平成9年版 通信白書

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第2章 情報通信政策の動向

(3)情報通信技術の研究開発の推進

 国による情報通信技術の研究開発体制は、リスクや公共性が高いため民間において実施が期待されない分野における通信総合研究所及び通信・放送機構での研究開発と、民間において実施されるものの民間単独では実施が困難な研究開発に対して、出融資を行う基盤技術研究促進センターがある(第2-6-3図参照)。
ア 通信総合研究所による研究開発の推進
(ア) 情報通信の高度化のための脳機能の研究
 脳は、膨大な数の神経細胞からなる神経回路網の集合体であり、いわば巨大な情報通信システムである。認識、記憶、学習等脳の高度な機能を解明し、そのメカニズムを交換機や情報通信端末等に応用することにより、画期的な情報通信システムを開発できる。
 郵政省では、通商産業省と共同で、郵政省通信総合研究所及び工業技術院電子技術総合研究所のそれぞれの研究ノウハウを活用した共同研究を、9年度から実施することとしている(第2-6-4図参照)。
(イ) 電気通信フロンティア研究開発の推進
 郵政省では、電気通信の高度化のための基礎的・先端的な研究開発として、郵政省通信総合研究所を中心に、産学官の研究者の連携により、電気通信フロンティア研究開発を昭和63年度から行っている。
 8年度は、前年度に引き続き、「超高速通信技術」、「バイオ・知的通信技術」及び「高機能ネットワーク技術」の3分野について8課題の研究を行うとともに、新たに、「バイオ・知的通信技術」分野に「自律型知的ソフトウェアエージェントの設計原理の研究開発」を追加し、研究開発課題を9課題に拡充して、研究開発を推進している。
(ウ) 情報通信基盤の基礎的・はん用的技術開発の推進
 来るべき高度情報通信社会において、すべての国民が情報通信基盤の便益を享受できるように、基礎的・はん用的技術の研究開発を行うことを目的として、7年度から郵政省通信総合研究所において、「超高速ネットワーク技術」、「ユニバーサル通信端末技術」、「高度情報資源伝送蓄積技術」に関する研究開発を行っている。
 8年度は、主要研究課題として13課題を設定して、研究開発を推進している。
イ 通信・放送機構における研究開発の推進
(ア) 高度三次元画像情報の通信技術に関する研究開発(品川リサーチセンター)
 通信・放送機構において、複数の二次元画像情報を高度に圧縮して伝送した後、ホログラフィ技術を用いて、元の対象物の三次元動画像をリアルタイムで復元することなどを可能とする研究開発を、4年度から行っている。8年度においては、ホログラフィによる立体動画像表示方式の研究開発を実施するとともに、人間の生理的特徴を利用して、見る位置を変えても、それに応じた自然な立体画像を現出させる「超多眼方式」による立体ディスプレイを開発した。
(イ) インテリジェント映像技術の研究開発
 様々な映像メディア間で、デジタル映像情報の自由な伝送・流通を可能にするための知的で高機能な映像伝送技術の確立等を目的として、8年度から通信・放送機構において、映像相互利用技術、映像メタデータ技術及び超高精細静止画像入力技術の研究開発を行っている。
(ウ) 高齢者・障害者のための機能代行・支援通信システム技術の研究開発
 高齢者や障害者が、マルチメディア情報をネットワークを介していつでもどこでも自由に入手・発信が可能な、人に優しい情報通信基盤技術を確立する必要がある。
 通信・放送機構では、8年度から、視聴・発声機構、視覚・運動機構、適用・学習機構、記憶・言語機構、実環境システムに関する研究開発を行っている。
(エ) 情報通信セキュリティ技術に関する研究開発(横浜リサーチセンター)
 多種多様な情報通信における情報の漏えい、改ざん、不正利用、不正なデータベースアクセス等を防止するため、これに必要な暗号化技術、認証技術、高度安全アクセス制御技術及びこれらに係るユーザーインターフェース技術に関する研究開発を通信・放送機構において、7年度から開始した。8年度においては、暗号化技術の研究開発を本格化させた。
(オ) トータル光通信技術の研究開発
 マルチメディア時代の本格的な到来に応えるため、光通信を電気信号に変換せずに中継する全光処理により、光の広帯域性を生かした超大容量で柔軟な光ネットワークを実現するT(テラ)bps級の超高速で1万km以上の長距離伝送が可能な光通信システム技術を開発する必要がある。そこで、8年度から、通信・放送機構において、ソリトン伝送・制御技術、超高速光源及び変復調技術等の研究開発を行っている。
(カ) 次世代超高速光通信システムの研究開発
 超高速光通信技術に関する我が国の競争力の向上、マルチメディア社会の早期実現を目指して、通信・放送機構では、超高速光通信システムに必要な信号圧縮、大容量高速転送等の機能実現のための先端的光通信技術の研究開発を8年度から行っている。
(キ) 高度映像通信技術の研究開発(奈良リサーチセンター)
 通信・放送機構奈良リサーチセンターでは、超高精細デジタル映像の伝送技術、映像データベースの遠隔検索・表示技術及び多地点協調作業環境構築技術等の高度映像通信技術の研究開発を行っている。また、新世代通信網実験協議会(BBCC)と共同で、広帯域ISDN実験網を利用したアプリケーション共同実験を行っており、8年度から、1)臨場感図書館/博物館の遠隔利用実験、2)環境映像サービス等への応用実験が開始された。さらに、BBCC及びマルチメディア振興センターとの共同で、広帯域ISDN実験網とパイロットモデル事業の家庭までの光ファイバ網とを接続し、モニター家庭への環境映像の伝送実験も8年度から開始された。
(ク) 分散型映像ネットワークの利用技術に関する研究開発(浜松・厚木リサーチセンター)
 通信・放送機構では、ディレクトリ技術、並列処理技術の研究開発を、8年度から開始した。研究開発の概要は、次のとおりである。
(ディレクトリ技術)
 分散型映像ネットワークに構築された映像を中心としたデータベースを容易に検索し、必要な情報を入手するための技術として、通信・放送機構浜松リサーチセンターにおいて、電子博物館や電子図鑑を構築し、情報の索引となるディレクトリの構成技術、利用者が容易に検索可能なナビゲーション技術及び分散型映像ネットワーク上において必要となるプロトコル技術について、研究開発を行っている。
(並列処理技術)
 家庭や企業及び公共施設における情報通信の利用の高度化に資する技術として、通信・放送機構厚木リサーチセンターにおいて、分散して設置された映像を中心としたデータベースを効率よく利用するために必要となるマルチアクセス制御技術及びダイナミックリンク制御技術の研究開発を行っている。
ウ 基盤技術研究促進センターによる研究開発の促進
 基盤技術研究促進センター(以下、「センター」という。)は、民間において行われる電気通信及び鉱工業分野の基盤技術に関する試験研究を促進するための機関である。センターは、産業投資特別会計から出融資される資金を原資として、試験研究に必要な資金を供給するための出融資事業を行うほか、国立試験研究機関と民間とが行う共同研究のあっせん、海外からの研究者の招へい等の事業を行っている。
 8年度において、新たにセンターの出資対象として採択された電気通信関係の案件は、「情報放送システムにおける超多地点分散型高機能情報配信・管理検索技術の試験研究」及び「移動通信における高度セキュリティ技術の研究」の2件となっている(第2-6-5表参照)。
 また、9年度から中小中堅企業(株式公開前)の研究開発への出資を行う研究開発型企業出資制度及び中小中堅企業の研究開発への融資を行う研究開発型企業特別融資制度が創設されることとなっている。研究開発型企業特別融資制度については、研究が失敗した場合には元利の償還を減免し、事業化が成功した場合には売上げの一定割合のセンターへの納付を求める予定である。

第2-6-3図 国による情報通信技術の研究開発体制
第2-6-3図 国による情報通信技術の研究開発体制

第2-6-4図 情報通信の高度化のための脳機能の研究
第2-6-4図 情報通信の高度化のための脳機能の研究

奈良リサーチセンター臨場感図書館
奈良リサーチセンター臨場感図書館

浜松リサーチセンター電子博物館
浜松リサーチセンター電子博物館

第2-6-5図 基盤技術研究促進センターの8年度新規出資案件(電気通信分野)
第2-6-5図 基盤技術研究促進センターの8年度新規出資案件(電気通信分野)
 

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