奈良県や京都府南部を中心に、注文住宅、リフォーム、介護、保育、DXコンサルティング等を手がける中小企業であるアイニコグループ株式会社では、経営者自身が生成AIを壁打ちに活用し始めた際、「AIの登場はクラウドコンピューティング登場時以上の衝撃であり、AI前提の働き方に変えなければ会社の将来はない」という認識に至り、すぐに社内での活用推進を指示したという。
背景には、同社が創業初期から大切にしてきた「仕組みづくり」の文化があり、長期にわたってお客様の笑顔を守り続けるという経営姿勢のもと、次代への人材育成と業務の標準化・マニュアル化を全社的な習慣として積み重ねてきたという。この「改善を重ねることへの拒否反応がない」土台に加え、「早く試して早く判断する」スモールスタートを重視する経営者の姿勢の下、AI活用のためのプロジェクトをスタートさせたという。
AI活用プロジェクトを開始する以前から、社内でChatGPT等のAIツールは導入されていたが、個人利用に留まっており、AIを業務全体にどのように展開していくかが課題であったという。
そこで、まず、専門の支援業者(株式会社THA)とも連携の上、全社員向けに勉強会を開催し、業務に直結する内容というより、親しみやすい物語を題材にAIとやりとりすることを社員に体験させ、AIでどのようなことができるのか、可能性について楽しく理解できるような機会を設定した。
その後、本格的なAI活用プロジェクトを1年間集中的に実施した。AI活用に挑戦したい社員を各部署から募り、全10事業部から2名程度、計21名がAI活用プロジェクトに参加した。各事業部の課題認識を起点に、AIで解決したい課題と目標を設定し、週1回1時間程度の勉強会の中で進捗確認や専門家によるアドバイス等を実施するとともに、3か月、6か月、12か月のマイルストーンを設定してその時点における成果共有の機会を設けた。
12か月目に最終報告会を開催、全10事業部の合計で年間2,247時間分もの業務時間削減につながった等の最終成果が報告されたという。
当該プロジェクト参加者は、通常業務と並行してAI活用に取り組んでいたが、結果として、全ての事業部で各種AIツールを活用し、それぞれの業務課題の解決につながる効果を挙げたという。例えば、イで述べた年間2,247時間分の業務時間削減には、複数の社内業務を自動化し年間880時間の削減(広報部門)、利用者の送迎ルートの最適化システム作成等で年間170時間の削減(介護事業部門)、問合せ対応のテンプレート化・自動化で年間897時間の削減(不動産事業部門)といった成果が含まれているという31。
過度な恐れが先行することによって活用が進まない可能性もあることから、最低限のルールとして個人情報を入力しないこと、オプトアウト設定を必ず行うこと等を適切に周知するといったリスク管理のもとで利用する方針であるとしている。また、社内で未使用の新しいツールを使用したい場合は、セキュリティ面に関する情報を確認しつつ、支援業者にも都度相談し、専門家のアドバイスを受けながら導入の可否を検討しているという。
アイニコグループでは、業務スキルの属人化を防ぐ観点から、業務フロー整備やタスクリスト・チェックシート整備、業務手順の動画化等に取り組む習慣が根付いており、こうした仕組み化による業務プロセスの効率化・改善が定着している社内風土・文化が、AIツール活用においても有効であったように感じるという。また、専門家によるAI活用推進プロジェクトへの支援は、「その課題はAIで解決すべきかどうか」といった課題設定時における判断と、「このやり方ではうまくいかない」といったプロジェクト始動後における個別の相談の局面において、特に有効であったという。
AI活用については、1年間のプロジェクト終了後も、勉強会を月1回のペースで継続しているとともに、支援業者が主催するAIコミュニティに参加し、技術に関する情報や他社におけるAI活用事例の情報の共有を受けているほか、困りごとが生じれば、都度、支援業者に相談できる環境も継続しているという。
さらに、2026年4月からは、各部門からAI活用専任のスタッフを選出し、更なるAI活用推進に取り組んでいく予定であるとしている。
31 アイニコグループ株式会社より提供(2026年4月1日時点)。