本が有するFTTH技術に関する技術講習会をチリ、コロンビア、エクアドル、ペルーで実施するとともに、コロンビアでは、日本製FTTH技術の高さを実証するため、フィールドトライアルを行った。また、各国でデジタル網の整備が進むのにあわせ、これを活用した遠隔教育、遠隔医療、防災、防犯、スマートシティなどの各分野でのアプリケーションにかかる政策ノウハウ、維持管理技術、人材育成などを組み合わせた展開と、同地域での共通課題、解決方策にかかる連携を各国と強化している。

特に、2016年(平成28年)は地デジ日本方式が海外で採用されて10周年を迎える。中南米諸国に対して、地デジ日本方式採用を契機としたICT分野全体の国際展開の強化に取り組んでいる。

A ブラジル

ブラジルでは、2006年(平成18年)6月に、海外では初めて地上デジタルテレビ放送日本方式が採用された。これ以降、主として地デジ移行等の放送分野において、日本との協力が活発に行われてきた。2013年(平成25年)7月、ブラジルを訪問した総務大臣とブラジル通信大臣との間で、二国間協力を放送分野からICT分野全体に拡大強化する旨の合意がなされた。これを受け、総務省は、2014年(平成26年)5月、サンパウロにて「日伯ICTダイアログ」をブラジル連邦通信省と共催し、2015年(平成27年)8月には、サンパウロにて開催されたSET EXPO2015に、地デジや4K放送、光ファイバ技術の紹介のためジャパンパビリオンの出展を行った。引き続き、総務省とブラジル連邦通信省は、様々な社会課題の解決に向けたICT分野の具体的協力プロジェクトや情報通信基盤整備の協力を進めていく。

B ペルー

ペルーでは2009年(平成21年)4月に地デジ日本方式が採用された。それ以降、JICA専門家派遣等の支援により総務省とペルー運輸通信省との間では放送分野における継続的な協力関係が構築されている。2016年(平成28年)1月、総務省は、ペルー共和国へ地デジICT官民ミッション団を派遣し、ペルー共和国運輸通信省とともに「日ペルー地デジICT国際セミナー」を開催し、本セミナーを契機に、地デジ分野での協力関係を強化するとともに、ICT分野全般へ協力を拡大することを確認する覚書を締結した。また、同国への防災無償資金協力事業を通じ、日本方式のメリットの一つである緊急警報放送(EWBS)の機能を備えた広域防災システムを供与した。今後、地震・津波等の自然災害の多いエクアドルやチリ等近隣諸国にも導入されていくことが期待されている。

C チリ

チリでは、2009年(平成21年)9月に地デジ日本方式が採用されて以降、地デジ分野において専門家派遣やセミナー開催、研修実施等によって我が国との連携がなされてきた。この協力関係を核としつつ、2015年(平成27年)2月、チリ運輸通信省通信次官が来日した際には、両国間の協力関係を地デジからICT分野全体へ広げることを確認し、日チリ双方が関心を有する案件を、具体的に官民共同でプロジェクト化することを目指すことについて一致した。2015年(平成27年)5月には、総務副大臣がチリを訪問し、通信衛星やデジタル網整備を含むICT分野協力強化に関する共同声明に署名が行われた。



1 株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT):http://www.jictfund.co.jp/別ウィンドウで開きます

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