昭和54年版 通信白書

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2 通信の大衆化と国際化

(1) 通信の大衆化

 我が国の郵便,電話,テレビ等の主要通信メディアは,企業あるいは国民の情報ニーズの増大を背景に,相次ぐ技術革新,通信事業経営の改善努力等の結果,今日,ほぼ全国に普及し,国民の利便性の向上に大きな役割を果たしている。特に,国民1人1人がいつでも,安価に,どこからでもこれらの通信メディアを利用できるという観点においては,現代はまさに通信の大衆化時代といっても過言ではなかろう。
ア.郵便の大衆化
 郵便は,最も伝統的な通信メディアとして早くから国民の通信に基幹的な役割を果たしてきた。近年,電気通信メディアの急成長に伴い,メディアの多様化が進展したため郵便への依存度は相対的に低下し,利用形態も変容してきたが,依然として最も普遍性の高いメディアであることには変わりない。
 第1-2-17図は,我が国における国民1人当たりの郵便の利用状況をみたものである。1人当たり利用通数は,35年度の74通から53年度の125通と6割以上増加した。もっとも第1-2-18図にみるように,年間総利用通数は,米国,ソ連に次いで世界第3位の量に達しているが,国民1人当たりの利用通数は欧米の主要国に及ばない。我が国の経済規模が欧米諸国と比肩し得るまでに成長した現在において,依然として欧米諸国に比較して1人当たりの郵便利用が少ないということは,欧米諸国においては我が国と異なり,代金の支払い等取引関係の決済が小切手により行われるという商慣習の違いや,我が国では電話で済ませてしまうようなものについても信書を利用するという社会慣習の違いなどによるものとみられる。
 郵便の利用構造を私人・事業所別の差出及び受取状況でみると第1-2-19表のとおりである。まず,差出しについては,私人差出しが全体の約20%,事業所差出しが約80%と事業所のウェイトが高くなっているが,この比率は主要欧米諸国においてもほぼ同様である(第1-2-20図参照)。
 一方,これを受取りの面からみると,私人受取りが全体で61%,事業所受取りが39%と私人の受け取る郵便物のウェイトが高くなっている。更に詳しく私人,事業所間交流状況をみると,事業所から私人にあてられる郵便物が43.9%と最も多く,郵便の利用構造においては,私人は受け手として大きな位置を占めていることがわかる。
 かつて郵便は,私人間のあいさつや,消息の照会など差出人・受取人の個性を重視した通信に重要な役割を果たして来た。しかし,今日,私人受取りの郵便物は,電気,ガス,水道,電話,放送等の公共料金の料金請求や銀行預金等の自動振替の通知等のほか,デパート等の催物案内,選挙等に代表される公共機関からの案内,ダイレクトメールなど企業からの画一化・規格化された情報をその内容とするものが多数を占め,増大しつつある。
 こうしてみるとき,最近の郵便は,社会経済の高度化に伴う企業活動と一般家庭を結ぶパイプ役としての比重を増しつつあり,そこに新たな存在意義を見いだすに至っている。郵便によって,私人は,今日社会の一構成員としての営みを継続し得るようになっているといっても過言ではない。これらの郵便物は,コンピュータの導入による事務合理化等に伴い,一層,日常生活と結びついて増加するものと考えられる。
イ.電話の大衆化
 我が国の電話は,長い間企業を中心に普及してきたが,近年における住宅用電話の爆発的な普及により,電話はかつての企業用あるいはぜいたく品といった性格を大きく変え,国民の日常生活において必要不可欠な存在に成長した。
 第1-2-21図は,住宅用電話加入数の推移及び住宅電話世帯普及率を示したものであるが,加入数では40年度末の184万8千加入に対し,53年度末には2,371万2千加入と約13倍に増加し,世帯普及率も53年度末で100世帯当たり69.4加入に達した。
 このような住宅用電話の高度の普及に加え,全国的な規模での積滞の解消と54年3月14日の全国ダイヤル自動化の完了は,電話を真に大衆的メディアとして国民の間に定着させる上で大きな役割を果たした。電話の大衆化を公衆電話の普及状況からみると,第1-2-22図に示すとおり,35年度に人口千人当たり1.3個であったものが53年度には7.0個と5倍以上の伸びを示した。この公衆電話の中には,終日利用可能な街頭用公衆電話が約26万個あり,更に長距離用100円硬貨併用公衆電話約5万個が含まれており,いつでも,どこからでも,またどこへでも通話ができる,いわゆる電話の大衆化の進展を伺うことができる。第1-2-23図は,市外電話回線の伸び,すなわち電話の全国普及の過程を示したものであるが,電話の爆発的な普及を反映し,市外電話サービスの維持改善,通信網の信頼性向上の観点から回線の着実な増設が図られている。
 このような我が国における電話の大衆化の状況を電話機の普及の観点から諸外国と比較してみると,第1-2-24図及び第1-2-25表にみるとおり,世界においても高度な大衆化段階に達していることが分かる。
ウ.テレビジョン放送の大衆化
 テレビジョン放送は,放送開始後数年間はテレビ受像機が高価でまだ当時の一般大衆にとって高ねの花であったため,その普及はやや緩慢であった。しかし,その後,大量生産及び大量販売の土台が形成されたことにより,テレビ受像機の大幅なコストダウンが図られる一方国民所得の急増に支えられ,全日制放送の実施,番組のカラー化を契機に爆発的に普及することとなった。
 テレビジョン放送の大衆化の進展は,国民のテレビ視聴時間が大幅に伸びた状況からも伺うことができる。
 第1-2-26表は,国民の1日平均生活時間の35年から50年にかけて15年間の推移を示したものであるが,このうちテレビ視聴時間は35年当時1時間1分であったものが50年には3時間30分と,15年間に実に2時間29分も延長された。テレビ視聴時間のこのような変化は,他の生活行動の安定的な時間配分からみても顕著なもので,我々の生活にいかに大きな影響を及ぼしているかが推察できる。
 テレビ受像機の普及状況を国際比較した場合,総保有台数では我が国は米国,ソ連に次いで多いが,100人当たりテレビ受像機台数でも,ほぼヨーロッパ諸国の水準に達している(第1-2-27図,第1-2-28表参照)。特に,我が国におけるテレビジョン放送の大衆化が,諸外国との比較において大きな特色となっているのは,豊富なチャンネル数,多様な放送番組の存在であるといわれている。

(2) 通信の国際化

 近年における,政治,経済,文化等の国際交流の進展に伴い,国際通信はその中枢神経として飛躍的に拡大してきた。とりわけ今日の通信量の爆発的な伸びと地理的拡大及び通信品質の高度化は,本格的な通信の国際化時代の到来を明示している。
 国際通信量の伸びは,第1-2-29図に示すとおり非常に大きい。我が国の名目国民総生産額は40年度から52年度にかけて5.8倍,また,通関輸出入額は同9.1倍の伸びを示した。一方,国際通信は,国際電話度数が同23.3倍,また,国際加入電信度数が21.2倍と大幅に伸びた。このような国際通信の成長は,GNPや貿易量の伸びと密接な相関があり,我が国の経済発展がこのような通信量の増大を促したことは間違いないであろうが,同時に,通信衛星,海底ケーブル等による伝送路の広帯域化に伴い,回線容量,回線品質が格段に拡大・向上したこと及び通信サービスの自動化の進展に伴い,利便性が著しく向上したことなどが,潜在需要を顕在化させる要因となったことも見逃すことはできない。
 今日の通信の国際化における大きな特色は,このような通信量の飛躍的増大に加え,広帯域通信幹線の整備・拡張及び自動化の推進等業務の改善,合理化に伴う迅速化の獲得にあるといえよう。44年に米本土及びカナダを最初の対地として開始された国際加入電信の全自動化は,その後著しい進展をみせ,53年度末には自動化対地も91対地と拡大し,発信度数の97.3%が全自動で取り扱われるようになった。また,48年に米本土,ハワイ,西独及びスイスの4対地を対象に開始された国際ダイヤル(ISD)通話は,53年度末には38対地あてが可能となり,国際電話全発信度数に占める割合も23.3%と普及してきている。
 ところで,このような国際通信の利用者は,ほとんどが商工業を中心とする企業等であるが,最近では,海外旅行者,来訪外客の増大により,国際電話においては,個人の利用の割合が14%と高く,国際通信の大衆化傾向の進展を伺うことができる(第1-2-30図)。国民にとって通信の国際化を最も身近に意識するのは,国際テレビジョン伝送であろう。衛星通信の出現により可能となった国際テレビジョン伝送は,世界の出来事を瞬時にお茶の間に運びいわゆる「同時的世界」を成立させる上で大きな役割を果たしている。その取扱量も年々増大しており,53年度末には送信115度,4,112分,受信1,246度,33,897分,計1,361度38,009分であった。発着合計でみれば,これは41年度に対し,度数では45倍,分数では33倍と大幅な伸びとなっている。
 通信の国際化を対地別にみると,第1-2-31図にみるとおり,アジアとの緊密な関係が明らかであり,特に,国際電報及び国際電話は50%以上を占めている。

第1-2-17図 我が国における1人当たり年間郵便利用通数

第1-2-18図 主要国における郵便利用状況

第1-2-19表 郵便の利用構造(普通通常)

第1-2-20図 主要国における郵便利用構造

第1-2-21図 住宅用電話加入数及び住宅電話世帯普及率の推移

第1-2-22図 公衆電話機数及び普及率の推移

第1-2-23図 市外電話回線数の推移

第1-2-24図 電話機台数の国際比較

第1-2-25表 電話機1台当たり人口

第1-2-26表 1日平均国民生活時間の推移

第1-2-27図 テレビ受像機台数の国際比較

第1-2-28表 テレビ受像機1台当たり人口

第1-2-29図 日本経済と国際通信の伸び率

第1-2-30図 国際電気通信業種別利用構成の推移(1)

第1-2-30図 国際電気通信業種別利用構成の推移(2)

第1-2-31図 国際通信量の対地別分布(53年度)

 

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