総務省トップ > 政策 > 白書 > 26年版 > ICT産業のグローバル化に伴うKFS(主な成功要因)
第1部 特集 ICTがもたらす世界規模でのパラダイムシフト
第2節 ICT産業構造のパラダイムシフト

(6) ICT産業のグローバル化に伴うKFS(主な成功要因)13

ここまで述べたICT産業の動向を踏まえ、主要なグローバル企業における歴史的変遷や海外展開動向、及びそれらの背景等を分析したところ、以下に述べるKFS(主な成功要因)が抽出された。

まず、主要なグローバル展開企業において、ICT市場のグローバル化を背景に、ほぼ共通して積極的な海外展開を行い規模の経済を追求しているところである。市場のグローバル化は一般的に競合他社が増え、コモディティ化等が進展するといったネガティブに捕えられることもあるが、積極的に海外展開を進めている企業においては、成長性の高い新しい市場に進出し、海外の開発・製造リソースといったグローバル環境も効果的に取り込むことで、現在における世界的なICT市場の存在感を確保している。

また、ICT市場は本節1項でも述べた端末レイヤーが特に顕著なように、わずか10年で主役商材が入れ変わってしまうほど、市場変化のスピードが速いのが特徴である。そのため、いち早くそれらの変化をとらえ、意思決定を迅速に行い事業の選択と集中を行うことで規模を確保し、自社のビジネスを対応させるかが極めて重要である。

さらに、国際的な競争力を確保するためには、その市場の変化に応じ常に新しい商品あるいは付加価値を持ったサービス等を開発できる人材・技術も重要であることも指摘される(図表2-2-2-17)。

図表2-2-2-17 ICT産業におけるKFS
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略に係る成功要因及び今後の方向性に関する調査研究」(平成26年)

これら要素について、いくつかの事例を交えて紹介する。

まず、端末レイヤーにおいて特に注目されるのが、前述した海外の開発・製造リソースを効果的に活用していく「国際水平分業」である。ICT産業は「レイヤー」と表されるように、産業の水平分業化が進んでいる。例えば、米国Appleでは、在庫管理の徹底とEMS14と連携した国際水平分業によるサプライチェーンを構築することでグローバル展開の基盤を構築しており、EMSの活用率を見ると韓国企業がほとんどを自社生産しているのに対し、米国企業はEMSを最大限活用することで韓国企業に追随する生産規模とシェアを確保していることが分かる。他方で、日本企業について見ると、特定市場を除いて世界シェアは低く、1社当たり生産規模も他国企業に水を開けられている状況にある(図表2-2-2-18)。

図表2-2-2-18 液晶テレビ市場シェアと端末分野における生産性
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略に係る成功要因及び今後の方向性に関する調査研究」(平成26年)
左図はDisplay Search、右図は株式会社富士キメラ総研「2014ワールドワイドエレクトロニクス市場総調査」より作成

また、市場に投入している製品数、総生産量、1製品当たり生産量を比較しても、日本企業は市場に投入している製品数について韓国、中国の大手企業に匹敵するラインナップを保有する企業も多い。しかし、総生産量及び1製品当たり生産量について韓国、中国の大手企業に大きく水を開けられており、このような背景も海外市場における大量生産を背景にした価格競争力にも影響しているものと考えられる(図表2-2-2-19)。

図表2-2-2-19 端末分野におけるメーカー別生産量15
(出典)株式会社富士キメラ総研「2014ワールドワイドエレクトロニクス市場総調査」より作成

次に、「意思決定の迅速化」については、米国IBMの組織の変遷が顕著に表れている。同社は早くからグローバル展開に取り組んでおり、米国、欧州、アジア太平洋へと展開地域を拡大させながら、コンピュータ産業のダウンサイジング化やソフト・サービス化の流れをいち早く取り込み、自社のビジネスモデルを成長市場に適応させてきた。同社の歴史を振り返ってみると、以前は米国に本社機能を集中させていた(1国最適型)が、意思決定機能を各国に配置し、各国の市場の変化に対してスピーディに適応できる各国最適型に組織形態を変革してきた。しかし、規模の拡大と市場の変化が更にスピードを増す中で、各国最適型から世界最適型へと組織形態を発展させた。現在、同社では現地法人毎に間接部門等を置かず、企業としての各機能を全世界に最適配置している。それらの各現地法人が1つの会社として連携し、互いに分業することで市場変化のスピードに対応している(図表2-2-2-20)。

図表2-2-2-20 意思決定の迅速化(IBMの組織変遷)
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略に係る成功要因及び今後の方向性に関する調査研究」(平成26年)

「人材の開発・育成」については、特にイノベーションを創出して市場をリードするタイプのグローバル企業で重要であり、例えばGoogleの20%ルールがあげられる。これは全エンジニアが勤務時間の20%を自分が担当している業務以外の分野に使うことを義務付けたものである。この仕組みがGmailやGoogle Newsなど、現在グローバル市場で多くのユーザーに利用されている同社の多様な商品やサービスの開発を支えてきた背景の一つとされている(図表2-2-2-21)。

図表2-2-2-21 人材の開発・育成の例(Googleのサービス)
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略に係る成功要因及び今後の方向性に関する調査研究」(平成26年)

「成長市場の取り込み」については、「顧客の海外展開への追随」と「現地化」という大きく二つの要素があげられる。

前者の「顧客の海外展開への追随」については、通信事業者の英国BTが特徴的な例としてあげられる。同社のグローバル事業を担うBT Global Service部門では、企業、公的機関、金融機関などの170ヶ国以上の顧客基盤16を有しており、例えばアジア太平洋(23拠点/従業員3500人)など、世界中にローカライズした営業・運用部隊や現地パートナーが存在するオペレーション拠点が存在している。B2Bビジネスの観点から同社はこれらを活用し、大口顧客である多国籍企業の海外展開に追随して一貫したソリューションを提供することで、周辺地域の欧州市場と高い成長が見込まれる新興国における展開のバランスをとり、同社の収益構造を支えている。

一方で、後者の「現地化」については人材面・販売面・開発面の3つがそれぞれ挙げられ、韓国Samsungの「現地量販店連携」や「地域専門家制度」、米国AppleのApple Storeに見られる「現地直営店運営」、Googleの「現地開発拠点」などの例がある(図表2-2-2-22)。

図表2-2-2-22 ICT産業におけるKFS(成長市場の取込み)
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略に係る成功要因及び今後の方向性に関する調査研究」(平成26年)

Samsungは、量販店が存在する国をターゲットにグローバル展開を図っており、早期の販売ネットワークの構築を実現している。特に欧州のドイツ、イタリア、フランス、英国では、流通チャネルの構築において量販店が重要な役割を担っており、そこを攻略する戦略を採用し、市場開拓の足がかりを作ってきた歴史がある。また、過去20年以上にわたって実施してきている地域専門家制度17は、社員を現地社会に深く浸透させ、現地住民と同じ目線でそのニーズを探りマーケティング等に生かしている。加えて、国情視察に専念した社員が帰国後に国内・国外事業部門の主要ポストに任命された際、その経験を活かして外国企業の効率的な手法を自社に取り入れるというサイクルの構築等にも貢献しているとされる。また、似た取組として、前述のIBMも今後の事業で戦略的に重要視しているアフリカ諸国や中南米諸国を対象にIBM版青年海外協力隊という制度を導入している。

Appleのグローバル展開については、直販店のApple Storeが大きな役割を担っており、展開国を拡大する上でも重要な足掛かりとなっている。これまでの展開状況をみてみると、Apple Storeは米国を中心に展開を始め、続いて主要な先進国に拡大し、最近ではアジア・ASEANの成長を背景に、中国やオーストラリアでの出店も増えており、同地域の成長を自社の成長に取組んでいることがうかがえる。また、都市部を中心に店舗展開することで、同社のブランドイメージを維持するほか、量販店による中間マージンの抑制や価格交渉による値崩れを防ぐ効果もあるとされている(図表2-2-2-23)。

図表2-2-2-23 現地直営店運営の例(Apple Storeの展開)
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略に係る成功要因及び今後の方向性に関する調査研究」(平成26年)
「図表2-2-2-23 現地直営店運営の例(Apple Storeの展開)」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

開発という観点ではGoogle等が例として挙げられ、同社は2000年より検索エンジンの国際ローカライズを10言語で開始し、2004年にスイスのチューリッヒ、インドのバンガロール、日本の東京に開発拠点を開設し、徐々に各国におけるローカライズ対応を強化してきている。Googleは事業開始から短期間で高い収益率と売上を実現してきたが、これら現地化による取組が同社のグローバル展開を更に推進することに寄与しているものと考えられる。

最後に「事業の選択と集中」についてだが、この点は検索広告を中核としているGoogle、ハードからソフト・サービスへの転換を図ったIBM、ERPソリューションを中心に展開しているOracle、前CEOの経営復帰以降に非中核事業から撤退して自社の商品ラインナップを絞り込んだAppleなどの米国企業の他に、モバイル事業で世界展開を図り日本市場の参入及び撤退にも代表されるように企業買収・売却を継続的に行うVodafoneや、2011年にモバイルブロードバンド事業とマネージド/グローバルサービス事業に集中する戦略に転換したNokia Networks(旧NSN)等、グローバル展開を行う企業において数多くの事例が見られる(図表2-2-2-24)。

図表2-2-2-24 事業の集中と選択の例(Nokia Networks(旧NSN)の変遷)
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略に係る成功要因及び今後の方向性に関する調査研究」(平成26年)

このことからも「事業の選択と集中」は、ICT産業のどのレイヤーにおいても、グローバルの市場環境を取り込むことで規模を拡大し、国際競争力を確保するためには、共通して重要な要素であると言えるだろう。

このようにICT産業におけるKFSについて事例を交え整理してきたが、このほかにも、CiscoやHuaweiの存在感が増しつつある通信機器レイヤーにおいては、Nokia NetworksやAlcatel-Lucent等がIP化への対応の遅れの挽回に向け、研究開発投資を今後の注力分野に集中することを表明しており、事業面だけでなくR&D(研究開発)においても規模とスピードの重要性が増していることがうかがえる。

そして、前述のとおりGoogle、IBM、Oracle、Appleなどの多くのグローバル企業では、海外展開に伴い事業の選択と集中を行うことで事業拡大を行っており、Vodafoneなどの欧州企業の事例においても同様に、中核事業の選択と集中を図り海外展開を積極的に進め、短期間で規模の拡大と高い営業利益率を実現している。このことは市場の変化やコモディティ化のスピードが顕著なICT産業においては、グローバル市場での寡占度を高めて競争優位を確保し、規模の経済を追求することが勝ちパターンにつながることを示唆している。これらを踏まえ、グローバル化が進むICT市場においては、市場環境の変化だけでなく事業戦略の見誤りへの対応においても、絶えず「守る」「攻める」「捨てる」という判断と意思決定を迅速に行うことが重要であると考えられる。



13 分析において対象とした企業及び調査概要は巻末付注2-3参照。

14 Electronics Manufacturing Service 電気機器や部品等の製造や組み立て等を受託するサービス。EMS企業は多くのメーカーから製造を大量に受注しているため、一般的に製造コストが安くなり、発注側についても自社製造に比べリソース負担が軽減できるといったメリットがある。

15 バブルの大きさが示す製品数は、情報通信機器(フィーチャーフォン、スマートフォン、デスクトップPC、ノートPC、タブレット、PCモニタ、複写機/複合機、ページプリンタ、インクジェットプリンタ)、AV関連機器(LCD-TV、PDP-TV、コンパクトDSC、デジタル一眼カメラ、カムコーダ、DVD/Blu-rayプレーヤ、DVD/Blu-rayレコーダ、据置型ゲーム機、ポータブルゲーム機、カーオーディオ、カーナビゲーション)、白物家電(電子レンジ、ルームエアコン、冷蔵庫、洗濯機、掃除機)の製品分野数。また、当該分野における代表的企業としてはSamsung、パナソニック、Hon Hai、LG等が挙げられる。

16 Fortune 500のうち84%の企業

17 http://www.samsung.com/jp/aboutsamsung/group/corecompetence/person/area.html別ウィンドウで開きます

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