フィジカルAIの情報処理の流れは、入力、処理、出力の3段階に分けることができ24、入力・出力に関連する技術としてロボットハンドの開発や触覚センサの研究が盛んになっているほか、処理の分野の研究では、視覚・言語など複数のモダリティを統合した基盤モデルや世界モデル等の研究が行われている。
日本の動向に注目すると、東京大学の長谷川峻特任助教と矢野倉伊織助教、岡田慧教授らが、約20cm四方で28×17の合計476個のセンサを搭載した触覚センサシートを開発した上で、このシートの一部を使用して計190個の触覚センサを搭載した5本指ハンドを開発した(図表Ⅰ-2-2-3)。長谷川特任助教らが開発したシートには配線が埋め込まれているが、折り曲げ可能であり、ロボットハンドの形状に応じて切り貼りして利用できるという。また、開発したロボットハンドでは、指と指の間の摩擦や物を握る際の情報取得が可能になったという25。
また、ロボットの近接覚センサの開発も進められている。近接覚とは、表面から近い距離にある物体の情報を取得する感覚で、ロボットの表面から数十mmにある対象物の位置を直接取得することができる2627。日本では、Thinker株式会社が独自のエッジAIと赤外線との組合せにより、対象物との「距離および姿勢」を、非接触かつ高分解能でリアルタイムに計測できる近接覚センサの開発を行っている(図表Ⅰ-2-2-4)。同社によれば、近接覚センサにより、これまで取扱いが困難であった柔らかいものや形状が一定でないものの捕捉が可能になるだけでなく、従来の光センサやカメラが苦手としていた透明物や鏡面物の計測も可能になり、ロボットハンドの活用可能性が広がるとしている。加えて、ロボットに動きを教える「ティーチング」においても、ロボット自身がリアルタイムで対象物を計測しながら指先の位置を微調整できるようになるため、「ラフティーチング」が可能となり、生産性の向上やコスト削減にもつながるとしている28。
処理については、日本では、GENIACにて、Direava株式会社が「外科手術支援のための視覚・言語統合型AI基盤モデルの開発」のテーマにおいて、視覚と言語を統合した術式・解剖構造などを学習させたモデルの開発に取り組んでいる。また、Turing株式会社による「完全自動運転に向けた車載可能なフィジカル基盤モデルの開発」のテーマにおいては、視覚と言語、行動を統合し、実世界の状況変化や移動体の動きを予測できるフィジカル基盤モデルを開発している。
産業技術総合研究所(産総研)においても、2025年1月、実世界の困難作業の自動化を目指したロボット基盤モデルの研究開発に取り組むことを公表している。産総研では、視覚と力覚の関係を推定するAIモデルや、人間の認知発達過程を模した動作学習基盤などを研究してきており、これらの研究成果を強みとして、その社会実装の推進のため、産業分野や家庭、オフィスなどのサービス分野で役立つ基盤モデルの開発を目指すとしている30。その一環として、双腕ロボットAIの開発を支援するデータセットを無償公開した31。
内閣府ムーンショット型研究開発制度の目標3「2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現」において、プログラムディレクターを務める東京大学の國吉康夫教授の方針のもと公募を実施し、2026年5月に14名のプロジェクトマネージャーが採択された。これらのプロジェクトにより、2030年までに、特定の現場における特定のタスクについて、人による支援のもと、実用上違和感なく状況の変化に対応しながら一連のタスクを完遂でき、民間投資対象となり得る汎用自律人型AIロボットのプロトタイプの開発等を目指している。
24 SCSK「フィジカル AI(Physical AI)とは?生成AIやAIエージェントの次に来る、現実世界で「動くAI」の全貌を徹底解説!」(SCSKNVIDIA合同会社 エンタープライズ事業本部 高橋 想監修)〈https://www.scsk.jp/sp/itpnavi/article/2025/10/physicalai.html
〉(2026年2月16日参照)
25 ニュースイッチ by 日刊工業新聞社(2025年7月19日)「触覚センサ190個搭載…東大が開発、5本指ハンドがスゴイ」〈https://newswitch.jp/p/46361
〉(2026年3月2日参照)
26 九州大学ヒューマンセンタードロボティクス研究室「近接覚センサ」〈https://www.hcr.mech.kyushu-u.ac.jp/research/proximity_sensors
〉(2026年3月2日参照)
27 電気通信大学 明・佐藤研究室「近接覚を用いたロボットシステムの研究開発」〈http://www.rm.mce.uec.ac.jp/ming/?%E8%BF%91%E6%8E%A5%E8%A6%9A%E3%82%92%E7%94%A8%E3%81%84%E3%81%9F%E3%83%AD%E3%83%9C%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0%E3%81%AE%E7%A0%94%E7%A9%B6%E9%96%8B%E7%99%BA
〉(2026年3月2日参照)
28 株式会社Thinker「近接覚センサTK-01N / TK-01G(開発中)」〈https://www.thinker-robotics.co.jp/product/sensor-tk-01/
〉(2026年3月2日参照)
29 同上。
30 産業技術総合研究所「実世界の困難作業自動化を目指したロボット基盤モデルの研究開発を本格始動」〈https://www.aist.go.jp/aist_j/news/pr20250123_2.html
〉(2026年2月16日参照)
31 産業技術総合研究所「双腕ロボットAIの開発を支援するデータセットを無償公開」〈https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2025/pr20250902/pr20250902.html
〉(2026年2月16日参照)