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第1部 特集 ICTがもたらす世界規模でのパラダイムシフト
第1節 ICTの進化によるライフスタイル・ワークスタイルの変化

(3) ウェアラブル端末

昨今注目されている新しいICTトレンドの一つにウェアラブル端末があげられ、2013年(平成25年)においても国内外の様々な端末メーカー等から腕時計型やリストバンド型などの端末が発売され、メガネ型など様々な形態でのプロトタイプも発表されている。

これら背景としては、スマートフォン市場において我が国をはじめとした先進国を中心に一定の普及期を迎えたことで、端末市場における新たなトレンドを各社模索している姿勢などがうかがえるとともに、半導体技術等の進展により小型化・高性能化が可能になったこと、ビッグデータ、Internet of Things等、様々なモノがインターネットにつながりつつある今後のトレンドもそれらを後押ししている。

ア ウェアラブル端末の種類と事例

ウェアラブル端末は、現在でも世界各国にて様々な形態が発売されており、手首又は頭に装着する端末が全体の3分の2ほどを占め92、それらを端末の形態で大きく分類すると手首に装着するリストバンド型(腕輪型)もしくは腕時計型、頭に装着するメガネ型等に分類され、各社様々な形状を模索しているところである。

(ア)リストバンド型

リストバンド型は腕に装着する形状のウェアラブル端末であり、1日24時間の常時装着も可能となるよう軽量に設計されている場合が多い。その特徴から心拍等のライフログの取得機能や加速度センサーを組み込み、歩数や移動距離等を計測する機能を実装することで、スポーツやヘルスケア分野との親和性が高く、それらの利用を意識した製品が各社より複数発売されている。

A NIKE+ FUELBAND SE(米国)

FUELBANDは米国スポーツ用品メーカーのNike社が販売しているリストバンド型ウェアラブル端末の代表的な製品である。2013年11月発売の現モデルから日本でも販売されており、歩数や日常生活における活動量、頻度、負荷を計測し「NIKEFUEL」という独自の指標にして、自分で定めた目標に対する達成状況を表示する。活動量のデータはスマートフォン等にリアルタイムで送信され、Nike+93という同社のユーザデータベースに登録・同期される。Nike+では友人等とのグループが設定でき、グループ内での「NIKEFUEL」にまつわるコミュニケーションやランキング競争ができ、楽しみながら活動量を増やすことができる(図表4-1-3-43)。

図表4-1-3-43 NIKE+FUELBAND SE
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
B ドコモ・ヘルスケア「ムーヴバンド」(日本)

ムーヴバンドはNTTドコモとオムロン ヘルスケアの合弁会社であるドコモ・ヘルスケアが開発・販売しているリストバンド型のウェアラブル端末で、歩数や移動距離、消費カロリー、睡眠時間を計測することができる。計測されたデータは、ワイヤレス通信でスマートフォンに取り込んで、ドコモ・ヘルスケアが提供するアプリ「WM(わたしムーヴ)アプリ」で管理され、au、ソフトバンクのスマートフォンでも利用可能となっている。また、活動の記録は「Move」という独自の指標でも示され、登録した友人等との競争を楽しむことができる(図表4-1-3-44)。

図表4-1-3-44 ドコモ・ヘルスケア「ムーヴバンド」
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
(イ)腕時計型(スマートウォッチ)

腕時計型はリストバンド型同様に腕に装着する形状のウェアラブル端末だが、大きな特徴は一定の大きさを持った表示画面を搭載することで、リストバンド型に比べ様々な操作や情報の表示を可能としていることである。また、BluetoothやNFCなどの通信機能を備えることでスマートフォン端末等と連携し、電話やメール、SNS等の確認や操作が行える端末も発売されている。

また、2014年3月には米国Googleがウェアラブル端末向けのプラットフォーム「Android Ware」を発表しており、同年内には腕時計型端末の発売が複数のメーカーから予定されている。同プラットフォームはモバイル端末用OSのAndroidをウェアラブル用に拡張したものであり、SNSやメッセージ等を通知する機能や、位置情報等を元にした周辺の情報をリアルタイムに通知する機能や音声操作機能にも対応する予定である94

A ソニー「SmartWatch 2 SW2」(日本)

SmartWatch 2はソニーのスマートフォンXperiaTMに対応した腕時計型ウェアラブル端末で2013年10月より国内販売が開始されている。通常の腕時計よりやや大きめの四角形の形状になっており、シリコンとメタルの2種類のベルトが用意されている(図表4-1-3-45)。

図表4-1-3-45 ソニー「SmartWatch 2 SW2」
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)

スマートフォンとはNFCを使用して、タッチするだけで自動的にペアリングができ、スマートフォンの通話、メールやSMSなどの新着通知を確認したり、音楽再生等の操作、電話着信時に応答・拒否などの通話処理をすることが可能となっている。さらにGoogle Playにあるアプリケーションをダウンロードして様々な機能を追加することができ、例えばスマートフォンのカメラのリモート操作、おき忘れスマートフォンの探索、といったアプリケーションが公開されている。

B Samsung 「GALAXY Gear」(韓国)

「GALAXY Gear」はSamsungのスマートフォンGALAXYシリーズに対応した腕時計型ウェアラブル端末である。BluetoothでGALAXY本体と連携し、着信、メッセージ、SNSなどの通知を「GALAXY Gear」で確認できるほか、ハンズフリーで通話もできる。また、約190万画素のカメラを搭載しており、撮影した写真は自動でスマートフォンに同期することも可能となっている。

2014年4月発売(日本国内では5月発売)の次期モデル「Gear 2」では、本体背面には心拍センサーを搭載し、フィットネス時の情報として活用でき、スマートフォンアプリの「S Health」と連携することで、心拍数も考慮したリアルタイムのアドバイスなどが可能になっている。また、「GALAXY Gear」ではベルト部分に搭載されていたカメラ、スピーカーが、「Gear 2」では本体部分に搭載され、使い勝手の向上が図られている(図表4-1-3-46)。

図表4-1-3-46 Samsung 「Gear 2」
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
(ウ)メガネ型

メガネ型はメガネ状の形をした頭に装着するウェアラブル端末であり、両目もしくは片目の視野部分が透過型のディスプレイになっている機種が一般的であり、映像や画像が空中に浮いているように見えるのが特徴である。この形状のメリットはリストバンド型や腕時計型に比べ、多くの情報を利用者の視野上に表示させることができるため、端末の設計や用途によってこれまでスマートフォンやタブレットで行っていた作業をハンズフリーで行うことが可能となっている点である。また、技術上の課題としては頭に装着する形状のため軽量化が求められる一方で、前述2つのタイプに比べ多機能かつ電力消費が大きい傾向にあるため、長時間利用に耐えられるバッテリー設計などが求められる点がある。

A Google「Google Glass」(米国)

Google GlassはGoogleが開発している片眼式のメガネ型ウェアラブル端末である。2012年に発表され、2013年5月から米国内の開発者等限定で試行品が開発用キットとセットで1500ドルにて販売された。これは、開発中のGoogle Glassを提供して操作性や利便性などに関するフィードバックを得るともに、対応アプリを開発できるようにする「Explore Program」と呼ばれる取り組みであり、2013年2月からは一般からも応募ができるようになっている(一般向けには2014年4月末時点で未発売)。

アルミ製の細身のフレームの片側にディスプレイ、カメラ等が装着されており、8フィート(約2.4メートル)先に25インチ相当の画面が表示される仕組みである。装着時には視野の右上部に天気予報、道案内、翻訳を表示させたり、検索することができるほか、カレンダーや検索履歴等に基づく情報配信アプリGoogle Nowによる行動支援の情報(居場所近くのお店の内容等)を表示させることもできる。操作は音声入力や側面のタッチパッドによって行い、静止画、動画の撮影も可能である。

なお、2014年3月にはイタリアに本拠があるグローバルなメガネメーカーのルックスオティカ(レイバンとオークリーの2ブランド)と提携し、よりファッショナブルな製品を目指すと発表しており、業務利用に関しても、消防隊における出動先のナビや火災建物の平面図の提示や、医療現場における手術への専門医からのアドバイス等について検討が行われている(図表4-1-3-47)。

図表4-1-3-47 Google「Google Glass」
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
a 日本航空・野村総合研究所「Google Glassを活用した機体整備」(業務利用)

日本航空と野村総合研究所は、2014年5月から米ホノルル国際空港でGoogle Glassを活用した機体整備の実証実験を始めた。Google Glassのカメラ機能や情報伝達機能を活かし、日本航空のサポートチームのスタッフが、遠隔地にいる整備スタッフへの後方支援を行うと同時に、スタッフにハンズフリー環境を提供することで、現場作業の効率性の向上や負担軽減を図る。従来は電話・メールによる指示を見聞きしたり、紙の指示書を見ながら作業をしていたが、ハンズフリーになるため効率性向上が期待される。今後、様々なデバイスの活用も視野に入れつつ、実業務に活かせる潜在的な可能性を探っていくこととしている(図表4-1-3-48)。

図表4-1-3-48 日本航空・野村総合研究所「Google Glassを活用した機体整備」
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
B ムラタシステム「手術準備支援システム」(業務利用:日本)

ムラタシステム(村田機械グループ)では手術準備の支援にメガネ型のウェアラブル端末システムを販売している。看護師が手術の際に準備する医療材料は50種類100点にも及び、取り揃え作業が負担になっている。そこで、必要になる医療材料を取り揃えする際に、メガネ型のウェアラブル端末で医療材料の保管場所をガイドするシステムを構築している。具体的にはウェアラブル端末のディスプレイに医療材料の写真、保管場所、棚番号が表示されるので、担当者はそれに従って迷わずに準備作業を進めることができる。

日本赤十字社京都第二赤十字病院では本システムが導入され、医療材料の取り揃え作業が軽減されるとともに、従来看護師が担当していた作業を派遣社員が担当できるようになり、看護師が他の専門的な作業に時間を割くことが可能になっている(図表4-1-3-49)。

図表4-1-3-49 ムラタシステム「手術準備支援システム」
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
(エ)その他のウェアラブル端末
図表4-1-3-50 各社のウェアラブル端末
(出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)
イ ウェアラブル端末の展望

MM総研によると、我が国においては2013年度40万台だったウェアラブル端末市場は2020年度には600万台を超えるまでに成長し、米国においては1,500万台を超える規模になると予測されている(図表4-1-3-51)。

図表4-1-3-51 ウェアラブル端末の市場予測
(出典)MM総研「日米におけるウェアラブル端末の市場展望」(平成25年)

このように、ウェアラブル端末は今後の大きな普及が期待される一方で課題も指摘されている。

一つは技術的な側面として前述でも述べたようにバッテリー問題が挙げられ、ウェアラブル端末は小型軽量化が求められることが多いが、高機能化すると消費電力が大きくなり大容量のバッテリーが必要となるため、この両方の要件のバランスが取れるような設計が求められる。特にライフログ等日常常に身に着けていることが求められる端末ではバッテリーの持続時間が長いこと、充電時間が短いことが求められ、腕時計型端末についても、一般の腕時計の電池が1年以上持つのに対して、どこまでウェアラブル端末において求められるのかは今後検証が必要である。

また、社会的・制度な側面ではプライバシーへの配慮が挙げられる。カメラが搭載されているメガネ型端末では相手に知らせず写真等を撮影できてしまうため、撮影中であることがわかるランプを搭載する等の配慮や、画像・音声・位置情報データ・顔認識機能を搭載した場合、個人の行動情報等、プライバシーに関わるデータ取得が容易になることから、その活用における配慮をどのように行っていくかが更に重要になってくることが指摘されている(図表4-1-3-52)。

図表4-1-3-52 ウェアラブル端末における不安(端末利用者から盗撮・追跡される不安)
(出典)MM総研「日米におけるウェアラブル端末の市場展望」(平成25年)

このため、社会的ルールや技術面での対策等を検討していくことが求められており、Googleは2014年2月にGoogle Glassを利用する際のガイドラインを公開したが、この中にもプライバシーへの配慮が大きく扱われている。このような提供者側からのアプローチとユーザー側からの議論とあわせて社会的合意を図っていくことが重要であろう。

このような課題はあるものの、ウェアラブル端末には、電源さえ確保できれば24時間端末を装着することが可能になるほか、腕時計型やメガネ型等はいつでもどこでもインターネットにつながることが可能になり、リストバンド型は心拍や血圧などライフログ等の取得・蓄積などに親和性が高いメリットがある。また、業務利用の側面では、メガネ型端末等においては両手が使用できるようになるため、前述の医療現場の事例のように、従来のスマートフォンやタブレットでは困難であった医療現場や、その他業務現場においても様々な情報検索、円滑なコミュニケーションといった活用が期待されるところである(図表4-1-3-53)。

図表4-1-3-53 メガネ型端末の業務メリット
(出典)MM総研「日米におけるウェアラブル端末の市場展望」(平成25年)


92 MM総研「日米におけるウェアラブル端末の市場展望」の調査では世界で発売済の101社130製品を装着部位で分類した結果、46.9%が手首、20.8%が頭。

93 NIKE+ FUELBAND SE以外のユーザも含めたNike+の登録者数は全世界で約2,800万人に達する。
http://nikeinc.com/news/nike-fuel-lab-launches-in-san-francisco別ウィンドウで開きます

94 http://developer.android.com/wear/index.html別ウィンドウで開きます

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