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第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI〜ネットワークとデータが創造する新たな価値〜
第2節 経済成長へのICTの貢献〜その具体的経路と事例分析等〜

(2)ICTに係る労働力向上

ア 経済貢献の概要

企業はICTの導入により、同等の生産物・付加価値を生み出すために必要とされる労働力を減少(=ICTが業務を代替)させることで、生産性を向上させることができる。すなわち、企業がICTをより廉価に利用できるほど、代替できる業務が幅広くなるほど、ICTと労働力との代替効果は増大する。ICTによる代替は、企業の労働生産性を向上させ、より少ない生産要素で同等あるいは多くの生産物・付加価値を生み出すことができる。

ロボット・人工知能(AI)等のICT利活用により、同等の生産物・付加価値を生み出すために必要とされる労働力が縮小し、一方で、作業の迅速化や精度向上にも寄与すると予想される。コンピューターが得意とするパターン認識等が必要とされる業務は、ICTによって代替されるが、高度な人的資本がICTと結びつくと、企業の生産性を上昇させ、ICTを使いこなす人材への雇用が生まれる。

イ ICTによる労働力向上による雇用への影響

ICTによる労働力向上においては、企業の生産性を高める一方で、雇用の在り方との関係についても諸説が存在する。情報化投資は労働との代替を要因としているため雇用情勢に影響を与えてきた。とりわけ、ICTが雇用の二極化の主要な要因であること、定型的な業務を代替するとの見方は検証も重ねられ、広く共有されている。

例えば、池永(2009)5は、定型的な業務を行うような職種では、ICTの普及とともに雇用が代替されており、一方で、非定型的な業務を行うような職種では、ICTの普及とともに雇用が代替されることはなく、むしろ、専門的な職種では、ICTと雇用に補完的な関係があることを指摘している。ICT利活用の先進国ともいえる米国においては、Autor, David and D.Dorn(2013年)6によれば、低賃金層と高賃金層の賃金格差が拡大、低賃金層と高賃金層の職業の雇用シェアが増加という2つの格差が拡大しており、とりわけICTの普及を背景として、中程度スキルを要求する業務が機械化され、賃金と業務の二極化が進展していると分析している。さらに、エリック・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー(2013年)7によれば、技術革新に関連して新たな雇用機会が生み出されることも指摘しており、現状では、ICTによる技術革新のスピードが速すぎることから、それが雇用を奪っているように見えると分析している。

こうした雇用への影響の詳細については第4章で取り上げることとし、ここでは少ない労働投入量で付加価値を生み出し、労働生産性を高めるための企業の取り組み等についてフォーカスするものとする。

ウ 企業の取組事例

少ない労働投入量で生産性を生み出す取り組みの例としては、「自動化」や「無人化」といった観点からのICTの利活用が挙げられる。

先行事例として、米Amazonの物流倉庫における作業の自動化が挙げられる。Amazonは、2012年にロボット開発米Kiva Systemを7億7500万ドルで買収し、物流センターでの商品ピックアップ、梱包、発送プロセスの更なる効率化、人件費削減と配達の更なる迅速化を目指し、2013年に同社の物流倉庫において作業ロボットを導入した(図表1-2-3-7)。Kiva Systemのロボットは在庫棚を作業員に届けるものであり、作業員が倉庫内を歩いて商品を取りに行く必要がなくなる。Kiva Systemが開発したネットワーク化されたロボット物流「モバイル式フルフィルメントシステム」により、物流の生産性が最大で4倍にも改善されているという結果が出ているという。こうした効果により、Amazonが一般的な注文を履行する場合の費用(通常3.50〜3.75ドル)を20〜40%削減できる可能性等の試算もあり、巨大な物流ネットワークを管理する同社においてはとりわけ大きな効果が見込めると指摘されており、Amazonがこれを使用することにより年間最大9億1600万ドル節減できる可能性があると述べている。また、倉庫における作業は人の作業が介在すると人為的ミスが発生しうるが、ロボットの導入により、コスト削減のみならず倉庫の作業効率の改善や安全性の向上に寄与すると考えられている。

図表1-2-3-7 Kiva Systemの物流倉庫内ロボット
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
エ ICTによる労働力向上の今後の導入見通し

ここでは、国内企業向けモニタアンケート調査結果をもとに、企業によるICTを活用した労働力向上の実施状況について概観する。

全体でみると、ICTを活用した労働力向上の実施計画ありが計画無を上回っており全体としては省力化に向かうと予想される。従業員規模別でみると、大企業における実施や検討が進展している(図表1-2-3-8)。また、業種別でみると、実施率(予定含む)の観点からは、製造業や情報通信業が高いが、実施意向を含めてみると、サービス業や商業・流通業など非製造業分野の方が高い(図表1-2-3-9)。

図表1-2-3-8 ロボット・人工知能(AI)等のICT活用による労働力向上に係る取り組み
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
「図表1-2-3-8 ロボット・人工知能(AI)等のICT活用による労働力向上に係る取り組み」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら
図表1-2-3-9 ロボット・人工知能(AI)等のICT活用による労働力向上に係る取り組み(業種別)
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
「図表1-2-3-9 ロボット・人工知能(AI)等のICT活用による労働力向上に係る取り組み(業種別)」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら


5 「労働市場の二極化ーITの導入と業務内容の変化について」『日本労働研究雑誌』No.584

6 “The Growth of Low-Skill Service Jobs and the Polarization of the U.S. Labor Market,” American Economic Review, 103(5)1553-1597

7 『機械との競争』日経BP社

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