第1部 特集 ICTがもたらす世界規模でのパラダイムシフト
第3節 様々な社会的課題とICTによる課題解決

2 MOOCs

MOOCs(Massive Open Online Courses)とは、学習者が事前に登録し、課題に取り組むオンライン講座のことである。一般的なオンライン講座と異なり、受講生は講座の修了要件を満たすと、修了証が交付される仕組みであり5、Coursera、edX、Udacity、Future Learn、Open2Study、OpenEdといった欧米発のMOOCsのプラットフォームに国を問わず各種教育機関が参画し、全世界の学習者向けにオンライン講座が提供されている(図表1-3-2-1図表1-3-2-2)。

図表1-3-2-1 MOOCsのプラットフォーム一覧
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
図表1-3-2-2 MOOCsを開講している組織の広がり(2013年10月時点)

このように、MOOCsが全世界に普及することにより、世界最高レベルの講座をインターネット上で受けることができ、実際に、欧米圏以外の国に住む子どもたちも、高額な費用をかけることなく、積極的にMOOCsを受講している。

例えば、モンゴルでは、当時15歳の少年がedXでMIT(マサチューセッツ工科大学)が配信した「電子回路」の講座を受講し、この講座の受講生15万名の中で満点を取ったのは340名しかいないという中、満点を取得した。少年は、高校卒業後はアメリカの大学に進学したいという希望があったものの、経済的な理由から難しいと考えていた。しかしながら、edXから修了証を得た後に、MIT関係者から強くMITの受験を勧められ、大学に願書を提出し、現在はMITに学費免除の形で進学している。

また、パキスタンには10歳から「人工知能」や「物理学」の講座を受講して好成績を収め、2013年の世界経済フォーラム年次総会のオンライン教育関連のセッションにゲストスピーカーとして招待された少女がいる。この少女は、2013年に開講した東京大学の「From the Big Bang to Dark Energy」を受講し、高得点を収めている。パキスタンは、昨今、高速ブロードバンドが普及し、MOOCsのプラットフォームのひとつである、Khan Academyへの登録者も多く、多くの子どもたちが家庭内で欧米等の諸外国発の初等〜高等教育の講座を受講している。

高等教育においても、MOOCsを活用する事例も見られる。モンゴル大学では、edXのMIT講座(コンピューターサイエンス関連の講座を開講)を開講しており、受講生はedX上のコンテンツを受講し、質問があればモンゴル大学の講師や大学院生が対応している。定期試験はモンゴル大学で実施し、モンゴル大学の基準を超えることができれば、単位を付与する仕組みとなっている。モンゴル大学にもプログラミング講座はあるが、edXではモンゴル大学では提供していない言語のプログラミング講座が提供されているため、他のプログラミング言語を学びたい学生のニーズに応えたこの取組は、学生の学びの選択肢を増やしている。

国土の広いモンゴルでは、教材を電子化してインターネット上に公開することができれば、誰もがどこからでも勉強できるというオンライン教育のメリットを国内の各所に住む子どもたちが享受することができる。そのため、モンゴル政府は国家運営サイトを公開し、すべての子どもがオンライン上の教材を自由に無料でアクセスし学ぶことができる計画を推進している。

日本においても、2013年11月に「日本とアジアの学びによる個人の価値を社会全体の共有価値へ拡大するMOOCの実現」を産学連携で取り組むことを目的にJMOOC(日本オープンオンライン教育推進協議会)が設立されている。JMOOCは、欧米の各種MOOCsとは異なり、特定の大学やベンチャーキャピタルが資金提供を行うのではなく、できるだけ多くの組織から会費を得て運営することを目指している。なお、東京大学は、2013年2月にCourseraへの参加を発表し、同年9月から授業を開始しており、京都大学は、2013年5月にedXへの参加を発表し、2014年4月から授業を開始している。



5 MOOCsの前身のサービスとして、OCW(オープンコースウェア)がある。これは、大学等で正規に提供された講座とその関連情報をインターネット上で無償公開する取り組みである。学習者は事前登録なしで利用できるが、単位認定等は行われない点がMOOCsとは異なる。2001年に米国MIT(マサチューセッツ工科大学)でOCWが発表されたことを皮切りに、日本でも2005年頃から各大学においてOCWが展開され始めた。その後、上述のようなMOOCsという形での展開が始まったのは2011〜2012年頃からである。

テキスト形式のファイルはこちら

ページトップへ戻る