OECDは、「信頼できるAI」について、「OECDのAI原則を体現するAIシステム、すなわち、人権及びプライバシーを尊重し、公平性、透明性、説明可能性、頑健性、安全性およびセキュリティを備え、かつ、その開発および利用に関与する主体が説明責任を負うAIシステム」を指すとしている(図表Ⅰ-3-4-1)1。
日本においても、本稿「はじめに」で記載した「8項目の原則」が2016年に示された後、2019年に「人間中心のAI社会原則」にて、AIを人類の公共財として活用し、社会の在り方の質的変化及び真のイノベーションを通じて地球規模の持続可能性とつなげることが重要であるとされるとともに、「人間の尊厳が尊重される社会(Dignity)」・「多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会(Diversity & Inclusion)」・「持続可能な社会(Sustainability)」の3つの価値が「基本理念」として示され、「その実現を追求する社会を構築していくべき」とされた。
現在、これらの基本理念の実現については、「AI事業者ガイドライン」において各主体が念頭に置くべき原則が「共通の指針」として整理されている。具体的には、各主体が取り組む事項として1)人間中心、2)安全性、3)公平性、4)プライバシー保護、5)セキュリティ確保、6)透明性、7)アカウンタビリティの7原則、そして、社会と連携した取組が期待される事項として8)教育・リテラシー、9)公正競争確保、10)イノベーションの3原則、合計10の原則が示されており、例えば、1)人間中心においては「AIが人々の能力を拡張し、多様な人々の多様な幸せ(well-being)の追求が可能となるように行動すること」、また、2)安全性においては「AIシステム・サービスの出力の正確性を含め、要求に対して十分に動作している(信頼性)」こと等の重要性が示されている。加えて、同ガイドラインでは、全てのAI関係者について、広島AIプロセス「全てのAI関係者向けの広島プロセス国際指針」に即した行動をすべきであるともされている(図表Ⅰ-3-4-2)。
AI技術自体が刻一刻と今も進化を続け、また、社会においてAIが適用される分野・領域も拡大していることから、「信頼できるAI」の具体的な在り方については、AI基本計画がその原則の一つに定める「アジャイルな対応」に基づき、今後も各主体における不断の検討・熟考・議論の下に実現されていくことが重要であると考えられる。また、AIが技術の一つである以上、その機能を効用として享受できるか、損失や損害として被ることになるかは、AIを開発・利用する我々人間の側にかかっており、こうした意味において、「信頼できるAI」と表裏をなすのは、AIを過信も不信もせず、適切な距離感のもとにAIを信頼できる人間の理性的な力であるとも考えられる。
「信頼できるAI」の追求とともに、このような「適切にAIを信頼できる力」の涵養も不断に追求していくことも重要であり、人間とAIが健全に協働するデジタル社会は、こうした「信頼できるAI」と「適切にAIを信頼できる力」の双方を目指した先の地平に、広がっているのであろう。
1 OECD(2021)“TOOLS FOR TRUSTWORTHY AI:A FRAMEWORK TO COMPARE IMPLEMENTATION TOOLS FOR TRUSTWORTHY AI SYSTEMS”(OECD DIGITAL ECONOMY PAPERS June 2021 No. 312)〈https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/publications/reports/2021/06/tools-for-trustworthy-ai_0e36bb08/008232ec-en.pdf
〉(2026年4月7日参照。訳文は総務省作成。)
2 同上。
3 総務省・経済産業省(2026)「「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」概要」〈https://www.soumu.go.jp/main_content/001064299.pdf
〉(2026年5月12日参照)