昭和54年版 通信白書

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第3節 通信と現代文化の今後の潮流

1 成熟した主要通信メディアに残された諸問題

 郵便,電話,放送等の主要通信メディアは今日では全国的に普及し,この意味において成熟したといえよう。
 しかし,このように成熟した状況の下でも,いわゆる光の陰の部分として,とり残された問題,あるいは新たに発生した問題があり,その適切な解決が迫られている。

(1) 郵   便

 郵便は,最も古くから国民の情報流通の基幹的役割を果たしてきた。今日でも,均一料金で全国どこにでも発信できる非常に普遍性の高いメディアであるといえよう。
 しかし,郵便事業は今日,社会経済環境の変化に対応した郵便サービスの適正化の問題,事業財政のひっ迫の問題等を抱えており,事業の経営は楽観を許されないものとなっている。こうした状況を背景に,52年7月20日の「社会経済動向に対応する郵便事業のあり方について」の郵政審議会答申では,以下のとおり検討すべき課題を指摘している。
[1] 作業施設の改善や機械化の推進などの事業運営の効率化,合理化。
[2] 1日の配達度数や窓口取扱時間などについて現在の社会環境の変化に対応したサービスのあり方。
[3] 郵便の利用実態を考慮しつつ,公共的サービスの確保と事業の健全な経営の維持を基本とした郵便物の種類のあり方の適正化。
[4] 事業経営体としての自主的効率的運営の確保。

(2) 電   話

 電話については,現在,架設の要望があればすぐ架設できる状況で,全国加入電話等加入数は,3,640万にもなった。また,全国ダイヤル自動化も完了し,国民生活にとって電話はますます身近な存在となってきている。更に,ニーズの多様化によりポケットベル,プッシュホンなどの利用も増えてきている。しかし,こうした電話の普及・発達にもかかわらず,電話についても種々の問題がある。
 第1に,過疎化現象に悩む農漁村に多い加入区域外加入,地域集団電話の問題がある。このため,48年度から52年度までの「電信電話拡充第5次5か年計画」では,加入区域が電話局からの半径を5kmに,そして53年度からの第6次5か年計画では7kmへと拡大されてきている。また,多数共同方式の電話である地域集団電話の一般加入電話への変更も実施してきている。
 こうした改善措置を行ってもなお加入区域外の地域は残るので,このような地域の住民へのサービスの在り方が,今後検討されるべき問題であるといえよう。
 第2に,料金に対しての苦情の問題がある。現在,電話料金の課金の方式が,積算式の度数計によっているため,明細を知りたい場合に必ずしもこれにこたえることができない仕組みになっている。第1-2-54図の料金についての問い合わせ・苦情件数及び請求事故件数の推移をみると,料金請求事故件数は年々減少傾向にあるが,問い合わせの苦情件数は高くなっている。
 こうした状況から,現在,料金明細サービスの導入について検討がされている。しかし,このサービスを導入するについては,通信の秘密及びプライバシーの保護の十分な配慮が望まれよう。
 なお,外国の例としては,米国,カナダでは市外通話料の料金明細サービスを行っており,市内通話については米国の一部の電話会社で希望する加入者に,別に料金を徴収して実施している。フランスでは,1979年末ごろから,希望する加入者に対し,別に料金を徴収して提供することとしている。
 第3に,最近,「電話犯罪」,「迷惑電話」が激増し,社会問題化している。これは,覆面性,匿名性(誰がどこからかけているかわからない。),応答強要性(ベルが鳴った場合応答を強要される。)といった電話のもつ特長を悪用したものであり,犯罪の事例として脅迫,恐喝,詐欺,誘拐等がある。また,電話のもつ匿名性,覆面性の特長が悪用される典型的な犯罪に爆破予告がある。爆破予告事件は,爆破事件の発生とほぼ平行して増加し,49年には1,666件,50年には1,639件と多発し,その後も若干減少してはいるが,横ばい状態で発生している。
 しかも,爆破予告事件の手段のうち,49年には1,528件,すなわち92%が電話を利用して行われたものであり,この傾向はその後も続いている。
 こうした犯罪に結びつかないまでも,いわゆる迷惑電話が増加しており,一般家庭では52.7%が何らかの迷惑電話を受けている(第1-2-55図参照)。
 このうち一番多いのが無言電話で37.1%,次いでセールスマンやアンケート調査等の電話33.4%,ワイセツ電話16.6%などである。
 電話の普及に伴って増加しつつあるこのような迷惑電話に対し,郵政省では,54年6月に学識経験者等からなる迷惑電話対策研究会議が設置され,調査研究がされているところである。
 第4に,災害に対する通信網のぜい弱性の問題がある。我が国は,台風,豪雨,地震等自然災害が多いが,こうした災害により一時的にも通信が途絶することは非常な社会的混乱を引き起こすことになる。また,災害時にこそ通信の果たす役割は大きく,そのためにも通信網の確保が重要となる。
 通信網を災害時等に対し強化するため,幹線の複ルート化等の対策が行われてきたが,万一電気通信施設が被災した場合でも最小限の通信を確保するという観点から施策が講じられている。特に,近年,地震対策の実施については,こうした地域を十分に考慮し,優先的に災害対策を実施する必要があろう。

(3) 放   送

 今日,テレビジョン放送は,国民の日常生活に不可欠の存在となっているが,全国的にみるとなお一部の地域においてテレビジョン放送を良好に受信できない世帯がある。
 一部辺地では,テレビジョン放送局の送信アンテナから遠いため,あるいは,山岳,丘陵等の自然の地形により電波がさえぎられるため,放送電波が弱く,良好な受信が困難になっており,これを辺地難視聴と呼んでいる。また,都市においては,高層建築物,高架交通施設により,放送電波がさえぎられたり,反射波の発生で良好な受信が困難な地区が増えており,都市受信障害が発生している。
 こうした難視聴対策としては,まず辺地難視聴については,従来テレビジョン中継局の設置と共同受信施設の設置により解消をはかってきたが,50年度からは,電波伝搬の特性上閉鎖的で狭少な地域の難視聴解消に効率的な極微少電力テレビ放送局(ミニサテ)の設置が推進されたこともあって,53年度末の辺地難視聴世帯は約56万世帯となった。また,54年度において,辺地難視聴の解消を促進するため,共同受信施設の設置に要する経費の一部を国が補助するテレビ放送共同受信施設設置費補助金制度が創設された。しかしながらこうした辺地難視聴の解消のためには,将来衛星放送の実用化が期待される。
 また,都市における受信障害については,高層建築物等の増加により受信障害の増加,広範囲化,複雑化がみられ,紛争が増加する傾向にある。このため従来の当事者間の協議によるのみでは対処できなくなってきているので,紛争発生の未然防止及び解決の促進を図るための制度的方策の樹立が検討されている。
 一方,ラジオについては,中波帯の電波が夜間には遠距離まで届くという特性を有しているため,近隣諸国との間で混信を生じ,良好な受信が妨げられる状況が増えている。
 各国においても放送局の増加とともに混信の問題があり,こうした国際的規模での混信の問題の解決のため,ジュネーブで1975年に開催されたITUの「長・中波放送に関する地域主管庁会議」において各国の周波数の割当てが行われ,チャンネル間隔を9kHzごとにする取決めがなされた。我が国でもこの決定に従い,53年11月各放送局の周波数が変更された。
 このほかに,電波ジャック事件にみられるように電波を不法に使用する事件が発生している。今日通信機器の発達により出力の高い機器が販売されていることもあって一般の放送にまで影響を及ぼす例もあり,対策としては悪質な違反についての取締り強化があげられるが,有限な資源である電波の秩序ある利用について国民の理解と協力にまつところが大きいといえよう。
 以上,各主要通信メディアの問題を取り上げたが,共通の問題として財政状況と料金制度に関する問題がある。
 郵便については,51年の料金改定により51,52の両年度において黒字になったものの,53年度からは再び収支が悪化してきており,郵便事業収支の改善を図ることが大きな問題となっている。
 電話については,料金の改定等により収支状況は現在のところ良好であるが,通話料金体系に関して次のような問題が提起されている。
 すなわち,我が国の通話料金は諸外国のものと比べて,近距離料金は安く,遠距離料金は比較的高く設定されているところから,通話料金の遠近格差が大きいこと,及び技術革新によりネットワークコストに占める伝送コストの比重が減少していること,並びに大都市近郊における通話料について,道路一つ隔てた場所相互間の通話でも単位料金区域が異なる場合には,区域内通話料との間に著しい格差を生じていること,などから通話料金体系の是正について論議がされている。
 また放送関係では,NHKの運営は受信料でまかなわれるシステムとなっているが,現在,受信料収入の伸びが頭打ちとなっている一方,物価上昇等により支出の増加が避けられず財政状況が悪化している。こうした状況から経営の健全化が強く要請される。
 このように各メディアとも財政状況と料金の在り方についての問題が今日的課題となってきている。

第1-2-54図 問い合わせ,苦情件数及び請求事故件数の推移(1ヶ月1万加入当たり)

第1-2-55図 迷惑電話の被害経験率

 

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