昭和54年版 通信白書

本文へジャンプ メニューへジャンプ
トップページへ戻る
操作方法


目次の階層をすべて開く 目次の階層をすべて閉じる

3 今後の課題

 我が国は,開発途上国の調和ある発展と繁栄への自助努力を支援するため,政府開発援助(ODA)の拡充に努め,1978年から1980年の3年間にODAを倍増する計画であるが,現在この計画は順調に進行しており,通信・放送分野の政府全体の国際協力に占める役割及び重要性が,近年ますます高まって来ていると言えよう。
 通信・放送分野の国際協力の特性は,
[1] 広い範囲にわたって情報を迅速に交換・伝達する大規模かつ複雑なシステムであり,その計画,建設,保守,運営には極めて高度な専門技術と総合的な能力が要求される。
[2] 通信・放送は,そのほとんどがナショナル・プロジェクトであり比較的多額の費用がかかるため,投資計画の技術的,経済的可能性の調査等が重要な国際協力のテーマとなっている。また開発途上国はおおむね通信・放送の運営を政府ないしは準政府機関が行っており,我が国からの協力を受け入れる素地が確立されている。
[3] 通信・放送は,経済・社会発展の基盤となるインフラストラクチャーを形成するものであり,開発途上国の開発が進むに従い,その需要も変化・増大することとなる。したがって,経済・社会の発展に整合した長期計画に基づいて設備の拡充を継続的に実施する必要があり,このためのフォローアップを含めた技術協力を実施していかなければならない。
[4] ハードウェアとしての通信・放送システムの建設・保守のみにとどまらず,新規サービスの導入,データ通信技術の応用,ラジオ番組,テレビ番組の制作といったソフトウェア面での技術協力の重要性が開発途上国においても認識され,この分野への比重が増す傾向にある。
 以上のような特性を考慮し,通信・放送分野の国際協力を進める場合,協力を実施する側の体制の整備と強化が不可欠であることは言うまでもないが,具体的には次の諸点に配慮して今後の国際協力を推進していく必要がある。
 第一には,通信・放送分野の技術協力基盤の強化として,海外派遣専門家の養成を図ることである。
 高度の専門技術を要するとともに,これらの専門技術を統合してシステム化する能力と,開発途上国各々のニーズに対応したコンサルティングを実施し得る能力をもった優秀なシステム・エンジニアの存在が是非とも必要であり,今後も引き続きこのような人材を積極的に養成していく必要がある。
 幸い54年度から財団法人海外通信放送コンサルティング協力に対し補助金を交付し,システム・エンジニアの養成を行う計画であるが,将来にわたってこの内容を一層充実し,民間企業,電電公社,国際電電,NHKその他各種団体に潜在する優秀な人材の養成を図ることとしたい。
 また,専門家の派遣に当たっては,従来個々の技術専門家を散発的に派遣する形態が主に取られてきたが,通信・放送分野の計画が広域化し,かつ,大規模化するのに伴い,計画,建設,運用,保守,管理といった総合的な専門家グループをチームとして派遣するみちを今後開拓していく必要がある。
 第二には,通信・放送のプロジェクトで優良案件があれば積極的に発掘し,相手側に提案していく姿勢が望まれる。受動的に相手側の要請を待つといった協力方式を改める必要があろう。
 最近では,開発途上国の現状ないしは長期的な展望に基づいた有効適切な協力を実施するため,政府ベースの協力においても事前にプロジェクト・ファインデングのための調査を実施する例も見られ,通信・放送分野についても,これらの調査に積極的に協力する等の措置を講じているが,最も有効な手段は,民間コンサルタント等の能力を活用し,海外通信計画調査を拡充することである。
 この種の事業の活発化は,優良案件の発掘に伴う相手国側への提案が可能となるばかりでなく発掘から提案に至る過程において相当広範にわたる技術移転の素地を残すこととなり,また技術移転そのものの実施ともなっている。
 第三には,研修員の受入れ体制を確立し,その充実を図ることである。通信・放送分野の研修員受入れは,技術的特性から受入れ機関が郵政省,電電公社,国際電電,NHK,民間企業等に分かれて実施されているが,政府ベース受入れ全体の1割強を占めるシェアとなっている。また,純民間ベースによる受入れも,近年著しく増加する傾向にあり,年間1,000名を超える数に達している。
 これら政府,民間を含めた日本国内における研修実施体制の整備,強化策として,海外電気通信技術者研修センタの設立が望まれるところであるが,種々の制約もあり一気に確立することは困難と考えられる。
 したがって,当面,財団法人海外通信・放送コンサルティング協力を中心に,受入れ施設の整備,研修講師の確保等一歩一歩体制を強化していくことが望まれよう。

 

2 国際協力の実績 に戻る