平成9年版 通信白書

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第1章 平成8年情報通信の現況

2 産業の情報化

(1) サイバービジネスの展望

 ここ数年のインターネットの普及により、サイバースペースを利用した電子商取引に代表されるサイバービジネスが大きく注目されている。サイバービジネスとは、「情報通信ネットワーク内のビジネス空間・社会的空間を提供し、その中で一般消費者、製造業者、サービス業者、各種団体等の取引(商品の受発注、決済等)・相互交流を実現するネットワークビジネス」(電気通信審議会答申、8年2月)である。
 ここでは、郵政省が委託して行った調査(注12)を基に、サイバービジネスの現状と展望について見ることとする。
ア サイバービジネスの市場規模
 日本におけるサイバービジネスの8年度(注13)の市場規模は約285億円である。7年度(注14)の市場規模は7億円(推定)であり、この一年未満の間で約40倍の急成長を遂げている。これを、全世界の市場規模約3,490億円(予測)と比較すると約8%のシェアを有している。国別に見れば、米国が約77%と他を大きく引き離している(第1-4-12図参照)。
 サイバー店舗数の推移を見ると、7年後半から8年にかけて急激な増加が見うけられる(第1-4-13図参照)(注15)。これらサイバー店舗の経営者の本業については、企業等の事業体でない「個人経営」、「書籍・文具・玩具等の小売業」、「情報サービス業」、「情報サービス以外のサービス業」が上位を占めているが、全体的に業種間に偏りは見うけられない(第1-4-14表参照)。また、サイバー店舗で取り扱っている商品については、「食料品」が一番高く、「情報提供サービス以外のサービス」、「趣味・娯楽」、「コンピュータ・ソフトウェア」と続いてる(第1-4-15表参照)。
イ サイバービジネスの経営状況
(ア) サイバービジネス全体の経営状況
 サイバービジネス全体の収支状況について見ると、赤字の店舗が半数以上を占めるが、黒字又は収支均衡の店舗も約4割弱となっており、これからの市場拡大が期待される。既に黒字を達成している店舗の、開業から黒字に転換するまでの期間を見ると、平均4.6か月であり、開業から4か月以内で黒字に転換する店舗が半数以上となっている(第1-4-16図参照)。
 サイバービジネスの経営においては、全般に小規模経営であることが分かる。サイバー店舗の運営に当たる従業員数については、約半数の店舗が1人で運営しており、5人以下で見れば全体の9割弱となる。開業時の初期投資についても、半数以上が50万円以下の投資でサイバー店舗を開業している(第1-4-17図参照)。
 また、約6割の店舗が、1か月当たりの受注件数が10件以下、月額運営費用は20万円以下(全体平均は約31万円)、1か月の売上が10万円以下であり、ここでも小規模経営が主流であるといえる。しかし一方で、1か月の受注件数が1,001件以上、1か月の売上が1,001万円以上の店舗も存在しており、経営方針次第では大きなビジネスとなることがあることも分かる。
(イ) 個人経営店舗の経営状況
 サイバービジネスは、店舗用の土地を必要としないなど、一般に初期投資・運用費用・従業員数ともに少ない規模で運営できるため、個人でも比較的容易に店舗を開業できる。ここでは、企業等の事業体ではなく個人でサイバー店舗を副業的に開業している、個人経営店舗の経営状況について見る。
 収支状況については、約4分の1の店舗が黒字を達成しており、収支均衡まで含めれば約4割となっている。これを、サイバービジネス全体の傾向と比較して見ると、単年度で9.6ポイント、累積で4.7ポイント高くなっている。初期投資は、8割以上の店舗が50万円以下の投資、月額運営費用も平均12万9,000円といずれも全体の傾向と比べ低い支出である。受注件数・売上については、受注件数1,001件以上や売上1,001万円以上という高い値のものはないが、それ以外では、ほぼサイバービジネス全体の傾向と同じである(第1-4-18図参照)。
 これらから、個人経営のサイバービジネスでは、初期投資や運営費用に多額の金額をかけていないため、黒字達成の割合が全体と比較して高いといえる。
(ウ) 情報サービス、新聞・雑誌・通信事業者の経営する店舗の経営状況
 収支状況については、約1割強の店舗が黒字を達成している。しかし、サイバービジネス全体の傾向と比較すれば、単年度で8.2ポイント減、累積で2.5ポイント減となっている。月額運営費用については、83万4,000円と全体平均の31万円を大きく上回っており、初期投資についても、501万円以上の初期投資が4分の1を占め、サイバービジネス全体の傾向と比較して圧倒的に高い割合といえる(第1-4-19図参照)。
 このように、他と比較すると全体的にコスト高であるため、収支状況については厳しい傾向が見られる。
ウ サイバービジネスでの販売商品別の傾向
 サイバー店舗での販売商品別の経営動向について見ると、「家具・家電・家庭用品」が4分の1の店舗で黒字を達成しており、収支均衡まで合わせると半数以上に及ぶ。その他で黒字を達成している店舗の割合が多いのは、「情報提供以外のサービス」である。逆に、黒字達成の割合が低いのは、「趣味・娯楽」であり、収支均衡まで合わせても2割に満たない(第1-4-20図参照)。
 収支状況と売上(月額)の関係を見ると、「コンピュータ・ソフトウェア」が売上としては第1位の1億3,082万円(総額)であるが、黒字達成の割合は第8位と低いことが特徴的である。同様に、「書籍・文具」も売上が1億1,167万円(総額)に対し、黒字達成の割合が低い。
 初期投資額と月額費用について見ると、「食料品」が初期投資、月額費用ともに他より圧倒的に低い額となっているのが特徴的である。その他の項目では、初期投資と月額費用に関して、「情報提供サービス」の初期投資が他よりやや高額であること以外は、どれもほぼ同額であるといえる。
エ サイバービジネスの既存ビジネスとの比較
 サイバー店舗で取り扱う商品の価格を、実在店舗での販売価格と比較して見ると、多くの店舗が「同価格」で販売しているが、サイバー店舗で販売する方が安価に商品を提供している店舗も24%あり、サイバービジネスと既存ビジネスの間に差異が見られる。また、販売地域・対象顧客層については、「従来販売できなかった国内地域」、「従来販売できなかった海外」からの注文増による販売地域の変化や、「従来販売できなかった属性(性別、世代、職業等)」からの注文増による対象顧客の変化が表れている(第1-4-21図参照)。
オ サイバービジネスの地域別傾向
 サイバービジネスでの地域別の傾向について見ると、サイバービジネスの経営者の本業所在地では、4分の1が海外であり、サーバーの設置場所も、3割弱が海外となっている(第1-4-22図参照)。海外企業の参入及び海外設置サーバーが多いことからも、サイバービジネスがボーダーレスなビジネスであることが分かる。
 また、国内については、サイバー店舗の経営者の本業の所在地、サーバー設置場所ともに東京都に集中していることが分かる。
カ 海外との比較
 日本のサイバービジネスの動向を、海外でのサイバービジネスと比較してみる。
 売上については、日本では100万円以下の店舗が大半を占め、「売上がない」店舗、101万円以上の店舗の数は少ない。しかし、海外では売上が100万円以下の店舗は約3割であり、「売上がない」店舗が日本の2倍以上、101万円以上の店舗も日本の約2倍となっている。
 また、「営利を目的としていない」店舗が、日本は僅か3%であるが、世界は25%と非常に高い割合であり、サイバービジネスへの取組に大きな違いが見られることが特徴的である(第1-4-23図参照)。
 サイバービジネスを経営する企業(個人を含む。)の従業員規模については、日本と世界はほぼ同様の傾向を示している。
キ サイバービジネスにおける決済方法・セキュリティ対策
 サイバービジネスにおける決済方法について見ると、「銀行振込」、「代金引換」、「郵便振替」が主流であり、「クレジットカード決済」はまだ約1割である(第1-4-24図参照)。これは、「クレジットカード決済」におけるセキュリティ対策が整備されていないためと考えられる。
 セキュリティ対策の現状として、「クレジットカード決済」を採用している店舗のセキュリティ対策について分析する。
 クレジットカード番号の取得に関しては、「カード番号は毎回電話やFAX等で取得」が約半数であり、「暗号化通信のできるサーバーソフトを使用」している店舗は僅かである。また、相手が正当な人物であるかの確認手段である「認証」に関しては、「電話による確認」、「電子メールによる確認」が主流であり、「パスワード入力による確認」は約1割、「暗号技術による確認」は0%となっている。このように、セキュリティ対策の現状としては、既存の手法を用いており、暗号化技術といった電子決済技術はほとんど採用されていない。
ク サイバー店舗の課題
 サイバー店舗が現在かかえる課題について見ると、技術課題としては、「便利で信頼できる決済手段がない」が多く、決済手段に苦労していることが分かる。また、経営課題としては、「サイトの認知度が少ない」等売上を伸ばす手段に苦労していることが分かる。
 一方で、代金回収やオーダーに関する顧客とのトラブルは少ないが、これは電子決済技術がほとんど採用されていないためであり、注目すべき課題である(第1-4-25表参照)。
ケ 物流への影響
 サイバービジネスの発展は、従来の「製造-卸売-小売-消費者」という物の流れを変えつつある。
 サイバービジネスを展開する企業のうち、約2割が「製造業」、「卸売業」を本業としている。これは、従来、消費者と接点がなかった企業が、直接消費者に対して、製品・商品を販売していることを示している(第1-4-26図参照)。
 また、「物流」そのものがなくなっている分野もある。サイバービジネスでの、デジタルコンテントの販売は、従来、フロッピーディスクやコンパクトディスクといった媒体で販売していたものを、サイバースペースを通じて、消費者が媒体なしで商品を直接入手できることを可能とした。
 このように、従来の物流構造において、「中抜き現象」が表れており、「製造業」、「卸売業」のサイバービジネスへの参入やサイバー市場におけるデジタルコンテント販売の増加等により、今後の物流構造に大きく影響してくると予想される。
コ サイバービジネスの最先端事例
 サイバービジネスの特徴の一つとして、国境を超えた国際的なビジネスが容易に行えることが挙げられる。ここでは、インターネット上の国際的なビジネスの事例を紹介する。
 米国にあるA社では、日本では人気はあるが入手が困難である米国のビンテージ商品に注目し、日本人向けに、インターネット上のオークションというユニークな形式で販売を行っている。これはサイバースペース上での、新しい形の仲介業といえる。
 実際に商品を取り扱うのはA社ではなく、ビンテージ商品を実在店舗で販売している会員店舗である。これらの会員店舗は、オークションに出したいビンテージ商品を最低入札価格とともにA社に登録する。A社では、自社のWWWサーバー(米国設置)の日本語ホームページ上にこの商品を登録し、これを見た個人会員が、自分が購入したい商品名と希望購入価格を入札する。オークションはある一定の時刻に締め切られ、その時点で一番高い価格を提示した個人会員が落札するシステムである(第1-4-27図参照)。
 商品の発送は、会員店舗からA社経由で行われ、A社では実物の商品をチェックした上で個人会員に発送する。送料・関税は個人会員が負担する。
 決済方法は、クレジットカード決済が主体で、事前に登録したカード番号で落札と同時にクレジットカード会社に対して承認処理が行われる。
 セキュリティ対策としては、クレジットカード番号の取得は、基本的にオフライン(FAX)で行い、入札者が個人会員本人であるかの認証は、事前に発行したパスワードの入力で行っている。

第1-4-12図 サイバービジネスの市場規模
第1-4-12図 サイバービジネスの市場規模

第1-4-13図 サイバー店舗数の推移
第1-4-13図 サイバー店舗数の推移

第1-4-14表 サイバー店舗経営者の本業
第1-4-14表 サイバー店舗経営者の本業

第1-4-15表 販売商品の傾向
第1-4-15表 販売商品の傾向

第1-4-16図 サイバービジネスの収支状況
第1-4-16図 サイバービジネスの収支状況

第1-4-17図 サイバービジネスの経営状況
第1-4-17図 サイバービジネスの経営状況

第1-4-18図 個人経営サイバービジネスの経営状況
第1-4-18図 個人経営サイバービジネスの経営状況

第1-4-19図 情報サービス・新聞・雑誌・通信事業者の経営するサイバービジネスの経営状況
第1-4-19図 情報サービス・新聞・雑誌・通信事業者の経営するサイバービジネスの経営状況

第1-4-20図 販売商品別の経営状況
第1-4-20図 販売商品別の経営状況

第1-4-21図 既存ビジネスとの比較
第1-4-21図 既存ビジネスとの比較

第1-4-22図 サイバービジネスの地域別傾向
第1-4-22図 サイバービジネスの地域別傾向

第1-4-23図 日本と海外の比較
第1-4-23図 日本と海外の比較

第1-4-24図 サイバービジネスでの決済方式・セキュリティ対策
第1-4-24図 サイバービジネスでの決済方式・セキュリティ対策

第1-4-25表 サイバー店舗の課題
第1-4-25表 サイバー店舗の課題

第1-4-26図 物流構造の変化
第1-4-26図 物流構造の変化

第1-4-27図 A社のオークションシステム図
第1-4-27図 A社のオークションシステム図

 

 

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