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第1部 特集 情報通信白書刊行から50年〜ICTとデジタル経済の変遷〜
第2節 1985−1995年頃:通信・放送市場の発展と新たなサービスの登場

2 我が国のICT分野の動向

この時期には、我が国では、固定通信市場で競争が進展するとともに、移動通信市場でも競争が顕在化し、携帯電話サービスが徐々に普及し始めた。また、通信を利用してデータをやりとりする形でのコミュニケーションを可能とする「パソコン通信」が急速に普及した。

1985年に実施された通信市場の自由化を契機に、長距離、地域、衛星、国際の各市場は新規事業者が市場に参入し、競争市場となった。例えば、長距離通信市場には3社が新規参入し、国内最大のマーケットである東京、名古屋、大阪を結ぶ東名阪市場を中心に値下げ競争が進んだ。1985年当初3分あたり400円であった最遠距離料金が1993年11月には170円になるなど、活発な新規参入により、長距離通話サービスを中心に多くの市場で料金の低廉化が進んだ(図表1-2-2-1)。

図表1-2-2-1 電話最遠距離料金の推移5
(出典)日本電信電話(1996)「NTTの10年(1985→1995)通史編」を基に作成
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固定通信市場で競争が活発化する一方、移動通信市場でも徐々に競争が進展した。携帯電話サービスは、通信自由化後もしばらくはNTTが1社で提供6していたが、新規参入事業者(移動体NCC)2社が参入し、地域ごとにNTTといずれかの移動体NCCという複占体制で競争が展開されることとなった。具体的には、日本移動通信が1988年に関東・東海地域でサービスの提供を開始し、DDIセルラーグループも1989年の関西セルラー電話を皮切りに1992年の沖縄セルラー電話まで段階的に関東・東海以外の地域でのサービスの提供を開始した7。また、1991年、当時世界最小とされた超小型携帯電話mova(ムーバ)シリーズの端末がNTTから発売されるなど携帯電話の小型化が進み、1993年にはデジタルサービス(2G、PDC方式)が開始された。

携帯電話の契約者数は、通信自由化の後、新規参入事業者の参入効果もあり増加したが、1990年代に入って一時頭打ちになった(図表1-2-2-2)。しかし、1994年の端末売切制度の導入により利用者による携帯電話端末の保有が可能となり、各メーカーが競って利用者にとって魅力的な端末を供給するようになったことなどから、1995年には1,000万加入を超えるなど、その後の携帯電話サービスの急成長の下地が作られた。

図表1-2-2-2 携帯電話契約者数の推移
(出典)平成9年版通信白書8を基に作成
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また、インターネットが本格的に普及する前の1990年代前半には、電話回線やISDN経由で通信事業者のコンピューターに接続し、その中で情報の送信・受信を行うパソコン通信が多くのユーザーに使われるようになり、その利用者数は、1991年の約110万人から1996年には約573万人へと急速に拡大した(図表1-2-2-3)。パソコン通信は、メールやフォーラム、チャットというテキストベースのサービスが中心ではあったものの、音声の通信に加えてデータによる通信の道を拓いたものであり、音声による電話を中心として普及してきた通信産業が後のインターネットの普及につながる大きな転換点に入ったことを象徴するものであった。なお、我が国でも、1990年代前半には、既に株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)などがインターネットサービスプロバイダとして事業を開始していた。

図表1-2-2-3 パソコン通信の利用者数の推移
(出典)平成9年版通信白書9を基に作成
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この時期の放送市場では、サービスの多様化が進んだ。1989年にNHK、1990年に日本衛星放送(現WOWOW)により、放送衛星(BS:Broadcasting Satellite)によるBS放送が開始された。1992年には、通信衛星(CS:Communication Satellite)を用いたCS放送が開始された。

また、多チャンネル化を視野に入れたメディア企業の動きを後押しする政策も実施され、例えば、21世紀に向けて、都市の生活空間に高度映像メディアを先行的に導入することにより地域の特性を活かしながら、活気と潤いに溢れた先端都市を構築することを目指す「ハイビジョン・シティ構想10が推進され、郵政省は、1989年3月に13地域、1992年度末までに35地域を「モデル都市」に指定した11



5 NCC(New Common Carrier:新電電)は、1985年の通信自由化を受けて新規参入した旧第一種電気通信事業者の総称である。

6 1992年にNTTの移動体通信業務を分離し、新会社としてエヌ・ティ・ティ移動通信網株式会社(現在の株式会社NTTドコモ)が営業を開始した。

7 2000年に日本移動通信株式会社(IDO)、DDIグループ、国際電信電話株式会社(KDD)が合併し、KDDIが発足。1994年にはデジタルホングループ及びツーカーグループが携帯電話事業(関東甲信、東海、関西の3地域)に参入、1996年に両グループによる合弁会社(デジタルツーカーグループ)が設立され、これら3地域以外での携帯電話事業にも参入、その後、Jフォン、ボーダフォンを経て、2006年にソフトバンクに買収された。このような経緯を経てNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクによる3社体制が確立され、その後、2020年から楽天モバイルが携帯電話事業に新規参入し、携帯電話市場における競争が進展している。

8 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h09/html/h09a01010101.html別ウィンドウで開きます

9 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h09/html/h09a01010502.html別ウィンドウで開きます

10 平成元年版通信白書第1章第4節参照。
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h01/html/h01a01040501.html別ウィンドウで開きます

11 平成5年版通信白書第2章第3節参照。
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h05/html/h05a02030102.html別ウィンドウで開きます

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