昭和54年版 通信白書

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2 実験用通信衛星の開発

 実験用中容量静止通信衛星(CS)計画は,将来の国内通信需要の増加と通信形態の多様化に対処するため,実用衛星システム導入に必要な技術を開発し,技術基準を確立することなどを目的としたものである。
 CSは,52年12月15日,米国航空宇宙局(NASA)により米国フロリダ州ケープカナベラルの東部打上げ射場から打ち上げられ,「さくら」と名付けられた。
 トランスファ軌道から静止軌道への投入は,宇宙開発事業団が行い,12月24日の最終軌道制御により,同衛星は東経135度の赤道(ニューギニア島西北方)上空約3万5,800kmの位置に静止した。
 以後,宇宙開発事業団による初期段階の性能,機能の確認試験を経て,53年5月15日から定常段階へ移行し,郵政省が中心となり各種の実験を開始した。実験は電電公社の協力を得て約3年間にわたって行われる。
 地上施設は,電波研究所鹿島支所の主固定局兼運用管制局(CS主局),電電公社が整備した横須賀電気通信研究所の副固定局をはじめ,簡易型固定局(準ミリ波用,仙台),可搬局(マイクロ波用,八丈島),日本各地を移動する車載局(マイクロ波用及び準ミリ波用),及び電界強度測定装置(準ミリ波用,横浜)のほか,電波研究所のSCPC(Single Channel Per Carrier=一つの搬送波で電話1回線相当の情報を伝送する方式)実験装置等がある。これらを使用して,衛星にとう載している通信機器の動作状態,衛星通信システムとしての伝送特性,準ミリ波帯電波の伝搬特性等に関する実験を順次進めているが,実験は順調に推移しており,衛星とう載通信機器の動作状態及び衛星通信システムとしての伝送特性は,共に良好な結果が得られている。また,準ミリ波帯電波の降雨減衰特性等についても,着実にデータが蓄積され,逐次解析が進められている。
 車載局による全国各地における衛星回線設定実験においても,良好な回線品質が得られている。
 これまでの実験結果から,同衛星はおおむね予期どおりの性能を有していることが確認されており,通信衛星を早期に実用化できる見通しが得られている。
 実験用静止通信衛星(ECS「あやめ」)は,ミリ波帯の電波による衛星通信を可能にするための技術データの取得を目的として,54年2月6日,宇宙開発事業団種子島宇宙センターから打ち上げられたが,予定の静止軌道に投入するため,アポジモータ(静止軌道投入用ロケット)に点火した直後に衛星からの電波が途絶し,同衛星のミッション達成は事実上不可能となった。「あやめ」の不具合の原因は,第3段ロケットに装置されているヨーウェイトアセンブリ(放出おもり)の不動作と判明した。「あやめ」の予備機(ECS-b)は,不具合の直接要因となったヨーウェイトアセンブリに必要な改善策等を講じて54年度冬期(55年2月)に打ち上げることが決定されている。

 

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