昭和54年版 通信白書

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9 多重放送

 多重放送は,テレビジョン放送や超短波放送(FM放送)の電波の周波数的又は時間的な「すき間」を利用して,別の情報を同時に放送するものであり,電波の有効利用,放送メディアの多様化が期待できる。
 信号重畳の方式としては,本来の放送番組との間の相互妨害がなく,良好な品質が得られ,しかも普及性のあることが開発の目標となっている。

(1) テレビジョン多重放送

 信号を多重する方法として,実用性があると考えられるものは,映像信号の垂直帰線消去期間や音声信号の副搬送波等に別の信号を重畳するものなどである。
 一般受信者を対象とする多重放送としては,現在,音声多重放送,文字放送,静止画放送及びファクシミリ放送の4種類が主に考えられている。
ア.音声多重放送
 現在のテレビジョン放送の音声信号に別の音声信号を重畳して放送するものであり,テレビジョン音声のステレオ化や2か国語放送等のテレビジョン番組と関連した使い方のほか,独立した内容の音声放送としても使うことができる。
 方式については,電波技術審議会が47年3月に,両立性,音質,普及性を考慮し,FM-FM方式(副音声で副搬送波をFMし,この副搬送波で更に音声搬送波をFMする方式)が最も適当な放送方式であるとして,技術基準の答申を行っており,更に視聴者に与える影響,需要動向等をは握し,将来の円滑な実用化に備えるため,53年9月以来,東京,大阪等の地区において,NHK及び民放10社のテレビジョン音声多重放送の実用化試験局を免許している。
イ.文字放送
 映像信号の垂直帰線消去期間の一部に,時刻,ニュース,天気予報,ろうあ者向け字幕等の文字あるいは簡単な図形を重畳して放送し,受信側ではアダプタを付加することにより,テレビジョン受信機のブラウン管上に,単独に,あるいはスーパーインポーズの形で文字又は図形を表示するものである。一般的には,数種類の情報が同時に放送され,受信者側でそれを自由に選択することとなる。
 文字放送の方式については,走査方法,伝送方法,伝送速度,制御信号方式等の異なるものが開発され提案されているが,電波技術審議会では,これらの方式を基にして,普及性,発展性,国際性等を考慮し,53年12月に文字放送の方式の基本について答申を行った。
ウ.静止画放送
 映像信号の垂直帰線消去期間の一部に静止画の信号を重畳して放送するものであり,本来のテレビジョン放送を映画とすれば静止画放送はスライドに相当する。また,音声多重放送を組み合わせて音声付きの静止画放送とすることも可能である。静止画放送は技術面,利用面とも検討すべき問題が多く残されている。
エ.ファクシミリ放送
 現在のテレビジョン放送にファクシミリ信号を重畳して放送し,受信者はアダプタ及び記録装置を用いて,印刷物の形で情報を得るものであり,ファクシミリ信号を重畳する方法としては,音声副搬送波を利用することが適当とされている。
 53年度の電波技術審議会では,ファクシミリ信号をテレビジョン放送電波に音声第2副搬送波を用いて重畳する場合の現用送受信装置の両立性及び伝送特性について検討を行ったが,テレビジョン音声多重放送への漏話が,ほぼ許容限であり,両立性の点から問題があるので,更にファクシミリ信号の変調条件について検討を行うこととしている。

(2) FM多重放送

 FM放送に多重できる信号は,二つに大別できる。一つは現行2チャンネルステレオ放送の拡大としての多チャンネル放送用音声信号であり,もう一つはステレオ放送とは内容が異なる信号(独立音声信号,受信機制御信号等)である。
ア.多チャンネルステレオ
 各国とも,4チャンネルステレオを対象として検討を進めており,我が国でも電波技術審議会において,既に4チャンネルステレオの音響効果,占有周波数帯域幅,混信保護比等の基本的項目について検討結果を明らかにしている。今後は,パルス雑音の妨害等について審議が行われるものと考えられる。
イ.ステレオ放送と内容を異にする信号
 米国が行っているSCA(Subsidiary Communications Authorizations)業務は,特定の受信契約者にのみ番組を提供するものであり,厳密には,放送とは言い難いものであるが,1955年以来の歴史をもっている。
 我が国では,電波技術審議会の検討の結果,現在普及している受信機では,第2副チャンネルに多重(SCAと同じ方式)した場合送信がモノ,ステレオのいずれの場合においても,モノ受信については,ほとんど漏話が認められないが,ステレオ受信については,約半数の受信機で漏話が認められるので,受信機について漏話の改善策が必要であること,また,第2副チャンネルの伝送特性は本格的な音声サービスとしてはあまり良好な特性が得られないことが明らかにされている。今後さらに,現行ステレオ放送又は4チャンネルステレオ放送と両立可能な技術的条件の限界について,引き続き審議されるものと期待される。

 

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