昭和54年版 通信白書

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2 新サービスの開発計画とその動向

(1) ビデオテックスの本格サービスと各国の動き

 英国郵電公社(BPO)は,1978年6月から行っていた実験に引き続き,1979年3月27日からプレステル(PRESTEL)の本格サービス開始に踏み切った。
 実験は,ロンドンにセンタを置きロンドン,バーミンガム,ノーウィッチの3都市で行われ,その利用状況は業務用が1日2〜3時間,住宅用が1日30分〜1時間となっており,最もよく利用された情報は交通機関の時刻表とクイズゲームである。本格サービス開始時点での情報量は14万6千ページで情報提供者160社により提供されている。
 その他の国の開発計画をみると1979年末に我が国のキャプテン(CAPTAIN)が実験を開始するのをはじめとして,1980年には,フランスのテレテル(TELETEL),西独のビルトシルムテキスト(BILDSHIRMTEXT),カナダのテリドン(TELIDON)とビスタ(VISTA)が実験を開始する予定である。
 こうした各国の急激な動きに対応して国際間での検討や標準化活動が活発に行われている。CCITTのSGIではビデオテックスのサービスと運用面について,SGV<3>では技術面についてそれぞれ検討課題を設定して審議を行っている。また,OECDでも情報・電算機・通信政策作業部会の中でビデオテックスの社会的影響等の検討を開始している。
 なお,諸外国における主要なビデオテックスシステムの開発動向等は第1-1-23表のとおりである。

(2) 急展開を始めた電子郵便サービス

 電子郵便は第1-1-24表に示すように米国のメールグラムに代表されるテレタイプ型のものと欧州で試行的に行われているファクシミリ型のものがよく知られている。
 こうした中で,米国郵便事業(USPS:United States Postal Service)はECOM(Electronic Computer Originated Mail)と呼ばれる国内電子郵便サービスのための契約をウエスタン・ユニオン電信会社と締結した。ECOMは,12〜15か月の試行ののち約3年間の運用サービスに移行する計画である。
 これは郵便物の作成にあたって,既に電子計算機を利用している企業を対象としており,メッセージは差出人が準備する磁気テープ等からECOMシステムの電子計算機に入力され全国25か所のECOM取扱郵便局にそれぞれ伝送されたのち高速プリンターによってハ-ドコピーに変換,封入され,通常郵便物として配達されるシステムになっている。
 このサービスは全国50州における翌々日配達を保証するもので,直接ECOMシステムにメッセージを入力できる能力を有する企業は,750社以上あるものとみられている。料金は通信量によって異なるが1メッセージ当たり30〜50セントに予定されている。
 一方,INTELPOSTと呼ばれる国際電子郵便サービスがコムサットの協力を得て開発されている。これは1978年5月のパリにおける第1回電子郵便国際会議での米国の提案に基づいて,フランス,英国,西独,オランダ等が参加を表明し,1979年7月から公開実験が行われ,その後1年間の試行サービスが予定されている。米国から発信される郵便物はニューヨークまたはワシントンのINTELPOST局に集められ,ファクシミリによってコムサット地球局に伝送され,インテルサット<4>-A衛星経由で各国のINTELPOST局に送られたのち印刷され,普通郵便物等として配達される。これによって米国で正午前に発信されるメッセージは同日の業務終了前に行動がとれるよう欧州で受け取ることが可能になる。なお,料金はA4判1ページが5ドルと予定されており,取集及び特別の配達のサービスを受けるときは,その料金を支払う必要があるとしている。
 USPSはまた,一般市民又は企業が郵便局に手紙を持参し,それを機械に入れると機械が手紙を開封,走査し,電子インパルスに変換するシステムを現在研究中である。これは長距離電話回線,衛星,ケーブルテレビ回線又はFM無線によって遠隔郵便局に送られ,郵便局では高速プリンターが元の手紙のハードコピーに再変換しそれを密封する。次いで,そのコピーがUSPSによって配達されるものである。
 この計画中のシステムは,EMSS(Electronic Message Service System)と呼ばれており,競争の激しい電気通信市場にUSPSが進出することについて,様々な波紋が呼び起こされている。

(3) ディジタル・データ網サービスの進展

 米国ではテレネット社がテレネットプロセッサTP4000の開発に伴い,1978年7月から新しいタリフのもとで専用パケット交換サービス等のサービスを行っている。なお,同社は競争の影響を受けて,累積赤字が増大したこともあって,GTE社(General Telephone and Electronics)に買収され100%子会社となった。
 また,タイムネット社はOn-Tymeサービスと呼ばれるメッセージ交換サービスを提供しているが1978年8月に,新機能を追加した「タイムネット<2>」というパケット交換サービスを発表した。これは,内部変換インタフェース・システムを用いており,プロトコルの異なった非同期端末やコンピュータとの相互接続が可能となっている。
 一方,AT&Tの回線交換サービスDSDS(Dataphone Switched Digital Service)は1977年6月に,27都市で提供することをFCCから認められたが,サービスの開始については,サービス費用記録システムが認められた後でなければならず,そのシステムの妥当性をめぐってFCCで審理中である。
 また,1978年7月にはパケット交換方式による公衆データ交換網であるACS(Advanced Communication Service)の認可をFCCに申請した。これは,会話型の通信,リモートバッチ用の通信,ファクシミリ通信,高速データ通信等,あらゆる分野の要求にこたえることができる特性を備えており,FCCの認可が下りれば,ACSのタリフを提出する予定である。最近になってFCCはAT&Tをはじめとする電信電話会社に対し別会社を通じてデータ通信等への進出に仮認可を与えることを決定したことから,ACSについての認可も間近いものとみられている。
 カナダではインフォスイッチ(Infoswitch)と呼ばれるディジタル・データ交換サービスのうち回線交換サービスであるインフォエクスチェンジ(Infoexchange)とネットワークの交換機側でパケット化を行うインフォコール(Infocall)の商用サービスを1978年8月から開始した。なお,ユーザのデータ端末装置側でパケット化を行うインフォグラム(Infogram)についてはサービスが遅れている。
 フランスでは,1973年11月に計画されたパケット交換網トランスパック(TRANSPAC)のサービスが,1978年12月に開始された。トランスパック網の運営については,ダイナミックで柔軟性のある運営を行うため,国が67%,民間が33%の割合で資本を所有する混合会社のトランスパック社にゆだねられている。
 ヨーロッパ共同体(EC)の閣僚会議で1971年6月建設が決定されたユーロネットは1979年4月にEC加盟9か国間で国際パケット交換サービスを開始し,1980年代には各国のデータ交換網との接続を行うこととしている。また,北欧公衆データ網もデンマークをはじめとして各国でのサービスが予定されている。
 各国のディジタル・データ網サービスの現状は第1-1-25表のとおりである。

(4) 急速に進む国内通信衛星の放送番組中継への利用

 米国では国内通信衛星を利用した各種のテレビサービスがここ数年盛んに行われるようになってきている。米国内各州の放送局,ケーブルテレビシステムに対して番組の配給を行っている国内通信衛星は,RCAアメリコム社のサットコム1号と2号,ウェスタンユニオン社のウェスター1号と2号である。
 公共テレビの全米ネットワークであるPBS(Public Broadcasting Service)では,1978年3月に国内東南部の25局に対するネットワークサービスが従来の地上回線利用から衛星利用に切り替えられたのをはじめとして,1979年初めには全面的に衛星の利用に切り替えられた。その他3大ネットワークをはじめとして米国内の合計10の独立商業テレビ局に,よって結成されたITNA(Independent Television News Association)や米国内のスペイン語人口向けの番組を放送している合計15のUHFテレビ局の協会であるSIN(Spanish InternationaI Network)等は随時衛星を利用している。
 また,1972年11月に米国最初のペイケーブル・サービスとして発足したHBO(Home Box Office)は1975年に衛星の利用をはじめ,現在,全米45州及びプエルトリコの500以上のコミュニティのCATVに対して,合計250の衛星受信専用地球局を通じて番組を配給している。HBOをはじめとするペイケーブルは国内通信衛星と小型で低コストの受信専用地球局の利用によって米国内のいかなる地域にあるケーブルシステムに対しても,ごく安い費用で,しかも柔軟な編成により番組を送信することが可能になった。これに伴い一時停滞していたケーブルテレビの成長が再び伸びを取り戻してきている。
 一方,独立商業テレビ局の一つであるWTCG-TVは,1976年12月からサットコム衛星を利用してケーブルテレビシステムに対する番組の送信を始めている。これはスーパーステーションと呼ばれ,サービスの開始後1977年には加入者が110万,1978年には240万世帯に増加したといわれている。
 こうした,ケーブルテレビと衛星のドッキングによって1980年代は多様なサービスが提供され,視聴者の細分化が相当進むものとみられている。
 その他の国をみると,カナダでは,従来マイクロ回線のない地域には,ビデオ・テープを空輸して再生するサービスを行っていたが,カナダ放送協会(CBC)はアニク衛星を利用してこうした地域にサービスを提供している。
 また,ソ連ではエクラン衛星を利用して孤立化した社会,ノボシビルスクとイルクーツクの間及びモンゴル北西部の地域に対してテレビ番組の直接伝送を実験的に行っている。

(5) その他の動向

 世界最大のCAIシステム(Computer Assisted Instruction)であるPLATOシステムはイリノイ大学で1960年から開発が進められて来たが,コンピュータメーカーであるCDC社がその全ライセンスを購入し,1978年から米国及び欧州に5つのセンタを設置して商用サービスを開始しており,その動向が注目されている。
 再送信を主として発展してきたCATVサービスも双方向通信機能を備えた第3世代のシステムとして,今後の成長が期待されている。米国のコロンバス市では1977年12月からキューブ(QUBE)と呼ばれる双方向CATVサービスが行われており加入者数は2万7千世帯に達している。このシステムでは30チャンネルの番組を放送するとともに世論調査やマーケットリサーチが可能であり,1979年の後半までには,テレコントロ-ルによる防災防犯用のホームセキュリティサービスも提供される予定になっている。
 米国における衛星通信市場は,サテライト・ビジネス・システム社(SBS)の他にゼロックス社も進出を計画しており白熱化してきている。SBSは,衛星の打上げを1980年末に,商用サービスの開始を1981年に予定し準備を進めているが,1977年1月のFCCの認可に対しワシントンの連邦控訴裁判所は公聴会を行わずして認可すべきではなかったと認可の再審をFCCに命じており,新たな障害を乗り越える必要がでてきている。また,ゼロックス社は,SBSよりも安価で単純かつ低速なシステムとして中小市場に的を絞ったXTENと呼ばれるシステムを計画している。これは256Kビット/秒の高速で,データ伝送,文書伝送,会議電話サービス等を行うもので,FCCの認可が下りれば1981年後半にサービスを開始し,最終的には全米約200の主要都市にまでサービス網を展開する計画である。このシステムの特徴は衛星回線を使用するほかに市内伝送のためにマイクロ回線を使用することであるが,申請している周波数帯域は現在特殊な産業用の移動無線用に割り当てられており,FCCの認可の行方が注目されている。

第1-1-23表 諸外国における主要なビデオテックスシステムの開発動向

第1-1-24表 諸外国の電子郵便

第1-1-25表 各国におけるディジタル・データ網サービスの現状

 

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