昭和54年版 通信白書

本文へジャンプ メニューへジャンプ
トップページへ戻る
操作方法


目次の階層をすべて開く 目次の階層をすべて閉じる

1 通信の文化的機能

(1) 郵   便

 郵便は,近代的郵便制度が設けられる以前から,例えば書簡文学の出現等にみられるように文化の形成,発展に大きな役割を果たしてきた。近代的郵便制度の発足以来,それは,経済,社会の発展に寄与するとともに,広く文化の発展を促進する機能も果たしてきたといえる。ここでは,郵便の制度的な文化的側面として第三種郵便制度,第四種郵便制度等について見ることとする。
ア.第三種郵便制度
 第三種郵便物は,新聞,雑誌等の毎月1回以上発行される定期刊行物を内容としており,これら定期刊行物が社会文化の啓発,向上に貢献していることから,郵送料を軽減することによりその頒布を容易にし我が国の社会文化の発達を助成するために設けられたものである。
 現在,第三種郵便物認可件数は,新聞6,683件,雑誌5,707件,その他2,434件,計14,824件(54年3月末現在),年間差出数10億通以上の規模となっている。
 しかしながら,今日においては,ラジオ,テレビ等のマス・メディアの発達,印刷物販売機構の充実により情報の伝達手段が多様化してきており,52年7月20日「社会経済の動向に対応する郵便事業のあり方について」の郵政審議会答申等で,その料金制度の適正なあり方について再検討が提言されている。これは,次に述べる第四種郵便制度についても同様である。
イ.第四種郵便制度
 第四種郵便物は,通信教育,学術刊行物,盲人用郵便物等を内容としており,これらについても料金面での優遇をはかっている。
 通信教育のための郵便物は,通信教育が教育の民主化と機会均等とを保障するものとして学校教育法等により制度化されたことに伴い,その重要な教育手段としての郵便を容易に利用できるようにするため設けられたものである。現在,200以上の学校とその受講者に利用され,年間1,600万通以上が差し出されている。
 学術に関する団体がその目的を達成するため,継続して年1回以上発行する学術に関する刊行物についても第四種郵便物としている。これは,学術研究の振興が,我が国の最も重要な施策であることにかんがみ,その普及のために特に設けられたものであり,現在,約1,000余の刊行物が学術刊行物として指定され,年間差出数300万通以上となっている。
 盲人用郵便物とは,盲人用点字及び点字図書館等の盲人の福祉の増進を目的とした施設が発受する盲人用の録音物又は点字用紙を内容とするもので,これについては,社会福祉的考慮から無料扱いとされている。この年間取扱数は200万通を超えている。
ウ.書籍小包制度
 書籍小包は,書籍を内容とし重量が2kgを超えない小包郵便物であり,料金面において,全国均一制で一般の小包と比較して割安なものとしている。この制度は,一般に重量の重い書籍の郵送料が書籍の定価に比較して相対的に高いので,料金面での優遇措置により書籍の購読者の負担の軽減をはかろうとするものである。53年度における書籍小包の利用数は5,400万個を超えている。

(2) 電報・電話

ア.電報の社交的・儀礼的機能
 慶弔電報の制度は,昭和9年に年賀電報規則が定められたことに始まるが,翌々年の11年には,慶祝,弔慰を含む慶弔電報制度として実施されることとなり国民の間に急速に浸透していった。
 慶弔電報は,その後,種々制度的変遷を遂げ,現在の慶弔扱制度に至っているが,今日では,その社交的・儀礼的役割によって国民の文化的慣習として広く定着している。
 第1-2-32図は40年度以降の電報通数の推移であるが,戦後における加入電話の急速な普及等によって,電報通数全体が年々減少しているにもかかわらず,慶弔電報の通数には減少傾向は見られず,総通数中に占める割合が年々増加し,53年度末には70%にも達している。
イ.電話通話料の夜間割引制度とふるさと通話
 電話通話料の夜間割引制度は,午後8時から翌日の午前7時まで,60キロメートルを超える地域の通話料金が昼間の約4割引きになる制度である。この制度は,明治43年に,主として昼間における通話のふくそうの緩和を目的として,欧米諸国にならい導入したのが始まりであるが,今日では,住宅用電話の普及,都市化や核家族化の進行等を背景に,午後8時以降の通話需要の増大をもたらしている。
 第1-2-33図は,東京における電話トラヒック(通話量)の時間別分布であるが,これによると住宅地域の場合には,都心部と異なり午前(9時〜11時)のピークのほかに,午後8〜10時の夜間にもピークがみられる。こうした電話トラヒックの夜間ピーク現象は,全国的にみられ,特に午後8時以降,60キロメートルを超える地域への通話が大幅に増加していることから,通話料金の夜間割引制度の与える影響が大きいといわれている。
 また,住宅用電話の通話の内容をみると第1-2-34図のとおりで,長距離になるほど家族との連絡が多くなっており,都市化や核家族化の進行によって都会に出た人々と故郷に残る家族との間のきずなを結ぶ家族間コミュニケーションが,こうした「ふるさと通話」によって担われていることを物語っている。
ウ.福祉と電話
 今日,警察の110番や消防の119番による緊急通話が,我々の生活の安全を保障していることをあげるまでもなく,電話は,その迅速性,簡便性といった特質を生かして,緊急の際の連絡手段としても機能している。
 こうした緊急連絡の手段としての電話を活用した福祉対策として,老人福祉電話及び身体障害者福祉電話の設置が現在進められている。これは,一人暮らしの老人や身体障害者にとって,電話が通信連絡を確保する有力な手段であることに着目し,こうした人々に対し,加入電話を市町村が貸与するもので,設置費用は,国,都道府県,市町村が,それぞれ3分の1ずつ負担している。このような老人福祉電話や,身体障害者福祉電話については,債券の引受けが免除され,優先的に架設されることになっている。
 また,福祉に役立つ電話機器の開発実用化も行われており,45年から「盲人用ダイヤル盤」の無償取付けが開始されたのをはじめ,47年にはPBXの「盲人用局線中継台」,50年にはシルバーホン(めいりょう),フラッシュベル,シルバーベル等,51年にはシルバーホン(あんしん)などの福祉対策用機器の提供が相次いで開始されている。
 なお,こうした福祉関係電話機器の施設数の推移は第1-2-35表のとおりである。

(3) 放   送

 ラジオ,テレビ等の放送メディアは,啓蒙性,速報性,娯楽性等といったメディア独特の文化機能を持っており,これらの機能は,放送制度,放送政策のさまざまな面に反映されている。
 以下,これらの点について,放送番組の編成,教育と放送,選挙と放送,地域社会と放送,国際放送の諸側面からみていくこととしたい。
ア.放送番組の編成
 放送番組には,教養番組,教育番組,報道番組,娯楽番組等があるが,この編成方針は,放送メディアの文化的機能からみて国民生活に大きな影響を与えるものと考えられる。
 28年のテレビジョン本放送の開始とともにテレビが急速な普及をみることとなり,33年にはテレビジョン受信契約数は100万を突破したが,このようにテレビジョン放送の発展に伴い国民生活に与える影響が非常に大きくなってきたという状況を踏まえて,放送法が34年3月に改正され,同月公布され現在に至っている。
 この放送法の改正によって,各放送事業者に対し番組基準の制定が義務づけられたほか,番組編集に関する基本計画や番組基準を審議し,番組の適正を図るために放送番組審議会の設置の義務化等が行われた。また,従来NHKの内部規程であった放送準則が廃止されて,同様の趣旨を基に,更に拡充した内容の国内番組基準が制定された。この国内番組基準は,「放送番組一般の基準」として,人権,民族,宗教,政治,経済,社会生活等13項目について倫理基準を示し,「各種放送番組の基準」として教養,教育,報道,娯楽等の各番組部門ごとにそれぞれの基準を示している。
 また,民間放送は,26年10月に制定した「日本民間放送連盟基準」を31年6月に全面改正し,次いで33年1月には,これをラジオとテレビに分けてそれぞれの放送基準をつくったが,更に34年7月,教養放送を中心にした諸規程のほか,広告のスーパーインポーズの量について明確な規定を設けるなどの改定を行った。
 この放送法改正以降のNHK及び民間放送のテレビ番組編成比率の変遷は,第1-2-36表,第1-2-37表のとおりであり,このような番組編成方針は,国民生活と深い関わり合いを持つことによって,社会的,文化的に大きな意義を持つこととなった。
イ.教育と放送
 放送メディアを教育に利用すれば広く国民が教育の機会に恵まれ,しかも豊かな教材を活用し専門の教師による教育,指導をそのままのかたちで受けることが可能である。放送の持つこのような教育機能に着目し,我が国においては,ラジオ放送開始後間もない昭和8年に,NHKの大阪放送局のラジオ放送によって学校放送が開始されるなど,放送の教育への利用が重視され,学校教育や社会教育におけるその利用のための努力が払われた。
 このような傾向は,テレビ本放送開始と共に取り入れられたが,特にテレビジョン放送は,視覚と聴覚の両方を使って物事を具体的に解りやすく提示できる等,その教育的機能は非常に大きいものがあるため,テレビジョン放送事業者の有する使命及び世論等にかんがみ,34年1月に学校放送のみならず広く社会教育,成人教育のための番組を放送するNHK東京教育テレビ局が開局した。
 この教育テレビの開局によって学校放送の本格的な体系化が可能となり,その後順次,NHK教育テレビ局が全国の主要都市に開設されていった。この学校放送の利用率の推移は,第1-2-38図に示すとおりである。
 更に,通信教育に放送を活用することが行われており,38年に開設されたNHK学園高等学校は,教育を受けることを希望する国民に対し広く教育の場を提供している。
ウ.選挙と放送
 選挙放送の初めは,21年3月戦後初の衆議院議員選挙に際し,NHKが実施した全国中継による「政党放送」及びロ-カル放送による「候補者政見放送」である。その後,テレビの普及に伴い38年には衆議院の総選挙に関する臨時特例法の制定があり,同年11月の第30回総選挙からテレビに候補者の肖像写真を映し出す経歴放送が実施された。更に、44年6月の公職選挙法の改正に伴い,[1]衆・参両院議員と都道府県知事の選挙では,候補者はラジオのほかNHK及び民放のテレビにより無料で政見を放送することができる(第150条),[2]NHK,民放の選挙に関する報道・評論についての番組編集の自由を妨げない(第151条の3)などの改正がなされた。
 この結果,政見放送は選挙の焦点の一つになり,各新聞の社説や選挙企画記事の中でその意義や影響力が取り上げられ,“テレビ選挙”という言葉も生まれ,“意中の候補者”の政見や人柄を確認し詳しく知るなど情報の補強の機能を果たしている。
エ.地域社会と放送
 経済の高度成長は,社会構造に変化をもたらし,過密,過疎が社会的問題となっている。そのような中で社会生活の基本的な単位としてのコミュニティづくりが強調されてきており,最近における定住圏構想もこの一環として提唱されたものである。これらのコミュニティづくり,あるいは地域における個別情報ニーズに応ずるためコミュニティ・ネットワークの形成が望まれており,その基盤となるものとして有線テレビジョン放送(CATV)及び有線放送電話がある。
 我が国の場合は,昭和30年群馬県伊香保温泉にCATVが導入されて以来,山間のテレビ難視聴地域,更には都市の建築物高層化に伴う電波障害の対策として取り入れられ,放送施設の補完的役割を果たし,放送の普及に役立っている。なお,53年度末でNHK受信契約者のうち8%強がCATVに加入している。
 また,CATVは,その構成要素である同軸ケーブルが多量の情報を伝送する能力を持っており,テレビジョン放送の再送信以外に多種多様な情報の伝送を可能とするところから,今後,地域社会住民相互間のコミュニケーションメディアとして発展し,新たなコミュニティ文化の形成を果たすものとして注目されている。
 また,ラジオ放送機能を持つ有線放送電話についてみると,その放送内容は,例えば公共機関からのお知らせ,地区の行事,学校だより,生活改善番組あるいは地元の話題をレポートしたものなどその地域に密着した身近な生活情報を主体としており,放送時間帯も地域住民の生活サイクルに合わせて設定されている。このように有線放送電話は,ロ-カル色豊かな独特の役割を果たしいる。
オ.国際放送
 我が国と諸外国との友好関係を維持していくためには,諸外国に対して正しい日本の姿を紹介するとともに,日本国民が諸外国の実情をよく理解する必要がある。このため,我が国をはじめ各国は,国際放送や放送番組の交換を通じて,国内事情,歴史,文化,芸術,風俗,自然等の紹介を行っており,国際間の友好関係の増進と協力関係の樹立に大きな貢献を果たしている。
 我が国の国際放送については,昭和10年に日本語及び英語により北米西部及びハワイ地域に向けて行われたのが最初であり,その後,戦後の一時中断を経て,27年から放送法に基づき北米,中国等5方向への放送が再開された。その後,国際放送は数次にわたり拡充強化され,53年度においては,18の放送区域に21の言語を用い,1日延べ37時間の放送を行っている。
 また,諸外国からの我が国向けの国際放送としては,20局が日本語放送を行っている。なお,我が国を含めた主要国の国際放送の概況は,第1-2-39表のとおりである。

第1-2-32図 電報通数の推移

第1-2-33図 東京における区域外へのダイヤル発信呼量の都心部,住宅地域別の時間分布

第1-2-34図 住宅用電話の距離段階別通話目的

第1-2-35表 福祉関係電話機器施設数の推移

第1-2-36表 NHK総合テレビ総放送時間と部門別比率(東京)

第1-2-37表 民放テレビ番組放送時間と部門別比率(4〜6期)

第1-2-38図 NHK学校放送利用率の推移

第1-2-39表 主要国の国際放送

 

第1部第2章第2節 通信の文化的機能と文化現象 に戻る 2 通信と文化現象 に進む