昭和54年版 通信白書

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2 昭和53年度の社会経済動向と通信

(1) 通信事業経営の現状

ア.通信事業の収支状況
 53年度における通信事業の収支状況は景気の回復基調にもかかわらず,52年度より若干,悪化の兆しが見られた。これは,人件費等の経常経費が増加していることによるものである。以下個々の事業について,53年度の収支状況を概観することとする(第1-1-4表及び第1-1-5図参照)。
 郵便事業については,51・52年度と黒字が続いたものの,53年度においては,収入は8,191億円(対前年度比3.0%増),支出は8,430億円(対前年度比8.5%増)で239億円の赤字となり,年度末における累積赤字は1,900億円を上回ることとなった。
 電電公社については,収入は3兆6,224億円(対前年度比6.4%増),支出は3兆2,316億円(対前年度比9.0%増)となり,3,908億円の収支差額が生じた。収入・支出とも52年度と比べ対前年度増加率が低下しているが,52年度に引き続き黒字となり財政基盤の確立が一層はかられることとなった。
 国際電電については,収入は1,292億円(対前年度比14.1%増),支出は1,194億円(対前年度比14.8%増)であり,差引き98億円の収支差額を計上している。これは国際化の進展による国際通信需要の堅調な増加を反映しているものとみられる。
 NHKについては,収入は2,146億円(対前年度比2.5%増),支出は2,112億円(対前年度比10.3%増)で差引き34億円の収支差額となった。これによってNHKは,51年度を初年度とする3か年の経営計画の全体にわたって,収支の均衡を維持することとなった。
 民間放送については,収入が広告料収入の堅調な伸びに支えられて,対前年度比13.0%増の8,715億円となったが,支出が11.9%増の7,621億円となり,収支差額は21.4%増の1,094億円となった。
イ.通信事業の財務構造
 53年度における各事業体の財務比率は第1-1-6表のとおりである。
 郵便事業では,人力依存度が高い事業の性格によるほか,一部の局舎の借入れ,輸送の外部委託等の運営形態をとっていることにより,労働装備率と総資産に占める固定資産の比率は小さくなっている。また,前年度に比べると負債比率が4.0%大きくなっている。
 全国的な規模の設備を有する事業の性格を反映して,電電公社の総資産に占める固定資産比率及び労働装備率は,それぞれ90.9%及び2,065万円で他の通信事業及び他産業と比較して非常に高い値を示している。53年度においては,収支状況の良好な結果を反映して固定比率及び負債比率も改善され,それぞれ285.1%及び213.5%となった。
 国際電電では,ほぼ前年度と同様の財務状況となった。ただ流動比率についてみると,52年度は若干の低下がみられたが,53年度は51年度並となった。
 NHKでは,収支が悪化したものの,負債比率については昨年度に引き続き各事業体の中で最も低かった。
 民間放送においては,NHKと比較して総資産に占める固定資産比率,労働装備率のいずれもが低くなっている。
ウ.通信関係設備投資の動き
 通信事業は事業の性格から一般的に高度な技術に裏付けられた設備を多く必要とし,事業・サービスの拡大及び改善のため毎年多額の設備投資が行われている。53年度の通信分野における設備投資額は,1兆8,473億円であり,各分野別にみると第1-1-7表のとおりである。
 郵便事業では,老朽狭あい局舎の改善を図り郵便局の増置を行ったほか,郵便物の処理の近代化・効率化の一環として,53年度においても郵便番号自動読取区分機・郵便物自動選別取りそろえ押印機等の省力機械が配備され,引き続き機械化が推進された。これらの設備投資額は前年度に比べて9.6%増の1,064億円であり,その内639億円が自己資金で,425億円が財政投融資(簡保資金)からの借入金である。
 電電公社においては,53年度は対前年度比0.9%増の1兆6,398億円の設備投資が行われた。これにより一般加入電話は154万9千加入の増設(地域集団電話から一般加入電話への種類変更22万3千加入を含む。)が行われた。また,国民の高度化,多様化する要求にこたえて,公衆電話4万1千個の増設をはじめプッシュホン50万4千個,ホームテレホン14万セット,電話ファクス4千台,ピンク電話8万5千個等が設置され,局舎の建設,通信設備の拡充並びに維持改良,加入区域の拡大,データ通信システムの建設等も行われた。資金調達額は2兆2,134億円であり,この内,内部資金は1兆4,113億円,加入者債券,特別債券等の外部資金は8,021億円となり,内部資金比率は52年度の60.2%に対して53年度は63.8%となった。
 国際電電においては,219億円の設備投資が行われた。これにより,山口衛星通信所におけるマリサット用海岸地球局の完成,インテルサットV号衛星用地球局の建設等通信設備の増設,日本韓国間海底ケーブル等の建設準備,非常災害対策設備の建設等が行われた。また,音声級回線265回線,電信級回線207回線が増設された。
 NHKにおいては,52年度とほぼ同様の208億円の設備投資が行われた。テレビジョン放送難視聴の解消を目指して,極微小電力テレビジョン放送局(ミニサテ)を含め,総合放送199局,教育放送193局を開設した。ラジオ放送網の建設については,FM放送5局を開設した。また,画質改善等のためのテレビジョン基幹放送所の整備,スタジオ設備の整備,音声多重放送関係設備の新設等が進められた。
 資金調達についてみると資本勘定の規模は314億円であり,この内,内部資金は282億円,放送債券等の外部資金は32億円となり,52年度に比較して内部資金比率が若干低下した。
 民間放送においては,テレビジョン放送局625局を開設し,対前年度比37.7%増の584億円の設備投資が行われ,スタジオ及び放送設備等が拡充された。

(2) 情報産業の動向

 情報産業を,「情報」を商品として取り扱う産業という意味でとらえると,対価を得て情報を伝送する郵便・電話等の通信業や,顧客の情報を対価を得て加工する情報処理サービス業,情報そのものの対価を得て販売する情報提供サービス業等があげられる。
 また,こうした経済活動を支えるものとして,ソフトウェア・サービスやファシリティ・マネージメント・サービス等が存在する。
(注) 以下の情報処理サービス業,情報提供サービス及びソフトウェア・サービスの年間売上高は,「特定サービス業実態調査報告書」(通産省)による。
ア.情報処理サービス業
 53年11月1日現在で,情報処理サービス業の年間売上高は,2,277億円と前年度に比べ7.8%の増加となった。これを業種別にみると事務計算サービスが59.5%を占め,9.4%の伸び率を示し,ついでデータ作成が26.8%を占め,10.1%の伸び率となった。
イ.情報提供サービス業
 テレホンサービスの提供主体は,公共機関,民間企業,福祉団体等各界に及び,53年度末のサービス件数は2,640件と対前年度比で2.5%の減少を示したが,回線数では1万4,316回線と5.9%の増加となった。サービス件数を案内種別でみると行政案内が9.1%,暮らしの情報が8.0%,芸能・音楽案内が7.4%となっている。
 一方,情報提供サービスの年間売上高は,53年11月1日現在で271億円と対前年度比13.9%の伸びを示した。
ウ.ソフトウェア業
 ソフトウェア・サービスは,53年11月1日現在で年間売上高890億円で,前年度に比べ15.1%の伸びを示した。
エ.その他
 有線テレビジョン放送の施設数は,54年3月末現在で2万2,369(うち許可施設数225),受信契約者数は231万4,426(うち許可施設によるもの35万6,336)となっている。これは前年度と比較すると,それぞれ14.6%(15.4%),18.6%(32.9%)の増加となっており,このうち営利を目的としている許可施設数は33,受信契約者数は9万1,135であり年間利用料は約9億5千万円となっている。
 有線音楽放送業は,54年3月末現在で施設数586,加入者数約21万と,前年度に比べそれぞれ1.0%増,8.7%減となっており,年間利用料は約101億円に達していると推定される。
 53年10月現在の新聞協会会員新聞社の発行する一般日刊紙の総発行部数は4,427万6,615部で,前年間月に比べ116万3,094部,2、7%の増加となった。これは1世帯当たりで1.27部,人口1,000人当たりで558部となっている。
 一方,ニュース供給業のうち一般ニュースの53年度における情報量の1日平均は新聞向けが20万字,放送向けが2万5千字と前年度と同量であり,写真はそれぞれ90枚,11枚と新聞向け写真枚数が52年度より13枚増を示している。また,外電の1日平均は受信が55万語,送信が18万語であり,前年度と同量を示した。
 広告業の事業所数は,53年11月1日現在で4,002と前年度に比べ0.8%減少したが,年間売上高は1兆9,100億円と6.9%の伸びを示した。
 53年における出版業界の推定実売金額は,1兆2,294億円と前年に比べ7.8%の増加となり,3年連続1けた台の成長率を示した。内訳をみると書籍の推定発行部数が10億3,764万冊で6,259億円,雑誌では月刊誌が14億2,237万冊,週刊誌が12億921万冊で6,035億円になっている。

(3) 通信関連産業の動向

ア.通信機械工業
 53年度の通信機器の受注実績額は,7,805億円で前年度に比べ10.8%の増加を示した(第1-1-8表参照)。内訳では有線通信機器が6,208億円で対前年度比9.1%の増加,無線通信装量が1,597億円で17.8%の増加であった。有線通信機器の中では電話機が対前年度比24.3%増で,これは押しボタンダイヤル式電話機の伸びによるものである。また,電子交換機が40.0%増,ファクシミリが48.6%増と大幅な伸びを示した。
 需要部門別では,官公需3,968億円(対前年度比7.1%増),民需2,144億円(対前年度比28.3%増),外需1,693億円(対前年度比1.5%増)とどの部門も順調に推移した。
イ.電線工業
 社団法人日本電線工業会資料によると,53年度の電線の受注実績額は,9,091億円と前年度に比べ4.4%増となり,3年続きの順調な伸びを示した。このうち銅電線は8,175億円で4.5%増,アルミ電線は915億円で3.8%増であった。
 なお,銅電線の品種別では通信ケーブルが1,788億円で15.6%の減少を示した。
 需要部門別では官公需が1,604億円(対前年度比17,9%減),外需が857億円(対前年度比12.2%減)といずれも減少しているが,民需だけは6,629億円(対前年度比14.7%増)と伸びを示した。官公需のうち電電公社からの受注は1,467億円で前年度に比べ20.2%の減少となった。
ウ.電気通信工事業
 社団法人電信電話工事協会資料によると,53年度における電電公社からの受注契約額は,5,104億円で前年度に比べ14.1%の減少となった。これは加入電話申込積滞解消と全国ダイヤル自動化が達成したことによる影響と想定される。このうち4,430億円が通信線路工事,673億円が通信機械工事(伝送無線工事を含む。)である。
 一方,自営PBX工事業界で組織している社団法人全国電話設備協会の会員数は53年度末で1,202となっており,このうち自営PBX工事等を行っている工事業者は1,123に達している。また,自営PBX台数は約5千台増加し,7万9千台となった。
エ.民生用電子機器製造業
 通産省生産動態統計によると,53年度の民生用電子機器の生産実績額は,2兆1,664億円と前年度に比べ1.8%の減少となった。内訳では,輸出規制,円高,現地生産の本格化などによる輸出減に影響され,テレビが7,043億円で対前年度比8.7%減,テープレコーダが6,176億円で2.4%減,ステレオが5,020億円で2.9%減となった。しかし,家庭用VTRは2,128億円で41.6%の大幅な増加となった。
オ.その他
 ポケットベルサービスの53年度末におけるサービス提供地域は53地域で,加入数は82万6千となっている。53年度のポケットベル会社の営業収益は138億円で前年度に比べ11.8%増と順調に伸び続けている。加入者を業種別に見ると販売業30.9%,建設業20.9%,サービス業16.0%となっている。

(4) 家計と通信

 家計における1世帯当たり年間の通信関係支出(郵便料,電報・電話料及び放送受信料)は53年(1〜12月)において5万3,726円である(第1-1-9表参照)。これは前年に比べ7.7%の増加で,ほとんど電報・電話支出の伸びによるものである。家計における通信関係支出は全消費支出の2.2%,雑費支出の5.1%にすぎないが,過去の推移からすると,この10年間で6.1倍と著しく増加している。この主な原因は,第1-1-10図より明らかなように電報・電話支出の急増である。
 第1-1-11図は1世帯当たりの通信関係支出,雑費支出及び可処分所得をそれぞれに対応する消費者物価指数で実質化し,その推移を指数で比較したものである。通信関係支出についてみれば,52年は電話料金改定による影響と思われる落ち込みがあったが,53年は上昇傾向を示している。

第1-1-4表 通信事業の収支状況

第1-1-5図 通信事業の収支率

第1-1-6表 通信事業の財務比率

第1-1-7表 通信関係設備投資額

第1-1-8表 通信機器受注実績額

第1-1-9表 家計における通信情報関係支出

第1-1-10図 1世帯当たり年間通信関係支出額

第1-1-11図 1世帯当たり通信関係支出雑費支出及び可処分所得の推移

 

 

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